太陽と焔   作:はたけのなすび

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では。


Mem-2

 

 

 

 

 翌朝、早朝。

 冬木市外れの私の家。

 

「やっぱり夢じゃなかったぁ……」

 

 いたよいたよ、いましたよ。

 ランサーと名乗るサーヴァントが。

 森に置き忘れられた彫像のように床に座り込んでいた彼は、寝ぼけ眼の私に淡々と応えた。

 

「ある意味正しい反応だな。サーヴァントたるオレは一夜の夢。影法師に過ぎない。早急に契約を終わらせ、聖杯戦争から降りないか?」

「……ちなみに聞くけど、ランサーが勧めるの聖杯戦争離脱方法は?」

「令呪を以て命じるオレの自害だが?」

「昨日と変わってないーッ!一晩経ったらリセットされてるんじゃないですよーッ!」

 

 駄目だった。

 ランサーは自害させろさせろbotのまま、制服に着替えてペタペタとスリッパで廊下を進む私の後をついて歩き、辺りを見回していた。

 

「おまえ一人が住むには些か不釣り合いな館ではないか?」

「いつもなら母娘三人で住んでるんです。今は母が姉と海外行ってて、私が一人で留守番をしてるだけ。気楽なひとり暮らしをしてるのです」

「不在の間、家を荒らさないための家守りか。では、オレはおまえの日常の突然の闖入者だな」

「否定はしません」

 

 話しながら、さっさと野菜味噌汁に卵焼きにご飯という朝食定番メニューを二人分揃える。

 サーヴァントに食事は不要云々と言われたが、食べたら魔力消費が抑えられると言ったのはランサー当人。

 吐いた唾は飲めぬというヤツで食べてもらった。

 

 さて、登校までは時間があるので。

 

「改めまして、自己紹介します。私は白矢(はくや)曙宇(しょう)。白矢家の次女。後継者ではないし、魔術師でもありません」

「ショウ、か。良い名だ」

「あ、ありがとうございます」

 

 魔術師のとこじゃなくてそっちにツッコむんかーい。

 と思ったけど、ショウ、ショウと舌の上で飴玉を転がすように呟いているランサーを見ていると、別にいいかという気になった。

 

「ショウとはどんな字で、意味だ?この国には漢字という文化があるだろう?」

「え、ショは曙光の曙、ウは宇宙の宇ですけど」

「おまえの名は朝を担うのか」

「そうです。私が朝、姉が昼、母が夜。父は星でした」

「良いな。……本当に、良い」

「そ、そうですか?」

 

 名前の響きが少年じみていると言われる名前なのだが、ランサーに気にした風はなかった。

 日本の文化圏ではないが、漢字は理解しているというアンバランスな感じはある。

 纏う神秘の質的に、下手したら神代ぐらいには古そうなのに、持ちうる知識は現代……どころか未来の(・・・)が混ざっているような、不思議な感じ。

 ……まあ、これも我が家は人のコト言えないけど。

 

 改めて、食卓である卓袱台を挟んで向き合った。

 

「じゃあ当面、令呪とランサーを渡しても大丈夫そうな魔術師を探して交渉でいいですか?」

「昨日はそんな魔術師を引き当てる確率は低いと言っていなかったか?」

「だったんですけど、朝起きたら冬木市には条件に当てはまりそうな魔術師が一人は居るのを思い出したんです。……私の同級生の女の子なんだけど」

「つまりおまえと同じく、年若い魔術師の少女か」

「私たちは正確には東の伝承保菌者(ゴッズホルダー)とか言われてて、どちらかというと魔術使いです」

「ごっ……?……すまない。何だそれは?聖杯から与えられた知識にない」

「はい?聖杯から知識が与えられてるなんて知らないんですけど?」

 

 またかこの報連相なしなしサーヴァント!

 とはいえこちらも、伝承保菌者であるのを言っていなかったのは事実なので、お互い様だった。

 

「ゴッズホルダーは伝承保菌者と書く、魔術世界の存在です。すごーく旧い時代の神秘をそのまま保有し続ける珍しい存在で、私たちは一族単位で保菌者です。けど、これを絶やすために続いている家ですね」

「絶やす……?」

「普通に生きるのに、旧い神秘は要らないでしょう?だけど、うちは何代かに一人、高濃度な神秘を持った【先祖返り】……要は、神代そのままな魔術回路持ちが生まれてしまいます。この先祖返りが生まれないようにしようってのがうちの流れですら。まぁ、もう云百……千年は成功してないのですが」

 

 この場合の普通とは、生まれた時代の価値観に即して、誰かを殺さず誰かに殺されず健やかに生きよ、である。

 時代に価値観合わせて生き延びようねって言ってるのに、そんなもん知るかとばかりに数世代に一人先祖返りが生まれてしまう、因果な一族なのだ。

 尚、その中で私の立ち位置と言えば。

 

「私は単に当主の才能がなくて、後も継がなくていい気楽な次女です」

「おまえが?……懐かしい気配を感じたのだが」

「それ、単純に私の両親がインドの血筋を持ってるからではありませんか?」

 

 何でインドの神秘を継いだ保菌者一族が日本にいるのかって?

 

 ─────異国人と結婚したら、因果が外れるかもって血の交わりを試したご先祖たちがいたからだよ!

 

 だが、選んだ花婿数名────主にこの国のサムライたち────が皆別種の神秘持ちや神秘殺しだったので、先祖返りのカルマは薄まらず大失敗。

 ご先祖様たちは、揃いも揃って伴侶の趣味が斜め上どころか星の彼方に突き抜け気味だったらしい。なんでさ。

 そうして薄まるどころか、血族の因果は部分的にキメラ化して事態は悪化。

 とかやってる間に、本家は植民地独立の諸々の戦争に巻き込まれて壊滅。

 日本に渡った分家に先祖返りが出るようになり、今に至るまで生き延びてしまうという映画みたいなオチになっている。

 いや本当にどこのインド映画?三時間超えますよね?

 私の瞳も、ご先祖様の血が出てか一人だけ青いしね。

 

「因果な業を背負ったものだな。事の始まりは何だ?」

「むかーしむかし、それこそマハーバーラタくらいの頃に何かあったらしいけど、わからなくなりました。解明したら因果が強まりそうだから、皆触れられなくなって。そも、マハーバーラタの頃が始まりってのも眉唾ですが。でも先祖返りは体まで変質してくらしいから、相当強いナニカと関わったんでしょう」

「……血の交わりがあったなら、相手は神かもしれない。重い因果とは感じないのか?」

「家族がいるので特に」

 

 諸々な争いに巻き込まれようと、生きてきたのが我が一族である。

 第一。

 

「特別に生まれても、特別になる必要はない。父さんは、姉さんと私にそう言ってくれたから。多くを与えられて生まれたとしても、望んでない贈りものなら報いなくていい。神秘の子であるよりも、おまえたちは私たちの娘なんだって」

「……」

「何より、私はひとりじゃありませんから。父さんはいなくなっちゃったけど、母さんと姉さんは元気ですし。今は二人とも仕事で地球の反対側にいますが」

「そうか……そうか……そうなのか……」

 

 ランサーの薄い水色の瞳が、丸くほどけた。

 何だろう、よくわからないけど、とても嬉しそうな空気だけはわかる。

 昨日会ったばかりの人間の身の上話でこんなに感情が乱高下になるって、大丈夫かなこの人。

 映画のエンドロールで泣いて立ち上がれないタイプ?

 

 ひとしきり、嬉しくてたまらないというやわらかな空気を醸し出したあと、ランサーは断固たる決意を宿した眼で言った。

 

「では、平和の中で育てられたおまえは聖杯戦争から降りるべきだな。七人七騎の殺し合いなど、この世で最もおまえに相応しくない。なので─────」

「平和の中で育てられたから、しらふで人に自害なんて命令できないメンタルなんですけど?」

「……くっ!」

 

 卓袱台を叩き割りそうな勢いで呻くランサーであった。おもしれーひとだな。

 

 

■■■■■

 

 

 で。

 多少揉めつつも、登校時間になったわけだが。

 玄関で、またしても揉め事が起きた。

 

「学び舎に通うのは素晴らしいとは思うが、聖杯戦争のマスターとなっている間だけでも通わない選択肢はないのか?」

「学校のほうが却って安全じゃありませんか?神秘は秘匿するのが普通だから、人目のあるところでサーヴァントは仕掛けてこないですよ、多分」

「多分」

「戦争なんでしょう?だったら可能性の割合でしか判断できないんじゃないですか?なら、普通の学生をやっていたほうがマシって確率もあるのでは?ってコトです」

「……」

「あと、ランサーは人前だと自分が戦闘しにくいっていう不安が入ってるんじゃないですか?」

 

 言いながら、通学用スニーカーに足を突っ込む。要は、断固登校するという意思表示である。

 ランサーは腕を組んだ。

 

「……そうらしい。だが何故わかる。オレは生前、粗野で人の心を持っていないとよく称されたのだが」

「あなたの時代の余人の感想など、それこそ私の知ったコトじゃありませんが?」

 

 ランサーの生前とか、知らないもの。

 インド系で、黄金の目立つ耳飾りと鎧をつけていて、槍兵になりえそうな英雄の該当者はいるけど、本人が聞くなオーラを醸し出しているから聞けないし。

 

 でも、ランサーが本当に【そう】だとしたら。

 

 原典と印象ちがくない?

 とは思う。

 

 言って、我が家も事の始まりの因果は伝わってないから、どんどん歪んで行くのが英雄譚というものだろう。

 そんなこんなで、いざ登校……なのだけど。

 

『学び舎……今世では学校というのか。楽しいか?』

 

 並んで歩いていると、霊体化したままのランサーは久しぶりの再会を喜ぶ親戚のような親しみを込めて話しかけてきた。

 姿は見えなくても、何となく【いる】感覚は昨日より感じ取れる。マスターとサーヴァントのラインが強化されたというコトか。

 

 さて、ランサーの疑問に応えるために頷くと、白い息も漏れた。

 今は冬。

 冬の名を持つ街の空気は冷たく引き締まり、手袋とマフラーごしでも冷気を感じる程度の寒さだった。

 澄んだ空気の中、私は頷く。

 

「楽しいです。勉強して、友達がいて、遊んで、また勉強する。私たちは【普通】をなぞって真似ているだけなところはあるけど、模倣も繰り返せば本物になる精神で続けています」

『一途に凡俗を目指しながら、子孫のありふれた幸福を願うおまえたちの一族らしい在り方だな』

「ありがとうございます。でも、そういうコトするから我が一族は正規の魔術師たちから見たら、嫌われ気味です」

 

 生まれながらに神秘を備えているのに、それを薄めよう、徒人にしようと躍起になるのだから。

 至れば全知全能となれる根源、アカシックレコードを目指して代を重ねる魔術師からしたら、何やってんだ価値のわからぬあの気狂いどもは、という感じ。

 しかも、数世代に一人、確定で神代回帰の先祖返りが爆誕すると来た。

 

 うん、もうね、女系一族なのも相まって、割と胎を狙われるんですな、コレが。

 

『何……?』

「ピキらないでください。それを防ぐため、うちは皆して戦闘系魔術を修めるんです。だから家系は続いているし、割と強いですよ?」

『無才だと言ったおまえの背負った危険は、他の一族と比べても桁外れに高くはないのか。聖杯戦争などという、おまえの戦いではない争い事にかまける暇はないだろう』

「才能がないって言ったのは当主としてです。あと、私のご先祖様、皆して刺客を返り討ちにするか婿にするかしてるので、悲観するものでもないです。最早、アグレッシブな婚活みたいな扱いですから」

『…………カーリー女神か?』

「あそこまでダンサブルではありません」

 

 もうインド系であるコト隠さなくなってきてないだろうか、このランサー。

 

「私が言いたいのは、サーヴァント相手は無理でも、マスター同士ならちょっとは私も善戦できるかもってコトです」

『考慮はするが、頼りにはしない。サーヴァントはマスターを護るものだ』

「ソレ、あなたに特有の衝動ではないのですか?サーヴァントには願いがあるんでしょう?それを叶えられるモチベーションがないと、英雄は普通の人間の使い魔になんかならないと思います」

 

 一騎当千、万夫不当の英雄が、ただの人間の使い魔にして召使い、場合によっては強制的な自害もさせられるサーヴァントになるなんて、見返りがないとおかしいと思う。

 特に、正々堂々気質な英雄と根源のためならば時に子孫すら贄にする魔術師なんて、相性が悪そうだし。

 

 が、ランサーは違ったらしい。

 

『オレは英霊だ。後に続いた、今を生きる者を護るのがサーヴァントであると己に課している。だが、サーヴァントの中には第二の生と捉え、欲望のままに振る舞う者がいるコトを否定はしない』

「ふぅん。だけど、欲望一直線ルートも別に人としてありでは?そも、あなたはあなたで初対面の私への配慮があり過ぎです。幅が極端かと」

『オレには、願いが既に叶っているがゆえの余裕があるだけだ。この世の何より尊ぶべきおまえの日常を続けさせる以外、願うものがない』

「だったらその、もう叶った願いを教えてくれてもいいん……って、この世の何より尊ぶべきは言いすぎ!言い過ぎです!」

『過ぎていない。おまえの眼が曇り、その価値に気がついていないだけだ』

 

 こんの、とちょっと腹が立って言い返すコトにした。

 

「価値ならわかってるよ。父さんが亡くなった日に、当たり前の日常が同じように続くのはあり得ないって、思い知った」

 

 からり、と冬の風が私とランサーの間を駆け抜けた。

 

『……すまない。今の発言は浅慮だった』

「ううん。あなたの気遣いはわかるから、気にしません。でも、頼りにしないはやめてほしいです。……なんだか、どうしようもなく寂しくなりますから」

『寂しい、か』

「はい。……あれ?何でだろ?」

 

 普段の自分なら、あまり思わないコトだ。

 

 私にとって、寂しさは耐えるもので訴えるものではないのに。

 

 というか、昨日会ったばかりの英霊に頼りになんてされるわけないのが当然なのに、どうしてそう踏み込んだコトを思うのだろう。

 

 ランサーという(推定)旧い神秘に触れたら、回帰ぎみな一族の血が騒いだのか。

 

「……それはマズいな」

『何がだ』

「いや、同じ場所に留まるには、どうすればいいのかなっていう問いが浮上しただけです」

『……では、歩き続ければいい』

「ははっ、至言ですね!アリスですか?」

 

 同じ場所にいたければ、走り続ければならない。鏡の国の良い言葉だ。

 それはそうだ。他に方法なんてないんだもの。

 

「なら、わざわざ聖杯戦争という殺し合いに参加する人たちも皆願いがあって、行きたい場所があるんですよね。まぁ魔術師が参加者なら、ほとんどの願いは根源への到達になるんだろうけど」

『この土地の聖杯は、あくまで目的地への短縮を行うだけだろう。千年かかる根源への道を縮め、達成させるだけだ』

「待って待って。願いを叶える方法が正しく根源に繋がってなかったらどうするんですか?聖杯は、勝者をどこへ連れて行くんですか?」

『……オレはその問いへの答えを持ち合わせていない。魔術師に問えばいいだろう。オレに言えるのは、アレは、完璧であるコトを求められた神の奇跡の具現ではないというコトだけだ』

 

 それもそうか。

 ランサーはどう見ても、魔術師ではなさそうだから。

 歩いている間に、見えてきたのは私が通う学校、穂群原学園。

 しかも誂えたように、校門近くにいる黒い髪に赤いコートの顔見知り。

 

「遠坂さん!」

 

 才色兼備と名高い同級生は私の声に振り向いてくれ─────そして、薄く実体化した隣のランサーを見た途端、目と口を丸くした。

 

 ─────あれ、何か間違えた?

 

 

 

 




主人公は現代人なので普通に名前あります。
ショウちゃん(♀)です。

明日は同じ時間にカルデア・プリテンダーの番外編を投稿します。

リクエストにお応えしたつもりのものなので、楽しんで頂ければ幸いです。

新撰組のアヴェンジャーと特異点でわちゃわちゃします。
サイボーグ剣士に弱かった作者です。刀使いのギミック砲術好き。
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