「力」のマテリアルは襲撃者です!
Sideアリサ
――――――ムカつく。
そいつを最初に見て思ったことはそれだった。
理由は簡単だ。そいつが私の好きな人の偽物だったからだ。たったそれだけの理由で? と思う人もいるかもしれないが私には、私達にはそれだけで十分だった。
「……自分の偽物を見た時よりも空の偽物が一番嫌ね」
燃え盛る刀―――
「そうだね。他の人達のも見たけど空君のは何だか違うって思っちゃうんだよね」
「一々本人に確認を取らなくてもいいくらいになぜかハッキリするぐらいだから」
明日奈もすずかも私と同じで不機嫌そうだ。
「さ、今回もさっさと片付けましょ」
二人と一緒に闇の残滓と呼ばれる元凶を見つけるために移動を開始する。
Sideout
Side空
シエラと合流する場所に向かっている途中でフェイト(?)に出会う。
この娘も偽物かな? しかも、色違いだからさっきのなのは似の娘こと同じマテリアル……だと思う。
髪型がフェイトにそっくりな少女は髪は水色、デバイスの先から出る魔力光も水色だった。瞳の色は赤く、ややツリ目がちな少女。
「ねぇ、君もマテリアル?」
「ああ、そうだよ。僕は「力」のマテリアル、雷刃の襲撃者。……そういう君は闇の書の闇を倒した魔導師……いや、炎の精霊」
話し掛けただけなのにいきなり殺気をぶつけられる。言葉を続ける度にその濃さは増していくばかりだ。
……龍精霊化したあの時の事覚えてるんだ。
「……何故だろう。君の存在は、著しく不愉快だ。君を見ていると苛立ちが募る」
俺、何か恨みを買うようなことした…………ね。闇の書の闇――――ナハトヴァールを消したんだからそりゃ恨んでるか。
「上手くは言えないが、今の自分が自分でない感覚がある」
「そっか」
自分が自分でない感覚、か。何となく親近感が湧くなぁ。
「そして、僕の魂がこう叫んぶ! 君を殺して我が糧とすれば、この不快も消えるはず、と!」
「悪いけど、俺は簡単には殺されるわけにはいかないよ」
「そうはいかない。僕は帰るんだ。あの温かな闇の中に……! 血と災いが渦巻く、永遠の夜に。さあ! 我が剣の前に……君は死ね! 僕は飛ぶッ!」
温かい闇、永遠の夜ってどんな感じなのかね? 少なくとも碌でもないモノなんだろうけど、ちょっと気になる。
「いいよ。―――君の持てる力の全部を使って掛かって来なよ。君の全てを壊して、俺が勝つ!」
睨み合うこと数秒。
「光翼斬!」
先に仕掛けたのは相手だった。フェイトやアリシアのよく使う魔法、ハーケンセイバーに似た魔法を使ってきた。
青い魔力刃が回転しながら俺に向かってくる。
あの技の弱点は……横からの攻撃に弱い!
ギリギリまで刃を惹きつけて躱し、魔力と武装色の覇気を纏った蹴りで粉々にする。
「殺すとか言ってた割にこんなもん?」
「クソッ!」
馬鹿にすると悔しそうに歯ぎしりをするのが窺えた。
そこから、ムキになった彼女はガムシャラにデバイスを振り回したり、魔法を発動するが、見聞色の覇気でそれらすべてを躱し続ける。
「何で当たんないんだよ! このッ! このッ!」
数十分俺が躱し続けると攻撃が当たらない事に苛立ち、癇癪を起こしだした。
その隙を突いて俺は魔力弾を撃ち込むが寸でのところで避けられた。
「僕の速さなら君の鈍間な攻撃位躱せるんだよ!」
意趣返しのつもりか、俺を馬鹿にしたようにハンッ! と鼻で笑う。
「じゃあ、君が捉えきれない速さを見せてあげる。九喇嘛」
『おう!』
両手を合わせて魔力を練り上げる。体いっぱいに魔力が伝わると、体中から橙色の魔力が溢れて魔力で出来たコート状の上着ができ、黒い勾玉やラインが入る。
「変身!?」
足元に防御魔法を出し、思いっきり踏み込んで接近。少女とすれ違いざまに一閃。
「ッ!?」
少女は目を大きく見開いて言葉が出ないほど驚いていたようだ。
「もっと行くよ!」
同じように足元の防御魔法を強く蹴り一閃。更に空中で体に向きを無理やり変え、再び足元に作った防御魔法を蹴って少女に肉薄し攻撃をする。それを幾度となく繰り返す。
「舐めるなァ!」
攻撃されっぱなしで手も足も出ないかと思いきや、デバイスを水平に振り回して円状の魔力の刃を飛ばす。
どこから攻撃が来るか分からないから全体にやって防いできたか!
「影分身の術!」
一旦、距離を取ってから印を結び影分身を四体出す。
「増えた……!?」
『行くぞ!』
分身が一斉に詰め寄る。俺はその間に技の準備をする。
「は、はや―――ガッ!」
一人目の分身が脇腹を蹴る。
「こ、これくらいなら……ッ!」
彼女が耐性を立て直したところで二人目が正面に入り、上に蹴り上げる。
更に三人目が先回りし、上から魔力で作った巨大な拳を叩き付ける。
「ガハッ!」
彼女が地面にぶつかると、俺はすかさず止めに入る。彼女の上空に立ち、大きめの魔力の球体を完成させる。
それがヤバいと本能的に感じたのか、彼女はすぐにそこから逃げ出そうとする。――――が、彼女の足元から出てきた魔力の手が彼女をガシッとつかんで離さない。
「は、離せ!」
四人目が抑えてる間に俺は急降下して手に持った魔力球をぶつける。
「大玉螺旋丸ッ!」
通常の螺旋丸よりも大きいサイズで乱回転する球体が彼女に触れた瞬間、一気に膨張し、周囲を削る風を呼び起こす。
「―――――ッ!!!」
彼女が叫んでいるのだろうが、その声は吹き荒れる風によってかき消される。
風が止んだ時には、ズタボロになった少女が抉れた地面の上に仰向けになって倒れていた。
「……ちょっとやり過ぎた?」
『やり過ぎだな』
九喇嘛にハッキリと言われ軽くへこみながら少女のもとに寄る。
「えーっと、大丈夫……なわけないよね」
「当たり前だ……」
「アハハ……ごめん」
いくら敵であってもフェイトに似た子を痛めつけるのって辛いなぁ……。
「あーあ、僕の負けか……。悔しいなぁ……。でも、なんだろう? 気分は悪くない……かも」
少女が話し出すと体が徐々に光と化す。この娘もなのは似の娘と同じように消えるのだ。
「悔しいと思ったならきっとまだ強くなれるさ」
「ホントに?」
「ああ、きっと。今よりも速く、強くなれる」
「……そっか。その時はまた僕の相手してくれる?」
「うん、喜んで!」
「それならよかった。……安心して逝ける」
「逝く、だなんて大袈裟だよ。君はちょっと眠るだけだから」
「そうだ、そうだった。ちょっと眠るだけだ」
「だから…………あ、君も名前ないんだよね?」
「それがどうかしたの?」
「さっき君と同じような娘に言ったんだけどさ、次会う時までに自分の名前考えてきてって宿題出したんだ」
「名前、か……。分かった。考えてみる。そして、君が追い付けないくらいの速さを身につけて勝ってやる!」
最期に精一杯の力強い笑顔を作ってから彼女は完全に消えた。
「さて、シエラの所に行かないと」
上昇してシエラとの合流地点に向かう。
数分ほどしてシエラに指定された目的地に着いた。
「えーっと、シエ――――」
「主!」
周りを見回していると、後ろからシエラがやって来た。
「ご無事で何よりです、主!」
「そっちこそケガは無い?」
「はい!」
シエラは嬉しそうに頷いた。
「ちょっと、私をのけ者にしないでくれない?」
「あれ? ティアマット? 何でここにいんの?」
声のした方に振り向けば意外な人物がいた。蒼くて長いストレートの髪の麗人、人間形態のティアマットが来ていた。
「今日、空の家に行ったらあなたと入れ違いになったのよ。そして運悪くこの出来事に巻き込まれたわけ」
ここまで来れたのはシエラのあとを付いて来たからか。
「それは災難だね……。でも、ティアマットがいれば百人力だよ!」
「フフフ、ありがと。あなたの使い魔として、五大龍王として存分にやらせてもらうわ。……ああ、それから一々ティアマットって長いからティアでいいわ」
「わかったよ、ティア」
「むーッ!」
俺がティアマットもといティアと話していると、シエラが面白くなさそうに頬を膨らませて俺達を見ていた。
「どうかした、シエラ?」
「主、そこの女は誰ですか!?」
「誰って……使い魔のティアマット。あ、そう言えば、二人はまだ会ったことなかったね」
二人は揃って頷いたので、互いのことを紹介した。
「じゃあ、早く終わらせようか。と言ってもティアがいるからそんなに苦でもないはずだから」
「あら、そこまで期待されてるなんてね。嬉しいわ」
「わ、私だって主のために頑張ります!」
《嫉妬乙》
「なッ!? この駄バイス! ふざけたことを抜かすな!」
「プ……フフフッ。こういうの楽しくていいわ。長生きしてきたけど今までに無かったことだもの」
ブレイブが唐突に毒を吐き、シエラが顔を真っ赤にしてブレイブに怒鳴り散らす。それを見ていたティアが軽く噴き出す。
女(?)三人(?)寄れば姦しいとはこういうことなんだろうね。なのは達や十香達でかなりの頻度で見てるけど未だに慣れない……。……ティアはドラゴンで雌。シエラは防衛プログラムで女性。ブレイブはデバイスで声からして女性のAI。性別が女でも人間が一人もいない……だと……!? しかも俺も人間じゃない!
改めて自分と一緒にいるメンバーを見て驚愕する。
《私はマスターのデバイスですが何か? 未だユニゾンされてないシエラさん》
「グッ……」
どこか棘のあるブレイブの言い方にシエラは言葉を詰まらせる。
「まあまあ、いいじゃない。デバイス? とかいうのは私にはまだよくわかんないけどあなたも空の家族みたいなものなんでしょう?」
「そ、そうだ! 私はどこかの駄バイスと違ってあんなことやこんなことが出来るからな!」
あんなことやこんなこと?
《あんなことやこんなこと? 具体的にはどのようなことで?》
「そ、それはあれだ! その……ごにょごにょ……」
頬を赤らめさせながら小さい声で何かを呟いていたがよく聞こえなかった。
《なるほどなるほど。ショタコンとか生きてて恥ずかしくないんですか?》
シエラの小声はブレイブには聞こえたらしく更なる毒を吐いた。
「グハァッ!」
「ブレイブ、もう止めてあげて。シエラのライフはもうゼロだから」
それからシエラはショタコンではないと思うな。
《……分かりました》
「フフフ、やっぱり空の使い魔になって正解だったわ。こんな日々が毎日あるなら退屈しなさそうだもの」
「そう? それならよかった。じゃあ、おしゃべりはこの辺にして――――」
『空君、聞こえる!?』
「エイミィさん、聞こえてます」
モニター越しでもエイミィさんの焦りが伝わる。
『空君の近くに巨大な魔力反応が出現したみたい! 急いで向かって対処をお願い!』
「了解です」
通信を切ると、今度はリインフォースさんからの通信が来た。
『今回の事件だが、闇の欠片の中枢を叩かねば無限に増え続けることは知っているな?』
「はい、そう聞いてます」
『恐らくだが、その中枢は私か空の側にいるシエラの姿になっているはずだ』
「分かりました。そいつを倒せばいいんですね?」
『……すまないが頼む』
「任せて下さい」
巨大な魔力反応がした方に向かい、欠片の中枢を探す。
「いたわ。あそこにいるのがそうじゃないかしら?」
真っ先に見つけたティアの指さす方を見る。そこには銀色の髪を靡かせた女性がいた。
「情報と一致します。あそこにいるので間違いないかと」
シエラからの確認も取れたので、その人が中枢だと判断する。
「おーい! リインフォースさーん!」
「……リインフォースとは誰だ? 私は闇の書の管制人格だ」
大声で呼び掛けるも返って来た反応は素っ気無いモノだった。
あれは初めて会った時と同じ雰囲気だね。
「……お前は何をしに来た? ここにいれば時期に私は暴走する。早くどこかへ消えろ」
「ごめんなさい。それは出来ません。あなたを止めないといけないんです」
「……私を止める? それは無理だ。今まで誰も止められなかった。それをお前のような子供に出来るはずがない」
うわー、あの時と全く同じじゃん。全てを諦めた眼。疲れて摩耗しきった心。今考えてみてもあの人がどれだけ辛い思いをしてきたのかは、俺には全く分からない。
「……私達完全に無視されてるわね。ちょっとムカついたわ」
ティアが手に蒼い炎を出し、リインフォースさんの偽物に対して容赦なく放つ。
「……盾」
ティアの攻撃は簡単に防がれるもののティアも注意を引くだけで手を抜いたのか、特に気にして無いようだった。
「ごめんなさいね。あなたがあまりにも空に夢中だったからつい攻撃しちゃった」
「……どうやら何を言っても無駄なようだな。逃げるなら今の内だぞ」
「逃げる必要なんてないわ。あなた如き私一人で十分だもの。むしろあなたが逃げなくて大丈夫?」
マジかー、流石龍王だわー。
ティアがものすごくカッコよく見える。
「……戯言をほざくな。そこをどけ!」
リインフォースさんの偽物が大量のブラッディダガーを展開し、俺達に向かって放つ。
ティアがドラゴンの翼を生やしてそれらすべてを大きな翼で叩き落とす。
「ふーん、やっぱり大したことないわね」
傷一つない翼を見てティアが不敵に笑う。
今度はこちらの番だと言わんばかりにティアは腕だけを龍化させ、蒼い巨腕で殴る。
「……盾! ―――――――――何!?」
ティアのパワーはリインフォースさんの出したシールドを粉々にし、そのまま殴り飛ばした。
「グアアアッ!」
吹き飛ばされたリインフォースさんは叫びながらビルの中に突っ込んだ。
そして、止めとばかりに特大の蒼い炎をリインフォースさんが吹き飛んだ方向に向けて放つ。炎が着弾すると大爆発を起こし、偽物が突っ込んだビルは跡形もなく瓦礫と化していた。
「龍王ヤバいな」
『龍王最強と言われるだけの実力だ』
中にいるドライグ達はティアの実力を知っているから、驚きは無かった。
「あれ? じゃあ俺と初めて戦った時は手加減してた?」
今の圧倒的な戦いを見るとそう思えてくる。
「……正直に言うと、最初は人間の子供と思って舐めてたわ。でも、最後の一撃は本気だったのよ? それにあなたの実力を認めたから使い魔になったわけなのだから」
俺に申し訳なさそうにしながら答えてくれた。
「そっか。だったら今度は最初から本気でお願いね」
「ええ、そのつもりよ」
実のことを言うと、ティアが使い魔になってから一度も戦ってない。理由はティアがレーティングゲームの運営で忙しいのと、俺が最近まで夜天の書の魔力集めで忙しかったからだ。
「ブレイブ、リインフォースさんの反応はまだある?」
ティアとの会話を切り上げ、リインフォースさんについてブレイブに尋ねる。
《消えかかっていますが何とか反応はあります》
「わかった」
瓦礫の山をどかしてリインフォースさんを見つけ出す。
「こんにちは、リインフォースさん」
消えそうになっているリインフォースさんを抱き起して俺の膝の上に頭を乗せる。いわゆる膝枕の状態だ。そのままの体勢でリインフォースさんに話しかける。
「……まさか本当に止められるとはな」
「ティアは強いですから。……悪い夢は、長い長い闇の夜は終わったんです。リインフォースさんはもう一人じゃないんですよ」
「……そう、なのか?」
「はい。今のリインフォースさんは、はやてっていう優しい主やはやてのお姉ちゃんのあかり、それに守護騎士の皆と仲良く過ごしてるんです。だから、もう何も心配しなくていいですよ。安心して下さい」
「……そう、か。私は……もう……」
「眠って起きたらきっとわかりますから。それに…………」
これ言うの恥ずかしいな……。あの時はムキになって言っちゃっただけなんだよね……。
「それに?」
「あ、あぅ…………そ、その……幸せにするって約束しましたから」
「…………そうか。君が幸せにしてくれるのか…………嬉しいよ」
それは小さな微笑だったが、とても綺麗だと思った。数秒ほど見惚れていたらリインフォースさんが口を開いた。
「……どうやら時間のようだ。君との時間は五分にも満たないが有意義に感じたよ」
「大した事じゃないのに大袈裟ですよ……。……でもまあ、お休み、リインフォース」
消える直前に体を抱き起し、リインフォースさんのおでこに軽くキスをした。
―――――ッ!?
光の粒子になって消えたリインフォースさんを見送った後で背筋に寒気を感じた。
後ろに振り返れば、
「大きな爆発音がして来てみれば――――――」
「リインフォースのおでこにキスとか―――――」
「何してんのよ!」
「ちょっとばかし―――――」
『O☆HA☆NA☆SIしよっか♪』
それはそれは綺麗な笑顔の
「ティア……」
「助けないわ」
満面の笑み断られる。
まさかの使い魔に二度も捨てられるとは……うん、何となくこうなるって分かってたけどね!
「ふぅ……。……正直に言って反省も後悔もしてます本当に調子乗ってましたのでどうかO☆HA☆NA☆SIだけは勘弁してください」
一息吐いてから、土下座しながら言い切った。
『謝って許されるとでも?』
デスヨネー。
結局、その場でボロボロになるまでO☆HA☆NA☆SIを喰らった。
リインフォースさんにキスしたのは空君なりのサービス……だと思いたい。