太陽と焔   作:はたけのなすび

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ここすき、感想、評価、誤字報告、いつもありがとうございます。

では。


Mem-10

 

 

 

 冬木の教会は、聖杯戦争における不可侵地帯である。

 

 それは、絶対に覚えておけとバゼットにも念押しされた聖杯戦争のルールだ。

 多分どこかで形骸化するだろうけれど、聖杯戦争が正式に開催されたばかりのこの時、教会を巻き込まんばかりの大規模な戦闘などは普通、ない。

 ない、はずだ。

 

 戦争における、()()などという言葉の儚さを、改めて突きつけられた想いだった。

 

 教会の真正面で、激情がそのまま形になったかのような炎を大槍に纏わせたランサーと、両手すら出していない正体不明のサーヴァント。

 

 だけれど、金髪紅眼の彼はランサーの怒りすらも酒の肴にしか思っていないらしい。

 武器を取り出す素振りもなく、ただ嗤っている。

 

 ……宣戦布告に来ただけ?

 

 ただ、確かめるために本人に聞く気にはなれない。

 気まぐれ一つで羽虫を潰すように人を屠る王者に、何を言ったって危ないだけだ。

 

 それに、ここに迫っている英霊は、もう一騎いる。しかも、相当な規格外の気配だ。

 多分、ランサー含めた三つ巴で争えば、冬木の半分は一瞬で消し飛ぶだろう気配だ。

 

 けれど今すぐ冬木を地図から消す気はないのか、金髪紅眼のサーヴァントはくるりと踵を返した。

 射殺さんばかりのランサーの視線も、柳に風とばかりに手を振った。

 

「何、そう急くな。今宵は貴様の持つ宝が、(オレ)の蔵に収めるに値するか量りに来たのみ。誇るがいい、ランサーよ。貴様の宝はどれも、我が所有するに足ると認めてやろう」

「浅い言葉だな。未だ世界が小さく幼い時代にのみ、頂点を極めた人の王よ。日輪の光を阻む蔵の扉を閉ざしてしまえば、輝きを失う宝があると何ゆえ理解しない」

「ハッ!扉を閉ざさなかった結果が、見るに耐えんその有り様だろう。貴様が一度己が過ちで失った宝を、(オレ)が手ずから拾い、裁きの道具として活かしてやろうというのだ。貴様こそ、あり得ぬ幸運と何故理解せん?」

「王であるならば、手ずから裁きを与えるのは己が民のみだろう。既に滅びた国の死した王が、当世の人々に過ぎた感傷を抱いたな。何よりも、彼女はオレの所有物ではない。己が居場所は己で定める得難い者だ。その在り方を阻むと言うならば、オレは請われるまでもなく槍を振るうまで」

 

 ……この超越者二人が何を言っているのか、私には全然わからなかった。

 すべてにおいて視点が高いのだ。

 まさかと思うけれど、宝の中に人間()が含められているのか。

 と、私が思った瞬間、(こうべ)だけを巡らせてこちらを見た紅眼に射すくめられた。

 

「雑種の小娘よ。貴様の末路は今定まった。この戦争における器として起動し、見事(オレ)を興じさせよ。さすれば幾らかは、その愚にもつかぬ生にも意味が生まれるだろうよ」

「……道具として再誕し、人として死ねと仰っていますか?」

「ほう、わかっているではないか。くだらぬ時代に生まれ直し、世俗に染まって堕ちたかと思ったが、眼は失っていなかったと見える。褒めて遣わすぞ、炎神の器(・・・・)たり得た者よ。貴様は、有象無象を間引く大輪の焔の華を咲かせるには頃合いだ」

「……」

 

 どうしよう、と思った。

 全体的に何を言ってるのかわからないなりに解釈すると、要は今は殺さないけれど、もっと盛り上がるところで殺すので心構えをしろと言われてるだけじゃないか。

 この英雄に、『個』として認識されたら却ってろくなコトにならないのではないだろうか。

 私の『個』を尊重してくれるランサーとは、対極にいる。

 第一。

 

「肉の殻に収まって染まり、変質しているのはそちらでは?」

「ほう」

 

 紅眼が針のように窄まったけれど、今度は普通に見つめ返せた。

 もう、この英雄に『死』を与えると決められてしまったなら、何を言ったって同じだ。

 なら、言いたいコトを言ったほうがマシだった。

 

 この英霊は、ランサーのような半霊体ではない。

 肉の気配が、確かにある。

 勘でしかないけれど、そう思う。

 変質しているかまでは正直わからないのだけれど、あの厭な嗤いは"変質"の影響と呼びたいぐらい見たくないものだったのだ。

 

「マスター、そこまでだ。口を閉ざせ」

「……」

 

 私の舌を止めたのは、黄金の英雄の視線ではなく、ランサーの懇願が混ざった声(頼むから黙っていてくれ)だった。

 ……うん、彼を困らせるのは本意ではないので黙る。

 黙るけれど、黙ったところでとんでもない事態になったのは変わらないだろう。

 

 口を閉ざしたこちらと、一旦は炎を収めたランサーに一瞥をくれて、謎のサーヴァントは去って行った。

 暗がりに気配が完全に消えてから、無意識に詰めていた息を吐く。

 

「……何だったんですか、彼?」

「知らん。……オレこそ聞きたいのだが、おまえは生まれてこの方この街にいて、一度もあれと遭遇しなかったのか?」

「していません。してたら忘れませんから。……考えられるのは、母が私にかけてくれていた魔術ぐらいです」

 

 母が私にかけてくれていた魔術は、私が無知でいる限り私の気配を徹底的に隠していた。

 視るコトは視られるコト。

 視ないコトで視られなくもなる。

 私がサーヴァントを視るようになって、それがなくなったというなら、辻褄は一応合う。

 

「おまえが聖杯と、それに纏わる事象を正しく認識するようになって、守りが解けたと言うのか?」

「他にあり得そうな理由がないと言うだけですが。……確かめようにも、母と姉とは通信魔術が繋がらないので、どうしようもありませんし……確かめても、何も変わりません」

 

 二人の生存を伝える魔術礼装に障りはないから生きているのだろうけど、自由に通信できる環境ではなくなっている。

 今までもよくあったコトだ。

 ちがうのは、私のほうも生命が危うい環境にいるってだけ。

 

 各々の戦いを、各々で生き残る。

 どんなに大切な相手でも、常に側にいて護れるなどと思い上がらず、己の力を磨いていく。

 

 何千年と続いてきた我が一族の、飽き飽きするぐらい長い在り様に、私たちも連なるだけだ。

 嘆息したり、激怒したり、感情をかき乱すほどのものではない。

 生き残って再会できれば笑い合い。

 遺される側に立てば、失った者を忘れずに、遺ったものを護り生きて。

 遺す側に立つならば、遺される者の幸せを願う。

 

 私たちは皆、そうやって来た。

 そうやって、続いてきた。

 

 だから、私にとって大事なのは、『次』の行動だった。

 

「英雄としての格は超一流で、口説き文句は三流以下のバーサーカーでしたね、彼」

「…………あれは、バーサーカーではないと思うが」

「え?真顔かつ本気で狂ったコトを言うんだから、狂戦士(バーサーカー)ではないんですか?」

 

 違うのか、アレで。

 ……でも、そうしたら残るアサシンのサーヴァントになってしまう。

 彼はアサシンではないだろう。絶対に。

 

「エクストラクラスか、同一クラスの二重召喚……?バーサーカーでないなら、三騎士級のサーヴァントだろうし……。あれ?それなら、どうして肉体が……?そういう宝具……?」

「……おまえは冷静だな。取り乱してほしいわけではないが、理由なく英霊に狙われるのは尋常ではない危機だ」

「でも、理由ははっきりしていますよ。聖杯は霊体です。霊体を私という器に入れて、受肉させたいだけかと。私の身体は神代に近い。造るなら材料に拘って、性能の良いモノにしたいのでしょう」

「……」

 

 俗に言えば、私のカラダ目当てというやつだ。

 そんなの、今までもあったしこれからもある。仰々しい物言いな割に、あの黄金の英雄の狙いは単純で意外でもない。

 意外なのは、ランサーの鎧、槍、首と同列で私を放り込んだ点ぐらいだ。

 この世に二つとない彼の『大事なもの』と本人の生命と、偶然マスターになった私が同列になっていいわけない。

 大体私はランサーのものではないし、ランサーも私のものではないのだ。

 括りも序列も、全部変だった。だから狂ってるのではないかと思ったのだ。

 マスターだから、纏められただけだと思う。

 

「別に強がっているわけではありませんから、ランサー。元々マスターは生命がけなのだし」

「……」

「それにあなたがいるので、すごーく怖いってほどではありません。そもそもそちらも、鎧か槍か首か要求されていますよね」

「おまえも含め、どれも渡さん」

 

 あ、今断定した。

 それはそうだろう。

 

()()()から貰ったもの、ですものね、その鎧」

 

 にこり、と笑ってみせると、ランサーの眼が見開かれた。

 驚くほどのコトなのか。

 

「私たちの先祖と同じ大陸に生き、黄金の鎧と耳輪を身に着け、神殺しの槍を持ち、太陽神の子である英雄は、どう考えても一人だけでしょう。あなたは物凄くわかりやすいサーヴァントです。凛もそろそろ気がつく頃合いです」

「……」

「でも、あなたはそう呼ばれたくないようだから、『ランサー』で十分ですよ」

「オレ個人の拘りで名を名乗らぬコトを、不誠実とは思わないのか?」

「その程度が不誠実になるんですか?厳しすぎだと思います。やりたくないなら、やらなくていいときもあるのでは?」

 

 ただ。

 

「伝承通りの誠実さで鎧を誰かに施したら、キレますが」

「キレ……怒るのか?」

「怒りますよ。本気で許しませんから。父の愛を、自分で引き剥がして別の父に与えるなんて、ぜーったいに!」

「おまえに許されないのは……………………………………堪えるな」

「えっ、そこまで?」

 

 だから、出会って一ヶ月足らずの人間の言葉になんで本気で衝撃を受けた顔になるのだ。

 変な人である。

 絶対的な王者のサーヴァントに遭遇した緊張の空気も、弛緩して散ってしまった。

 

 そこで狙い澄ましたように、教会から出てくる人影が二つ。

 衛宮士郎は、こちらを見て意外そうに目を丸くした。

 

「あれ、おまえら、まだいたのか?」

「ご挨拶だね。生きて出てくるかは確認するつもりだったからいたのに」

「悪い、つい。……白矢には言っとく。俺は、マスターとして戦うコトにした」

「わたしもお手伝いします。聖杯に願うコトはないけど、シロウは放っておけないので」

「そっか。……今まで私が会ったサーヴァントもマスターも、皆聖杯にかける願いないひとばっかりだけど、きみたちもそうなるんだ」

「……」

 

 自称、願いはとっくに叶ったサーヴァント約一名は数えなくても、これで半数以上のマスターは聖杯への悲願はないコトになる。

 ならなんで、殺し合いとかいう無駄をやらなければならないんだか。

 

 多分その答えの一つが、すぐそこまで近寄っているのを感じて背後の暗闇を振り返った。

 

「ランサー、今度は戦うコトになりそうですが、連戦に支障は?」

「ない。おまえこそ魔力は十全か?」

「十全ではありませんが、十分です。通信は入れましたが、援軍は考えないようにしましょう」

「同感だ」

「どうしたんだよ、白矢、ランサー?」

「マスター!構えて!何か来てます!」

 

 キャスターが杖を両手で構え、ランサーが大槍を再び顕現させる。その空気でようやく、衛宮士郎も異変に気がついたようだった。

 

 何者かが、味方ではない存在が、こちらへ近づいてきているコトに。

 

 二騎のサーヴァントの鋭い視線が向いたその方向から、夏の雷雲のような不吉な黒影と、冬の雪のような少女が現れた。

 紫の上品なコートに身を包んだ、貴族の令嬢めいた幼い女の子だ。

 

 だけれど、彼女の傍らに寄り添っているのは黒い巨躯を誇るサーヴァント。

 岩肌を削り取って人のカタチにしたような、巨人がいた。

 彼と比べれば小さな人形のように華奢な少女は、にっこりと妖精じみた笑顔を浮かべる。

 

「こんばんは。また会ったね、お兄ちゃん」

 

 その瞳は、衛宮士郎を射抜いていた。

 

「衛宮士郎、あれはおまえの客のようだが、心当たりはあるか?」

 

 黒き戦士の気配にあてられ顔を引き攣らせる衛宮士郎だったが、ランサーの冷静な声に引き戻されたようにゆっくり頷いた。

 

「……前に一回、道端で会った。……それで、白矢みたいに、早く喚び出さないと死ぬって言われた」

「本当。何で早く喚ばなかったの。衛宮切嗣さんの息子だから知ってると思って、私、雑なコトしか言わなかった」

「知らなかったんだって!切嗣からは何にも聞いてなかったんだから!」

「二人とも!漫才しないで!あれ絶対バーサーカーだよ!わたしじゃあのサーヴァントには敵わない!」

「だろうな。オレが出る。キャスター、おまえは下がっていろ」

「えっ?」

 

 槍の封印も解いたランサーが進み出、キャスターが顔を上げた。

 

「令呪一画を用いてまで助けた友に、朝日も拝まず落命されてはオレのマスターの立つ瀬がない。まだ戦を熟す余力はある」

「へぇ、わたしのバーサーカーを前にして、生き残れると思ってるんだ?」

 

 雪の少女が微笑み、ランサーは静かに見つめ返した。

 

「事実だ。オレのマスターは些か度が過ぎて他人に尽くす(タチ)でな。必然オレもそれにひかれているだけだ」

「は?自分の伝承は?」

「……後で話す」

「……もういいわ。いきなりマスターになった外様の三流なんて、一度だけなら見逃してあげるつもりだったのに。邪魔をするなら、その生意気なサーヴァントと一緒に殺してあげる」

 

 くるり、と少女は一歩下がって、巨人に囁いた。

 

「ほら──────やっちゃえ、バーサーカー」

 

 瞬間、咆哮が轟く。

 バーサーカーが獣のように跳び、衛宮士郎へと斬り掛かったのだ。英霊に一般人を斬り殺させようとするなんて正気か。

 それを防がんと割り込んだランサーの大槍とバーサーカーの斧剣が激突し、火花を散らした。

 

 狂戦士と比べればランサーの体躯は細く、到底打ち合える膂力があるようには見えない。

 けれど、正面からランサーは渡り合っていた。

 

 槍と斧は瞬きの間に幾度も交差し、すべてはとてもではないが追いきれない。

 

「衛宮くん!」

 

 そして、ここには戦いの気配に呑まれて棒立ちになっている同級生もいるのだ。

 すぱん、と若干手荒く肩を引っ叩いた。

 

「ぼさっとしない!あの子の狙いはきみ!隙ができたらとっとと逃げなさい!」

「な、何でそんな、俺ばっかり護ろうとするんだよ!おまえ、自分のコトはどうでもいいのか!」

「どうでもいいわけないでしょう。でも、この場で一番脆くて死にやすいのは衛宮くんだから。他人の生命の心配していいのは、自力で生き残れる可能性があるときだけ」

「……ッ!」

 

 唇を噛む衛宮士郎と私の間に、キャスターが立った。

 

「二人とも喧嘩しないで!わたしは魔術でランサーの援護をします!シロウはハクヤの言うコトをちゃんと聞いて!」

「……いいんですか?自分のマスターを連れて逃げるのが、あなたにとって最善の策だと思いますけど」

「逃げるなんて冗談じゃありません!助けられっぱなしは、わたしの性に合わないんだから!」

「そ、そうですか」

「あと、敬語はなくていいです!あなたに言われると何かと被るので!」

「わかっ……わかった」

「ありがとう!じゃあ、わたしは行ってきます!」

 

 言って、キャスターは駆け出して行った。なんか、衛宮士郎を無相談で預けられてしまったんだけどいいのかと思う。

 猪突猛進負けず嫌いで白兵戦向きって、本当にキャスターか、彼女。

 

 だけど、こうなったら誰の手でも借りたい。

 ランサーとバーサーカーの打ち合いは周囲を破壊し続けていた。

 槍が唸り、斧剣が吠えて、木々も石畳も砕け散っていく。ランサーが炎を出さないのは周辺を気にしてのコトだろう。

 

 つまり、まだ余裕はある。

 だが同時に、嫌なコトにも気がついた。

 

 ランサーの槍が、一度バーサーカーの心臓を穿つ。だが、死んだように一度生命を吹き消した彼は再び動いて、ランサーを殴り飛ばしたのだ。

 飛ばされた先にあった墓石を足場にランサーは体勢を立て直したけれど、僅かに驚いた顔にもなった。

 

 ランサーは、黄金の鎧で傷を負わない。

 バーサーカーは、死を越えて蘇る。

 

 死なない英雄と、死して蘇る英雄。

 

 千日手になるだろう対戦だった。

 そんな二人が決着をつけようとしたら、周辺一帯消し炭にしないと、恐らく終わらない。 

 

「ねぇ、あなたのランサーって何者なの?さっきから、バーサーカーが傷をつけられていないわ」

 

 それを悟ったのか、興味がないと言っていた雪の少女が、こちらに話しかけてくる。

 衛宮士郎とキャスターにだけご執心かと思いきや、方針を少し変えたらしかった。

 声に、露骨な不満が混じっている。

 

「サーヴァントの名前は教えないのがルールでしょ?アインツベルンのマスターさん」

「あら、わたし、あなたには名乗ってないと思うのだけど」

「名乗ってなくても、視たらわかる。勝手に視られたくないのなら、城の中にいるべき」

「ランサーへの魔力供給で死にそうなのに、よく回る口ね。いいわ、あなたの名前を聞いてあげる」

 

 死にそうではない、と言いたいがそこそこ激痛が残っている身体では説得力がない。

 うん、と頷いた。

 

「白矢。白矢曙宇」

「ハクヤ?……ハクヤ……ああ、思い出したわ!第三魔法の出来損ないを使う保菌者、極東に逃れた(いにしえ)のバラタの末裔!まだ生きてたなんて思わなかった!」

「……」

 

 人をシーラカンスみたいに言わないでほしい。うちは生きた化石か。

 大体時代的に、第三魔法と同じかそれより前からうちはあるんですけど、とは言わない。

 先祖の名前も何もかも、本当かどうかわからないコトだし、その辺りの後先は最早瑣末事だし。

 ともあれ、バーサーカーのマスターは我が一族の名前にさらに興味が出たらしかった。

 

「バラタの末裔が、黄金の鎧の英霊を喚ぶなんておもしろいね。自分たちを殺した側に手を貸すなんて。だって、ランサーの真名は──────」

「待って。アインツベルンの姫君、さすがにやめてほしい。聞いてるマスターがいるから」

「あはっ。別に、お兄ちゃんに聞かれてもいいじゃない。聞いたって、あの弱いキャスターじゃ何にもできないんだから。あーあ、セイバーならよかったのに、これじゃあ期待外れだわ」

 

 そうなのだろうか。

 ランサーとバーサーカーの戦いに飛び込み、ランサーの邪魔にならずに補助を熟すキャスターが、弱いとは思えない。

 どこかの強者と共闘した経験が豊富でないと、あんなコトはできない。ステータス的にも、白兵戦ができそうに思う。

 それに、ランサーが気にする周辺被害を軽微にしてくれているために、彼が戦いやすくなっている。

 

 ただし、戦いは終わる気配がない。

 ランサーの防御力とバーサーカーの蘇生、加えて双方の技量の高さで決め手の一撃が互いに放てないのだ。

 アインツベルンの彼女にもそれは読み取れたようで、むぅと頬が膨らんでいた。

 今なら、聞いてくれるだろうかと思う。

 

「アインツベルンのマスター、提案があるんだけど」

「なぁに?つまらなかったら殺すわよ」

「わかった。ランサーが今から宝具を撃つ。それでバーサーカーを二回以上殺せたら、退いてくれない?緒戦で不死身と蘇生の決着は難しい。そして、彼の不死身はあと何回残ってる?」

 

 無限の蘇生は、ありえないと思う。

 そんなコトができるのは、サーヴァントの枠に収まっていい存在じゃない。

 一か八かの推察は、『当たり』を引いたようだった。

 少女の瞳がすぅと凍え、口元だけは優しげに笑う。

 

「いいわ。あの魔力喰らいのサーヴァントに宝具を使わせて、あなたが干からびなかったら褒めてあげる」

「褒めるのはいいから。見逃してほしい。衛宮くんとキャスターも含めて」

「わかったわよ、もう。アインツベルンの名にかけて約束してあげるわ、ハクヤ」

 

 言質取ったり。

 即座に、ランサーと念話を繋げた。

 

『ランサー、聴いていたと思いますけど、宝具を開帳して下さい。……梵天の武器を』

『マスター』

『魔力なら保ちます。護りはキャスターに担ってもらいます。でないと、終わりません』

『……承知した』

 

 念話を切るや、ランサーがキャスターに何か言ったらしい。彼女は一直線に走り戻ってきて、杖を地面に突き立てた。

 

「話はわかりました!全力で護りますので皆、わたしの後ろから出ないで!」

「わたしも?」

「当然です!余波で焼けたいんですか!」

 

 ふぅん、とアインツベルンの少女は鼻を鳴らし、バーサーカーへ視線を向けた。

 

「迎え撃ちなさい、バーサーカー」

 

 狂戦士は、主の命に咆哮で応じた。

 ランサーも、私も、特に言葉はない。言うべきはもう伝えたから、必要がなかった。

 ランサーが宙へ跳び、炎で空へ留まる。槍が構えられ、膨大な魔力が収束していく。

 

「……っ、つ……!」

 

 その供給元は、必然マスターの私である。

 焼き切れる勢いで魔術回路を回転させ続けなければ、追いつけたものではない。

 

 ──────『先祖還り』に生まれて。

 ──────いいコトなんて、ひとっつもないと思ってたけど。

 

 大喰らいの大英雄に、魔力を渡せるのは、確かに便利だ。

 私の視線の先で、ランサーの槍が一際強く光を放つ。

 

「『梵天よ(ブラフマーストラ)─────」

 

 ソレを見て、ぞわり、と身体が震えた。

 身体という檻に収めた弓が震え、連動して檻が反応したのだ。

 

 ──────落ち着け。

 

 何度も指先の皮を割いてくれた跳ねっ返りの大弓なんだから、私の魂なんだから、いい加減言うコトを聞いてよ、と思う。

 幸い心臓の辺りの服を鷲掴みにして耐えれば、疼きは止まった。

 その僅かな間に、ランサーは準備を完了させている。

 

「───地を覆え(クンダーラ)』ッ!」

 

 槍が放たれ、バーサーカーへ着弾する。

 押し寄せる暴風と熱量に、キャスターの杖が光り輝き障壁を生み出すのが見えた。

 彼女の震える細い腕と華奢な背中を見て、はっと思い出す。

 

「キャスター大丈夫なの⁉衛宮くんからの魔力来てないんじゃない⁉」

「大丈夫!何とかする!」

「何とかするって──────」

 

 そこまでを言いかけて、急に自分の膝ががくりと折れるのを感じた。

 

 純然たる、エネルギー切れだ。

 回路の過剰使用に対し、生命体として、意識を体が断ち切ろうとしていた。

 意識がなくても魔力は送れるように調整したけれど、あまり良い状態でないのは確かだ。

 

「白矢!」

「ごめん、衛宮くん……わたしは寝るから、」

 

 ─────ランサーに、謝っておいて。

 

 その言葉が伝わったかはわからないまま、私の意識はばっさりと断ち切られて闇に沈んだ。

 

 

 

 




次回更新は遅くなります。

仕事が繁忙期に入ったためですが、書き続けられるよう頑張ります。

不死身VS蘇りというマスター殺しの対戦カードでした。
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