太陽と焔   作:はたけのなすび

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Fate/SN編になります。

息抜きなので、不定期更新なのをご承知おきください。


Fate/stay night編
Mem-1


 

 

 

「おまえが聖杯を手にしたところで何ら役には立たない。戦からは即離れ、己の人生を全うすべきだ」

「えぇと……?」

「重ねて言う。折角、平和な時代の一市民としての生を謳歌しているならば、おまえはその幸運を噛み締め、幸福に老いてゆけばよかろう。戦などに自ら関わるべきではない。わからないのか?」

「えーと……ごめんなさい。私には、初対面なのに気を遣ってくれているあなたが、善人だとしかわからない……です」

「……」

「とりあえずお茶でも飲んで話がしたいです、ランサー(・・・・)さん」

「……さん、は不要だ」

 

 時刻は深夜。草木も眠る丑三つ時。

 場所は冬木市。外れの民家。

 何だか妙なことになったと、私は唸っていた。

 

 元々祖父母の家だったちょっと広めな日本屋敷、についている蔵。

 そこで一人、ぼーっと空を見上げていたある夜のことである。

 

 珍しい形に月と星が配置されているのに気がつき、これを一人で見るのは勿体ないなぁと、誰か一緒に空を見上げてくれないかなぁと思っていたら。

 

 蔵の床が、無駄に神々しく光り輝いて。

 

 何か────もとい【誰か】が。

 

 蔵の中に現れてしまったのだ。

 

 何でそうなったの。

 どうしてそうなったの。

 何故だよ、本当に。

 

「現在、この土地は諸々を呼びやすくなっている。そこに、なまじ素質のあるおまえが偶々いて、召喚に適した場所に立ったのが原因だ。ここで、おまえは何かを願ったか?」

「ひとりだと寂しいから、誰か一緒に夜空を見てくれないかな、と……」

「それだな。些細な願いで死地に踏み込むとは愚かな」

「しち……七……え、死地ですか?」

「殺し合いと言い換えるべきだったか」

「何故!」

 

 とりあえず蔵から自宅へ場所を移し、畳張りの居間へ招いたのはランサーと名乗る青年はそうコメントした。

 私は卓袱台に突っ伏した。

 

 ランサーは、変わったひとだ。

 

 見た目的には私より七、八歳上の青年に見えるような、それよりうんと歳上にも見えるような、年齢の掴みづらい白髪をしていて、服なんだか体の一部なんだかもわからない黒い体をしている。睫毛や産毛まで白いから、地毛がこれなのだろう。

 それに、凄く細い。貧相な感じはせず、無駄なものを削ぎ落とした体格だが、細いことは細い。

 これは体の細さに反するような、目立つ黄金の耳飾りと鎧の一部を身につけているからかもしれない。

 表情はあまり動かないが、言葉で私を気遣ってくれるから怖い感じはない。

 しかし、どこの時代のどこの国の人間かは分からない風体だった。

 

 ともあれこのひとは、私が原因でやって来てしまった。

 その際、何らかの主従関係が結ばれてしまったらしい。

 

 私が主で、ランサーが従。

 風格風采を見ても考えても、どう考えても逆だ逆。

 

 けれど私の手の甲には、(マスター)の証である刻印【令呪】がくっきり刻まれていた。

 三画しかないこの令呪だが、内包されている魔力の桁がおかしいのはわかる。

 あと、ランサー(槍兵)とは本来の名を隠すコードネームだそうだ。本名は名乗る必要がないとのことで、教えてくれなかった。

 

 私は、本当の名前を出すのを渋るほどとんでもない事態に巻き込まれてしまったらしかった。

 

 いやしかし、事の発端があまりにも偶然過ぎる。

 

「そんな事故みたいな召喚、あり……?」

「あり得てしまった事象に対し、目を逸らすのは賢明ではないな。やはり、おまえは早急に戦争から降りろ。降りろ」

「うーん、どうしたらいいんですかこの降りろbotさんは。話を聞く限り、あなたは【聖杯】っていう道具に叶えてもらいたい願いがあって参戦したんですよね?」

 

 ランサーが語るには、私が巻き込まれたのは万能の願望機、【聖杯】を巡る七人のマスターと七騎のサーヴァントが争う何でもありの戦いだそうだ。

 

 その名も、聖杯戦争。

 アーサー王でも呼んできなさいよと。

 

 そして、聖杯戦争はマスターとサーヴァントが、二人一組で戦うという。

 

 マスターは生者。

 令呪を持ち、サーヴァントを使役する者。

 サーヴァントは死者。

 願いを抱いた過去または未来の英雄であり、現世に降り立ってマスターに仕える者。

 

 つまりこのランサーも、しっかりがっつり死者なのだ。

 到底そうは見えない青年は、嬉しいような怒っているようなあやふやな顔をしていた。

  

「…………そうだ。オレたちサーヴァントは、叶えたい願いのために召喚される」

「でも、願いが叶うのは最後に残った一組だけ。つまりあなたは、自分の願いが叶う機会を自分から放棄しているんだ……ですよね?いいの?よくわからないけど、たくさんいる英雄の中の七騎になるのは凄い確率なんじゃないですか?」

「オレの願いはもういい」

「はい?」

「既に叶った」

「んへ?RTA?」

「リアルタイムアタックではない」

「リアルタイムアタックがなんでわかるんだ現代人ですか?召喚されて一時間経たず願いが叶うなんてある?願いがないならまだわかるけど、既に叶ったってどういう意味ですか?」

「単純だ。おまえに召喚された時点で、オレの願いは成就した。あとはおまえが聖杯戦争から降り、争いに関わらなければいい」

「降りるたって乗った覚えもないのにどう降りろと言うんですか」

「簡単だ。その令呪三画すべてを通し、『自害しろ、ランサー』とオレに命じればいい。それで終わる。さぁ、やれ」

 

 一点の曇りもないランサーの眼。

 それを見れば、彼が嘘も謀りも見栄も何もなく【真面目】なのだとわかってしまった。

 

 ふぅ、と息を吸って吐いて、私は叫ぶ。

 

「─────できるかーッ!」

「何故だ」

「何故もヘチマもありませんけど⁉他所様に自害を命令できる生き方してないです私は!頭関ヶ原⁉しかもどうやって自害する気!さっきの召喚みたいにキラキラエフェクトかかって、いい感じにぼかした退場になるんですか⁉」

「…………見苦しいならば、オレはおまえから離れてその辺りの林に行き、槍で喉を突く。それで良いだろう」

「良くない!何!一つ!よくないです!死に方が具体的すぎる!想像できちゃうじゃないですかッ!しかも一人で死ぬのはもっと駄目ーッ!」

「む。……おまえが他の陣営に今後狙われる原因となる令呪を取り除き、かつオレが穏便に退場できる最もよい方法だ。遺体となれば、魔力に変換されて消滅するのでおまえに疑いもかからない」

「穏便の言葉を調べ直してくださるかな⁉そういう底抜けに善人な人を自害させて、私が明日のご飯を美味しく食べられると思ってるの⁉」

 

 だけどわかったことがある。

 叫ぶのをピタリとやめて、私は指を一本立てた。

 

「マスターは、サーヴァントがいなくなったあとも令呪さえあれば戦いは続けられるんですね。つまり、マスターは別のサーヴァントと契約のし直しもできる。なら、あなたがもっとふさわしいマスターと契約したら、願いも諦めなくていいんじゃないですか?」

「……頭の回転が素早いのも考え物だな。半端な知者は戦場において最も危険だと知らないのか」

「知りませんって。戦場なんて行ったこともないです」

 

 渋いような安心したような顔になって、ランサーは肩をすくめた。

 

「とうに願いを叶えたオレへの一時の情で危険な道を歩むのは感心しない。善なる人間であるのも過ぎれば己の身を滅ぼすぞ。この邂逅など夜明け前の夢だと思い、あるべき場所へ帰るがいい、マスター」

「だからと言ってそのために自害を命じるのが嫌だって言ってるのですが?夜明け前の夢が血塗れだったら、私の朝は最悪になるよ。それじゃあ普通の日常にはならない。あなたのためじゃない。私が明日も普通に過ごせるように、自害以外の方法を一緒に考えてほしいんです」

「むむ……」

 

 ワァ困ってるよランサーさんが。

 ここぞとばかりに、私は畳み掛けることにした。

 

「ていうか、善人は身を滅ぼすってあなたにだけは言われたくないかも。出会って一時間ぐらいの私に対して、ここまで生命を大切にしろって命懸けの忠告を繰り返すあなたが、善人でなかったら何なんですか。英雄でも、喉元突いて死ぬのは痛いでしょう?」

「……」

「自分で自分の身を滅ぼすルート爆走してるっぽいあなたに言われても、素直に飲めるわけありません。腹が立ちますから。あと、善人とわかった人に自害強制はやっぱり無理」

「………………」

「あ、今更悪者装って私に自分を殺させようとしても、無駄ですよ。多分嘘ってすぐわかるので」

「オレが、せめて中立か悪属性ならばよかったのか……?」

「斬新な懺悔ですね」

 

 属性ってなんだよ。

 やっぱり言ってないことが大量にあるな、このランサー。

 

 ともあれ。

 正体不明の槍兵は、不承不承ですという顔をしながらも、自害は取り止めにしてくれた。

 しかし、自害させるのは無理無理無理ィ!と喚いた私を考慮してくれたからで、早期の聖杯戦争離脱は全然諦めてなかった。

 

 死ぬのに積極的……というより、私を生かすのに積極的過ぎて乾いた笑いが出る。

 

「これぞと言えそうな魔術師なりマスターの素質を持つ者なりがいれば、令呪とオレの譲渡を申し出るのはどうだ?」

「さっきよりは良い提案だけど、現実的に成功確率が低いです。魔術師は魔術師らしくあればあるほどヒトデナシに転んで行くので、あなたのこと使い潰すぐらい普通にすると思います」

「是非もない。それでおまえが聖杯戦争から降りられるならば安い」

「だから、そういうことする魔術師が、そのあと私を放っておいてくれる可能性は低いでしょう?皆があなたみたいに義理堅いわけないです。人間的にまともで、魔術師としての腕も良い人は滅多にいないから」

「……腕前は構うな。オレへの考慮の必要はない。おまえを裏切らない相手に絞れ」

 

 筋金入りに他人の安全しか考慮しねぇ人だな。頭金剛石ですか?

 

「とーにーかーくー、今すぐの私の聖杯戦争離脱は諦めてください」

 

 現在時刻、深夜二時。

 明日も学校がある高校生としては、そろそろ寝ないとまずい時間だった。

 

「ランサーはどうしますか?寝ますか?」

「必要ない。霊体化しておこう」

 

 霊体化……恐らく、文字通り、幽霊状態になって見えなくなるということだろう。

 しかし、この家に姿の見えないランサーとふたりというのは、落ち着かない気になる。

 

「あなたが良ければ、実体化していることはできませんか?いるのにいないのは、落ち着かないので」

「……おまえが望むなら、オレは応じる」

 

 手足の先を消しかけていたランサーは、一言で実体を取り戻した。

 その動作だけで、こちらからランサーへ流れる魔力の量が変化する。

 霊体化しているよりも、実体化しているほうが疲れそうだった。

 

「魔力消費って結構あるんですね。抑える方法はありますか?」

「オレ自身である程度は制限できるし、睡眠や食事により多少は回復できる。先に言うが、オレはかなり燃費の悪いサーヴァントだ。宝具を使うともなれば、さらに魔力消費は跳ね上がる」

「待って。宝具って何ですか?ゲームで言う必殺技?」

 

 頷かれた。

 嘘でしょこの御仁、言葉が足りなさすぎる。

 

「あの、報連相はお願いしますよ。あなたの立場的に、私を聖杯戦争に関わらせたくないのはわかりましたが、だからと言って情報を制限されたらマジで困るので」

「マジで困るのか?」

「マジで困ります。降りるにしろ何をするにしろ、味方のあなたとの対話は不可欠だと思う。それを一方的に端折られたら、本当に困ります。気まずいとかタイミングとか気にしませんから、何かあったら即連絡でお願いします。若しくは、私の質問には私に不都合な部分があっても答えてください」

「…………わかった」

 

 色々と言いたいことはあれど、ひとまず今日は睡眠をとるべきだろうと立ち上がりかけ、ふと気がついてランサーを見た。

 

「聞きますが、私の部屋で番をしたいと考えていますか?」

「オレはサーヴァントだぞ?」

「どこの世界の常識を語っているのか。そういうところを言ってくださいって話です」

 

 この世の真理を語るような口調で言うことか。

 サーヴァントはマスターの側に控えるものなのでそうしたいということらしいけれど、言ってくれなきゃわからないではないか。

 

「……相部屋は別にいいですが、私の部屋、祖父の世界の土産物コレクションでごちゃついているので狭いですよ?」

「おまえの脆く薄い体格ならば、二人でも支障はないだろう」

「せめて細いと言えーッ!」

 

 言葉選びが愉快すぎる。

 何なの。そういう呪いでも受けたの。

 これから出くわす人間全員と失礼スレスレな語録で話せ、とか?

 約束されたディスコミュニケーションでももらったの?

 

 ともあれ、立って動くと幽鬼かと見紛うほど細くて黒くて白くて黄金なランサーは、私の案内で部屋には入ってくれた。

 若かりし頃、世界を股にかけて旅をしていた祖父の集めた、仮面やら像やら楽器やら民芸品の武器やらが詰め込まれた部屋だが、慣れれば意外といい場所だ。

 

 私の本来の部屋は別にあるのだけど、留守番という家守り中はこちらで寝ろと母に言われているのでこちらにいる。

 微妙とはいえ神秘がある家だから、色々と制約があるのですよ。

 

 そんな中、ランサーの視線がふと吸い寄せられる場所があった。

 

 教科書が並んだ机の上に置いた、小ぶりな神様の像。

 丸々と太った人間の体に象の頭、鼠のヴァーハナを従えるインドのガネーシャ神だった。

 

 薄い水色の瞳に、ふつ、と親愛の光が灯る。

 

「ランサーは、インドのひとですか?」

「ッ!」

 

 と、聞いた途端に凄い勢いで振り向かれた。わかりやすっ。

 

「ああ、はい、どこの誰かは言いたくないんでしたね。別にいいですよ。でもこれだけ各所の神像がある中真っ先にガネーシャ神の像を見たから。故郷の神様が懐かしいのかなと」

「……」

「そうだとしたら、ちょっとだけ親近感ですね。父母の血筋はインドなので、私も何分か何十分の一かはそちらの血です。何世代も前だから、見た目は皆日本人ですが」

 

 途端、ランサーはまた凍ったようだった。

 

「父だと?身内がいるのか」 

「いますよ?母と姉です。今は出かけているからいないだけ」

 

 ほらほらほら、とガネーシャ神の隣に置いた写真立てを二つ取り上げる。

 ひと目で親子とわかる、似た顔立ちの母娘三人が並んでいるものと、ふにゃふにゃした赤子を真ん中に家族四人が並んでいるもの。

 ランサーは、何故かその写真が脆い砂糖細工の宝物であるかのように指先だけで触れた。

 

「祖父母は十五年前、父は十年前に亡くなりましたが、生きていたら皆してランサーに今のインドのお話してくれたかもしれないです。話好きの、よく笑うひとたちだったから」

「……そう、か。おまえには、家族との思い出があるのだな」

「ありますよ。うちは一応魔術師の血筋ですけど、全力で神秘を投げ捨てる方向へ突っ走る変な家なので、家族仲は普通の家族と近いはずです」

「魔術師は人でなしだとおまえが語れるのも、そのためか?」

「ははは。その辺りはまた明日にでも。あ、布団はそっちの押し入れにあります」

「不要だ。仰臥して寝る必要はない」

 

 言うなり、ランサーは狩人よろしく床に座った。

 座ったのだが、視線が机の上のガネーシャ神像と写真に向いていた。

 

「……見たいなら、こっちに置きますよ?私は寝るので、好きなだけ見てくれていいから」

「いいのか?大切なものだろう」

「写真は想い出を見るためのものです。構わないに決まってます」 

 

 ランサーの前にある低い卓袱台に置き直すと、嬉しそうに少し微笑む。

 

 ……つくづく、変わったひとだった。

 

 




このカルナは、月の聖杯戦争の記憶はあれど、アポクリファ聖杯戦争やカルデアには参戦していません。

また名前が出なかった主人公でした。
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