異世界での再会です!
Side空
新しい発見を求めて、ついでに学園都市を把握するためにあちこちを走り回っていた。
異世界から来た俺は通う学校はないし、時間はたくさんある。
うーん、でも……。
ここまで発展していると不審人物への対処は厳しそうだ。身分証の提示をしろ、なんて言われたら一発でアウトだろう。
今まで俺が迷い込んだ異世界は運良くそういう目に合わなかったからいいが、もしもの場合を考えておくべきか。
「ん?」
とある施設の前で足を止めた。
その施設に入っていく人達が着ている制服に見覚えがあったからだ。
確か昨日会った……そういや名前知らないや。
魔力や
あの時はそんなことよりも命が優先されたから聞けなかったが、彼女の能力にすごく興味がある。
昨夜、当麻さんに軽く説明されたけど、この学園都市は東京都西部に位置し、多数の学術研究機関、先端技術企業の集合体。総人口は約230万人でその8割が学生。日本国の一部ではあるが、高度な『自治権』と日本及び世界各国の科学サイド諸勢力に強大な影響力を持つ。『超能力』という科学分野の開発に力を注いでおり、研究のためという名目のもと全国から多くの子供が集められている。
異世界から来た俺が余計なことに自ら首を突っ込むような真似はするつもりはないが、巻き込まれたら仕方ない。悪いのは俺を巻き込んだ奴だ。
うん、だから―――
「今時ナンパなんて流行んないよ、ヤンキーさん」
「あぁん? ガキが邪魔すんな。さっさとどっか行け」
学校から少し離れたところの暗い路地で、いかにもそういう風な男が青い長髪の女子生徒に迫っていた。
俺のような子供程度どうでもいいと思ったのか、ヤンキーは俺を一瞥してすぐにまた視線を女子生徒に戻した。
……絡まれているのに怯えた様子が一切ないのは気になるけど今はいっか。
「ほいっとな」
「ぬぅおおおおおっ!?」
ヤンキーの金的を蹴るとあまりの痛みに身体がちょっと浮かんだ。
今回の腹いせに帰ったらアザゼルさんにも食らわせよう。
「ほら、お姉さん、行こ」
倒れ伏すヤンキーを置いて女子生徒を路地裏から連れ出した。
暗い路地だったせいで最初は彼女の顔がよく見えなかったが、改めて向き合って顔を拝んでみたら青と赤のオッドアイだということがわかった。
雄人やオリヴィエさんで慣れていたもののやはり珍しいものは珍しい。
「あなた、凄いですね」
「ん? 何が?」
「あの男を倒したことですよ」
「そうかなー? あの人お姉さんに夢中で油断しまくってたから余裕だったよ?」
「……そうでしたか。(この子が何者か聞くべきなんでしょうけど、一応恩人ですし、聞かないでおきましょうか)」
「ところでお姉さん」
「なんですか?」
「お姉さんの通う学校に電気を放つ人っている?」
昨日の女子生徒が着ていた制服が目の前にいるお姉さんと一緒のものだ。
もしかすると知っているのでは?と思って尋ねてみた。
「他に特徴はありますか?」
「茶髪のセミロング、ちょっと怒りっぽい? あとは……―――」
「もう十分です」
今口にしたので十分に伝わったようでそれ以上は止められた。
「その方のことは知ってますよ。……何かあったのですか?」
「うーんとね、とある人がその人を怒らせたら、なんか俺まで巻き込まれて追い掛け回されて、タンコブが出来ちゃうくらいの威力で殴られただけだよ」
お姉さんが顔引き攣らせながら「そうですか……」と呟いた。
「まあ、特にやり返したいとかいうわけじゃないんだけど、どうにかその人に会えたりしないかな?」
「今すぐにでも、と言いたいところですがこれから学校がありますからね。あなたの今日の予定が無ければ放課後にでも私がお呼びしましょうか?」
となると夕方くらいか。それまでには十香達が迎えに来そうだ。……って、あれ? 十香達が
精霊独特のオーラが割とすぐ近くにあった。だが、俺の知る十香達とは違う……ような気がする。確証なんてものは全くないが、多分俺の知らない十香達なんだと思う。
それと他にも強いオーラがあった。これも知っているヒトのものだ。しかも精霊のすぐ傍。
……どれくらい反応するかな?
膨大な魔力を一瞬だけ放つと周囲に強い風が発生した。
目の前のお姉さんは魔力を持たないことがわかっているので感知が出来ないはずだ。だからただ風が起こったくらいにしか思わない。
「もう一つ聞きたいんだけど、精霊って知ってる?」
「それは冒険譚に出てくるような、ですか?」
「ううん、天災レベルの力を持つ女の子達。剣とか氷とか時間を操ったり出来るんだけど」
「……知っているには知っています。どこでそれを?」
お姉さんの目付きが鋭くなる。
この様子から察するに精霊達とは知り合いのようだ。
「俺の知り合いに似たような子がいるんで気になっただけです」
余計な誤解が生まれる前にまたあとで会う約束を取り付けてその場を後にしたのだった。
広々とした公園に入り、敷地内にあった自販機でスポーツドリンクを買った。
ベンチに腰を下ろして飲んでいるといきなり複数人の男女が何もないところから現れた。
先程の魔力放出はこの人たちを誘い出すためだ。
「久しぶりだね」
「ええ」
黒い帽子と青ジャージの少女が皆を代表して話しかけてきた。
言葉は少ないが俺達からすれば十分だ。
「元気だったかどうかは聞かなくてもわかります。どうやらまた強くなったようですね、空」
「うん。でもまだまだ強くなるよ」
「手合わせしますか?」
「もちろん!
聖剣を構えた少女―――ヒロインXに全力で挑む。
「―――それでは改めて。お久しぶりですね、空」
「うん! 久しぶり!」
お姉ちゃんの他にも満足するまで存分に戦って一息ついた。
改めて再会の挨拶を笑顔で返事をすると釣られるようにして彼女も笑った。
周りの他の人達も再会を喜んで微笑んでくれた。
彼女達は英霊と呼ばれる存在だ。簡単に言うなら、歴史に登場する偉人や英雄と言ったところか。中には聞いたことがない名前や「いや、お前絶対に英霊ちゃうやろ!」と言いたくなるような人もいるが、そこはそっとして置いておこう。
本来なら故人、しかも生まれる時代が全く違うはずの英霊達がこの場にいるのは衛宮藍という少女の“転生特典”によるものだ。
「もう三か月くらいか……。でも、また別の世界で会うなんて凄いね」
「さ、三か月? 何を言っているのですか? 私達が前に会ったのは何十年も前のことですよ?」
……何十年も前?
「いやいや、それはおかしいでしょ! 何十年も前なら俺もっと成長してるよ!?」
まるでもう一度転生したようでは―――……転生? あれ? これはひょっとして……。
あまりにも俺達の話が食い違っている。嘘を言うにしても得することなんて何もないだろうし、妙な引っかかりがある。
「ねぇ、もしかして藍さんって二度目の転生した?」
「え? ええ。前の世界で安らかに逝きました。それと同時に私達英霊も居なくなるはずだったのですが、何故かもう一度転生することになりまして、赤子からやり直してますよ」
「なるほどね」
となると……俺達の進む時間が違うということ……でいいのかな?
俺にとっての三か月がお姉ちゃんにとっては数十年であるということ。うーん、イマイチ理解が出来ないな。……ま、専門家に頼らなければいけない程難しすぎることは放っておけばいっか。
「難しいですね。まあ、それはさておき。空はどうしてこの世界に? あなたもまさか転生を?」
俺と同じく頭の中で整理しきれなかったようでスパッと諦めて話題を変えてきた。
「ううん。知り合いに異世界に飛ばされただけ。ブレイヴがあれば座標特定して帰ることが出来たんだけど、間が悪いことに向こうに置いて来ちゃって」
「それは、その……災難でしたね……。でも、もう大丈夫です! 何故ならこの私が―――お姉ちゃんがいるのですから!」
同情するような表情から一転、私を頼れと言わんばかりの表情になった。
他の英霊達も同じような表情ばかりだ。
過去の偉人達が助けてくれるなんて光栄なことに違いない。
「ありがと。でも、今は当麻さんって人のところでお世話になってるから大丈夫。それに―――」
思ったよりもお早いことで。
『―――――ッ!!』
遥か上空から知っている少女の声がする。何を言っているかはまだ遠くてわからない。
英霊達が何ごとかと困惑しながら上をみるが、上を見なくてもわかる。
『―――……らあああああああああああああああああッ!』
徐々に声が近くなる。
ふと見上げれば魔力強化した視力でその姿を捉えることが出来た。
『空ぁぁぁああああああッ!!』
そしてついに俺の名前を呼ぶ声がはっきり聞こえた。
「下がってたほうがいいよ」
そこらの一般人よりも頑丈で強者揃いの英霊達に言う必要はないかもしれないが念のため注意して、距離を置く。
落下してくる夜色の髪を持つ少女は俺目掛けて真っすぐだ。
「受け止めてこい、空」
アタランテさんに背中をポンポンと叩かれて頷く。
「―――龍神化」
身体全体から静かに力が溢れ出す。
背中に意識を集中させて黒い翼を出し、真上に飛翔。
「十香ッ!」
落下してくる少女の名前を呼んで少女を抱きとめる。
勢いが強すぎて俺まで落下しかけるが、気合を入れて空中に留まった。
「や、十香。おはよう」
「おはようじゃない! この馬鹿者!」
「ええー……」
顔を合わせるなりいきなり罵倒が飛んできた。
「また勝手にいなくなって! とてつもなく心配したんだぞ!?」
「わ、悪かったよ……」
十香が泣きそうになるほど怒っている理由はわからなくもないけど、俺が望んで異世界に行ってるわけじゃないし、帰ることが出来るならとっくに帰っている。……まあ、興味が湧いちゃったら帰るまでに寄り道くらいはさせてほしいけど。
元居た場所まで降り立って十香から離れる。
「んで、他の皆はどうしてる?」
「そうだな、そろそろ落ちてくると思うぞ。ほら」
「……は?」
十香に言われて上を見上げてみれば複数人の少女達が上空から落下してきていた。
「全員受け止めてやるんだな」
ざまあみろと言いたげな十香に何も言わずに彼女達―――十香以外の精霊達やなのは達を迎えに行った。
「迎えに来てくれたのは素直に嬉しいけどさ、わざわざ全員で来ることもないと思うんだけど?」
一人ひとり受けてめて下ろし終えてから呆れ気味に少女達を見やれば、キッときつく睨み返された。
『勝手にどっか行く方が悪い!』
言っていることは御もっとも。だが、それもこれも全てアザゼルさんの所為だから俺に非はないはずだ。
『ふぅ……久々にここに入ったがやはり落ち着くな』
《やはり私の定位置はマスターの腕ですね》
怒ってる少女達とは関係ないところ―――俺の心の世界ではドライグ達がのんびりしていて、ブレイブの声も弾んでいた。
そう言えば、最近は自分と遥のことばかりで構っている時間がほとんどなかった。
「さーてと、そんじゃ帰りますか、と言いたいところなんだけど、もう少しだけここにいさせて。今日中には帰るから」
『そんなのダ―――』
皆にダメと言われるよりも速くに駆け出し、その場から逃げ去った。
幸い、英霊達は見てるだけで何もせず、龍神化したままだったため追いつける者は十香達やなのは達の中には存在しなかった。
「ん? おい、テメェ! さっきのガキだな!」
公園から逃げ出して再び街をうろちょろと探検。
そしたら、あら不思議。
先程気絶させたヤンキーが似たようなお友達を連れていたところにばったり遭遇した。
「さっきのお返したーっぷりさせてもらうぜ? 泣いても許さないからな?」
ヤンキーA が あらわれた。
ヤンキーB が あらわれた。
ヤンキーC が あらわれた。
ヤンキーD が あらわれた。
ヤンキーE が あらわれた。
「うわー、めんど……」
ソラ は めんどうになって 逃げだした。
「逃がすかってんだ!」
しかし 囲まれて逃げられなかった。
「死ねぇえ!」
ヤンキーA の こうげき!
ソラ は 見聞色の覇気で パンチをよけた。
「うりゃああ!」
ヤンキーC の こうげき!
ソラ は 見聞色の覇気で つかみこうげきをよけた。
「これでも喰らいやがれ!
ヤンキーB の こうげき!
宙に浮いた金属バット が ソラ を おそった!
「おいおい……寄ってたかって小学生一人をいじめてんじゃあねぇよ」
しかし どこからともなくあらわれた学生 が 金属バッド を 止めた!
あの人、まさか……。
暇潰しにやっていたドラクエごっこを中断して、助けてくれた人を凝視する。特に腕だ。バッドを掴む瞬間に紫色の巨大な腕が重なって見えた。
恐らく空条承太郎のスタンド―――スタープラチナのものだ。
超能力者の研究で盛んな世界にスタンド。そもそも精霊や英霊がいる時点で歪な世界だ。普通に考えたら有り得ないことだ。
「テメェら、覚悟は出来ているんだろうなぁ? オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーオラァッ!」
謎のスタンド使い が オラオララッシュで ヤンキーA・B・C・D・E を たおした!
この場合は
「もう大丈夫だぜ」
学生はボロボロになって道端に転がるヤンキー達を一瞥してから俺の傍によってそう言った。
「ありがとー! いやー、スタープラチナのオラオラはやっぱいいね! ちなみに次にいうセリフは『テメェ、スタンドが見えて……!』だね」
「テメェ、スタンドが見えて……! ―――ハッ!? (……何もんだ? 考えられるとしたら俺と同じ転生者くらいしか……)」
大方俺を転生者とでも考えてるところ悪いが、そろそろ約束の時間が近い。
しかし学生は逃がしてくれなさそうだ。
スタンド以外の能力がないことを祈るしかないか。
「知りたかったら捕まえてごらんよ」
「ハッ、鬼ごっこってわけか。いいぜ。すぐに捕まえてやるよ!」
こうしてスタンド使いの学生との鬼ごっこが始まったのだった。