太陽と焔   作:はたけのなすび

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感想、ここすき、評価、誤字報告いつもありがとうございます。

では。


Mem-12

 

 

 

「何であれを持ち出すんですか。私がもっと小さな子どもの時に使っていた的ですよ!ピンポイントで探し出すなんて!」

『お前が弓使いなら持っているやも知れないと判断したまでだ。正解だったな』

「はーなーしーを聞いてください!」

 

 朝の通学路なら少し外れた道を歩きながら、憤懣やる方ない私の声ががらんとした冬の道に響いていた。

 ランサーは霊体化しているが、玄関で鉢合わせした時に押し付けてきた鳥の的は通学鞄の中にしっかり押し込んできた。

 何が何でも、存在を忘れさせてやらないという意気込みを感じる。

 

「アレを使って弓の鍛練をしろと言いますけど、鍛練なんて誰が視てくれるんですか」

『オレだ』

「やっぱり」

 

 ランサーなのに、という一言は最早口にするだけ時間の無駄だった。

 ランサーの真名は、ほとんど割れている。本人が確定させないから、未確定の宙ぶらりんになっているだけだった。

 

『そも、お前は如何にして弓の腕を研いている?母は投擲武器(チャクラム)で、姉は撓る剣(ウルミ)だろう?武芸者だとしても、弓の師たり得ない』

「私たちに師匠はいませんよ?」

『何だと?いなければできない弓の扱い方をしていただろう』

 

 やむなし、と念話に切り替える。

 こんな話をしている間に、目的地にたどり着いてしまいそうだった。

 

『先祖たちの積み重ねです。弓が顕現すれば弓使いが、双剣を握れば双剣使いだった先祖の記憶が写ります。一度に来たら今の人格が消し飛ぶので、あくまで徐々に、ですが』

『ではお前の技は先祖たちの積み重ねか』

『そうです。だから理論上、私たちは代を重ねるほどに強くなる。今の魔術にも降霊術で前世の自分を自分に降ろしてその技能を手に入れるものがありますけど、私たちはそれが先天的に起こります』

 

 というか。

 

『私たちの具現する武器は雑多すぎて、師匠はなかなか見つかりません。血と世代の近い私たち親子ですら、三人揃って別れたんです』

『確かに、統一性がないな。棍棒、弓、剣と得意が割れていた兄弟のようだ』

『どこのご兄弟の話かはツッコミしませんからね』

 

 本当に。

 

『お前の弓の扱い方や、纏う気配を視て確信したが、お前たちの源流は真実、()()()()()()()。オレが持つ弓の技能を得ても、問題はない』

『斧持つ六番目の化身から頂いた技なんて私には無理です!』

『それを判断するのはお前ではない─────と思う』

 

 冷然と言い捨てかけたランサーに、こちらの渾身のジト目が刺さったらしい。

 意志を翻すな不屈の英雄が、と思うが、顕現当初から、私の視点では割と愉快な言動も多かったのだから、今更だった。

 

『この時代に、()()()()()()()()化身に端を発する弓術なんて身に着けてると知られたら、封印指定確定なんですけど』

『封印指定?』

『魔術的に優れた存在は、瓶詰め保管して壊れないようにされるんです。うちの一族からも何人かそれが出て、全員雲隠れしました。魔術の腕はそこまででもないのに、肉体が貴重なうちの一族なんて、刈り入れ前の稲穂みたいなものです』

 

 が、全員しっかり逃げ切っているらしい。そうでなければ、バゼットはうちの敷居を跨いでいないだろう。

 

『そもそも、数日の鍛錬ごときでどうにかなるんですか?』

『一日で学べる受け身の体捌きを知っているか知らないかで、生命の命運は容易く分かれる。戦場の天秤は一瞬で傾く。誰も、待ってなどくれない』

『……』

 

 それは、昨日のバーサーカーとの戦いで感じたコトでもある。あるから、応えられなかった。

 剣と槍の陣営が、今一番に警戒しているのは黄金のサーヴァントだ。

 あんなのに現代の人間が狙われたら一瞬で敗北だろうけれど、というかまず戦いにすらならないだろうけど、ランサーはその一瞬をせめて一秒に引き伸ばす努力をしろと言ってくれているのだ。

 そのための手段が、『弓の鍛錬』になるのは、如何にも『らしい』と言えた。

 多分これ、何が何でも折れないだろうし、自分のサーヴァントとこんな理由で衝突している暇はなかった。

 

『……わかりました。鍛錬、お願いします』

『そうか』

『でも、鳥の的は使いませんからね!これ、私が何回も撃ち抜いて次に一矢当てたら壊れるぐらいなんです!』

『そんなに目を撃つ練習に使ったのか』

『弓を持つなら目だけを視るようになるまでこれ以外使ったらダメって父が作ってくれたんです。だから壊したくないんです。そもそも、魔術で封印して壊れないように蔵に仕舞ってたのに』

『……』

 

 この沈黙、大方封印魔術をそうと知らずに砕いたか何かしたのだろう。

 神秘はより古い神秘に負けるものだから、ランサーの神秘に私の施した魔術が届くわけなかった。

 

『触れるもの皆燃やすとかやめてくださいよ?うちの武器庫でそんなコトが起きたら大惨事なんだから』

『魔力放出の炎は制御している。それに……触れたものを燃やす者はオレではなかったな』

『お知り合いに炎の精霊でもいたんですか』

『近いな』

 

 誰だそれ、と思いつつ肩をすくめて角を曲がる。

 朝日に照らされているのは、昨日も訪れた武家屋敷、すなわち衛宮邸だった。

 家を囲む塀が高いお陰で、昨日の破壊痕は屋敷の外の道路からは見えていなかった。

 聖杯戦争の被害は大体、『ガス爆発』だの『ガス漏れ』だので誤魔化すらしいけれど、これはその誤魔化しを使われる前に直さないといけないだろう。

 

「衛宮くーん、いますか?白矢だけど」

 

 インターホンを押して呼ばわれば、家の奥から騒がしい足音が聞こえてくる。

 果たして、飛び出して来たのは衛宮士郎ではなくてキャスターだった。

 金髪の少女は、超然とした英雄とはとても思えない切羽詰まり具合だった。

 

「ハクヤにランサー!おはようございます!ありがとうございます来てくれて!壊れているところは私の魔術で誤魔化しているんですけど、もう既に色々とバレそうです!」

「バレそう?」

「シロウは一人暮らしなんですけど、その、お姉さんと妹さんみたいな人が来てて!」

「お姉さんにいもう───────あーっ!」

 

 完全、完璧、無様に、忘れていた。

 衛宮士郎の家には、藤村大河先生と、間桐桜が通っているコトを。

 一瞬、妹と聞いて昨日のイリヤスフィールなるアインツベルンのマスターが過ってしまったが、ここで言う妹みたいな人は恐らく一年生の間桐桜だろう。

 一年生の中でも群を抜いた美少女である彼女が、よく衛宮士郎の家に食事を作ったり掃除をしたりと通っているコトは、学園の生徒なら大体知っている。

 

 何であれで付き合ってないんだよという、穂群原学園の地味七不思議のひとつとして。

 尚、英語教師藤村大河氏のについては、『タイガーだし』の一言で流されがちだった。

 何故そんな重大事項を忘れていたかと言えば、ひとえに昨日色々あり過ぎたからだ。言い訳にもならないけれど。

 

「間桐桜さん、もう来てるの?」

「もう来てるんです!シロウはわたしをお父さんのキリツグさんを頼って外国から来たってコトにしてくれたけど、ハクヤが来るのを言ってなくて!」

「じゃあ、同じく海外から来たランサーは元々知り合いのキャスターに挨拶に来て、私がその付き添いで来たってコトにしよう!」

「わかりました!シロウにそう言うように伝えてきますので、二人はゆっくり来てください!」

 

 ばたばたと、キャスターは来た廊下を駆け戻って行った。

 一応生死がかかった聖杯戦争中なのに、やり取りが漫画のコメディみたいだった。

 しかし、昨日推定ライダーの襲撃があった翌日にも関わらず、()()()()()()()()()()()()()とは。

 

「……来なくなるのかと思ってました」

「間桐桜か?彼女が聖杯戦争のマスター足りえると、お前は随分前から見抜いていたが」

「はい。それに、数えていったらライダーのマスターは彼女になります。だから、昨日ライダーがここを襲った時点で彼女は来なくなるのかなって」

「予想が外れたな。だが、間桐桜が己のサーヴァントに襲撃を命じつつ、衛宮士郎を探るような器用な戦術は取れるかは疑問だ。あれは心底、衛宮士郎を想っている少女だろう。己が狂うのも厭わないほどにな」

「……」

 

 そう言えば、ランサーは霊体化して学校に来ていたときに、しっかり桜を見ていたのだ。

 彼の慧眼にかかったら、間桐桜から衛宮士郎への想いなど刹那で看破されるに決まっていた。

 というよりも、桜からの好意に気がつかない衛宮くんのほうがすっ飛んでいると言ったほうが近い。いつか本当に刺されるぞ、と言いたくなるほどに好意に鈍いから。

 

「ランサーから見て、桜さんは衛宮くんを己の意志で傷つけられる人ですか?」

「正気を保っている限り、無理だな。義務や信念に基づき、愛する者や己の生命に矢を放ち剣を振り下ろす者はオレも見てきたが、間桐桜はそのどちらでもない。己の感情に従うだろう。それだけに、ライダーのマスターの行動として、今の間桐桜はオレも読めん」

「……なら、ライダーのマスターは彼女じゃないと?」

「その判断もまた早計だ。お前は眼が良い。今から間桐桜と直接対峙し、判断すべきだろう。ただし、得た結果は口に出す前にオレに言え」

「あなたも何か言う前に私に念話してくださいね」

 

 私たちはお互い、『口は禍の元』だなと思っているのだ。

 こちらの話が何とかまとまったその瞬間を見計らったように、キャスターが扉を開けた。

 

「お待たせしました!ついて来てください!」

 

 そう言うキャスターには、私たち敵陣営なのですがというツッコミはあまり効かなさそうだった。

 衛宮士郎を助けたのは成り行きで、次に夜に会ったら殺し合わなければいけないことはわかっているのだろうか。

 

『彼女はやけにお前を信頼しているようだな。オレが着く前に何かあったか?』

『ありません。ランサーこそないんですか?サーヴァントは別の時空にも召喚されるんでしょう?』

『サーヴァントになってからの記憶を含めても、オレはあのキャスターを知らん。無論、オレには召喚されたすべてのオレの記憶がある訳ではないがな』

『……サーヴァントって、本当に時空を問わず戦いに召喚されるんですね』

 

 そんな存在になったのなら、それこそ聖杯で願いを叶えられるぐらいの報酬がないと嫌になりそうだと思うのだが。

 

『オレの願いは既に叶った。望むものはお前の平穏のみだ』

『だから何故そうなったんですか』

 

 ランサーの『もう叶っている願い』についてはノータッチにしたけれど、また気になってしまいそうだっだ。

 しかし、願いは言いたくない、真名も言いたくない、マスターには早く聖杯戦争から降りろと言い続ける、あと魔力消費と周辺の破壊量が桁違いとは。

 

『ランサーって、もしかして割とやりづらいサーヴァントだったりします?』

『生前、最もオレを気遣い、よくしてくれた者を激怒させ、渾身の力で殴られる程度には気が利かん男だと自負している』

『何をしたんですか⁉』

 

 それはサーヴァントになる前の話だろう。

 脳内で忙しく会話をしている間に、キャスターは私たちを衛宮家のリビングにまで導いてくれていた。

 

「シロウ、ハクヤがランチャーと一緒に来てくれましたよ!」

「わかった!おはよう、白矢、ランチャー!」

「おはよう、衛宮くん」

「朝が早いな、衛宮士郎」

 

 誤魔化しも含んだ妙に明るい衛宮士郎と対照的に、こちら二人は平坦な声で応じた。

 ランサーの鋭い眼が、衛宮家のリビングの畳に正座していた藤村先生と桜を見下ろす。

 

「え、白矢さん⁉どうしたのこんな朝早くから!」

「おはようございます、藤村先生」

 

 朝から元気な英語教師、藤村先生には笑顔で返してぺこりと頭を下げた。

 朝食の準備中だったのか食事後だったのか、部屋には味噌汁と焼き魚の匂いが漂っている。

 穏やかな日常の気配が残るその空気の中で、しらりと私は嘘を口にした。

 

「こっちのランチャーさんも、海外から来て今私の家に泊まっているんです。今日はキャスターさんと知り合いなので挨拶のために来ました。私は道案内役です」

「ランチャーだ。よろしく頼む」

 

 英雄に真顔で何て名乗りをさせているんだろう。

 遠い眼になりそうだったが、ひとまず言い切る。

 藤村先生は、ぽかーんと口を開けていた。

 

「そういうことなんだ、藤ねえ。この前藤ねえもランチャーを見かけたって言ってただろ?」

「そうだけど、それならキャスターさんも白矢さんの家にお泊りで良かったんじゃないの⁉この家で二人暮らしするなんて────」

「ごめんなさい、藤村先生。色々あって、我が家は他にもお客様がいて一杯なんです。それに、キャスターさんは切嗣さんに会うために来たので、切嗣さんの思い出があるこの家に住んでいる衛宮くんを頼らせてもらいました」

 

 凛には、綺麗だけどそこはかとなく胡散臭いと言われる笑顔を藤村先生と桜に向けた。

 藤村先生は何となく納得してくれたようだが、間桐桜は俯いていた。

 まるで、判決を待つ罪人のように。

 その彼女の手の甲には、隠してはいても魔力の痕跡が、令呪の反応があった。

 

 間違いない。

 ()()()()()、聖杯戦争のマスターだ。

 

 でも、やっぱり彼女には、衛宮士郎を害するようなコトができるとは思えなかった。

 

 今ここには、聖杯戦争の三人のマスターと、二体のサーヴァントがいる。

 なのに、間桐桜には自分のサーヴァントを呼ぶ気配すらない。

 

 どこかが、おかしくなっているとしか思えない。

 冬木の聖杯戦争は、こんなのばっかりらしい。

 だが、頭を抱えている時間はない。今は聖杯戦争の昼間。大っぴらにサーヴァントを戦わせない時間帯だ。

 争いを差し挟まずに言葉を交わせる好機だった。

 

「あと、ランチャーが日本の学校と学生を見たいし話したいって言ってて、挨拶と一緒にキャスターさんも誘いに来たんですが、どうでしょうか?衛宮くんや間桐さんみたいな学生さんの話も聞いてみたいらしくて……」

 

 何とか話に乗っかれ、と衛宮士郎を凝視すると、彼も意図が読めたらしい。

 

「それなら、今日は四人で一緒に学校に行くか。藤ねえはそろそろ出ないと小テストの採点があったんじゃないのか?」

「あっそうだった!じゃあ士郎も桜ちゃんも白矢さんも遅刻したら駄目だからね!」

 

 言って、藤村先生は慌ただしく出て行った。

 後に残ったのは、纏う空気が異様に重たい間桐桜に、その空気をさすがに感じ取って狼狽え気味の衛宮士郎、泰然と腕を組んでいるランサーに、全員の間で視線を回しているキャスター、そして私だった。

 

「あの……」

 

 そろりとこちらが手を挙げた瞬間に、間桐桜の肩が跳ねる。

 怖がられている事実にざっくり胸を刺されたような気分になるが、とりあえず口を開いた。

 

「昨日の約束通り、この家の壊れてるところ直したいんだけど、案内してもらってもいいかな?」

 

 それを聞いて、衛宮士郎はなんだか救われたような顔になっていた。 

 

 

 




SN編主人公、『魔術師の家』の『妹』で、後継者からは外され、けれど実家で家族と共に幸せに暮らし、衛宮士郎とは普通に仲良いという。
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