―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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 新シーズン突入前の読み切り短編です。

 




短編
『修行』


 

「打ってこい、ニニャ!」

「はいっ! お願いします。レイさん!」

 レイことブレイン・アングラウスの声に、ニニャは元気よく答え、手にした木の杖を構える。対するブレインは木刀を手に持ち、いつもの居合抜きとは違って正眼に構え、鋭い目つきでニニャの仕掛けを待っている。

 

 ここは、開店前のVERDANT(ヴァーダント)のダンスフロアだが、時折このように店員達の修練場となっていた。

 メンバー4人中3人が、大きな心の傷を負ったため(シルバー)冒険者チーム“漆黒の剣”は冒険者を休業し、アダマンタイト級冒険者“漆黒”の口利きで働いている。

 リーダのペテル・モークは、“漆黒”の公認ショップ“SCHWARZ(シュヴァルツ)”の店長を任され、ニニャはVERDANT(ヴァーダント)のフロアスタッフに、ルクルット・ボルブはバーテンダーとして活躍中だ。

 ただ一人、ダイン・ウッドワンダーだけは、新しくできた恋人とともにカルネ村に移住し、完全に冒険者からは引退してしまったが、残った3人は冒険者へ復帰することを考えており、空き時間を使って修練を重ねていた。

 中でもニニャがもっとも熱心で週に2・3回はこうやって実践稽古を行っていた。

 もちろん、今の暮らしも悪くはない。安定した給料も貰えるし、たまに危険なこともあるが基本的には平和な生活であり充実感もあった。だが、ニニャには大事な目的がある。

 それは貴族に強引に連れ去られ、その後行方の分からなくなってしまった姉を探すことだ。

 ニニャが冒険者になったのは、対抗できるだけの力をつけること、そして情報を手に入れるためだ。今は懇意にしている“漆黒”が情報の収集をしてくれているが、やはり自分でも何か動きたいという思いは常に持っていた。

 魔法適性という生まれながらの異能(タレント)を持つニニャ。最近は高い魔法力を持つ“漆黒”のナーベという魔法詠唱者(マジックキャスター)と話す機会も多くなっているため、彼女から刺激を受け、少し早起きをしては魔法の修練を積んでいる。

 また空き時間にはレイとクレアという二人の用心棒から護身術を兼ねた戦闘訓練を受ける貪欲さを取り戻していた。

 

「てやあああっつ!」

 ニニャの気合の入った上段からの打ち込みを、ブレインは軽く木刀で弾いてみせる。

「踏み込みが、甘いっ!」

 返す刀でニニャの腹部を突く。

「うっ……」

 バランスを崩しながらもかろうじてそれを回避してみせる。

「やあっ!」

 先ほどよりも力強く踏み込み、もう一度上段から杖を叩きつける。

「ふんっ!」

 ブレインはそれを刀で受けるために木刀を構えた。

「ににゃっ」

 ニニャは笑みを浮かべ、途中で杖の軌道を変更。左手を放して右手一本でブレインの喉を狙って鋭く突きを繰り出す。魔法詠唱者(マジックキャスター)の域を超えたスピードだ。

「むっ!」

 だが、それもブレインは見切って、首を左に傾けるだけで避けてみせた。一流の戦士ならではの無駄のない回避だ。

「いやああっ!」

 しかし、これを予想していたニニャは動きを止めずに、さらに右足の足裏でブレインの左膝を狙ってキック!

「むうっ!」

 それすらもブレインは回避し、攻撃に比重を置いたニニャの胴を打ち払った。

「〈要塞〉!」

 服に触れる直前に覚えたての武技を発動し、防御を試みる。

「ぐがっ……」

 タイミングが合わず、思い切り打ち抜かれてしまった。

「がはっ……」

 腹部を押えながらニニャは両膝をつき、蹲る。

「なかなかの連携だったが、攻撃に意識を置きす」

 アドバイスをし始めたブレインの言葉が途中でとまる。

「〈魔法の矢(マジックアロー)〉!」

 ニニャの声とともに超至近距離で光の矢が4つ放たれ、ブレインを襲う。

「チッ! 〈領域〉〈流水加速〉」

 だが、ブレインもさすがだった。武技を緊急発動し、自分の周囲に感知フィールドを作成。さらに動きを加速させて、この超至近距離からの光の矢を全て叩き落としてみせる。

参りました(ギブアップ)。さすがですね」

 それを見たニニャは、ギブアップを宣言する。

「ふう……俺に武技を使わせるとはな。成長したじゃないか」

 ブレインは満足そうに笑みを浮かべる。すでに人ではなくなっているが、純粋に若い力が伸びてくるのは嬉しいものがあった。

「いえ。全部避けられてしまいましたし、あの距離で全部叩き落とされたのですから、完敗ですよ」

「それは俺が相手だからだろう。――あのコンビネーションはよかったぞ。並みの相手なら上段振りおろしから突きのコンビネーションが決まっていただろうし、防いだとしても蹴りはよけられないだろうな。……人間の目は左右の動きより、上下の動きの方が苦手だからな。一応アドバイスしておくと、相手を潰す時は膝関節を、相手の態勢を崩すなら関節の上を狙え。まあ、この技を出すときはたいてい前者だろうけどな」

「ありがとうございます。もっと磨いておきますよ。それにしても防具で〈要塞〉を出すのは難しいですね」

 ニニャは腹部を擦りながら起き上る。

「……それは高等技術だからな、簡単に習得できるものではないさ。まあ、クレアのような天才的な戦士なら別だけどな。あいつは一発で出来たとかこの間自慢していたが。――だいたいニニャは基本的に魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。武技〈要塞〉が使えるだけでも凄いことだぞ。焦る必要はないさ」

 ポンとニニャの華奢な肩を叩く。

「そうですよね。ご指導ありがとうございましたレイさん」

 ニニャは丁寧に頭を下げ、礼を言う。

「ああ。いつでも相手をしてやるよ。今度は魔法を使わせないぜ」

 レイはニヒルな笑みを浮かべ、手を振りながら控室へと戻っていった。

 

 

 

 


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