太陽と焔   作:はたけのなすび

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では。


Mem-3

 

 

 

白矢(はくや)さん?あなたの家は、前私に言ったわよね?聖杯戦争に関わる気はないって」

「ごめんなさい。それ、母が遠坂家と約束したコトで私は先祖に誓って何も聞いてなかった。聖杯戦争すらも知らなかったんだ」

「はぁ⁉ふざけてるの!……ふざけてるのよね!」

「ごーめーんー!いやごめんで済んだら教会も協会もいらないけど!」

「本当よ!」

 

 穂群原学園、屋上。

 人避けの魔術を施した簡易結界内で、怒髪天の同級生と私がいた。

 ランサーは、私の後ろで待機している。

 

 実体化してはいるランサーを見て、一瞬引き攣った顔をした凛はすぐに我を取り戻して怒髪天した後、優雅な仕草を取り戻した。

 

「……確認するわ。あなたは深夜、うっかりでランサーのサーヴァントを呼び出した。でも聖杯にかける願いはないし、戦争から降りたい。だからランサーの契約先を探してて、私に声をかけてみた、と」

「概ねそう。若干訂正させてもらえたら、私よりもランサーがちょっとアレなんだけど……」

 

 空に輝く太陽を見つめるだけだったランサーが、そこで口を開いた。

 

「オレに、聖杯にかける願いはない。ただ、マスターを聖杯戦争から離脱させ、変わらぬ日常を生きるようにしたいと願うのみだ。……よって、昨晩は令呪三画による自害を願い出たが断られた」

「……はい?」

「昨日からこの調子で、積極的に自害したがってるんだ、このひと。令呪全部使ったら私のマスター権も消えるから、一石二鳥のつもりらしい。とにかく、私を生き残らせるコトしか見てない」

「…………戦いたくない、というわけじゃなく?」

「それなら、私に何も言わずに槍で喉を突いてるだろうね……」

「……」

「それから、真名は言いたくないと言われたから私は知らない。願いはもう叶ってるらしくて、聖杯も要らないんだってさ」

 

 改めて言語化すると、どうなってるんだろうか、ランサーの精神構造って。

 滅私の一言で済ませられないくらいで、何でそこまでするのかと思う。

 精神が高潔なのだろうとは思うけど、それにしてはマスター()への態度に情が多い。じんわりムキになっているような気配すらもある。

 

 初対面の、ちょっと変わった境遇であるだけの一般人に対して、英雄がムキになるなんて道理がない。

 まさか、遠いご先祖様じゃないだろうな。ないはずだけど。

 

「やっぱり色々ふざけてるわね。そんな大英雄を触媒もなしに呼び出しておいて、やる気がないのはどういうわけかしら?」

「だって私、説明を聞いても聖杯に叶えてほしい願いがないんだし、勝つ気も起きなかったんだよ。……ん?ランサーって大英雄なの?」

「気配的にそうでしょう!あーもう!何でこのドッッッ天然記念物に三騎士の一角が召喚されるのよ!触媒はどうしたの!」

「記念物は否定できないけど、ドッッッがつく天然呼ばわりは心外だよ、凛。それに触媒は多分、私の血筋?」

「そういうところよ!正直に答えてどうするの!私は冬木の遠坂家の当主としてマスターになる。つまりあなたの敵よ!」

「あー……凛は聖杯戦争に自分で参加したいタイプかぁ……」

 

 なら、ランサーの譲渡は無理だな。

 

 という私の諦観を感じ取ったように、ランサーが首を傾げてこちらへ視線を寄越していた。

 あとで、と口パクで応え、凛に向き合う。

 

「遠坂さん、きみは御三家の一人として聖杯戦争に参加する。でもまだ召喚はしていない状態で合ってる?あれかな、きみたち御三家には優先して令呪が与えられるとか?」

「……ええ。その通りよ」

「狙い目は三騎士っていう強そうなクラスのどれか?」

「正解よ。ランサーの情報をくれた貸しを作りたくないから教えてあげるけど、聖杯戦争のクラスはセイバー、アーチャー、ランサーの三騎士と、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの併せて七騎。このうち、最優がセイバーと言われているわ。各クラスの名前の意味はわかるでしょう?」

「剣士、弓士、槍士、騎士、魔術師、暗殺者、狂戦士だね。助かるよ、遠坂さん。ランサー、悪気はないんだけど報連相が上手くないみたいで、それも今初めて聞いた」

 

 視界の端でランサーがぴくりと動いたが、敢えて見なかった。事実だろう、と。

 情報の取捨選択が、多分へたくそなのだ。

 

「じゃあ、遠坂さんの狙いはセイバー?」

「当然よ。聖杯戦争の勝利は遠坂家の悲願。聖杯にかける願いはないけど、戦いには勝つわ」

「きみらしくていいね。……うん、色々ありがとう、遠坂さん。じゃあ、次に会ったら殺し合い?」 

「相変わらず掴みどころのない人ね、白矢さん。でも、そういうコトになるわ。……あと、一度は教会を訪ねておきなさい。あそこの神父が監督役だから、説明ぐらいはしてくれるわ。聖杯戦争を降りるにしろ、戦うにしろ、ね」

「有り難い情報だけど、監督が言峰神父なの⁉魔術儀式だよねこれ!」

「そうよ。諦めなさい」

「うゎーん……ヤダー……」

 

 できる限り近寄るなと、母に言われている筆頭だった。

 神父で魔術儀式の監督役であの明らかに戦える身の熟しをしてる時点で、食わせ者なのは確定しているのに。

 

 個人的な印象としては、血の臭いと祈りの匂いが同居していて鼻がバグる、何なのあの人という感じだ。

 心臓空っぽみたいな時すらあるし。

 要は、苦手である。

 

 かなり情けない顔になったであろうこちらに苦笑を向けて、遠坂凛は屋上から去った。去り際に結界も外してくれる。

 あとに残ったのは、ランサーと私だけだ。

 

「……というわけだから、凛との契約は無理ですね。諦めましょう、ランサー」

「マスター」

「ランサー、私は凛の意志と覚悟を尊重したいんです。だから、無理」

 

 もとい、無駄である。

 

「遠坂凛は、自分の剣は自分で掴み取る。何が何でもそうする人間です。その彼女が、セイバーを狙うってはっきり言いました」

「……」

「私が知ってる彼女は、そういう人だから」

「随分簡単に諦めるな。おまえの日常を想う心はその程度か?」

「私がここまで生きてきた日常にいた遠坂凛との記憶を元にした判断です。ランサーは、私の今までなんて知らないでしょう?……私も、ランサーがどんな人かは知らないけど」

 

 そもそも教えてくれないんだもの。

 

 同じ年に同じ街に生まれ、曲がりなりにも幼なじみをやってきた少女と、昨日会ったばかりの槍兵では、どちらに寄った判断になるかは言うまでもなかった。

 

 だが同時に、凛と殺し合いなんて普通に嫌である。

 ランサーはまた口を開いた。

 

「この街の魔術師は、完全に先ほどの少女だけなのか?」

「ううん。もうひとつ……いや、ふたつかな?縁があるのはいるけど、一つは没落して、もう一つは偶にしか来ません。どちらからもマスターは出るだろうけど、どちらとも私は関わりたくないんですよね」

「何故だ?」

「蟲と人形。腐敗と停滞だから。蛇じゃないだけいいけど」

 

 我が一族、皆して蛇が嫌いなのだ。

 例外は婿に来てた父ぐらいで、母姉私は蛇が嫌いである。

 殺しはしないけどゾゾッと背筋が寒くなるし、母に至っては蛇系魔術師となるとブチのめしのギアが上がる。

 蛇、とランサーは呟いて遠くを見透かす目になった。

 

「あれは食べると美味いと言っていたな。事実、美味だった」

「誰がですか。確かに美味しいけど臭みを抜かないと」

「ああ、同じコトを言っていた。……好物なのか?」

「アレよりはカエルが良いし、カエルよりは魚が好きです」

 

 何の話をしているんだ。

 

「……ランサー、あなた、早く私を離脱させたいと言うけど、私との会話や時間も楽しんでますよね?どうしてですか?」

 

 早く離れるべきだ。

 けれど、まだ共にいたい。

 ランサーの態度から感じるのはそういう矛盾だ。英雄としては、ささやかに過ぎる情だと思う。

 人好きのする性格ではなく、人が好きな性格なんだろうか。

 ランサーは驚いたように目を瞬かせていた。

 もしや自分の態度のちぐはぐさに、気がついていなかったのだろうか?英雄なのに、そんなのあるのかな。

 

「……そう在るのが、オレには自然というだけだ」

「うーん……?人が好きなんですか?」

「否定はしないが、乏しい情報と狭い視野で問いを解こうとするのは無駄な行為だ。早急に視点を切り替え、聖杯戦争からの離脱を進めるべきだろう、マスター」

「蛇が美味しいって急な右ハンドル切ったのあなたですけど?」

「む」

 

 仕方ない。

 とりあえずまた別の手を考えようと、屋上からの階段を降りて階下についた時だ。

 

「白矢じゃないか。随分早いね」

「まっ、とう慎二くん、おはようございます」

 

 同級生の男子の出現に、ぴたりと足が止まる。ついでに声もひっくり返りかけた。

 ウェーブのかかった髪に整ってはいる顔立ちをした同学年の男子、間桐慎二。

 先程ランサーに言った、『没落した蟲の家』の少年は、霊体化したランサーの気配に気がつく様子もなく、ずかずかと近寄って来た。

 

「か弱い白矢が早起きなんて珍しいね。また弓道場の見学かい?」

「ち、違うよ。何となく早起きしたから、教室で勉強しようと思って」

「相変わらず真面目だなぁ。体育の授業に出られない成績を、まだ気にしてるのかい?」

「そんなところかな……」

 

 ちらりと間桐慎二の全身を視てみるが、令呪のような『兆し』はなかった。

 凛にはぼんやり被さって視えたソレがないのを見るに、慎二にマスターの運命は用意されなかったらしい。

 

 ─────だってないからな、魔術回路。

 

 少し安心するのと同時、どうやってこのお喋り野郎から離れようかと思う。

 体育の授業もできないほどか弱い少女で、魔術師の後継者争いで姉に敗れた妹である私に、彼はよく絡む。

 

 心置きなく、見下せるからだ。

 

 だが同時に、間桐慎二は阿呆もするけど馬鹿ではない。

 だから、悟られそうでこちらとしてはびくびくしているのだ。その設定が、部分的に嘘だというコトを。

 

 だって、確実に大荒れするから。

 まだ手袋をつけたままだったのが幸いして、慎二は私の手の甲に出ている刻印、令呪には気がついたふうはなかった。

 

『マスター、誰だ?』

『同級生の間桐慎二です。さっき言った蟲の魔術師一族の、魔術師じゃない人』

『……そうか。変われば変わるものだな』

『ん?似てる人でも知ってたんですか?』

 

 と、言うか。

 事前説明なしに念話使ってきてるぞ、このランサー。

 さっきの私が声を出せた環境とちがい、今は私も念話に切り替えないといけない場面なのはそうなのだけど、私に念話を返す技術がなかったらランサーは喋りっぱなしになっていたろうに。

 双方向の念話ぐらい私ができると確信でもしてたような投げっぱなしムーヴはやめれ。

 

 と、ランサーに脳内ツッコミをしていると。

 

「おい、聞いてるのかよ、白矢!」

「あ、ああ、うん。朝練見に弓道場に来いって話?お断りするよ。迷惑になるから、人がいない時に行くって決めてるし。……それよりさ、間桐くん」

 

 じぃ、と間桐慎二の眼の奥を視る。

 どれだけ眼を凝らしても、彼には何もない。線が走っていない。

 けれど、彼も魔術師の家に生まれたのだ。

 意味するところは、つまり。

 

「早く喚び出さないと、死んじゃうんじゃない?私なんかに構ってる暇、あるの?」

「なっ……!」

「聖杯戦争、近いんでしょう?喚べないなら、冬木から離れたほうがいいと思うよ、間桐家の慎二くん?」

 

 本当に。

 間桐慎二がサーヴァントを喚べなかろうが、間桐の名を持つなら危ういのは間違いなく。

 だったら、街から離れるのが一番手っ取り早い離脱方法だろう。

 そう思ったからこその一言は完全に余計だったようで。

 

「ふざけるなよ!負け犬のくせに!」

「わっ」

 

 ドンッ、と勢い良く私を突き飛ばして、怒りで顔を赤くした間桐慎二は去って行った。

 尻もちを着いたまま、荒い足音を立てる少年を見送り、あーあ、と天井を見上げる。

 

「またやっちゃった」

 

 立ち上がってスカートの裾を払い、ランサーがいるあたりを視る。

 ぼんやりと、白髪の青年のカタチが視えた。

 

『ごめんなさい、ランサー。それから、ありがとうございます、動かないでくれて』

『……マスター』

『うっ、はい。反省します。今のはまずい発言でした』

『自らが窮地にあるのに、安易に他人に手を差し伸べるべきではない。自覚の乏しさは取り返しのつかない事態を引き起こすぞ』

『そうだけど……そうだけど、間桐くんも小さい頃から知ってる相手ですよ?死んでほしくない』

 

 向こうは今ので私への感情は最底辺に落ちただろうし、元々蔑んでいただろうけど、私は間桐慎二を別に嫌ってない。

 死なれたら悲しい。

 消えたら寂しい。

 そういう、普通の相手だ。

 生命を懸けてまでは助けられないけど、生命の懸かった忠告はする。

 

『おまえが間桐慎二を気遣おうと、届くコトはないだろう。あれはおまえを見下し、己の心の安寧を保つ人間だ』

『言われなくてもわかってます。それは、間桐くんの危険を見過ごす理由にはなりません』

『わかっているのに何故口にした』

『言わないと何も伝わらないでしょう?』

 

 はぁ、とランサーは深くため息をついたようだった。

 

『おまえの頑固さはひとまず今は収めよう。改めてだが……怪我はないか、マスター』

『ありません!ちゃんと受け身を取って転びましたから!ちなみに、か弱いってのは嘘だからよろしくお願いします!』

『わかっている。転んだのすらも演技だろう。……虚弱という虚構を維持するためとはいえ、転ぶのは感心しないな。危ないぞ』

『はーい。……何で嘘ついてるか、聞かないんですか?』

『察した』

 

 察しが良いならそれを口に出してくださいよ。

 

 と思いつつ、教室へ向かおうと角を曲がったところで。

 

「白矢?」

「あれ、衛宮くん」

 

 またしても同級生の、衛宮士郎と鉢合わせした。

 ぶっきらぼうだが心根の優しい彼は、こちらを見て訝しげに眉を上げる。

 

「白矢、さっき慎二が怒ってこの辺から出てきたんだけどさ、もしかして……?」

「ああ、うん、ごめん。私が原因。余計なコト言って怒らせちゃったよ」

「……そっか。多分慎二が悪いんだろうけど、白矢も気をつけろよ」

「うん、肝に銘じる。……ところで衛宮くん」

 

 ぼんやりと、同級生に重なって視える『影』に、私は目を細めた。

 

 ああ、やだな。

 こんなところにも殺し合いの切符が視えるだなんて。

 でも視えた以上、忠告せずには居られなかった。

 

「早く喚び出さないと、きみも死んじゃうよ?」

「……ん?」

「じゃあね、人助けも程々にしたほうがいいよ、衛宮家の士郎くん」

 

 言って、ひらひら手を振って衛宮の横を通り過ぎる。

 

 ぼそり、と霊体のランサーが呟いた。

 

『人助けを抑えるべきなのは、おまえだろうに。身を滅ぼしたいのか?』

『鏡を見て言ってもらえますか?開幕爆速自害宣言ランサーさん?』

『……』

 

 不毛すぎる舌戦の虚しい勝ちだけを拾い、私は教室に入るコトとなったのだった。

 




カルナの安心ポイントは1話がマックスで、あとは下り坂です。

冬木在住神秘持ち家系が、ずーっと平穏に暮らせるかと言われたら、まぁ…。

明日か明後日はぐだぐだ鯖との番外編の続きを更新します。
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