太陽と焔   作:はたけのなすび

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ここすき、感想、評価、誤字報告、ありがとうございます。

では。


Mem-5

 

 

 

「バゼット(ねえ)さーん!こっち、こっちです!」

「曙宇」

 

 母さんの『すぐ』は本当にすぐだった。

 ランサーの召喚から五日後には魔術師─────バゼット・フラガ・マクレミッツは、冬木に到着していたのだ。

 尚、間の三日こちら二人が何をしていたかといえば、真面目に聖杯戦争の準備をしていただけである。

 こちらの召喚はかなりフライングだったようで、他の陣営は誰も何も喚んでないらしかった。

 勿論その間、学校にはしっかり行った。霊体化したランサーもセットで。

 凛には三度見され、間桐慎二には舌打ちされ、衛宮士郎はぼーっとしていて、間桐桜にはいつもの如く目を逸らされただけである。

 

 そんなこんなでランサーと共に駅まで迎えに行った魔術師バゼットは─────。

 

「お久しぶりです、曙宇─────では、ぶっ飛びなさい!」

「やると思いましたァ!」

 

 問答無用で、殴りかかってきた。一応、手袋無しで。

 飛んでくる封印指定執行者の拳。

 時速何十キロあるんですかって剛腕を、前に踏み込んで間一髪で避け、密着した状態で鉄砲の形にした指をバゼットの顎下に突きつける。

 

「はい!これでどうですか!一撃避けて一発入れました!」

「……いいでしょう。だが欲を言えば、急所に触れれば問答無用に魔術を撃つべきです。やはりあなたは魔術師としては甘いですね、曙宇」

「同盟候補の首から上吹っ飛ばすのは、人でなしの領域超えてると思うんですけど!」

「ご安心を。────あなた程度に吹っ飛ばされる首ではありません」

「……ソウデスカ」

 

 やっぱりヤバい人だよと思いつつ、そそくさとバゼットから離れる。

 黒いスーツに赤い髪の麗人だが、中身がほんとすっ飛んでいる人なのだ。姉さんより歳上なのに。

 今更だが、私たちはこのやり取りを駅近の広場でやっている。

 周りからはバゼットの拳は速すぎて見えなかったろうし、こっちの動きも親愛のハグの型崩れに見えなくもないはず。

 それでもギリギリだ。

 でも、やらないと同盟は組んでくれなかったろう。

 

「今の一撃程度に反応できないなら、同盟など組めないと思っていましたが、曙宇は応じました。手を組むコトに異存はありません」

「ありがとうございまーす……。て、こっちのランサーを見てもないのにいいんですか?この辺にいますけど」

 

 ランサーが何となく『いる』虚空を手で示すと、バゼットは首を傾げた。

 

「マスターはマスター同士、サーヴァントはサーヴァント同士で決めればよいのでは?」

「あ、はい。……あとでランサーにも挨拶お願いしますね。凄い変な顔をしてこっちを見てるみたいなので」

 

 そしてこちらの脳内ではこれでもかと、霊体化中のランサーからの苦言が積み重なっている。

 バゼットはほぼ確実に殴りかかってくるが、これは私が自力で対応できないと同盟なんて組んでくれないので絶対に手を出さないでとお願いしたのにこれである。

 

 このひと、私に忠告するときは格段に語彙増えてると思う。

 

 数日間、ランサーは近所の人たちとも『しばらく白矢家に滞在する外国人の親戚。名前はランチャー』として交流していたのだが、彼らとも普通に会話はしていたのだ。

 親愛なる我らが隣人たち(衛宮士郎含む)に、『V系バンドの無口で馬鹿力な変な外人の兄ちゃん』扱いをされているのにも関わらず、「それも良し」だそうだ。良いのかそれ。

 ランチャーって偽名の意味は何。

 

「というかバゼットさん、協会からの監視の魔術師いないんですか?普通、いるものでは?」

「いません。元より英霊を召喚すれば斃すつもりでしたが、夏夜さんから『殺さずに追い返せ』と言われたのでぽいと」

「ぽいと……千切って捨てて来たと……?」

「ええ。拠点にあなたたちの屋敷を借りられるとも聞いています。協会の魔術師に踏み込まれるのは、曙宇も望むところではないでしょう?」

「はい。あと、もう母から聞いているかもしれませんが、ランサーも私も聖杯は要りません。バゼットさんが持って帰ってくれて結構です」

「それについては後で何かしらの制約を交わしましょう。私は未だ正式なマスターとは言えませんから」

「はーい」

 

 こんな感じで、封印指定執行者という実質魔術世界の処刑人とも、何となくコミュニケーションが取れるのがうちだ。

 

 始まりは、どこぞの狩場でのバゼットさんと姉のバッティング。

 

 淑やかな外見と言動のまま、怪物(グールとか)を剣で斬り伏せる歳下の少女に興味を惹かれたバゼットさんは、後日可憐な少女めいた外見の女性が、怪物(蟲っぽいモノ)の首を片端から円月輪(チャクラム)で落とすところに遭遇。

 

 で、帰還したロンドンにて、その二人が母娘かつ妹がいると知った。

 知って、以後交流してくるのだ。

 

 玉鋼の麗人という印象だけれど、内心乙女めいた趣味のあるバゼットさんのコトだ。 

 多分、()()()()()、舞うように剣を扱う姉さんや、子どもを二人も持ちながら愛らしい少女めいた母さんに憧れてるんだろうだなぁ、と思う。

 

 鳥兜の笑みで魔術師を縦斬りにする姉と、夾竹桃さながらの笑顔のまま人間を斬首できる母なんですけど、というツッコミは、うん、控えた。

 

 だが、バゼットさんのコトは嫌いじゃない。

 むしろ好きだ。強いし、格好良いし。

 

「それにしてもショウは変わりありませんね。英霊を喚び出し、聖杯戦争に参戦しようというのにまるで変わりない。気が抜けているのか自然体なのか、判断がしづらいです」

 

 駅前広場を抜け、我が家のある山の方へ向かいながらバゼットは肩をすくめて言った。

 霊体化ランサーが、うんうんと頷いてるのが視える。何してるんだホント。

 

「五日一緒にいたらランサーにも慣れますよ。それに身構えてたら、あいつ参加者だなーってバレそうですし。……あ、あと私が通ってる学校には私以外に三人はマスターになれそうな生徒がいるので」

「誰ですか?すぐトりに行くべきでは?」

「まだサーヴァント喚んでなさそうなのでそれはちょっと……。誰かはあとで言いますね」

 

 とるって()るってか。

 執行者としては珍しくない思考回路だけど、それはちょっと待ってほしい。

 

「サーヴァントのいないマスター候補を倒したら、マスター権が知らない誰かに渡ってしまいます。なら、私が人と成りを知っている人がマスターのままのほうがいいです」

「……ショウは、友人と戦えないから聖杯戦争に乗り気でないと聞いていたのですが?」

「戦えないんじゃなくて、殺し合いしたくないんです」

「……生命を奪わず戦おうなどと、甘い考えは捨てるべきだ」

『必ず生命を獲り合うのは、あくまでサーヴァント同士だ。マスターが必ずしも殺し合う必要はない』

 

 と、私の補助付きの念話で入り込んだランサーにバゼットは頭を振った。

 

「……何処の英霊かは知りませんが、奇特なサーヴァントを引いたようですね」

「それは本当にそう。……初っ端数時間は自害させろモードだったくらいなので」

「……なんですって?一体誰を喚んだんですか」

「真名は教えてもらってないんです。言いたくないって言うので。あ、でもバゼットさんより強くて、多分インド系?」

「確かに、あなたが触媒なし一発勝負で喚べばそうなる確率は高いのでしょうが……」

 

 大丈夫かこいつら。

 と言わんばかりの鳶色の瞳だった。

 だけど。

 

「ランサーは、強くていいひとですよ?」

「強い……のですか?既にどこかのサーヴァントと前哨戦を?」

「してませんけど、ランサーは強いです」

 

 色々言ったけど、根本その情報さえあれば私はいいのだ。

 信頼できるか、そうでないか。

 信じたくなるひとか、否か。

 それぐらいしか、私にはわからないし求めない。

 

 いやさすがに、聖杯戦争のシステムはもう少し説明ほしいと思ったけど。

 

 さて肝心のランサーの反応は。

 

『おまえは天衣無縫なのか暴虎馮河なのか、判断がつかんな、マスター』

「……あ、あはははー」

 

 バゼットは、そんなこちらを見て覚悟を決めたようだった。

 

「…………ひとまず、私はサーヴァントを手抜かりなく召喚するとしましょう。そちらの霊地の性能は以前屋敷に招かれたときに把握していますし、相性はいい。場所を借りる旨は夏夜から話が通っているはずですが」

「はい。来てます。大丈夫ですよ」

 

 そのために、昨日の夜から今日の朝まで庭を整えたり蔵を掃除したりと、場を作るための下準備をしていたくらいだ。

 風水的に整えるためと頼んだら、庭の石をひょいひょい運んで配置換えをしてくれたランサーは大いに頼りになった。

 

 と、そんなこんなで迎えた深夜の英霊召喚。

 

 さすがに『その場』に立ち会うわけには行かず、蔵をバゼットに譲ってランサーと二人して縁側に並んで座った。

 

「今日もありがとうございました、ランサー」

「造作ない。……話を変えるが、バゼットなる者は、いつもあの愚直さなのか?」

「そうですね。封印指定の執行者……つまり、魔術協会の死刑執行人みたいな人ですけど、強すぎて真面目すぎてそうなった人みたいで」

「……」

「私にとっては、外の世界から来る強いお姐さんですね」

「おまえは、生まれてこの方冬木の街から出たコトがない、と?」

「ありません。でも十八になったら出られるんです。姉さんもそうだったから」

「今のおまえは幾つだ?」

「十七です」

「…………あと数ヶ月ずれていれば、街の外へ逃げる選択肢があったのか」

 

 あ、そこを気にしていたのか。

 本当に、私をありとあらゆる手段で生き残らせようとしてくるサーヴァントだ。

 こちらは黙して、ランサーの白髪が風に揺れているのを眺めていた。

 

 そこまでされるのが、申し訳なくなってくるくらいだった。

 

 この状況も、元はと言えば、私がランサーを自害させられないと泣き言を喚き散らかしたコトが原因だ。

 彼の望み通りにしていれば良かったのか、とまったく思わないわけではない。

 それでも、未だに私は、ランサーに自害をしろと言えないのだ。

 頭の中で遠坂凛と衛宮士郎に武器を向けるコトはできるのに、想像であってさえもランサーに令呪を突きつけられない。

 魂か遺伝子か、或いはその両方が、全霊で拒否してくるのだ。

 

 私は、彼を、殺せない、と。

 戦もなしに、無防備に死なせられない、と。

 

 何故か、わからないけれど。

 

 自分は、そんなすぐ他人を好きになる人格ではない。

 バゼットさんと今のように話せるまで、年単位でかかった人見知りだというのに、どうしてこうなった。

 

「マスター、どうした?眉間に溝が刻まれている」

「聖杯戦争のマスターになった時点で、精神に変調を来す場合はあるのかと考えていました。サーヴァントは、召喚主の影響を受ける場合もあるとあなたは言っていましたけれど、逆は?」

「……オレの認識している範囲では、ない。ただサーヴァントとマスターはラインで繋がっているため、たとえば夢の中で互いの過去を垣間見る場合もある」

「はい?私、一度も見ていませんけど?」

「オレが遮断した」

 

 しらり、とランサーは口にした。

 悪びれるとか後ろめたいとか一切ない、既に決めたコトを口にする断定の物言いだった。

 

「何故?」

「先ほどおまえが言ったように、オレの過去を垣間見ておまえが変質するコトがないように、だ。オレの過去は未だ未熟なおまえには……そうだな、些か、刺激が強い」

「しげきがつよい」

 

 何だその理由は。

 年齢制限かかってる映画じゃないんだから。

 

「はぁ……まぁ、それは別に構いませんけど。でも、私はその繋がりを知らなかったから、遮断も何もしてませんよ?私の過去は、あなたに一方通行で流れていたのでは?……て、そう言えばランサー、あなた、時々短くうたた寝してますよね?サーヴァントに、睡眠は要らないって言っていたのに……」

「ああ。オレは見た」

「おれはみた」

 

 人の過去は積極的に見に行っといて、自分の分は隠してたんかい。

 

「あなたでも、そういうコトをするんですね……。自分の過去を見せないなら私の過去も見ない、が平等では?」

「おまえがオレをどう捉えているかは測りかねるが、オレは普通の男だ。常に平等な天秤の担い手などではないよ。見たい光景を見る機会があるなら手を伸ばす」

「普通のひとが初手自害させろって言いますかね……?見知らぬ他人のために、喉元突いて再び死ぬとかしますかね……?」

 

 ランサーはそこで、ふわり、と微笑んだ。冬をくぐり抜けた、小さな花の蕾が綻ぶように。

 ……なんだか、徒花めいていたけれど。

 

「オレには自然な行為だ。おまえにとってのオレが見知らぬ他人(・・・・・・)であればこそ、意味がある」

 

 なるほど、さっぱりわからない。

 

「では、私の過去を見た感想とかあります?」

「平凡だな。……それが、良い。それで良い」

「それが目標ですからね」

 

 神秘とともに生まれながら、神秘の道へ行かず、魔境にも神域にも至らず、凡夫として生きて、死ぬ。

 間に挟まる戦いは……うん、しょうがないものだ。どのみちどう生きたって、人間てのは日だまりの席の奪い合いだから。

 

「十八になったらどうなるかわかりませんけども、なったらなったで十七年間で築いた自己でどうにか生きていきますよ」

「……」

「どういう感情の顔ですか、それ。……来るものは来るんです。わかっているなら、準備して受けて立てばいいじゃありませんか」

「……そうだな。それがおまえの在り方で、正しいのだろう。オレが手助けできる戦いは、この聖杯戦争一戦のみだ。その先にある道を歩くのは、おまえ自身なのだから」

「そうですね」

 

 『道』を歩き切った人間の行く先が、すべて同じならいいのにな、とちらりと思った。

 こんな夜の語らいを、『そんな事もあったな』と思い出話にできればいいのに、と。

 

 ……うーん、やっぱり聖杯戦争からこっちの私は、変だ。

 

 もっと、他人に対しての警戒心が強いはずなのに、何でこうなる。

 『夢』を遮断したランサーの判断は正しかったのだろう。

 

 と、何かを返そうとしたまさにその瞬間。

 

 ドンッ、と。

 

 腹の底まで響く衝撃を伴い、魔力の塊が()()()()()

 

「……成功したようですね」

「ああ。行くか。……順当に行けば、オレの首を渡すコトになる相手だ」

 

 ────凄い前向きに死にに行ってるよ、やっぱりこのひと戦士だろう。

 

 と、思考しながら蔵の扉をランサーが叩く。

 

「バゼットさん、問題ありませんか?」

「入室の許可を願う」

「…………ええ、問題ありません。曙宇、ランサー、入って来てください」

 

 言われ、ランサーが蔵の扉を押し開ける。

 

 果たして、そこには魔力の残滓を纏って光り輝く陣と、バゼット以外の人影がひとつ、ある。

 

 青い髪の見知らぬ人影は、俊敏にこちらを振り返った。小柄────私と同じくらいの身の丈だ。

 赤い瞳が途端に見開かれ、快活な笑みが広がる。

 

「おっ、あんたらがマスターの言ってた協力者だな?オレはセイバー!短いかもしれねぇけど、よろしくな!」

「よ、よろしくお願いします」

「……」

 

 少し、驚いた。

 

 ─────英霊には、()()()()()()()、と。

 

 目の前の、青い髪に赤い瞳のセイバーは、どこからどう見ても私と然程歳の変わらない少年の形をしていた。

 

 




バゼットから見た主人公は、めっちゃ懐いてくれる仔犬(柴犬)です。でも拳は飛ばします。

そしてバゼットのサーヴァントは、はい、感想欄で大体予想されていた感じです。

あと、御陵衛士の2人との絡み考えてみたりしてましたが、結果的に仲間を逃がして討死した者同士、意外と服部武雄と主人公は相性いいかなと思いました。
端から見たらドゥリーヨダナを最後まで裏切らずに戦死してもいるので、伊東甲子太郎からも悪くは思われないかなと。
貧者の見識持ちのカルナが、伊東とどう話すかは面白そうです。
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