―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン1第7話『黒と緑の競演』

 エ・ランテルを出たアインズ達は隊列を組み進む。

 

 その中心となるのは、依頼主であり、護衛対象者でもあるンフィーレア・バレアレの乗った馬車で、御者は彼自身が務めている。

 その手綱さばきは手慣れたもので、よそ見をしたり、話をしながらでもしっかりと馬車を制御していた。

 馬車を引っ張る馬は葦毛の馬一頭だけだが、この馬は、そのあたりの馬と比べてもはるかに立派な馬体をしており、まったく疲れをみせずにいる。その荷台は薬草採取用の道具や、保存する為の瓶や篭などで埋まっており人を乗せるスペースはない。

 

 馬車の前を歩くのは、レンジャーの能力を持つ緑のフードの男、アロー。なおこのアローは、アインズがアイテム”緑の矢(グリーン・アロー)”の力によって変身した姿である。

 

 フードを初めとした装備品は緑で統一され、背中には矢筒を下げ、左手には大きな弓を持っている。

 無駄な装飾などを省いた機能性を重視した一品であり、見た目以上の強度を誇る。相手の攻撃を受け止める盾の役目を果たすことや、そのまま弓で殴るということも可能で、下手な殴打武器よりも攻撃力はある。

 また、弓だけではなく矢も、その名の通りに緑のカラーリングに統一され、さながら『アロー専用』という雰囲気を醸し出している。

 背負っている矢筒は、”無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)”を応用したようなマジックアイテムで、自動的に矢が補充される設定になっている。無限と言いながら限界はあることになっているが、通常の使い方をするのであれば、矢が切れる心配はほぼない。

 

 

 馬車の隣に目をやると、パンドラズ・アクターが変身している漆黒の全身鎧(フル・プレート)の戦士モモンが右側を堂々と歩み、左側は魔法詠唱者のナーベが鋭い眼光で周囲を睨み付けながら、ガードしている。なおアインズがオマケで連れてきた女冒険者は戦力としては計算していない為、馬車の後方に廻されている。

 

 

 エ・ランテルを出発して半日。ここまでの所はモンスターが現れることもなく平和な旅路が続いており、アインズはリアルでは味わえなかった美味しい空気と美しい自然……そしてンフィーレアとブリタとの会話を楽しんでいた。ブリタには冒険者の話や武器のこと、ンフィーレアには魔法のことやポーションのこと、そして世界の決まり事など色々なことを質問し、知識を得ていた。

 

 

「アローさん、そろそろモンスターが出てくる地域だって聞いているよ。警戒よろしくね!」

 馬車の後方から、赤毛の鉄プレート女冒険者ブリタの声がかかる。 

 

「了解した……」

 話をしながらもアインズは警戒は怠ってはいなかったが、より集中力を高めることにする。

(まあ、出てきたところで我々の相手ではないが……)

 カルネ村でアインズがスキルを使って作り出したアンデッド”死の騎士(デス・ナイト)”。ユグドラシルでは盾役に使い捨てる程度のアンデッドが、この異世界では”伝説クラスのアンデッド”といわれるくらいのレベル差があるのだから、このあたりで出現する普通のモンスターなどが、まずアインズ達の相手にはならないと思われる。

 

 

 

「むっ……どうやら、ちょうどお出ましのようだ。気をつけろ!」

 一行の右前方にある森から姿を現したのは、人間の大人の3分の2程度の大きさの醜悪な顔の小鬼(ゴブリン)と、大人の背丈の倍以上の大きさで、ずんぐりした体格のより醜悪な顔をした人食い大鬼(オーガ)の集団であった。  

 

「ヤバイ! アレは数が多いよ。まずくない? 逃げた方がっ!」

 ブリタが声を上げる。

 

 相手はさびた鉄の剣や棍棒・オノなど、バラバラの武器を手に持ち、ボロボロの革の鎧や、獣の皮などを身に着けた小鬼(ゴブリン)が15体。

 人間ほどの大きさはある棍棒を持った人食い大鬼(オーガ)が6体。合わせて21体の大所帯である。

 それに対し、こちらは護衛対象者を除けばたった4人。数の上でみれば圧倒的に不利な状況といえた。

 小鬼(ゴブリン)達は数で彼我の戦力差を図る傾向にある。つまり彼らからしたらこの状況は美味しすぎるシチュエーションであり、簡単には逃がしてはくれないだろう。

 冒険者たちからみれば小鬼(ゴブリン)は決して強いモンスターではないが、やはり同数以上いる場合苦戦は免れないとされている。ましてや相手にはパワーが桁ハズレのモンスター、人食い大鬼(オーガ)まで複数いるのだ。ブリタの意見は普通なら間違っていない……そう普通なら。

 

 

「……力は数に勝る」

 アインズは、そう呟くと素早く矢をつがえ弓を構える。

「……まず私が数を減らす。モモンはオーガを頼む。ナーベはンフィーレアさんの方へ敵がいかないようにフォローに回れ。もし逃げる敵がいれば魔法を放て! ブリタさんは、ンフィーレアさんを守ってください」

「――了解した」

「……承りました」

 モモンとナーベは即答し、それぞれ鞘から剣を抜き戦闘態勢に入る。

 

「ちょ、ちょっと! マジでやる気なの?」

 ブリタは慌てながらも剣を構える。その顔は青白い。

「――当然だ。あの程度、ものの数ではない」

 アインズは、ブリタの返事などは待たずに、矢を放つ。

 

 ビシュッ!! 

 

 約200メートル先の小鬼(ゴブリン)めがけ、アインズの冒険の始まりを告げる矢が高速で飛んでいく。

 

「ぐぎゃっ……」

 矢は先頭にいた小鬼(ゴブリン)の眉間に正確に貫いた。確認するまでもなく間違いなく命を奪う一撃であった。

 

「テメエラ、コロス!」

「クッテヤル、クッテヤルゾ!」

「シニヤガレ!」

 仲間をやられ、怒りに燃えた小鬼(ゴブリン)人食い大鬼(オーガ)とともに全力で突っ込んでくる。

 

「ボゴッ!」

「ケハッ……」

 しかしアインズの弓の速射の前に小鬼(ゴブリン)達は次々に命を散らしていく。それもほとんどの者は何が起きたかすら認識できずに。

 

「ぐるるるるっ!」

 最初のオーガがモモンの前に立つ頃には、すでに生きているゴブリンは一体も存在しなくなっていた。

 

「おおおおおおおおおおっ!!! いくぞ、人食い大鬼(オーガ)!!」

 モモンが気合をみなぎらせ、グレートソードを二刀流で構える。

「ヌオオオオオオっ!」

 人食い大鬼(オーガ)が力任せに棍棒を振り上げるが、それが振り下ろされる前にモモンの右手のグレートソードが斜めに振り下ろされる。

 

 ザンッ!! 

 

「ア?」

 何が起きたか不思議そうな声をあげながら、袈裟斬りで一刀両断された人食い大鬼(オーガ)が地面に崩れ落ちる。そしてその直後に2体目の人食い大鬼(オーガ)がさらに薙ぎ払いを受け胴体が真横に分断される。

 

(パンドラよ、気合が大げさすぎだぞ……)

 アインズは心の中で溜息をつく。

 

「うそっ! 人食い大鬼(オーガ)を一撃っ? ありえないっ!!」 

「ぐおお?」

 知性で劣ると言われる人食い大鬼(オーガ)だが、さすがにここまでやられると状況を理解し、逃走に移る。だが、すでに手遅れだった。

 

「……無様な撤退だな。兵は神速を尊ぶという言葉を知らないのか。ナーベ、やれっ!」

「かしこまりました。……〈雷撃(ライトニング)〉!!」

 ナーベの突き出した右手にバチバチッという音ともに魔力が集まり、一瞬の後、サンダーボルトが草原を奔る。

 

「シアアッ……」

 雷に貫かれた2体の人食い大鬼(オーガ)はアッという間に絶命する。

「フンッ!!」

 残る2体のうち1体は、モモンがグレートソードを高速で投擲するという常識外の荒業を見せ、物言わぬ肉塊に成り果てた。

 

「逃がさん!」

 アインズは最後の一体の右足を射抜いて動きを止める。

「うががああっ!」

 暴れて逃れようとする人食い大鬼(オーガ)にアインズは素早く接近すると、一瞬のうちに人食い大鬼(オーガ)の頭を両足で挟んで後方回転し、脳天から地面に叩きつける!

 

「うおおっ!! あの技は……昨日のっ! あの巨体をぶん投げるなんてっ!!」

 そう……この技は、昨日アインズが宿で見せた技。

 アインズ自身も名称を知らないが、〈フランケンシュタイナー〉と呼ばれた技だった。

 昨日よりもずっと威力が強かったため、叩きつけられた人食い大鬼(オーガ)の頭は完全にベチャリと潰れてしまっていたが、奇跡的に右側の耳だけが、かろうじて原型を留めていた。なお、この耳を切りとって組合に提出することで報奨金を手に入ることができる。

 

 

「……ンフィーレアさんは無事かな?」

 正直聞くまでもないことだが、依頼されている以上無事を確かめるのは当然のことだ。 

 

「はい。おかげさまで……お見事な戦いぶりでした。今までにも色々な方の戦いを観てきましたけど、ここまで圧倒されたのは初めてです」

「すごかった! いや~昨日もすごいって思ったけどさあ。あんた達すごすぎるわ!!」

 

 人間本当にすごいと思った時はそれ以上の言葉が出ないものだ。

「ナーベさんの魔法もすごかったです。あんなに威力のある〈雷撃(ライトニング)〉なんて、今までにみたことなかったですよ」

 ンフィーレア自身が第2位階まで使える魔法詠唱者であるため、やはり魔法に目がいくのだろう。

 

「モモンさんもすごかったね。普通は両手で扱うグレートソードを片手に一本ずつ持って、あの人食い大鬼(オーガ)を一刀両断なんて、人間技とは思えないよ」

(実際人間じゃないからな!)

 内心でアインズは思っていたが、当然口にはしない。

「アローさんの弓の腕前も素晴らしいですね。”三国一の弓取り”と言われても僕は信じますよ!」

 なおンフィーレアのいう三国とは、リ・エスティーゼ王国・バハルス帝国・スレイン法国のことを指す。

 

「弓もすごいけど、最後の技なんて超人技ね。あのでっかい人食い大鬼(オーガ)の頭を両足で挟んで投げ飛ばすなんて、すごい筋力と瞬発力よね」

 

 この後、冒険者組合への提出する人食い大鬼(オーガ)小鬼(ゴブリン)の耳を切り取る作業を終えた一行は、途中でテントを張り一泊することになった。

 

 

 

 


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