デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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乙女の、乙女による、乙女のための会議です!

乙女の、乙女による、乙女のための会議です!

 

Side明日奈

 

冬休み最終日の午後。アリサちゃんの家に私達はいた。

アリサちゃんがカップの中の紅茶を飲み干して静かにカップをテーブルに置くと、私達一人ひとりの顔を見ると視線だけで「そろそろいい?」と問いかけてきた。

私達が頷き返すと満足気に頷き立ち上がった。

 

「それでは第42回、乙女の乙女による乙女のための会議をこれより始めます!」

 

そう高らかに宣言したのだった。

 

 

 

 

 

―――乙女の、乙女による、乙女のための会議。通称『乙会(おつかい)』。

参加しているメンバーはなのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、愛衣ちゃん、シアちゃん、ネリネちゃん、リコリスちゃん、私こと結城明日奈を含めた11人。そして、私達の意見が対立したり、ケンカが起こった場合に備えての仲裁役としてあかりちゃんがいた。

イリヤちゃんもメンバーの一人なのだが、頻繁に海鳴市には来れないので彼女だけたまに参加となってる。

不定期に開催される『乙会』の目的は私達の共通して好きな人―――“龍神空”をどうやって振り向かせるか。そして、彼をデレさせて皆で外堀埋めて逃げられないようにする。要するに、空君にハーレムを作らせるのが最終目標なのだ。

この会が発足したきっかけは私とアリサちゃん、すずかちゃんが誘拐事件の被害者となり、解決した時のこと。

すずかちゃんの正体を知った私達は、一生を共にする盟約を結ぶか、すずかちゃんに関する記憶を失うかの二択を迫られた。当然、私達は大切な友達であるすずかちゃんを忘れるなんて嫌だから盟約を結ぶことを選んだ。

そんな中、空君だけはすずかちゃんが一番仲のいい異性ということで『婚約者』にさせられてしまったのだ。

それに納得のいかない私達は反発した。

 

……だって、初めて好きになった人がいきなり取られちゃうなんて嫌だもの。

 

だがしかし、その場合は他の女の子達と倍率の高い競争をしなければならい。しかもその女の子達というのは仲の良い友達ということもあって、自分が抜け駆けするということを考えて大分気が引けてしまった。

誰もが不安になる中、プレシアさんからの衝撃的な一言で私達の考えは一転する。

 

『ミッドチルダには一夫多妻制が認められている』

 

異世界独特の文化に私は喜んだ。皆一緒に結婚出来るのなら誰も不幸にならないから。恐らく、他の子も同じように喜んだに違いない。

そして私達は空君がいない時に集まって『乙会』を結成。誰も反対する人なんていなかった。皆私と同じ考えを持っていたようで安心した。

すずかちゃんも独り占め出来るのは嬉しいと思ったらしいけど、私達のことを考えたらこうするのが一番だって考えたみたい。

 

だけど、すぐに安心は不安に変わった。

空君の傍には十香さんをはじめとした姉的存在がいるのだ。

彼は超が10個ついても足りないくらい鈍感だから気が付いてないだろうけど、十香さん達が空君に対して向ける目は恋する乙女だと丸わかりだ。一見、ブラコンにも見えなくもないけど、彼女達は絶対に空君に恋してる。本人に直接聞いたわけじゃないけどそこは恋する乙女の直感というやつだ。それにリインフォースさんも同じだろう。あのデート以降、空君に対しての態度が他のヒトと明らかに違う。

それだけならまだ許せないこともない……けどギリギリ許せないところだが、問題はそれでけではない。龍神空という少年は無自覚にフラグを建てまくる。最早感染力の強い病原菌と言っても差し支えないくらいにだ。

最近だとフランちゃんとタマモちゃん。

今日の『乙会』の議題はその二人に関してだ。

 

「皆も知っての通り、……また増えたわ」

 

「ホントに空君は……」

 

「そろそろその辺のことお話しておかないとね」

 

「まあ、好きになった私達が言えることじゃないんだけど」

 

司会進行を務めるアリサちゃんの切り出しにその場にいた誰もが溜息を吐く。空君に好意を寄せていないあかりちゃんでさえも溜息を吐くのだから本当に彼はどうしようもない。

 

「タマモは空をご主人様と呼ぶほどに慕ってる。これは間違いないわ」

 

良妻賢母を目指してるとか言ってたけど、実際に彼女の家事能力は高いみたいだ。

アリシアちゃんから聞いたけど、タマモちゃんは幻想郷という異世界から来たから洗濯機や洗剤といった文明の違いに驚いていたが、使い方を即覚えてすでに使いこなしているみたい。

掃除は素早く綺麗。洗濯は丁寧で皺ひとつない。炊事に関しては洋食は作ったことがないらしいが、和食にかなり秀でてる、とのこと。

空君が幻想郷でタマモちゃんの手料理を食べたらしいのだが、相当美味しいと言っていた。

 

私もうかうかしてられない……!

 

家が家だけに中々料理をさせてもらえないのだけど、このままでは女の子としてタマモちゃんに後れを取ってしまう。

空君にはすでに女子力―――否、最早あれは主婦力―――で負けてしまっているがそれはいい。彼は例外なのだ。

 

「で、そのタマモなんだけどね、一応私達と同じ相手を好きになったわけだからこの会に誘ったの」

 

同じ想いを持つのだからこの会に誘ったフェイトちゃんの判断は正しい。

 

「でも、ここにいないってことは……」

 

「なのはの考えてる通りだよ。タマモはハーレムは嫌だって」

 

なるほどね。タマモちゃんは一人で戦うことを選んだんだね。常識的に考えたら私達がしようとしてることって異常なわけだし、タマモちゃんが当たり前なんだけど。

だけどそれでも私達は全員で彼に好きになってもらう方針は変えない。

たとえ世間に後ろ指差されても。神や魔王が許さなくても。

あ、でも冥界や天界は悪魔や天使の数が少ないから一夫多妻制も認められてるから大丈夫かな。

 

―――それはともかく。

 

「タマモちゃんは基本的に放置でこっち側に来るなら拒まず、って方向性で良いかな?」

 

私の提案に皆が肯定の意を込めて頷いた。

 

「次はフランね。……タマモよりも厄介なのよね」

 

タマモちゃんの次はフランちゃん。

空君が幻想郷とは違う世界に行ったときに出会った吸血鬼の少女だ。

この世界に戻って来るまでの一か月近くを一緒に過ごしていたらしい。そして、ついこの間幻想郷で再会。タマモちゃんやジバニャン達と一緒に龍神家に押しかけて、つい先日住むことになったのだ。

 

「空ってさ、フランにやたら甘いよね?」

 

アリシアちゃんがフランちゃんの話になった途端に呟いた。

そう。それがフランちゃんが厄介な理由なのだ。

箱入りのお嬢様だということは空君から聞かされていたけれども、出来ないことや知らないことが多い。髪のセットや箸の使い方、フランちゃんの要望には基本的になんでも応えるくらいだ。

その点に関しては仕方ないと思う。

アリサちゃんやすずかちゃん、それに私なんかは世間一般的にはお嬢様と呼ばれるものだ。シアちゃん達に至ってはお姫様だけど。それ故に少々世間の常識をしらないこともある。料理や電化製品の使い方なんかがいい例。だからその点に関して言えば、フランちゃんに強くは言えない。

 

……でも、本音はかなり羨ましくて、ズルいって思っちゃうな。

 

彼女がまだこの世界の文化に不慣れなのは十分に理解してるつもりだ。それでもやっぱり空君を独り占めされるのは嫌だって心が伝えてくる。

 

「フランちゃんのお世話は私達も積極的に手伝えばいいんじゃないかな。空君の負担は減るし、私としてはフランちゃんとも仲良くなりたいって思ってるから」

 

「一石二鳥ならぬ、一石三鳥ってとこやな」

 

フランちゃんは自分で出来ることが増える。影分身があるから負担はなさそうだけど、空君は負担が減る。私達は仲良くなれる。確かに一石三鳥だ。

 

「ところでさ、フランちゃんって空君のこと好きなのかな?」

 

「あー、それ! 私も聞こうとしてたんだよ!」

 

あかりちゃんの呟いた疑問に思わず立ち上がってまで勢いよく反応してしまった。

実はフランちゃんが厄介な理由がもう一つあった。

それは彼女が空君に好きという想いがあるか今一わからないのだ。

 

『空のことをどう思ってるか? 大切な友達。それだけよ』

 

サッカーをやった日にさりげなく聞いてみたらフランちゃんからそんな答えが返って来た。

愛衣ちゃんは嘘を吐いてないって言ってたけど、様子を見るにどうにも二人の距離感が友達のものとは思えない。

フェイトちゃんがタマモちゃんのように誘わなかったのは空君に対する想いがないと判断してのことだろう。

 

「自分で言うのもアレだけどさ、私も結構空に甘えたりするんだよね。でもフランも中々なんだよ」

 

サラッと聞き捨てならないことを言うアリシアちゃんに皆の視線が集まる。

詳しく聞きたいところだけどそれは後だ。

 

「スキンシップが激しいってこと?」

 

「ううん。べつに美九や折紙みたいにスキンシップが激しいわけじゃないんだよね。なんか用事があるわけでもないのにさり気無く空の隣にいて、空に暇があれば膝枕してー、とか頭撫でてー、なんて要求してた。それ以外だと割と普通にいるだけなんだよね」

 

空君のことを考えて甘えてるわけだね。私の印象では我が儘に甘える子なのかと思っていたから、今の話を聞いて意外に思ってしまった。

他の子達も思っていたことと違って拍子抜けしてるようだ。

 

「空君に迷惑が掛かってないならいいんじゃないかな? 好きだって自覚したらこっちに引き込めばいいと思うし、タマモちゃん同様に基本的に放置ってことで」

 

なのはちゃんの意見に誰も反対はしなかった。

 

「じゃあ、今回の議題をまとめるとタマモちゃんとフランちゃんは基本的に放置、こっちに来るなら引き込む。フランちゃんに関しては追加で私達でフォローして空君の負担を減らす。それでいいかな?」

 

『うん』

 

あかりちゃんがまとめて私達がそれに頷いた。

 

「それじゃあ、本日の『乙会』はここまで―――」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

アリサちゃんが『乙会』をお開きにしようとしたのを遮った。

 

「何かあった? 明日奈」

 

「うん。少し早いけどバレンタインのことを話しておきたいんだ」

 

次の『乙会』がいつになるかわからないから早めに言っておきたいことがある。

 

「去年までは空君やヴァーリ君には義理チョコを渡してたと思うけど、今年は、その……」

 

その先を言わなくても察してくれたのようで、何人かが頬を赤らめさせた。

なのはちゃんやフェイトちゃん達と違って、私を含めた何人かは去年までは仲の良い友達として空君とヴァーリ君に義理チョコを渡していた。

だけど、今年渡すチョコは去年までとは違う意味を持つことになる。

 

「本命、か……。そう思うと渡すの緊張しちゃうな」

 

「今年は手作りにチャレンジっす!」

 

「私は手作りには自信がないです……」

 

「だとしたら皆で一緒に作るのはどうかな?」

 

「相談してみないとわからないけど、お母さんに翠屋で教わるのもいいと思うよ」

 

「最悪場所に関しては私の家やすずかの家があるから問題ないわね」

 

あっという間にバレンタインの話が進んで行く。

材料やラッピングは桃子さんに作り方と一緒に聞けば良さそうだ。

お金に関してはまだ使ってないお年玉があるから大丈夫なはず。

メンバーはここにいる私達の他に朱乃ちゃんやティアナちゃんの同世代組も一緒だ。

 

「ある程度決まったから近い内にイリヤにも伝えましょ」

 

「あとは日程くらいだね」

 

「ううん。まだ大事なことがあるよ」

 

『?』

 

大事なこと?

 

「毎年空はどのくらい貰っていたか知ってる?」

 

『!?』

 

「空は私達の数を抜いてもすごく貰ってるんだよ。ついでにヴァーリや雄人も」

 

そう言えばそうだった……! 

 

あの三人は聖小でかなり人気者なのだ。

雄人君は戦闘面だけ見るとヘタレな部分が目立つが、生活面では誰とでも分け隔てなく接してくれる明るい性格で男女共に人気が高い。

ヴァーリ君は運動も勉強も文句なし、口数が少ないクールな性格が一部の女子に人気だ。特に上級生からはそこが可愛いんだとか。

そして、空君。ヴァーリ君同様、運動も勉強も十分に出来るし、素直な性格で先生からの評価も高い。下級生にはお兄ちゃんになってほしいとか、上級生には弟にしたいなんていう話がチラホラ聞こえてくる。

同級生なら知らない人はいないだろうという三人が貰わないはずがないのだ。

 

「今年は更に増えるんやろな」

 

「想像しただけで頭が痛い……」

 

「まあ、考えてても仕方ないわ。私達が他の子を邪魔するわけにもいかないしね」

 

大きな問題を抱えたまま今度こそ本日の『乙会』はお開きとなった。

帰るにはまだ早いからもう少しだけ雑談してから帰ることにした。

 

「空君は今何してるの?」

 

話題になるのは必然とばかりに空君の話になる。

 

「中国に行ってるよ」

 

『は?』

 

予想だにしていない返事がフェイトちゃんから返って来たのだった。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side空

 

冬休み最終日に中国の人里から離れた山の中に俺達はいた。

一緒にいるのはヴァーリと十香、六喰、黒歌にオリヴィエさんだ。

霧がかかる石柱ばかりの渓谷の風景は、仙人が住んでいてもおかしくない独特の雰囲気を醸し出していた。

 

「二亜の調べによるとここらへんにいるらしいけど……」

 

「霧が濃くて探しにくいですね」

 

足元を確認しながらゆっくり歩いていく。

俺達が中国に来たのには理由があった。西遊記に登場する斉天大聖こと孫悟空に会うためだ。

アザゼルさんの話しだと、神格化して仏になっているんだとか。

孫悟空は仙術と妖術にとても秀でているのでもし会えたなら学ぼうというのも考えてる。

 

《この霧のせいかはわかりませんが魔力感知上手くいきません》

 

ブレイブがお手上げだと言わんばかりに告げてきた。

魔力がダメなら見聞色の覇気で探り始めた。

 

…………ダメだ。気配はある。だけど多すぎる。近くに居るようで遠くにいるような、まるで矛盾した反応だ。

 

これが妖術や仙術の力なのだろうか。

 

「手当たり次第に探すしかなさそうですね」

 

対処の仕様がない今、それしかできない。

時間がかかるのも承知で山の中を歩き続けた。

 

 

 

 

 

歩き続けること二時間程して渓流の近くで休憩を取っていた。

成果は全くと言っていいほど芳しくない。

 

「見つからないのう」

 

「うん……」

 

「何故だか同じところを何度も歩いた気がするぞ」

 

「恐らく幻術の類いにゃ。それもこの山全体に掛かるほど大規模なやつ」

 

妖術や幻術を使う黒歌だからこそ気が付いたことだ。彼女がいるのは助かった。

 

「まだ探索するか?」

 

「うーん、なんだか歓迎されてないみたいだから―――お?」

 

帰ろうかと言おうとしたら、川から何かが流れてくるのが目に入った。

気になったので十香達に協力を仰いで川から上げてみると俺とそんなに身長差のない少年だった。

白目を向いていて完全に気絶してる。

 

「こいつ妖怪よ」

 

黒歌が自分と同じ種族にいち早く気が付いた。

顔は人間みたいだが、腰から生える尻尾が妖怪であることを裏付けていた。

 

「ブレイブ」

 

《はい。頭部に何かで殴られた形跡があります。それ以外は目立ったものはありません。放っておいてもいずれ目覚めるでしょう》

 

ブレイブの解析結果を聞いて、治癒魔法をかける必要はないと判断して妖怪の少年を横にする。

 

「この妖怪が起きたら孫悟空について知ってるか聞いてみるべきだな」

 

ちょうど行き詰っていたところだから、十香の提案を呑んだ。

それから十分程休んでいたら、妖怪の少年が目を覚ました。

 

「……んぁ? ここは……って、お前ら誰?」

 

「君を助けた者さ。川から君が流れてきて驚いちゃった」

 

「助けた? 川から? あああああーッ! あのクソジジイ! よくも殴ってくれたな!」

 

ジジイ? 修行でもしてたのかな? もしくは何かして怒られたとか?

 

「わりぃ、誰か知らないけど世話になったわ! 俺っちはあのジジイに仕返ししないと―――」

 

「あ、待ってよ。聞きたいことがあるんだけど」

 

折角山の中で出会えた妖怪だ。何かしら知っていても可笑しくはない。

 

「ん? 何だ?」

 

「孫悟空って知ってる?」

 

「知ってるぜ」

 

「ホント!?」

 

「おうよ。そだな、助けてもらった礼に会わせてやるぜ。俺っちに付いて来な」

 

流れが一気にやってきた。

俺達は顔を見合わせてすぐに妖怪の少年を追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

妖怪の少年の後ろに続く形で山の頂上付近に辿り着いた。

そこにある岩山に胡坐をかいて座る小さな人影。

 

「ほう、これは面白い奴らがきたもんだのぉ」

 

俺達の姿を確認した小さな人影は岩山から降りて、こちらに歩み寄って来る。

背丈は幼稚園児ほどで金色に輝く体毛、法衣を着ていて、猿のような顔。だが、皺が多い。手には長い棍と煙管。首には一つ一つの珠のサイズが大きい数珠。そして何故かサイバーなサングラスを掛けていた。

 

「あのチビのジジイが孫悟空だぜ」

 

少年からの紹介に目を見開く。

西遊記で有名な孫悟空がこんなにも小さな姿だとは驚きが隠せない。

 

「お前さんたちはどうしてここに?」

 

「孫悟空さんに会いに来ました! ついでに仙術とか教わりたいなって」

 

「いいぜぃ。ここで会ったのも何かの縁だろうからな」

 

そう言って、孫悟空さんは皺くちゃな顔をさらに皺くちゃにして笑って、俺達の修行を快く引き受けてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 


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