太陽と焔   作:はたけのなすび

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では。


Mem-6

 

 

 

「ランサー?あんたが?……へー、真名は教えられない?了解了解。こっちだってそこまでされたくねぇよ。ま、よろしく!その首洗って待っとけってな!」

「よろしく頼む」

 

 以上、サーヴァント同士の話は凄く普通にまとまった。

 セイバー陣営となったバゼットとセイバーに提案した案は、至極単純だ。

 

 最後の二騎になるまで共闘し、最後は尋常な一騎討ちで勝者を決める。

 勝者が聖杯を手にし、願いを叶えるも持ち帰るも自由とする。

 

 簡単にはいかないだろうけど、行けば相当にわかりやすい構図だ。

 バゼットと契約したサーヴァント、剣士(セイバー)はそのわかりやすさを受け入れ、好む少年だった。

 

 セイバーという『最優のクラス』だが、彼は中身も外見も少年。

 二十歳にもなっていない十代後半の自意識だそうである。

 真名はお互い明かさないことになったので、びっくりするぐらい支障なく話が纏ってしまった。

 

「……どうやら、セイバーはとある英雄の修行時代の姿とのコトです。人格もそちらになっている。が、成長して英雄となり、果てた記憶もあるという状態です」

「サーヴァントは全盛期の姿と聞いてたんですけど、そういう場合もあるんですね」

「マスター、サーヴァントが全盛期の姿というのはあくまで基本の情報だ。オレは隠したわけではないぞ」

「いや疑ってはないですけど……」

「?」

 

 そういう想定外はあれど。

 かくて、セイバーとランサー陣営は揃ったコトになる。

 セイバー狙いだという凛がちらりと頭を掠めたが、彼女ならどうにかするだろう。三騎士はまだ一枠あるのだし。

 

 かくして、私たちは居間に集まる。

 畳張りの部屋を、セイバーは面白そうに眺めていた。草を編んだ床、つまりは畳が珍しいらしい。

 

 バゼットが、そこで急に手を打った。

 

「さて、我々が正式に同盟関係となったところで今後の話を進めましょう。魔術協会からはもう一人魔術師が、この冬木の聖杯戦争に参加します」

「え」

「アトラム・ガリアスタという中東系の魔術師で、キャスターの召喚を狙っているとの情報があります」

「協会ってマスターを派遣してきたとこだろ?味方になるのか?」

 

 セイバーは畳に足を投げ出して座ったままあっけらかんと尋ねるが、バゼットはしばし考える素振りをしたあと首を横に振った。

 

「いえ、彼がいた場合ランサー陣営との共闘に確実に不和が出る。やめておきます」

「言い切る根拠はあるのか?」

「はい。以前、彼は夏夜に挑んで手酷く敗れています」

「ごめんなさいやめましょう」

 

 母が、恨みを買っていたパターンだった。狩り場が他所の魔術師と被ると争いになるは必定だから、仕方なくはある。

 

「第一、私は既に協会からの監視役を追い返しましたので、あちら側の魔術師との足並みは今更揃え難い」

「あのぅ……問答無用で私、バゼット姐さんの共犯者にされてませんか?協会に喧嘩売ったも同然では?」

「ん?違うのですか?」

「同盟者と共犯者はだいたい同じでも違いますよ!乗りかかった船ですから降りませんけど!」

「それは良かった」

 

 降りるってったら、フラガしてくるでしょうがこの姐さんは。

 とは言わず、再び着席。

 だけども、この同盟って。

 

「私たち、戦闘系ジョブ積んでる面子しか、いなくありません?」

「……」

「……」

「ん?何か問題なのか?」

 

 セイバーはきょとん、としていた。バゼット姐さんと似た反応だ。

 剣と棍棒で武装した彼も、近接戦闘寄りらしい。最優のクラスらしいセイバーが白兵戦で戦えないわけはないだろうけれど、だからこそ、という話がある。

 

「基本的に戦っているコトを悟られず静かに進めるのが聖杯戦争のルールらしいですが、ここにいる全員、搦め手よりも一騎討ちに能力値が寄ってる気がして。セイバーさんも剣士ですよね?」

「おう。呼び方セイバーでいいぜ、ランサーのマスターさんよ」

「はい、ありがとうございます。……ともあれ、そういうコトです。多彩なルーン魔術の使い手はいますけど、キャスターやアサシン陣営は殊更警戒しないといけないかなと思って」

 

 ふぅ、とバゼットは私が置いた湯呑みを持ち上げ、一口飲む。

 

「では、まずキャスター陣営から潰しましょうか」

「あっ、そっちになるんですね」

 

 搦め手が苦手ならば、搦め手される前に潰せばいいじゃない理論だった。

 ランサーも頷いているので、問題はなさそうだけれど。

 

「バゼットさんは、先手必勝の相手としてアトラム・ガリアスタという人を狙うのはわかりました。彼が、キャスター狙いなのは間違いないんですか?」

「はい、と答えましょう。日本に渡った時期的に、彼は既にサーヴァントの召喚は行っているでしょうし、誰を召喚したかも予想はついています。その情報を夏夜と真晝から得る対価に、私はあなたとの同盟を承諾したので」

「あ、はい……」

 

 アトラム何某さん、めちゃくちゃ背中から刺される構図になっていないだろうか。

 これはもしや、母や姉との敵対がかなり洒落にならない根深さだったのかもしれない。もしかすると、日本にいる私を人質にして母と姉に何か要求を呑ませようとしていた程度には。

 もしそうであったなら、これを機会にアトラム何某さんを葬っておこうとバゼットが目論んでもおかしくはなかった。多分それぐらいには、彼女は私たち一族に情がある。

 思考回路の基盤が執行者は物騒だし、それで不足というわけではないのだ。

 

 そこにある程度まではついて行けるだろう自分のコトからは目を背け、頷いた。

 

「わかりました。アトラム某さんをキャスターのマスターと置いて、キャスター陣営の排除に動きましょう。彼は外国人なので、最近冬木に現れた入国者を中心に探せば見つかると思います。魔術師のサーヴァントを召喚しているなら、それなりの霊脈に工房を作るでしょうし」

「ええ。そうだろうと思います。……人探しに伝手があるのですか?」

「伝手はありませんけど、ちょっとだけ魔術を入れた電脳調査(ハッキング)ならできます」

 

 おどけ気味に言うと、ランサーが微かに眉を下げた。

 

「マスター、おまえのウィザードの腕は疑わないが、違法行為ならば悟られぬように行うべきだぞ?」

「わかってますよっ。日本の法律に魔術込みのハッキングを咎めるものはないし、バレたらお終いなんだから、ちゃんとやりますってば!あと私はウィザードじゃないですし、魔術師はメイガスって言うのが最近の一般的です!」

「メイガス……そうか、そちらか。……うん、それはオレの知識の不足だな。覚えておこう」

 

 魔術師をウィザードというのは珍しい呼び方だと思う。

 ランサーの知識の出所がいっそう謎になったところで、バゼットが手を挙げた。

 

「でしたらこれも覚えておいてください、ランサー、ショウ。……冬木には、魔術師殺し(メイガス・マーダー)の名を馳せた殺し屋が在住していました。当人は亡くなりましたが、彼の家は未だ続いています」

 

 す、とランサーの目が鋭くなり、私は嫌な予感がした。

 

「魔術師殺しの名は、衛宮切嗣(えみやきりつぐ)。……第四次聖杯戦争にも参加し生き残った、御三家アインツベルンにゆかりのあるマスターでした。彼は既に亡くなっているとはいえ、記憶しておいて損はないかと」

「待て、衛宮だと?」

「はい。既に接触があったのですか?」

「ある。先日、共に酒屋を手伝った少年だ。……彼もマスター候補だと、オレのマスターは見立てていたが」

「ちょっ、ランサー……!」

 

 止める間もなく告げたランサーの言葉に、バゼットはこちらを見据えた。

 

「……なるほど、あの衛宮切嗣の養子であるなら、マスターの資格があってもおかしくはないでしょう。既に敵マスターの情報を仕入れていたのは素晴らしい。ですが────」

「……ですが?」

「召喚した英霊に酒場の手伝いをさせているとはどういうコトですか。アルバイトですか?第一、夏夜に許可はもらったのですか?」

「あっ、え、そっち⁉か、母さんには許可もらってますよ!」

「そっち、ではありません。聖杯戦争のマスターたるもの、召喚したサーヴァントに戦闘以外を頼むのは────」

 

 バゼット姐さんのお説教開始かと思いきや、ランサーが遮る様に口を開いた。

 

「セイバーのマスター、止まれ。酒場の手伝いはオレが願い出た。マスターのアルバイトを、オレも手を出してみたかったからだ。件の衛宮の少年とも言葉を交わしたが、あれは危ういほどの善人だ。矛盾をはらみ、いつ己の剣に貫かれるとも知れぬ危うさを抱えた戦士の芽がある」

「え、ランサー、私、衛宮くんがそんな状態って聞いてませんが⁉」

「彼も危ういが、おまえも危うかろう。オレの中の優先順位ゆえに、伏せていた情報だ。非難の言葉は受け止める」

「非難はしませんけど!しませんけれども、あなたが感じた衛宮くんの事情は私以外のバゼットさんとセイバーにも共有してください。確かに彼からは変わったモノの匂いがずっとしてますが!」

「マスター、それはオレも聞いていない」

「あっ。……出会ったときから衛宮くんはそうなので、忘れてました……」

 

 これはひどい。

 報連相の不具合状態を思い切りバゼットたちに見られている。

 セイバーはくくくと喉を震わせ、バゼットは呆れ半分微笑ましいものを見る目半分だった。

 

「なぁ、ランサーのマスター、あんたもしかして、結構眼、つーより勘が鋭いほうか?オレからしたら、あんたからも変な気配がしてるぜ。旧い古い、異国の神とでも縁があるのか?」

「あります。セイバー、彼女は私と同じく伝承保菌者の一族の者。そして我が家のルーン魔術のような技術ではなく、彼女たちは肉体そのものを神秘として伝えている。ショウは特に、生まれついてその神秘を濃く発現させた稀人だ。肉体の構成情報や魔術回路の質、編成などは、あなたがたの時代に近い人間なのでは?」

「へー……じゃあんたも、()()()()()()ってか?」

 

 セイバーにとって何の気もない軽口だったのだろう。

 それは彼の雰囲気や口調からも明らかで、こちらも苦笑気味に答えようしていた。だが。

 

「ちがう」

 

 ひとりだけ、これ以上の拒絶を示したひとがいた。

 

「彼女はそうならないし、オレがさせない。英雄に、なるべき人間ではない」

 

 断頭台の刃のように告げるランサーの口調には、断固とした決意があった。ともすると、自害させろと宣言した時よりも強い意志が籠もっている。

 

「ランサー?」

 

 そこは、ランサーの譲れない一線だったらしい。またしてもよくわからない。

 俗なのか高潔なのか。

 超越者なのか徒人(ただびと)なのか。

 

 わからないなりに、ランサーに向けて首を傾ける。

 

「私、英雄になんてなりませんよ?なってしまったら、私たちの家が目指している理想は粉微塵になっちゃうんですから。何よりも、私がなりたくないです」

「本当か?」

「本当ですよ。私は人を殺したくないし、人が苦しむのも嫌です。敢えて助けたいとも思いません。そも、なりたくてなれる者なんですか?」

 

 届かぬ星を目指して我武者羅に走り続けて、果てまで行き着いて、ふと振り返ったら()()()()()()()のが、英雄と呼ばれる人々だと思っていたのだ。

 若しくは、生まれた瞬間から()()()()のを義務付けられて、ただただ我武者羅に義務と期待に背かなかった人。

 

 いずれにしても、なろうと思ってなれる者か、それは。

 

「……おまえはそうだろう。そう言うだろう。だからこそ、至ってしまう未来もある」

「うーん……さすがに、あなたが何を言いたいかわからなくなってきたのでタンマです」

 

 腕をTの形にして首を横に振った。

 その言い方だと、まるで私が()()()()()()()()だと言っているようだ。

 そして、ランサーは私に英雄になってほしくない。

 なれるかもしれないからこそ、ならないでくれと祈らずにはいられない。

 

 でもそんなのおかしい。

 

 あるわけないじゃないか。

 

 私は、そんな想いを向けられるような()()()()()ではないのだから。

 

「現代では、英雄になんてなかなかなれませんし、私はなりたくありません。それで話はお終い。あなたの心配は杞憂です」

「……」

 

 ランサーは、何も言ってくれなかった。

 だからそれを振り切るように、私は続ける。

 

「今は早くアト何とかさんを探して、戦って、聖杯戦争を早く終わらせましょう」

 

 ────それが、ランサー。

 

「あなたの、望みなんでしょう?」

 

 尋ねれば、ランサーは頷いてくれたのだった。 

 

 

 

 

 




アトラム・ガリアスタ
・以前、長年狙っていた極東の少女に獲物を掻っ攫われた。
・その娘が日本の冬木にいると聞いてほくそ笑んだ……ところを、その娘の姉にバッチリ見られていた。
・姉は、あらあらうふふと友人の執行者に即連絡した。

そんな背景があったりします。
年末の繁忙期に入って書けなくなる前に、オリジナルもこれも楽しく進めていきたいです。

いつもお読みいただきありがとうございます。
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