ルーン魔術学びます!
Side空
困ったことになったなぁ。
原因の半分は自分にあるのだが、今現在非常に困っている。
謎の少女の襲撃を避けるために『お姉ちゃん、大好きー!』という甘える行動をとったはいいが(実際のところ、精神的なダメージが大きかったがこの際気にしない)、ドライグと関係があるらしい少女に弟認定されてしまった。
「年貢の納め時です、赤セイバー!」
謎の少女は赤いドレスを着た少女を見つけるなり斬りかかった。
「ぬ!? そなたはアー―――――」
少女は何かを言いかけていたが、謎の少女が物理的に遮った。
「私以外のセイバー死ねっ!」
「ローマァァァアアアアアアアアアアア!」
よくわからん叫び声を上げながら星になった。
「うげッ、父―――――」
「くたばりなさい、ドラ息子!」
父? この人、女の人なのにあの金髪の娘の父親?
きっと複雑な事情があるんだろうと察して流すことにした。
「土方さん、土方さん。久しぶりに稽古でもしましょうよー」
「断る」
「えー!? どうしてですかー!? あ、もしかしてこの幕末最強の天才剣士の私に負けるのが怖いんですかー? フフン、それなら仕方ない―――――」
「何が幕末最強ですか! 真の幕末最強の剣士は人斬り抜刀斎に決まっています!」
話し声の聞こえた道場の扉を蹴り破り、淡い金色の髪を黒いリボンで纏めている少女に突っ込んでいった。
うんうん。抜刀斎は最強だよね。
目の前で起きていることから目を逸らし、現実逃避する。
「のわっ!? あ、あなたはアル―――――」
「
「なんで使えるんですかぁぁぁああああああああああああああああああッ!?」
刹那の九連撃を喰らった少女は道場の壁を突き破り、どこかへと行ってしまった。
「真のセイバーに不可能無し!」
自分で無茶苦茶なことを言ってる自覚はあるのかな?
謎の少女はそれからも止まることを知らず、順調にセイバーのクラスの英霊達を倒していった。途中から顔が似ているという理由でセイバー以外の英霊も倒していたらしいが、英霊についての知識が少ない俺では誰がどのクラスなのかは判断が付かない。
「残すはあと一人……」
え、もう最後!?
「いつか決着を付けなければならないのはわかっていましたが、こんなに早く来るとは」
「その人強いの?」
あんなことをしておいて今更敬語を使うのも変なのでタメ口にしている。
「ええ、彼女と私の実力はほぼ同じですからね。ですが、今日はあなたがいます。私と共に戦ってくれませんか?」
「えーっと、そういうのは自分一人でやるものじゃ……?」
「勝てばいいのです」
真のセイバー(自称)が正々堂々と戦わずにいていいのだろうか? と思ったが、当の本人は全く気にしてない様子だった。
少女に連れられて着いた場所は、一夏さん達がいた場所とはまた別のアリーナだった。
「……来ましたか、ヒロインX」
あ、この人の名前ってヒロインXなんだね。今更だけど初めて知ったよ。
俺達を待っていたのは西洋風のドレスの上に胸当てや籠手を着けた人だった。
声や容姿だけでなく、どことなくヒロインXさんと雰囲気が似ている。まるでなのはと星奈、フェイトと美雷、はやてと夜空のようだ。
「青セイバー、あなたを倒してようやく私は真のセイバーになることが出来る……!」
相手の名前は青セイバーというそうだ。本名……ではないと思う。
「型月のドル箱と言われるこの私が、ギャグ時空から来たあなたに後れを取るとでも?」
型月のドル箱? なんかすごい人なのかな?
「でしょうね。ですから今回は助っ人を呼びました。卑怯だと罵っても構いませんよ。私はあなたに勝てればそれでいいのですから」
「……いいでしょう。かかってきなさい」
二人は全く同じ黄金の剣を構えた。
『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるがいい!
光が剣へと集まっていく。それが二つ。幻想的な光景だ。
『
振り下ろされた黄金の剣から極光の奔流が迸った。
二つの光は激突し、拮抗する。
「さあ、今です! ドライグの力を私に貸してください!」
ヒロインXさんに必死な顔つきで懇願された。理由はアレだが、余程勝ちたいことは伝わった。
「
《Transfer‼》
赤いオーラがヒロインXさんの体に送られると、極光に赤が混じり、相手の極光を押し始めた。
「これで……私の勝ちですッ!」
ヒロインXさんの極光が青セイバーさんの極光を打ち破り、決着が着いた。
「……やりました……やりましたよ! ついに私はセイバーの頂点に辿り着きました!」
勝利のガッツポーズと共に歓喜の声を上げる。
「うわー! すごいね、お姉ちゃん!」
うわー、なのは今の自分の演技に言いたい。まさかセラフォルーさんとの映画での演技がここで役に立つとは思いにもよらなかった。
「ねぇねぇ、そろそろ部屋に戻らない? いっぱい戦って眠くなっちゃった」
「私もいつになくはしゃいでしまったので今日は寝ることにします」
「うん、お休み、お姉ちゃん♪」
二度目の甘えるような声で別れを告げて、部屋に戻った。
今日はLBXの起動、英霊と二試合、可笑しな茶番に付き合わされてかなりヘトヘトになった俺の意識はすぐに眠りに落ちていった。
「おはようございます、空。それでは朝の鍛錬といきましょうか」
朝、誰かに起こされて目を開けるとヒロインXさんの顔が眼前にあった。
俺の部屋にいることに驚きだが、それ以上に眠い。部屋にあるデジタル時計を見ればまだ朝の五時前だった。
「……あと、五分……」
「仕方のない弟ですね……。私が添い寝をして―――――」
「よーし! 鍛錬頑張るぞー!」
普通、そこは叩き起こすところじゃないのだろうか? ともあれ、今ので眠気は覚めた。
準備をなるたけ早く済ませて部屋を出た。
「さあ、構えなさい」
「うん」
ヒロインXさんが聖剣二本なのに対し、俺も魔剣と聖剣を構える。
「ほほう、私と同じ二刀流ですか。X的にポイント高いですよ」
貯まっても何にも使えなさそうなポイントが貯まった。
それについては聞き流し、早速鍛錬を始めた。
「今日は私が暇潰しの相手になってやろう。よろしく頼むぞ、空」
昨日の全身タイツとは違い、女性用の黒いスーツを着て、伊達眼鏡を付けている女性が教室の教壇に立っていた。
「こちらこそお願いします、スカサハ……先生?」
「先生……か。ふむ、昔から師匠とは呼ばれてきたが先生は初めてだ。だが、新鮮で悪くない。今日は師匠と弟子ではなく、先生と生徒という関係性なのだな。ん? どちらも同じ意味か。……まあ、それはともかく、授業を始めるとしよう」
「はいはーい、質問でーす。授業はどんな内容ですかー?」
「今日の授業ではルーン魔術を取り扱う。あとで実践もしてもらうからな」
ルーン魔術とは「ルーン文字」を刻むことで魔術的神秘を発現させる北欧由来の魔術だ。そして、そのルーン文字一つ一つに意味があり、強化、探索などの効果を発揮する―――――というのをスカサハ先生から教わった。
「ふむふむ、なるほどなるほど」
電子黒板を使うことのできないスカサハ先生の口頭での説明を一生懸命にノートにまとめた。
ある程度学んだ中で俺が主に使いそうなルーン魔術は、強化や治癒くらいだろう。
「私の説明は理解できたか?」
「バッチリです!」
「では、早速実践といこうではないか」
ついてこいと言われ、野外での実践をすることになった。その場所は―――影の国にある森の中だ。先生の宝具の一つ―――
「この森で一週間過ごせ」
森の中から獣の咆哮が聞こえる。しかし、スカサハ先生やジークフリートさんと比べれば、怖いというほどでもない。それに精霊や
「それから、使っていいのはルーン魔術と槍一本と体術のみだ」
使わずに生き残れるだろうか?
精霊や神器はともかく、せめて覇気だけは、と先生に説得を試みた。
「よかろう。では、一週間後に迎えに来る」
説得の末、覇気は何とか使うことを許可された。
「……はい」
先生は木製の槍を手渡すなり、どこかに消えてしまった。それと同時に獣が近づいてくる気配がする。
木製の槍に素早く強化のルーンを刻み、硬度を上げる。
「さあ、俺達の
Sideout
Sideスカサハ
遠くから空のサバイバルを見ていた。
すぐに音を上げる、なんてことはしないだろうと一目見た時から分かっていた。
実際、彼は精霊や神器という私の知り得ない力を持っていたし、この程度の課題は難無く達成するに違いない。だから、制限を設けて課題に取り組ませた。
そう思っていたはずなのに、空は私の想像の遥か斜め上を行った。
ルーンの扱いはまだ不安定なところもあるが、教えたのはたったの一時間ほどなのだから仕方ない。それでもそこそこ使いこなしている、と評価していいだろう。
だが、問題は次だ。
この森に来れば、危険な魔獣と戦うのは必須。
空も最初は襲い来る魔獣達と戦っていた。私の教えたルーンや覇気とかいうこれまた私の知らない力を使ってだ。
初見の相手だろうと気後れせず立ち向かい、今の自分の最善の手を用いて攻略した。
しかし、止めを刺すかと思えば、ルーンによる治療を施し、手厚く看病をしていたのだ。
……魔獣達と仲良くなるとは予想外だったぞ。
その上、魔獣の言葉が理解できるのか食べられそうな果実を聞いたり、楽しそうに戯れていた。
これでは修行にならないと考え、一週間経たずに連れ戻すことにした。
Sideout
Side空
「課題はそこまでだ」
いきなり背後に現れたスカサハ先生に野外授業は終わりだと告げられた。
「でも、まだ一週間経ってないですよね?」
「ああ。だが、ここの魔獣達ではもう相手にならない。いや、元々か」
スカサハ先生は呆れ混じりに笑っていた。
「ところでどうしてほとんどの魔獣を殺さなかった?」
俺が殺したのはこの五日間で五匹の猪の魔獣だ。一日一匹あれば事足りた。
「悪い子じゃないから殺す必要がなかったから、食べられそうなのが猪の魔獣だけだったから、仲良くなれたら最高だなって思ったからの三つです!」
「…………………………そうか」
俺の述べた理由に何とも言えない顔をしていた。甘い奴だと思われたことだろう。
「帰るぞ」
「はーい」
名残惜しいが魔獣達に別れを告げて、再びスカサハ先生の宝具で学園に戻った。
「おかえりなさい、空」
「あ、お姉ちゃん! ただいま!」
寮の前に到着すると、ヒロインXさんが出迎えてくれた。
俺の顔を見るなり抱き着こうとしてきたので受け入れようかと思ったが、五日もまともに体を洗っていない。そうなれば避けるのは必然だった。
「どうして躱すのですか!?」
「だって今の俺、臭いし汚いんだもん。そんな状態で抱き着いたらお姉ちゃんまで汚くなっちゃうよ」
「それは確かに……」
わかってくれて何よりだ。
「早くシャワー浴びてこないとね」
「それよりも大浴場を使えばいいのではないか?」
スカサハ先生がこの学園には生徒のための大浴場を薦めてきた。
この時間帯なら女子生徒は使ってないそうだ。
のんびりお風呂に入れるならそれに越したことはない。着替えを持ってお風呂場に向かった。
「はふぅ~、極楽極楽~」
体を隅々まで綺麗にしてから湯船に浸かった。久々のお風呂は格別に感じた。
『だーりん、私も―――』
「ダメっ。皆が入るのは俺が出てからね」
『そんなぁ~!』
美九の泣き崩れる姿が思い浮かぶが、もしも美九が一緒に入るとなったらゆっくり湯船に浸かるどころではなくなってしまう。
『空、湯加減はどうですか?』
大浴場と脱衣所を隔てる扉の向こうからヒロインXさんの声が聞こえた。
「うん、ちょうどいいよ」
『そうですか。では私も』
へ?
扉が開き、ヒロインXさんが一糸まとわぬ姿で入って来た。
「お、お姉ちゃん……ってお姉ちゃんじゃない。青セイバーさんでしたっけ?」
お姉ちゃんがこの間倒した人だ。
「……え? あ! はい、そうです。セイバークラスのサーヴァント、真名はアルトリア・ペンドラゴン。わかりやすく言うと、アーサー王ですね」
「アーサー……王? ……え? え!? アーサー王って男じゃないの!?」
『あの女がアーサー王だと!?』
不思議な間があったが、それよりも驚くべきことを聞いてしまった。関係のあるドライグもビックリ仰天の事実だ。
アーサー王って女性だったのか。いや、多分
「歴史ではそうなっていますが……まあ、色々と事情があるのです」
「そっか……って納得してる場合じゃないよ! なんで俺が入ってるのに入ってくるんですか!?」
今更ながら裸の相手と話していたことに気が付き、慌てて背を向けた。
「まだお風呂に入っていなかったからですが?」
俺との応答をしながら体を洗い始める。背いていてもわかったのはお湯を流す音が聞こえたからだ。
「そうじゃなくて! 男が入ってるんですよ!?」
「私は気にしません」
「俺が気にします!」
「お湯を浴びた女性に今更出て行けというのですか? あなたは酷い人ですね」
お湯を浴びる前から俺は言ってましたけどね!
結局、アルトリアさんを止められずに一緒に湯船に浸かることになった。
俺が湯船を先に出る選択肢もあったのだが、それは阻まれた。
「私も入るぞ」
アルトリアさんにではなく、スカサハさんにだ。
スカサハさんは俺の様子を確認し続けていたので、俺と同じくお風呂に入ってないというのはわかる。だが、それと一緒に入ることは別問題だ。
「生徒と親睦を深めるのも教師の仕事だと織斑千冬が言っていたな。そういうわけで、空、私の背中を流せ」
「嫌―――――」
首元に槍を突き付けられた。俗にいう脅しである。しかも相当質の悪いやり方だ。
「もう一度言うぞ。私の背中を流せ」
「お、仰せのままに……」
アルトリアさんの隣に腰かけたスカサハさんの後ろにやって来た。
後ろ姿だけなので赤面したりしない。臀部の方に視線は向けてない。ないったらない。
スポンジにボディシャンプーを付けて、泡立てる。それをスカサハさんの綺麗な背中に擦る。
「んっ……良いぞ。気持ちいい」
丁寧に汚れを洗い落としている内に気が付いたことがあった。
「スカサハさん、そんなに汚れてないですね」
俺と別行動はしていたが、影の国に一緒にいたのは間違いない。
「……………………お前と違ってそんなに動いていないからな」
「今の間はなんですか?」
背中越しにジト目を向けるも素知らぬ振りで答えは得られなかった。
「知らん。お前の気のせいだ。(浄化のルーンはまだ教えてなかったな)」
「……まあ、いいですけど……。はい、洗い終わりました。それじゃ、俺は先に上がりますね」
「何を言っているのです? まだ入って五分も経ってませんよ」
さり気無く逃げる作戦はアルトリアさんによって失敗に終わった。
「俺、実は熱いお風呂が苦手なんです。このお風呂も熱くてちょっと……」
「さっきはいい湯加減って言ってましたね」
「……女性と一緒に入ると蕁麻疹が」
「なら確かめてみるとするか」
「…………」
適当に誤魔化して逃げる作戦もすべて潰されてしまった。
流石は英霊! 嘘は通用しないというわけか!
『(お前の嘘のレベルが酷過ぎるだけだ)』
「さ、入るぞ」
スカサハさんに引きずられ湯船に戻され、俺を逃がすまいと言わんばかりに、二人に左右をがっちり挟まれた。
おまけに我慢の限界が来たらしい十香達が体から出てきて、余計に面倒なことになった。
……明日はどんな英霊に会えるかなー?
こういう場面ではルーン魔術よりも現実逃避は便利だった。