一日執事です!
買い物に出かけた俺は、商店街に向かった。
「おじさん、醬油下さーい」
「お、空坊! よく来たな! 今日は美人の姉ちゃん達は一緒じゃねぇのか?」
「これくらいは一人で出来ないとね」
「そうかそうか! 空坊は偉いな!」
おじさんは笑いながら俺の頭を大きな手でガシガシと掻き回す。乱暴な手付きだが嫌ではない。
五歳の頃からこんな感じの付き合いで、今でも変わらないのが嬉しいとさえ思う。
「おっと、いけね。醤油だな、五百円だぜ」
俺はお金を渡して醤油を貰った。
「ありがと、おじさん!」
「おう、じゃあ――――あ、ちょっと待ってくれ」
別れを告げて別のお店に行こうとしたら引き止められた。
「ん? どうかしたの?」
「最近、隣街で物騒な事件が起こってるらしいんだ。もしかしたらこの街も危ないかもって警察も言っててよ、それを伝えておきたかったんだ」
物騒な事件……。
「それってどんなのか教えてもらえる?」
「俺も詳しくは知らないんだけどよ、噂では人が消えたり、……その、子供に言うことじゃないんだが……あまりいい見つかり方じゃねぇんだとよ。空坊も気を付けろよ」
「……そっか。お姉ちゃん達にも伝えとく! ありがとね!」
「おうよ! またいつでも来いよ!」
おじさんに手を振って、買い物を続けた。それから買い物を続けたのだが、他のお店でも同じような話を耳にした。
さっきの話、嫌な予感がするな……。
家に帰ると、夕飯の支度をして、皆が揃ってからご飯を食べ始めた。食事の最中に今日聞いたことを皆に伝えた。
「何か最近、隣街が物騒らしいよ。もしかしたらこの街も危ないかもって商店街のおじさん、おばさん達が言ってた」
「なら、出来るだけ一人で動かない方がいいですね。というわけで主、明日は一緒にいましょう」
「あ、明日はアリサと遊ぶ予定があるんだ。だから無理かな」
「……そうですか」
あらら、落ち込んでるよ。今度暇なときに何かできればいいけど。
「それって、アリサとデート?」
やけに真剣な目付きでフェイトが訪ねてきた。
「うーん、家に来いって言われただけだからデートじゃないと思う」
「なら、私達がいても問題ないよね!」
「それはアリサに聞いてね。あ、ドライグ達は留守番しててね。犬が怖がるから」
本音は俺が犬に触りたいだけなんだけどね!
『分かっている』
『ただ、気を付けておけ。先程の話は嫌な予感がする』
ドライグ達も俺と同じ考えだったようだ。未来さんにも伝えておくか。スタンド使いの可能性もあるし。
その後は他愛無い話を続けてご飯を食べ終えた。
アリサと遊ぶ日、朝のテレビ番組で行方不明者や変死体が出たということを伝えていた。
割とこの街付近の出来事らしい。
「益々きな臭くなって来た。気を付けて行ってきて」
「うん、わかってる。行ってきます」
朝ご飯を食べ終えて、アリサの家に向かった。
「遅い! いつまで私を待たせる気よ!」
「えー……これでも約束の10分前に着いてるんですけど」
開口一番にアリサが言ったことは、来るのが遅いだった。
こっちは約束の時間には余裕で間に合っているのに何故か怒られる。
ちなみに現在カーペットの上で正座させられてる。
「うるさいわね! 私が来て欲しいと思った時にいなきゃダメに決まってんでしょ!」
この金髪小娘様はなんという無理難題を言うのであろうか。
無理だと言っても「そんくらい何とかしなさい」と言われそうな気がして言わなかった。
「それで、今日呼んだのは?」
「! そうだったわ、危うく説教で時間が潰れるとこだったじゃない! もし、潰れたらあんたの所為だからね!」
無理難題に続いて、理不尽なことを言われた。
でも、本人は本気でそう思ってるわけではない(と思いたい)のでそこまで気にすることもない。
というか学校でも散々あったから今更のことだ。
「アリサちゃん、その辺にしといたら?」
「それもそうね……ってなんであんた達がいんのよ!?」
『暇だったから』
今、暇と答えたのはなのは、フェイト、アリシア、はやて、明日奈、愛衣、あかり、ヴァーリ、すずかのいつもの仲良しメンバーだ。雄人は嘱託魔導師の仕事で、ユーノも無限書庫の整理をしていて残念ながら来ていない。
「……まあ、いいわ。鮫島」
「はい、アリサお嬢様」
アリサが名前を呼ぶと、鮫島さんが音もなくいきなり現れた。
「空……とついでにヴァーリの二人にアレを着せて指導しなさい」
「かしこまりました。それではお二人共私に付いて来て下さい」
『???』
俺達の頭には疑問符が浮かびまくりだが、鮫島さんに付いて行った。
「お二人にはこれを着てもらいます。アリサお嬢様の我が儘ですが、どうか聞いていただきたいのです……」
「大丈夫です。いつもの事なんで」
「俺も時々巻き込まれるからな。気にしてない」
「ありがとうございます。お嬢様は良いご友人を持たれました……っといけない。早速着ていただいて、サイズが合わなければ別のものをご用意しますので申し付けてください」
そう言って手渡されたのは黒い服だった。
どんな服かは着てから確認すればいいかと思い、着てみた。
『これは……執事服?』
鮫島さんが着ている服をそのまま子供サイズにしたものだった。
「その通りでございます。サイズは問題ないようですね。次は執事の“イロハ”を学んでいただきます。一時間で」
『え゛っ』
そんな短い時間で覚えられるのかと思ったが、鮫島さんに一時間という短い時間で執事のイロハを叩き込まれた。超スパルタで。
「お二人共かなり筋がよろしいですね。きっといい執事になれます」
「そ、それは……どうも」
「こ、こんな機会……中々ないな」
一気に頭に詰め込んだので二人共肉体的にも精神的にも疲れがすごい。
「さ、休憩は終わりです。今度はお嬢様達で実践です」
『え゛っ』
鮫島さんに意見する間もなく、再びアリサ達が待つ部屋に連れていかれた。
「扉を開けて入るところから執事としての振る舞いをしてください。いいですね?」
『はい!』
「良い返事です。お嬢様、鮫島です。新人執事二人をお連れしました」
『そう。入っていいわよ』
「ここからはお二人の出番です。緊張せずに頑張ってください」
背中を押され、ヴァーリと揃って「失礼します」と言ってから入った。
鮫島さんは後ろから見ているだけのようだ。
『……………………』
中にいる皆と目が合ったが誰も言葉を発さない。
「……どうかなさいましたか、お嬢様方」
「え、あ、いや、その……お、思ってたよりも似合ってるじゃない」
『お褒めに頂きありがとうございます』
二人で一礼して感謝の言葉を述べた。
「紅茶をお入れいたします」
俺達がティーセットを運んでいき、一人ずつに紅茶を入れた。その最中も皆は静かに待っていた。
「談笑をされなくていいのですか?」
「い、今からしようと思ってたのよ!」
「ねぇねぇ! 今の空とヴァーリは執事なんだよね?」
「そうです。今日という日限定ではありますが精一杯務めさせていただきます。私共にして欲しいことがあれば何なりとお申し付けください、アリシアお嬢様」
『な、何でも……お、お嬢様……』
「じゃあね、じゃあね! ケーキをあ~んして!」
『!?』
「かしこまりした。はい、あ~ん」
ケーキを一口サイズに切り分けて、アリシアの口に運ぶ。
「あ~ん! う~ん、美味しい!」
両手で頬を抑えて満足そうに食べていた。
「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ!」
「鮫島さんに、出来るだけの要望に応えろと言われておりますので」
「むむむッ!」
「それにあちらをご覧下さい」
「なによ……ってあかり!?」
手で示した方にアリサが顔を向けると衝撃を受けた顔をしていた。
「そ、その……あ~ん……」
「あ、あ~ん」
本来ならヴァーリがするはずのことをあかりが代わりにしていた。
「もちろん、無理に命令する必要はどこにもございません」
「は、はい! 私にもあ~んして欲しいの!」
「わ、私も!」
「私にもお願いや!」
「私にもして欲しいな……」
「私にも当然してくれるよね?」
「かしこまりました」
「私には口移しでお願いするわ」
「かしこま―――――はい?」
「口移しよ」
愛衣は澄まし顔で同じことをリピートした。
「……それは流石に……」
こいつ、平然と何言ってんだよ! 出来んわ!
「あら、さっきは何でもしてくれるって言ってなかった? 噓だったのかしら?」
「限度というものがございますので。それにはしたないかと存じ上げます」
「あ~んも十分はしたないと思うんだけど違うの?」
……それは言えてる。
「そ、それは……何と言いますか……」
「何? 言いたいことははっきりと言いなさい」
「愛衣、その辺にしておきなさい」
おお! アリサが止めに入ってくれた! 感動で涙が出そう!
「……わかったわ。私にもあ~んを頼むわ」
「かしこまりました。アリサお嬢様、助けていただいてありがとうございます」
「べ、別にあんたの為じゃないわよ……。愛衣のおふざけが過ぎたから止めただけだから! 勘違いしないでよね!」
ツンデレですね。あれ? 俺にデレてるわけじゃないからツンツン? ……ツンツンって何?
「分かっております」
とりあえず、一人一人にあ~んをして命令は一通り終わった。
ヴァーリもいるのになぜ俺があかり以外やらされたんだ?
それからも俺とヴァーリは色々なこと(ほとんど無茶ぶり)を命令された。手品をやれと言われれば、どこからともなく花束を出したり、歌えと言われれば、ヴァーリとデュエットをし、アリサが呼び寄せた恭也さんやシグナムさんと素手で戦わせられたり、ケーキを作れと言われて作ったり、etc……。
「あ、あんた達どんな無茶ぶりにでも応えるわね……」
「す、すごかったの……」
むしろ命令した側が疲れていた。
『執事たるものこの程度のことが出来なくてどうします』
『(カ、カッコイイ……)』
皆の無茶ぶりに付き合わされている内に、時間は夕方となった。
その日は解散となったのだが、今朝のニュースでここも危ないかもしれないので、俺達を送ってくれるらしい。
「あ、空はもうちょっとだけ執事ね」
着替えて、帰りの仕度をしようとしたらアリサがそう言ってきた。
「え、俺だけ帰してくれないの?」
「ええ。元々、今日一日執事でいてもらう予定だったから」
「もう少しだけお嬢様にお付き合いしていただけないでしょうか?」
「……わかりました」
この後の予定を聞くと、アリサは習い事があるらしくそれに付いて行くことになった。
アリサの習い事はピアノだった。
その時に暇そうにしていた俺をみかねて、アリサが俺にピアノを触らせてくれた。
夢中になって弾いていたらアリサに驚かれた。
「前々から思ってたけど、あんたってホントに万能よね……。勉強や運動できるし、私が結構練習してた曲すぐに弾けるし、執事の仕事はすぐ覚えちゃうし……。(その上優しいからモテまくりでファンクラブも出来てるらしいし……)」
「執事ですから」
「今執事関係ないでしょ! さ、今日の習い事はもう終わりだから帰るわよ」
「かしこまりました」
車に乗り込み、バニングス家へと向かう。その後で鮫島さんが俺を家まで送ってくれるそうだ。
「今日は……ありがと」
そっぽを向きながらお礼を言ってきた。
「……いえいえ、中々いい経験が出来ました」
「それなら呼んだ甲斐があったわ。あんたが暇なら……また執事をやらせてあげなくもないわ……」
「はい、その時はまたお願いします」
「フ、フン……よろしくして―――――――ッ!?」
アリサが何かを言い掛けた時、車が急停止した。
「鮫島! 危ないじゃない!」
「も、申し訳ありません! と、突然人が現れたものですから……」
突然現れた? 何か怪しいな……。
「俺が見てきます。二人は中にいて下さい」
気になって車を出てみると、そこには倒れた老人が一人いた。近くには倒れた所為か老人の杖と思わしきものがあった。
このおじいさんが出て来たのか。普通に考えたら突然老人が出て来るなんてのはありえない……。
ん? このおじいさん、確か……。
「おじいさん、大丈夫ですか? どこかお怪我はございませんか?〈アリサ、未来さんに連絡して。多分、敵〉」
「〈! 分かったわ〉」
「だ、大丈夫なわけあるか! おかげで腰が痛くなってしまったわい! アイタタタ……」
「申し訳ありません。お詫びに今から治しますね」
「お? おお! よくわからんが段々痛みが引いて行く!?」
「これでもう大丈夫なはずです。本当にご迷惑をおかけしました」
「いや、もう気にしてはおらんよ。お前さんのおかげで助かったわい。最近の若者は年寄りには冷たいと思っていたが、そうでない者もまだいるもんだな」
怪我が治って元気そうにしていた。
「……つかぬことをお聞きしますが、突然飛び出してきたのはどうしてですか?」
「わしが通ろうとしたら車が出て来たんじゃよ。それ以外に何があるというんじゃ?」
「そうですね。……しかし、おかしくありませんか?」
「な、何がじゃ?」
「あなたが杖を持っているということはそこまで早く動けるはずがないんですよ。走るか乗り物にでも乗ってない限りは走ってる車の前に突然出るなんてありえません。というか安全運転をする鮫島さんがそんなミスするはずありませんから」
「なッ!? わしを疑うというのか!?」
「ええ、そうです。この際だからはっきり言いましょう。あなたは
「な、何故わしの名前を!?」
名前を言い当てると、酷く驚いた表情をしていた。
俺が知っている理由はもちろん〈
「執事ですから」
「執事関係なくない?」
俺にツッコんできたのは、先程アリサに頼んで呼んでもらった未来さんだった。
こんなにも早く来れたのは、近くにいたか、スタンドを使ってきたのだろう。
「まあ、今は良いや。それよりもアイツの能力は知ってるのかい?」
「調べた限りでは、ゲートを開いて別の場所に移動できる能力―――『ディメンション・ウォーカー』っていいます。最近の事件もこのおじいさんが起こしていたそうですよ」
宮田はその能力を使って、色んな人をどこかに飛ばしたのだろう。
変死体に関してはまた別の犯人だった。そっちの方も出来るだけ早めに片付けたい。
「……なるほどね。どうやって調べてるか知りたいよ。『
イフの能力は「自分が受けた攻撃に対して相手方の能力を身に付け反撃する」。
しかも厄介なのがより強化されるところだ。
強化された能力使って体が持つかは知らないけど、未来さんを見る限りその辺はどうにかなっているのかな?
「教えません。……あんまし良い能力でもないですし」
調べるだけ見たくない部分が出てくる。人間誰しも負の感情はあるから仕方のないことではあるのだが、見続けると危うく人間不信になりそうだ。
「そうかい。まあ、いいんだけどね。『イフ』!」
特に気にした様でもなく、イフを出してミサイルを撃った。
「小娘! お前もわしと同じスタンド使いか! ゲートよ開け!」
手を前に翳すと空間に穴が開き、イフが放ったミサイルが吸い込まれてしまった。
「これが奴の能力か。(時を止めて片付けたいけど、空君がいると使えないんだよね)」
ふむ、未来さんは時を止めて片付けたいんだろうな、きっと。ごめんなさい。
「あ、アイツ、どっかからさっき吸い込んだミサイル撃ってくるんで」
「なんとなく予想していたよ。でも、そうなると近づけないな……」
「なら、俺がサポートするんで、突っ込んで下さい。アバターよろしく」
『任された』
「へ? ちょ、タンマ! 心の準備が―――――!」
『んなの知らん! ほらよッ!』
アバターが未来さんの首根っこを掴んで、野球選手の投球フォームを真似て投げた。
「うわぁぁぁああああああああッ!」
投げられた未来さんが宮田に向かって一直線に進んで行く。
「自分の攻撃をくらえ! ゲートよ再び開け!」
宮田が再び手を翳すと未来さんの正面に穴が開き、先程撃ったミサイルが出て来た。
「アバター!」
『オラよッ!』
すかさず未来さんの前に入り、ミサイルをアバターに消してもらう。
「何!? ミサイルが消えただと!?」
「驚いている暇は無いよ! イフ!」
『了解シタ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……オラッ!』
イフが体から太い腕を二本生やすと驚いている宮田にラッシュを叩き込んだ。
「グアアアアアアアアアッ!?」
宮田は数m吹き飛び、動かなくなった。完全に意識がなくなったようだ。
「終わったの?」
車から出て来たアリサが確認してきた。
「うん……はい、気絶しました」
いけないいけない。まだ、執事の仕事は終わってないんだから敬語は使わないと。
「そう。なら、とっとと帰るわよ。早く車に乗んなさい」
「かしこまりました。未来さんはどうしますか?」
「僕はこいつから情報を奪ってから記憶を消すよ。先に帰って構わないよ」
「わかりました。お先に失礼します」
宮田のことは未来さんに任せ、俺はアリサにドヤされる前に車に乗り込み、バニングス家に向かった。
「すまないね、娘の我が儘に付き合ってもらってしまって」
バニングス家に着くとアリサの両親が出迎えてくれた。桃子さんやプレシアさんのように若々しい人だ。
「いえ、貴重な体験をさせていただきました。お礼を言うのはこちらですよ」
「ハハハ! 君は実に素晴らしい少年だよ!」
「本当にいい友達を持ちましたね、アリサ」
アリサの父親と母親が嬉しそうに微笑んでいた。
「ま、まあね……」
アリサはそれが恥ずかしくてそっぽを向いていた。
「やはり私の眼に狂いはなかった! お前もそう思うだろう?」
「ええ、そうですね。彼が相応しいかと」
? 何の話だろう?
アリサの方を見ても心当たりがないと首を横に振った。
「パパ、何の話?」
「ん? ああ、そう言えば二人にはまだ言っていなかったな」
「それなら今言ってしまいましょうか」
「それがいいな!」
『? ? ?』
俺とアリサは二人だけで勝手に盛り上がっているので会話の内容が全く分からない。
「あの……そろそろ教えていただけないでしょうか?」
「おお、すまない。実はね、アリサの婚約の話なんだがそれを――――――――」
「待ってよ! いきなり婚約だとか言われても、私はまだ小学生よ!? 変な奴と結婚なんて絶対に嫌だからね!」
父親からの婚約話にアリサは怒りだした。お嬢様であるアリサならそう言った話は珍しくもない。明日奈も以前にそう言った話をしていた。
小学生のうちから婚約話を聞かされるのはどんな気分なのかな? 一応俺はシアやネリネ、リコリスの婚約者候補になってるけど、あくまで候補だから重く考えなくて済むから全く違うんだろうな……。
「アリサ、最後まで話は聞きなさい」
「で、でも!」
「いいから聞きなさい」
「……はい、ママ」
母親に窘められてアリサは最後まで話を聞かなくてはならなくなった。
「……ゴホン……それでだな、婚約の話なんだが彼にしようと思うんだ」
「え……パパ、それってまさか……」
アリサは父親の言いたいことが分かったのか確認していた。
「ああ、そうだとも。彼なら文句はないだろう?」
「ま、まあ……私は……」
アリサは途端に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
俺はさっぱり分からないんだけど……とりあえず婚約の話は終わったよね? 俺に視線が集まってるのは早く帰れってことだよね?
「えーっと、話は終わったようなので自分は帰ってもいいでしょうか?」
「そうだな。鮫島……いや、空君。今日は家で晩御飯はどうだい? 今日のお礼を兼ねて」
「そ、そんなことしていただかなくてもいいですよ。送っていただくだけでも十分ですし」
あれ? 帰れってことじゃないの?
「そう固いこと言わずに。今日は目出度い日でもあるんだからいいじゃないか」
バニングス家にとって目出度くても俺からすれば何でもないんですけど!
「家族が心配するのでこれ以上はちょっと……」
「それなら先程連絡したわ。ご家族は構わないだそうよ」
アリサ母いつのまに!?
「ですが……」
「あ、あんたは私といるのが嫌なの!?」
「へ? 別にそんなことないけど……」
あ、敬語忘れた。でも、もう終わったっぽいし、いいか。
「じゃあいいじゃない! 家でご飯食べていきなさいよ!」
「むぅ……わかった。今日はアリサの家で晩飯をいただくよ。〈今日はご飯、アリサの家で食べます〉」
アリサ母連絡がしたけど、一応俺の方からも念話で龍神家にいる皆に伝えた。
「ふ、フン! 最初から素直にそう言えばいいのよ!」
それブーメランだからね? それに俺は困ってただけなんだけど。
俺はバニングス家で夕飯をいただき、今度こそ帰ろうとした。
「それでは今日は――――――」
「まあ、待て待て。もう少しくらい良いじゃないか」
アリサ父の顔が若干赤いから酔ってると思うな。
「こ、これ以上は……」
「あ、いっそのこと今日は泊まってしまいなさい。時間もだいぶ遅くなってしまいましたし丁度いいわ。アリサもそう思うでしょ?」
部屋にある時計を見てみれば九時を回っていた。
「そ、そうね。今日は泊まっていくのがいいんじゃないかしら。夏休みだしそのくらい構わないでしょ? それに今まで何回も泊まったことあるんだから今更遠慮なんてすんじゃないわよ!」
泊まったのは俺一人じゃなくて皆がいるときだけなんだけどね。うわー、周りの視線が痛い。
「はぁ……わかりました。今日は泊まりますね」
誰にも聞こえないように小さく溜め息を吐いてから了承した。
「そうかそうか! それは良かった! もし断られていたらどうしようかと思っていたよ!」
それって俺を殺すってことですか!? こ、断んなくてよかった……。
風呂に入って借りた寝間着に着替えてから気が付いた。
「俺ってどこで寝ればいいんですか?」
「む? それならアリサの部屋だ」
「……はい?」
「今日は客間がとある事情で使えなくてなー、いやー非常に申し訳ないー」
全部棒読みで言われても説得力皆無ですからね!
「ほ、ほら、行くわよ!」
アリサに手を引かれてアリサの部屋に連れ込まれた。
力強くね!? って魔力強化した上にスタンド出してんのかよ!
抵抗する暇もなくアリサの部屋へと入れられ、ベッド上に放り投げられた。未来さんにやったことが別の人から自分に返ってくるとは思いもしなかった。
「って一緒に寝るの?」
「ッ! そ、そそそそうよ! 何か問題でもあるの!?」
「え、無いけど」
「じゃあ、黙って寝なさい!」
「は、はーい」
二人でベッドに横になった。
「……何か話なさいよ」
「さっきは黙って寝ろって言ってなかった?」
「ウグッ……うるさいッ」
俺は苦笑いして軽くアリサと話すことにした。夏休みの予定だったり、勉強の事だったりと色々だ。親バカな両親のことも聞かされた。
「……スゥ……スゥ……」
気が付けばアリサは可愛らしい寝息を立てて眠っていた。ふと、手が温かいと思ったらアリサが俺の手を握っていた。それを見て思わず笑みが零れた。
俺も寝ますかね。
眼を静かに閉じて体を休めることにした。
翌日。家に帰ると、早朝だったため誰も起きていなかった。
「そんじゃご飯作り始め―――――え?」
キッチンに入ったところで誰かに肩を掴まれた。振り返ってみると十香が俺の肩を掴んでいた。後ろには皆もいた。
「あ、おはよう。皆早起きだね。今からご飯いいいいいいいいいい痛いッ! 何すんの!?」
肩が潰れそうなんだけど! メキメキって音出してるんだけど!
「昨日、アリサの母親から電話があったのだ」
「そ、それが何?」
「
「へ?」
何それ? あれ、昨日のって……まさか、そういうことなの!?
「一緒に寝たのは?」
「え、ああ、うん。って何で知ってんの!?」
「ほう、そうか。寝たのか。なら―――――」
「ちょ、待って!」
「問答無用だ! 反省しろォォォオオオオオッ!」
「ギャアァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
いつの間にか街の名物になった俺の叫び声が街に木霊した。