―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン1第14話『漆黒の英雄と、緑衣の弓矢神』

 

「うわーっ! も、もう駄目だ! て、撤退! てったーい!!!」

「ひ、ひいっ!」

 エ・ランテル外周部にある巨大な墓地に、衛兵の悲鳴にも似た叫びが響き渡る。

「くそっ、なんだってんだっ!! いったいどうなってやがるっ!」

 城壁を守っていた衛兵は持ち場を棄て、階段を駆け下りた。 

 

 

 少し前までは、この夜もいつもと変わらぬ平和な夜だった。違いといえば満月が美しい夜であったことくらいだろうか。

 ここ最近はアンデッドの発生もほとんどなかった為、衛兵たちは「交代時間後に何をしようか?」と思いを巡らせていた。

 

 

 だが……。

 

 

 その平和な夜は突如破られた。

 

 墓地に巡回に出ていた衛兵の10人のうちたった2人だけが骸骨(スケルトン)らに追われて逃げ帰ってきたのだ。

 スケルトンは槍では倒しにくいが、倒せないことはない。正直、強さ自体はたいしたことが無い為、衛兵たちで十分対処できるアンデッドであり、それを相手に逃げ帰ってくるということはありえないはずである。

 

「どうした!」

「早く、早くあけてくれ! 大急ぎで頼むっ! そしてすぐ閉めてくれっ!」

 扉を開けて生き残りの衛兵を中へ引き込むと、言われたとおりに扉を閉める。

「お、おい! あれを見ろ」 

 衛兵たちは、続いて現れた骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)をはじめとするアンデッドの大軍を見て、この二人が焦っていた意味を理解した。

 

「なっ! ……なんなんだ、この数は……」

「100や200じゃない。500……違う1000はいるのか……いやそれ以上?」

 城壁上から見える範囲を埋め尽くす骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)の大軍。その中には数こそ少ないがより強いアンデッドである食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)黄光の屍(ワイト)などの姿も見える。

 

 

「な、なんてこった!」

 ゴクリと全員が唾を呑み込む。

「死守せよ! ここを破られたら町に被害が出る!」

 真っ先に我に返った隊長が大声で指示を飛ばす。

「お、おう!」

「援軍を要請するんだ! 詰所に連絡! ええいっ冒険者組合にも伝令を走らせるんだ!!」 

 墓地と街は城壁一枚で隔てられている。つまり、ここは破られてはいけない最終防衛線といえた。

 

 

 

 

「左翼! 槍衾薄いぞ!」

 隊長自ら苦戦中の左翼へ走る。

「とにかく、げ、迎撃っ! とにかく突け、突け、突けー!! これだけいるんだ、デタラメでもあたるっ! とにかく突くんだ!!」

「うおおおおおっ!!」

「こんのおおおおおおっ!!」

 衛兵たちは持てる力の限りに槍を突き立て、剣を振るい城壁を乗り越えようとするアンデッド達を必死に撃退していく。しかし多勢に無勢。しかも相手はアンデッドであり疲労しない存在だ。

 

「くそっ! 疲労しない奴らの方が多いなんて反則だっ!」

「ばかかっ! アンデッドにルールなんてないわっ!!」

 次第に疲労の色が濃くなり、やがて櫛の歯が抜けるように衛兵たちは数を減らしていく。

「駄目だ、いったん壁の下へ!」

 城壁上での防衛を諦めた衛兵たちは城門裏に集まる。生き残りはだいぶ少ない。

 

 

 

 

「くそっ……なにが『たまには、何か事件起きないかな』だよ。あ~あ、あんなこと言わなければよかった」

 背の高い衛兵が、ぎゅっと唇を噛みしめる。

「俺もだ。自分でも笑えるぜ……『よく物語であるだろう? そういうことを言っていると事件に巻き込まれることになるんだぜ!』なんて言ったからこんなことに」

 背の低いガッチリとした体格の衛兵もまた後悔の念を浮かべていた。この二人は援軍に駆け付けた衛兵で、たまたまこの墓地近くを巡回していた者たちである。

 

 

 普段は心強く思っていた城門だが、今日に限ってはかなり心細く感じられる。容易く破られてしまいそうな予感を皆が感じていた。そして、それは現実となる。

アンデッドの襲撃で弱った扉は、4メートルの高さを誇る城壁よりも巨大な……無数の死体が集まって作られたアンデッド集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)にあっさりと破られ、アンデッド達が城門からあふれ出てきてしまった。

 

 

 

「うわっ! も、もう駄目だっ!! て、撤退! てったーい!!!」

「くそっ、なんだってんだっ!! いったいどうなってやがるっ!」

 

 生き残っていた衛兵たちは次々とその命を散らし、騒ぎを聞いて駆け付けた冒険者たち――主に金と銀のプレート――も数の暴力の前に飲みこまれ始める。

 

「だ、駄目だっ! 数が多すぎる!」

「くそっ、ミスリルがいてくれればっ!」

 エ・ランテル冒険者組合には、最高ランクのアダマンタイト、それに次ぐオリハルコンは所属していない。そのためこの都市の最高ランクはミスリルであるが、運悪く依頼の為都市を離れてしまっていた。

 

 

 

「うわああああああああああああああ!!」

 残り少なくなった衛兵の一人が魂の絶叫を上げた。城壁を破った巨大アンデッド、集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)の巨大な手が振り下ろされたのだ。

 

「死んだ!」

 

 そう誰もが思ったが……

 

 ガキイイッ!! 

 

 

「うあっ? あれっ?」

 衛兵は自分が無事なことが理解できない様子だ。

 

「……大丈夫か」

 彼の目の前には、漆黒の全身鎧(フル・プレート)を身に纏い、背中には真紅のマントを靡かせた戦士が立っていた。その右手に持った漆黒のグレートソードは、集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)の巨大な拳をガッチリと受け止めている。

 

「あ、ああ」

「……戦士モモンだ。助太刀する」

 キラリと鈍い光を放ったプレートは(カッパー)。それを見た衛兵と冒険者はガックリとする。

「逃げろ! (カッパー)プレートで叶う相手じゃないっ!」

「……それはどうかな?」

 モモンは集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)の拳を押し返す。

 

「なっ?」

「いくぞっ!! トオオオッ!!」

 モモンは跳躍し、右手に持ったグレートソードを集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)の脳天へと振りおろし、一撃で真っ二つにしてみせる。

 

「んな? ばかなっ……」

「ま、マジか……」

「どんな身体能力しているんだよ……」

 全身鎧を着用して助走なしに5メートル以上も跳躍し、集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)を唐竹割りで一刀両断。そんな冗談のような光景が今目の前で繰り広げられたのだ。

 

 

「危ないぞ! 伏せろ!」

 あぜんとしていた冒険者だが、謎の声に反応するのはさすがだ。慌てて伏せる。

 

 ビシュッ!! 

 

 空気を切り裂く音がして、矢が頭上を通過し、冒険者を襲おうとしていた内臓の卵(オーガン・エッグ)と呼ばれる蠢く腸のようなアンデッドに突き刺さる。

 

「矢なんて効か……」

 冒険者は言いかけたが、突如矢が光ったと思った瞬間に爆発し内臓の卵(オーガン・エッグ)は死の世界へと帰る。なお矢はスキル〈爆発する矢(エクスプロージョン・アロー)〉で生み出されたものだ。

 

「……冒険者アローだ。お前たちは下がれ!」 

 矢を放ったのは緑のフードの男――当然アインズがアイテムで変身した姿である。その首元には、モモンと同じ(カッパー)のプレートがぶら下がっていた。

 

「ま、また(カッパー)?」

「……確かにこれはランクを示すが、実力を示すものだとは限らんよ」

 

「ナーベ! ハムスケ!」

 いつのまにかモモンはもう一本のグレートソードを鞘から抜き放ち、二刀流になっている。

 

「はっ!」

「殿、なんなりと!」

 漆黒の髪の美女と、白い毛並みの大魔獣が姿を現す。

 

「ヒュー♪ ペッピンさんや!」

「なっ? なんだ、あの魔獣は!」

「安心して欲しい。仲間のナーベと、私達の”カプセル怪獣”だよ」

 アインズはニヤリと笑う。

 

「はあっ?」

「いや、”使役している魔獣”と言いたかった」

 モモンがすかさずフォローする。

 

「まあ、そういうわけだ。ナーベとハムスケはここで街に被害がでないように食い止めてくれ。私とモモンで奥へ向かう」

「……かしこまりました」

「わかったでござる! 任せるでござるよっ!!」

 丁寧にお辞儀をするナーベの隣で、ハムスケは立派なお腹をポンと叩いてアピールする。 

 

 

「行くぞ、アロー!!」

「了解だ、モモン!!」

 モモンはグレートソードで、アローは拳と足を使ってアンデッドを蹴散らしながら奥へと突っ込んでいく。

 

 

「し、信じられん!!」

 モモンに救われた衛兵は見た。彼がグレートソードを一閃する度に数体のアンデッドが姿を消していく光景を。

2本のグレートソードを軽々と扱い、剣舞のような華麗な動きで流れるように奥へと進んでいく。

 

「すげえっ……」

 アローことアインズに救われた冒険者は見た。拳を振るうだけで骸骨(スケルトン)が粉砕され、キック一発で動死体(ゾンビ)がぶっ飛んでいく光景を。

時には正面の動死体(ゾンビ)を蹴り飛ばしながら、横から襲いかかろうとした骸骨(スケルトン)を見もせずに拳打で弾き飛ばすなんて芸当も見せている。

また、飛んでくるアンデッドがいれば、矢で確実に射抜いてしとめていた。

 

 

「漆黒の英雄と……」

「ああ。緑衣の弓矢神の誕生だな」

 冒険者は思う。

(きっとああいう人がアダマンタイトになっていくのだろう)

確かにプレートは今のランクを示すが、新入りはみな(カッパー)からのスタートだ。実力を示しているとはいえない。それを彼は理解した。

 

 

「俺たちも踏んばらないとなっ!」

「おう! 先輩として負けてられん!」

 冒険者たちの萎えていた闘志に再び火が付いた。モモンとアローの二人が数を減らしてくれてはいるが、全部倒しているわけではない。彼らは一直線に奥へ奥へと向かっているのだ。

 

 

「こちらも行くわ。ハムスケ!」

「任せるでござるよ、ナーベ殿」

 美女と魔獣が頷きあい、アンデッドへと突っ込んでいく。

 

「勝てる〈雷撃(ライトニング)〉!!」

 ナーベの右手が光り、墓地へ向かってサンダーボルトが一直線に奔る。その直線上にいた骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)10数体……いや20体近く……が一瞬で消滅する。

 

「ぬおおおおおっ! 〈賢王の爪(ハムスケクロー)〉! でござる!」

 格好つけたものの、これは武技や魔法ではなく普通の攻撃。ハムスケの前足の鋭い爪が骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)を切り裂く。

 

「うう、骸骨(スケルトン)はともかく、動死体(ゾンビ)はちょっと感触が気持ち悪いでござるな~」

「……文句言わない」

 気軽な調子で息のあった戦いを見せる一人と一体。

 

「おいおい、この姉ちゃんもやるじゃねえか」

「まったくだ。あの二人だけじゃないんだな。この姉ちゃんといい、大魔獣といい……デタラメだな」

 冒険者たちは呆れながらも負けじと剣を振るう。

 

 崩壊寸前まで追い込まれていた城門攻防戦は、ナーベとハムスケという強力な援軍を得た人間側に有利な流れになりつつあった。

 

 

 

 


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