その手に握る刀は何のために 作:ユウヤ
特異個体ドスファンゴの毛皮。とくに発達した頭の毛皮使いレイナの防具を改造することになった。
それに大きさもあって冬、もしくはいずれ行くかもしれない寒冷地での狩猟の時に機動性を確保しつつ保温機能を持つ外套も作ることにした。
「とはいっても、やはり特異個体の毛は固いな」
過酷な環境、そして取れた肉からしてかなりの高齢種。毛が生え変わるうちに硬質していったのだろう。
毛皮を切り分けるだけでもかなりの時間を要した。昼から始めた作業がいつの間にか窓の外は暗い夜だった。
何があるかわかない。それも命を狩猟に賭しているのならなおの事。備えれるうちに備えなければならない。
「アイツの唯一の防具を預かった以上、早く済ませないとな・・・」
防具はハンターの生命線。だからこそ早く、されど手を抜くこともなく夜通しで作業を進めた。
――――――――――
「おーい、起きてるー?」
私はユウヤの工房に入った。いつもは寝ぼけた顔で家の方にいるのが大半。
・・・今思えば『いつもは』と言えるほど通っているということで番頭さんから言われた事も反響して顔が赤くなる。
顔を振って気持ちを切り替えて私は工房に顔を出した。そしたら案の定、椅子で眠りこけているユウヤ。そして隣には胴体に当て布のように新しくドスファンゴの毛皮を付けられた私の防具。それに加えて、外套まで作ってあった。だから私は起こさず、静かに工房を出ようとした。
「・・・リン」
「え?」
『りん』アイツは確かにそう言った。問い詰めたいが今は頭の中を整理したかったから私は急いで自分の家に戻った。
まだ両親が生きていた頃の話。その時ユクモ村に強大なモンスターが現れたと聞いた。そして外部から一組のハンターがやってきた。ついでに男の子が一人。どうやらやってきたハンターの子供らしく、その両親から暇があれば『遊んでやってくれ』と頼まれていた。
当時同年代の子供、というか近い年の子供は私だけだったから必然的に二人で遊ぶことになった。
だけどその子供は遊ぶ・・・何も遊びを知らなかったのだ。なら普段は何をやっているかと聞いたら本を読むか、親が討伐したモンスターの素材を観察する。もしくは素振りなどの稽古をやっていると言った。
恥ずかしながら当時の私は村の人からすれば子供なのに腕が立つと褒められて有頂天だった。だから遊んでやろうと川原に連れて行って勝負をした。
結果は勝負がつかなかった。私もそうだがその男の子の腕も良く、剣技では決着がつかないと思った私は、卑怯だが身体ごと辺りに行って、押し倒し組付けた。そっからが問題だった。男の子も負けじと抵抗し、私たちは泥に汚れることなんか気にせず、ただ上を取って取られての見苦しい争いを続けた。
最終的に体力が尽きて結果もお流れ。最初こそ私の剣を受け止められる度に悔しいと思っていた気持ちもいつの間にか解放感に変わっていた。言ってはなんだが、いつも訓練を付けてくれる人は手心を加えてくれていたのか、必死に食らいつくという結果になることは無かった。
だからこそ、必死になって闘ったという闘争心が芽生えた。隣に寝転がっていた男の子も多分同じ気持ち、だったと願いたい。だから私たちは遊ぶことより、独自に剣の腕を磨くことに専念した。
そんなことをしている間に強大なモンスターは私の両親と男の子の両親四人に討伐されて家族ともども帰ることになった。だから最後に約束をした。
『お互いにハンターになって名を残そう。そして今度こそ決着を付けよう』
そんな約束だった。だけど、一つ問題があった。
私は当時リオレイアに似ていたレイナという名前を嫌っていた。だから自ら『リン』と名乗っていたのだ。
だからその男の子も私の事を『リン』と呼び、私は男の子の両親が呼ぶように『ユウ』と呼んでいた。
だけど、さっきユウヤが寝言にしろ『りん』とつぶやいた。そして番頭さん曰くユウヤは人を探している。
全ての事を都合よく合わせれば納得はいくし説明もできる。だけど、今アイツの顔を見ようと思っただけで顔が熱くなるのは・・・
「これが・・・恋?」
だけどそんな時間も長くは続かなかった。
『オォォォォォォォォン!!』
小さく、だけど響く雄たけびが響いた。私も、というか村の人全員が外に出ていた。当然、ユウヤもいたと思う。
「そんな・・・まだガーグアの繁殖期じゃないぞ・・・」
そう、渓流の奥のさらに深奥にジンオウガの巣があると言われている。巣の近くにも何かしらの餌になるモンスターがいるため滅多にそこから離れることは無いというのがユクモ村の言い伝えである。
だが、ユウヤが来る前、というかユウヤが来た理由が渓流の奥深く。珍しい結晶などが採れるという山中でジンオウガらしき姿が確認された。
ユクモ村のジンオウガの言い伝えには他のこともある。
『ガーグアが大量に渓流に現れたのならば追ってジンオウガも降りてくる』と
ただガーグアの今年の繫殖期はまだ遠い。だからこそ、誰も予想していないこの時にジンオウガと思われる雄たけびが響く距離にまでジンオウガが降りてきているのだ。
ともかく私は急いでユウヤの工房に入った。
「お」
「あっ・・・」
そしてほぼ装備万端のユウヤと鉢合わせてしまった。私の防具がここにあるのだから仕方のないことだが 何分さっきのこともあってすぐに目をそらしてしまった。
とりあえず、私も急いで防具を装備することにした。いつの間にか作られた(作らせた)衝立を挟んでユウヤと会話する。
「ユウヤは・・・ジンオウガと戦ったことある?」
「あるが・・・住んでいる環境が違えば種は同じでも動きに差がある。久しぶりだが備えておくに越したことは無いだろう」
「ユウヤの太刀ってさ、斬破刀の系統でしょ?私が言うのもアレだと思うけど相性大丈夫?」
「確かにな。鋭さだけで見れば通用するかもしれんが、ヤツと太刀が生む雷同士が反発して思うように斬れないだろう。だから別のを使う」
「あー、ココ(工房)に立ててあるやつのどれか?」
「勝手に覗いてやがって・・・まぁ、そうだな」
「ニャ、ご主人、準備完了ニャ」
そこへユウヤのアイルーたちが準備を整えてやってきた。
「あぁ、そっちはどうだ?」
「こっちも完了」
私の方もようやく準備が整った。
「レイナは里を頼む」
「え?」
「実力がわからない以上、連れて行くわけにはいかん。最悪俺たちが倒れたらそれこそ村が危険だ。だから残れ」
「・・・」
何も、言い返せなかった。ただ、一回だけ、似た雰囲気に覚えがあった。忘れるわけがない。
両親が最後に発ったあの時の雰囲気に今のユウヤが纏う雰囲気が似ていた。だからこそ、手を伸ばそうにも、私の手が届く前にユウヤは動いた。ユウヤは以前住処を失ってユクモ村に拠点を移したアイルーたちのまとめ役、パタータやモリーに指示を出していた。
「・・・イナ、レイナ!!」
「あ、ごめん・・・聞いてなかった」
「とりあえず村の入り口は桟道や細道。唯一温泉のあるところは崖でジンオウガも登れるだろうが温泉もあるから選択肢としてないだろう。守りを固めれば抵抗できる。そうすればジンオウガも諦めるだろう」
私はただユウヤの指示通りに動くしかなかった。そうして、準備が整ったときには、ユウヤは既に村を発っていた。ただ私は過去を思い出して怖くて仕方がなかった。両親、そして今度は・・・