OS2
現実世界に帰還してから私がいない間の二年間のことを聞いたのだが、驚きの連続だった。
「俺、アイドルになったんだ」
「……へ? アイドル!?」
リハビリを始めてすぐにソラ君からアイドルになったことをいきなりカミングアウトされた。
ついでと言わんばかりに悪魔や邪龍と戦ったらしいが詳細は語ってくれなかった。
……戦うことに関しては昔からだからあまり気にしてないけど。
小学生の頃から冥界で活躍していたことは知っていたが、まさか私が仮想世界にいる間に人間界でも活躍するアイドルになっているなんて予想できるはずなかった。
今度帰還者達を集めた特別ライブを行ってくれるそうだ。
ソラ君が活躍することが嬉しい反面、どこか遠くに行ってしまったみたいで少しだけ寂しかった。
次に開発者である茅場さんのことを聞いた。
茅場さんは今回の事件の被害者として世間には認知されているみたい。ただ開発者としての責任を取るつもりのようで、多額の賠償金を支払ったそうだ。今は須郷さんの代わりにALOの運営を手伝っている。
ついでにユイちゃんは茅場さんによってALOは言わずもがな、現実でも会話出来るようにソラ君のスマホにいるらしい。
それとALO事件を引き起こした張本人である須郷さん。思い出すのも嫌だけど、彼は実験がバレて裁判にかけられる。当然婚約の話は取り消し。
お見舞いに来てくれたお母さんが申し訳なさそうに謝った後、「やっぱり恋愛結婚よね」と言った時、思わず深く頷いた。
ソラ君を落としなさいと言ってたが言われるまでもない。
外堀は着実に埋めつつあるし、
ふふふ、今の私は負ける気がしない……!
最後に帰還者についてだが、プレイヤーの中にいた学生達は政府の援助で帰還者用の学校が用意されてそこに通うこととなる。
二年も学業から離れていたのだから元の学校には通うことは今更出来ないし、するつもりもないがこの対応には助かった。
私は歩ける程度に回復するまでは学校に通うことは出来ないのだけど、ソラ君がお見舞いしてくれるというだけで幸せな気分だ。それに学校に行けるようになったら送ってくれるみたいだし、良いことだらけだ。
忙しいはずなのに来てくれるのは影分身を使っているからだそうだ。
それに加えて二人きりの時間が多いのは、皆が気を遣って会えなかった時間を埋めさせてくれているのだろう。
イチャイチャするためにリハビリなんてすぐに終わらせてやるんだから!
ライブの翌日。スケジュール通りに午前中はオーグマーについてのインタビューだ。
茅場晶彦が開発したナーヴギアの後継版の『アミュスフィア』に対抗するように、茅場晶彦の先生である重村徹大教授が開発したものがARデバイス『オーグマー』。
フルダイブするナーヴギアやアミュスフィアと違い、覚醒状態で使えるオーグマーは安全性と利便性が認められ、オーグマーは、コンパクトでどこでも持ち運び可能。
若者を中心に人気が広がっているようだ。
かく言う俺も、オーグマーのCMに出演した縁で重村教授から直接オーグマーを頂いている。
「う~ん! 今日の仕事終わり!」
この後は何もないし―――
メール?
オーグマーが見せる視界内にメールが届いた。
『from:結城明日奈
件名:今暇だよね。
今からリズ達と遊ぶんだけど、ソラ君も良かったらどうかな?』
メールを見て慌てて周囲を見渡す。明日奈がどこかで見ているのかと思ったがそうではないらしい。
今暇だよねって断言できるってどういうこと!? ……と、とりあえず、『いいよ』と返信しとこう。
明日奈からすぐに返信が返ってきて、指定された待ち合わせ場所へ向けて歩き出した。芸能人だとバレないように変装することを忘れずに。
指定された待ち合わせ―――ダイシー・カフェに着くと窓から明日奈とその連れが座っているのが見えた。
店内に入ると人の出入りを知らせるベルがなるため、それに反応した人の視線が一斉に集まる。が、一人を除いて途端に『誰だ?』と言わんばかりの目を向けられる。
ここにくるまでもそうだったが、意外とサングラスだけでも十分変装になってるらしい。
「ソラ君!」
「よ、明日奈」
名前を呼びながら抱き着いてきた少女―――明日奈を受け止める。
明日奈が現実世界に戻ってすでに二年が経ち、痩せ細った体もそこそこ肉が付いて大分健康体になってきたな、なんて抱き締めながら考えてしまう。
「おーい、皆?」
未だに俺が誰か気付いてない様子が見受けられたので、サングラスを外して「よっ」と声を掛ければ、ようやく気が付いたらしい。
「ちょ、ちょっとアスナ! 連れてくる人ってソラだったの!?」
「そうだよ」
「アタシ、ってきりユウキだとばかり思ってたんだけど……」
「ふふ、私なりのサプライズってとこかな。成功してよかったよ」
どうやら明日奈は敢えて俺が来ることを教えなかったらしい。
SAOをやっている間に大人びたと思ってたら、意外と子供っぽい部分もまだ残っていたことに何と言ったらいいか上手い言葉が思いつかない。
『パパ!』
「ユイ、元気してるか?」
周囲がいきなりの事態に大慌ての中、幼い少女の姿がオーグマーが映す視界に現れた。
背中まで伸びた黒い髪に薄桃色のワンピースと半透明な羽。御伽噺に出てくる妖精と言っていい存在だ。もちろん本物の妖精ではなく、高性能のAIだ。
明日奈がプレイ中に見つけた少女で、短い間だがアインクラッドでは親子のように過ごしていたそうだ。
ユイが俺をパパと呼ぶのは明日奈が仕向けたからなのだが、今では俺も溺愛して可愛い娘扱いしてる。
『今日もお仕事お疲れ様です! それと昨日のライブ、ママと見ました! とーっても凄かったです!』
「ありがと。そう言ってもらえるとこれからも頑張れるよ」
小さな体を命一杯使って表現してくれるユイに思わず表情が緩む。
本来ならユイとはスマホの画面か、ALOのような仮想世界でしか会えないのだが、重村教授の開発したオーグマーのおかげで日常的に会話が出来るようになった。
CMの依頼を受けたのもこれが主な理由と言ってもいい。
いつかはリインフォースⅡみたいにユニゾンデバイスとして身体を作るのも検討してるところだ。
俺とユイのやり取りを見て「順調順調♪」とほほ笑む明日奈は今更なので気にしない。
「よお、ロクサス」
「こんにちは、ロクサスさん」
「おっす、キリト、リーファ」
ロクサスの名前、というかALOでのプレイヤーネームを呼んだキリトこと桐ヶ谷和人とリーファこと桐ヶ谷直葉が俺に近寄る。
ネットゲームではリアルネームは出さないのが基本らしいと聞いて、適当にもじったSoraにXを加えてRoxasにしたのだ。それに俺の立場を配慮して彼らは基本的にはロクサス呼びしてくれる。
明日奈に勧められて始めたALOでは、ロクサスの容姿は明日奈からの強い要望があってケットシーという獣耳がある種族で髪色が金髪となっている。装備はこれまた明日奈の強い要望で明日奈とペアルックである。
明日奈やユイ、ユウキが頻繁に猫耳や尻尾に触れてくるものだから、ケットシーを選んだことを若干後悔してたりしてなかったり。
「キリト、ちゃんとご飯食べてるか? ただでさえ細いんだからもっと食った方がいいぞ」
「いつも言ってるけどな、お前は俺のお袋か!」
俺の一つ下で黒髪黒目、線の細い顔立ち。男にしては随分細い体をしているものだから、どうにも会う度に似たようなことを言ってしまう。
キリトは明日奈とはゲームの中で交流があったらしく、彼女から聞かされたが彼はSAOのクリアに導いた英雄だ。
その後SAOのオフ会で明日奈に紹介されてからは現実でもALOでも関わりを持つようになった。
まあ、初めて対面した時は敵視されてこともあったが、それは置いておく。
一方、リーファはキリトの従姉妹で彼女はSAOとは無関係だが、SAOクリア後も須郷伸之によってALOに閉じ込められた明日奈を助けるためにキリトと共に協力してもらった。
二人と軽く話して別れ、明日奈と並んでカウンター席に座るとこのお店の店主―――エギルさんが迎えてくれた。
「ロクサス、アスナ。何か飲むか?」
「ジンジャーエールでお願いします」
「私も同じものを」
「おう。すぐできるから待ってろ」
待つこと数十秒でグラスに注がれたジンジャーエールを渡された。
エギルことアンドリュー・ギルバート・ミルズ。アフリカ系アメリカ人でガタイの良い黒人なのだが、本人曰く、生粋の江戸っ子らしい。
SAOでも自分のお店を持っていたそうだ。
彼の好意でオフ会ではよくこのお店を使わせてもらっているし、落ち着いた雰囲気を気に入ってプライベートでも来させてもらってる。
「よお、ロクサス。相変わらずリアルは忙しいみたいだな」
「お陰でプライベートに時間がそんなにありませんよ」
俺達よりも先にカウンター席に座っていたクラインさんが俺を労ってくれた。
俺には影分身があるから皆との時間は確保できるけどね。
クラインこと壷井遼太郎さんは赤いバンダナに野武士面の男性だ。
どうにも出会いを求めてゲームをしていると女性陣が冷ややかな眼で教えてくれた。
だが、やるときはやる人らしく、仲間からの信頼は厚いみたいだ。
「ロクサスさん! 今度のライブ、ユナとコラボするってホントですか!?」
「ちょっと、シリカ。落ち着きなさいよ」
私、気になります!と言った様子で近づいてきたのはこの場にいるメンバーで最年少のシリカと彼女を窘めるリズベット。
ツインテールの少女、シリカこと綾野珪子とショートカットの少女、リズベットこと篠崎里香。
彼女達は明日奈やキリト達同様、SAO帰還者である。
シリカはマスコットみたいな役割……? リズベットはSAO内では明日奈の良き友として支えてくれたそうだ。
帰還後も明日奈、キリト、シリカ、リズベットは帰還者が通う学校で仲の良い友人関係を築いてる。
「まあね」
「わぁ! それって最っ強のベストマッチですねっ!! あたし、絶対に見に行きますっ!!」
「お、おう……」
シリカの言った“ユナ”とは、オーグマーを使用したゲーム『オーディナル・スケール』のイメージキャラクターを務める世界初のARアイドルのことだ。
その表情や歌声があまりにも自然すぎる為、AIではなく生身の人間が演じているのではという噂がある。
そして、そんなARアイドルのユナと俺達『The Best Bond』(略してBB)がオーグマーとオーディナル・スケールの宣伝としてコラボライブするのである。
シリカにチケットを用意しとくか。
それとここにはいないがシノンこと朝田詩乃を含めたメンバーがALOで仲の良いメンバーだ。
「あ、今ので思い出したんだけど、皆はオーディナル・スケールやるの?」
明日奈の問いかけに店内の反応は様々だ。
長い間VRを体験してきた彼らからしたらARには思うところがあるのだろう。最近ではALOやGGOといったVRゲームからARゲームに流れている傾向にあるのも一因かもしれない。
そう言えば帰還者達が通う学校の生徒は無料で配布されたんだったか?
「俺は仕事の一環としてかな。ついでの体動かせるなら丁度いいし」
これも広告塔としての役割だ。他の仕事もあるからそこまで頻繁には出来そうにないと思うけど。
「ソラ君がやるなら私もやろうかな。参加するときは必ず連絡入れてね?」
「わかった」
ここで嫌だと言えば痛い目に遭うことが分かりきっているから素直に頷く。あとは連絡することを忘れないようにしないと忘れた時が怖い。
決して尻に敷かれているわけではない。決っっっして尻に敷かれているわけでない!
「私もやりたいんだけど、出てくる場所がギリギリまでわからないから足がない私達には無理ね」
「なら、俺が車で送るか?」
「いいの!?」
「ああ。明日奈が参加するなら元々そのつもりだったから。と言ってもどれくらい参加できるかわからないけど」
「お兄ちゃんも運動不足解消のためにやったら?」
「……考えとくよ」
ゲームと言えばキリト。キリトと言えばゲームと言っても過言じゃないくらいのゲーム好きのはずなのに乗り気じゃないのが気になった。
キリトにも好みのゲームとかあるんだなと適当に納得して、他愛のない会話を続けたのだった。
『オーディナル・スケール、起動!』
高層ビルに映された電子時計が9時になったと同時に、そこかしこから同じ台詞が飛び交う。
そして、世界は姿を変える。
オーグマー越しに見ていた高層ビルの群れは西洋風の建物へと変貌。
仮想世界とは違い、現実世界でここまで出来るのかと舌を巻く。
さらには自分の姿もここで戦うための装備へと変わる。
しばらくの間、すっかり変わった周囲を観察ていると、どこからか「おい、あそこっ!」と聞こえた。
ふとそちらを見やれば、開けた場所に白い円が描かれ炎が噴き上がった。そこから出てきたのは3、4m程の大きさの武士だ。
「カガチ・ザ・サムライロード……!」
隣に立つ明日奈が目を見開いてその名を呟いた。
他にもSAO帰還者であるキリト達も似たような反応をしていた。
彼らの反応を察するにあれはSAOに登場するモンスターと見ていいだろう。
あれが明日奈が戦ってきたモンスター、か。
だからといって俺の戦意が上がるとかはないのだけれど。
始める前から分かりきっていることだが、AIの敵よりも高校時代に鎬を削って戦った邪龍や英雄達の方が断然強い。それが覇気も何も感じないAI相手にやる気が起こるはずもないのだ。
まあ、純粋に楽しめるならそれでいいや。
ボスが現れたことで戦闘開始かと思われたが、ボスがその場から微動だにしない。
どういうことだ?と理由を考える前に誰かがまた何かに気付いて声を上げた。
一機のドローンが光を出し、少女と饅頭のような生物が現れる。現在話題沸騰中のAR型アイドル『ユナ』だ。
「ユナだ!」
「マジかよ!?」
「結婚してくれーっ!!」
「皆ー! 準備はいいかな? それじゃ、戦闘開始! ミュージック、スタート♪」
阿呆なことを言うプレイヤーを無視して戦闘開始の合図を出す。
『―――♪』
ユナの歌をBGMにして、カガチがプレイヤーが密集する場所に動き出す。それに合わせてプレイヤー達も動き始めた。
最初の内はプレイヤーが多いから邪魔にならないように遠慮しておこうということで、明日奈達と遠目に戦闘を見つめる。
「うわあぁっ!」
カガチの刀が一振りで近くに居たプレイヤーを次々と屠る。
遠くから銃撃してくるプレイヤーには左腕にある白い蛇を縦横無尽に伸ばして次々と攻撃していく。
初心者には全く優しくない敵だな……。
プレイヤーがある程度減ったところでクラインさん率いる風林火山チームが動き出す。
「おっしゃあ! ボーナスは俺達が貰うぜ!」
振り下ろされた刀をタンクの一人が受け止め、クラインさんともう一人がすれ違いざまに斬りつける。
ヘイトが二人に向き、追いかけて攻撃するカガチと二人の間にもう一人のタンクが割り込み、大楯で弾く。そこにすかさず残りのメンバーが攻撃を入れて、カガチを壁に激突させた。
「へぇ、上手い連携だね」
「伊達に二年間やってないでしょ?」
白い蛇を横に跳んで躱しながら感想を伝える。
俺もそろそろ行くかというときにキリトが一人でカガチに突っ込んでいく。
現実世界でも英雄の動きが見れるのかと多少の期待を込めていたのだが、キリトは盛大にこけた。しかも転がった先はカガチの目の前だ。
あちゃー、やっぱ仮想世界と現実世界じゃ、動きは変わるよな……。
これには流石のカガチも『え? 大丈夫?』と一瞬動きを止めるもすぐに再起動して刀を振り下ろした。
キリトは慌てて回避して何とかペナルティを受けずに済みそうだ。
「何やってんだ、キリの字……」
仲間が呆れかえる中、キリトはカガチを引き連れて戻って来た。
俺もそろそろ行きますかね。
「ソラ君、行くの?」
軽く体を動かし始めた俺を見て、そう察したのだろう。
「ああ。ノーコンティニューでクリアしてやるぜっ!」
こちらに戻って来たキリトと入れ替わるようにして走り出す。
手に持った剣で走り抜けるようにして一撃。カガチの右足を斬りつけた。
カガチの赤い眼光がこちらへと向き、俺の身体を両断しようと刀が振るわれる。
「ほいっと」
上半身を反らすだけで刀は数cmギリギリを掠めるにとどまった。ダメージはない。
カウンター気味にまた一撃入れてまたギリギリで避ける。
それを何回か繰り返していると、その行動が受けたらしく周囲から称賛の言葉が飛び交う。
称賛の声を受けて、元々そういう気質なのかアイドルという職業に染まって来たのかわからないが、より場を盛り上げてみたくなる。
「歌ってるユナや他のプレイヤーには悪いけど、ここからは俺のステージだ」
連続バク転で後退し、鞭のように放たれた白い蛇を姿勢を低くして走ることで躱す。
ついでに厄介だから切断できるかなと蛇を数回斬ってみたら案外あっさり切れた。やってみるものである。
仮面の奥で赤く輝く瞳が怒りに燃えた(気がする)。
「そら、背中がお留守だぞ」
足元を潜り抜けて背中を逆袈裟斬りした。
良いダメージが入ったらしくカガチが一瞬の硬直を見せた。それをチャンスと捉えた虎男のプレイヤーがロケットランチャーを発射する。
決まれば大きなダメージになるのだが、カガチはギリギリのところで頭を傾け回避した。
「やべ……っ!」
虎男がしまったという顔をする。チャンスを無駄にしたからではなく、カガチが躱したロケットの先には歌っているユナがいたからだ。
誰もが次に起こるであろう出来事に息を吞む中、ユナの前に何者かが飛び出し、ミサイルを弾いた。それどころかカガチに跳ね返しダメージも与えたのだ。
カガチが倒れ伏す状況で着地を決めた人物に注目が集まる。その人物の頭上には2の数字が映されていた。
「すげぇ!」
「ランク、2位……!?」
まるでユナの騎士の如き働きを見せた男性は周りの目を気にせず、悠然と佇む。
2位。つまり廃人ゲーマーってやつか。それにあの動き……。
男性のさっきの動きに思うところがないわけではないが、まだカガチを倒していない。
カガチに目を向ければ、丁度起き上がり二刀流に戦闘パターンを変えていた。
「大技が来るぞ! タンクの奴は付いて来い!」
駆け出した男性に周囲はやっと我に返る。
カガチが二刀を使って十字に放った斬撃をアクロバティックな動きで躱し、腰辺りに一撃入れる。
「おお! やるじゃん!」
「それじゃあ私も!」
男性に触発されてクラインさんや明日奈もカガチに近寄り攻撃を入れていく。
“矮小な人間風情が生意気な”。カガチに話す機能があればきっとそんな風に今の心境を叫んだに違いない。
高速で放たれる斬撃をタンクに防いでもらいながら反撃の機会を窺う。
やがて技発動後の硬直によってカガチの動きが止まり、大きなチャンスが生まれた。そこに先程の男性が素早く三連撃を入れる。
もはや風前の灯火となったカガチが膝を着く。
「明日奈!」
「うん!」
二人同時に駆け出し男性とすれ違う。
―――スイッチ。
こいつ……。
聞こえた彼の呟きに眉をひそめるも、止まることなくカガチへと一直線。
明日奈がカガチの胸にレイピアを突き刺し、俺が跳んでカガチの首を刎ねた。
まるで武士の介錯のような気がしないでもないがそれでお終い。
体力の尽きたカガチは光の粒子となって弾け飛んだ。
完全にカガチの姿が見えなくなり、ファンファーレが鳴り響く。それによってプレイヤーの勝利がわかると勝鬨を上げる者や喜びを称える者で溢れかえった。
「決まったな」
「うん、やったね!」
喜びを分かち合うように二人でハイタッチを交わす。
「ボスモンスター攻略おめでとう! ポイント、サービスしておいたよ!」
ユナのアナウンス通りに多めのポイントが加算され、大幅に順位が上がった。それにより周囲が更に沸く。
「今回一番頑張った人にご褒美を上げるね!」
そう言って彼女はふわりと俺の前に降り立つ。
―――チュ。
「…………は?」
『んなッ!?』
突如、頬に温かくて柔らかい感触がした。それがキスされたのだと気が付いたときには、ユナはすでに離れていた。
勝利して油断していたのもあるが、見聞色の覇気では感知不能なユナに完全に不意を突かれてしまった。
あー、今のはよくない。変装してるからまだスキャンダルにはならないと思うが、余計な注目を集めてしまった。いや、そんなことよりももっと良くないことがある。
「今日のMVPはあなた! おめでとー!」
効果音が鳴ると画面にポイントが更に加算されていた。
だが、上がった順位を確認する間もなく、明日奈が眼が笑っていない笑顔で俺の手を万力の如き握力で握ってきた。
「あ、明日奈さん、今のは……その―――」
明日奈が怒っている理由は見当がついてる。だけど、俺じゃなくてユナのせいだと当の本人に非難の目を向けるも、そこにはすでにユナはいなかった。
まあ、こういうのは男が痛い目を見ると昔から身をもって学習している。古事記にも書いてあるくらいだ。
だけど言わせて欲しい。
「これも全部ユナって奴の仕業なんだ!」
「ねぇ、ソラ君」
「な、なんでございましょう?」
「隣のホテルで今のことについて朝まで語り合おっか♪」
「……はい」
少しでも彼女の怒りが収まるなら、大人しく従うことが正解だ。
彼女に手を引かれるまま本当にホテルに入り、朝まで語り合った(意味深)。
「彼がソラかぁ。今度のライブ、楽しみ!」
名前を出した人物が今どんな目に遭っているか毛ほども知らないARアイドルは、無邪気に笑うのであった。
―――おのれ、ユナァァァアアアアアアッ!!
そんな叫びが夜の都内に響き渡ったとかなんとか。