間か空いたので、物語の状況整理を。
真名を開帳していないところばかりなので、ぼかしています。
セイバー陣営
主 バゼット・フラガ・マクレミッツ
従 某ケルト英雄の少年期
→ランサー陣営と同盟関係、アサシン陣営と交戦
アーチャー陣営
主 遠坂凛
従 赤い外套の青年
→ランサー陣営と交戦、負傷あり
ランサー陣営
主 白矢曙宇
従 鎧纏う青年(インド出身)
→セイバー陣営と同盟関係
アーチャー、ライダー、バーサーカー陣営と交戦
ライダー陣営
主 間桐慎二/間桐桜
従 紫髪の女怪
→ランサー陣営と交戦、負傷あり
アサシン陣営
主 ???
従 コルキスの魔女
→本来のマスターを殺害し主替え、円蔵山に籠城
キャスター陣営
主 衛宮士郎
従 妖精の少女
→ランサー陣営と一時休戦状態、バーサーカーとランサーの戦いで、ランサーの援護についた
バーサーカー陣営
主 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
従 不死身の大英雄
→ランサー陣営と交戦、撤退
キャスターのマスターへ殺害予告
八番目の陣営
主 ???
従 黄金の英雄
→ランサーのマスターに殺害予告、交戦なし
では。
衛宮邸を後にして駆けつけた学校には、何とか間に合った。
自分の席についてぐでった私の背後にはランサーが霊体化したままついており、周囲を警戒してくれているらしかった。
この学校に張られた致死性の結界は、そのままなのだ。
下手人は、消去法的にほぼわかっているけれど、追求するのはなんとも気が重くなる。
はぁ、と組んだ腕に顔を伏せる。
『マスター、どうした?』
『この学校を覆う結界を張った相手と、話をしようと思うんですが、気が重いんです』
『……間桐慎二か?』
『はい』
衛宮士郎や凛と同じ、幼なじみにあたる相手だ。
『既に街中から魔力を奪えるアサシンはこんな結界、必要ありません。バーサーカーにも、理由がない。アーチャー、セイバー、キャスターは論外。となったら残りはライダー陣営だけ。……桜さんからマスター権を預けられるか奪うかした、間桐慎二しかいません。……彼は、そういうコトができる人間です』
『彼がサーヴァントに従わされている可能性は?』
『朝見かけた時点で、精神を縛られている気配はありませんでした。彼個人の妄執には取り憑かれているでしょうけれど』
『……』
『魔術師の家に生まれて、魔術回路がない。才能のある養女で妹が聖杯戦争のマスターになる。……言い方を変えれば、犯罪者が罪を犯すストレス要因は十分ありました。もちろん、私もその一端だと思います』
魔術回路どころか、神代へ回帰した異質な回路の量と質があるのだ。
間桐ほどの名門ともなれば、蓄えた資料で白矢家の内実は調べているだろう。潰えた本家が、どんな血筋に連なるかも。
そんな由緒正しき名家の者が、ふらふらと神秘を垂れ流しにして彷徨して、あまつさえマスターになっていたら、気に食わないに決まっている。
『ランサーにはもう言ってしまいますが、私たち一族の祖先は、バラタ族。特に、その王家の血を引く者と伝わっています』
『……』
『けれど、私たちはパーンドゥ王の血統ではない。……あなたなら、意味が、わかりますよね?』
『……パーンドゥの妻クンティー妃が、神と交わり生まれた半神のパーンダヴァ。彼らがお前の祖先であり、特におまえたちは……三番目の血を継いでいるな?』
『クルクシェートラの戦いを経た後、王家を継いだのは彼の子孫です。他はすべて殺された。だから、そうなんでしょうね。真偽は誰にもわかりませんが』
紛れもない大英雄の子孫たちが今や半端に零落して、極東の一都市で大騒ぎとは、やりきれなくなる。
訳のわからない黄金の英雄には殺すと定められてしまった上、彼の手にかかったらただ死ぬだけでは収まらないと思う。
むしろ私が死ぬだけならよいほうで、ちゃんと死にきらないともっと惨いコトに使われると思うのだ。
嫌だなぁ、と思う。
自分が死ぬのもだけど、死ぬのを利用されるのはもっと嫌だった。
『……ランサー、私はあなたにとっては仇の血筋ですよね?それでも、護るんですか?』
『無論だ。おまえの器に流れる血の源流など、オレには些末だ。断言するが、どうでもいい』
『ど……どうでもよくないのが我が家系なのですが……』
『血筋とは、呪いであり、矜持でもある。それはオレにも理解できるが、支えにはしても囚われるべきではない。おまえには合わん』
断言してから、ランサーは言葉をきちんと継いだ。
『重ねて言うが、オレは死者だ。そこで時を止めているし、己の末路を変えたいとは思わない。何よりも、変える必要も感じない幸福を、数多く得られた人生だったからな』
『そうなんですか⁉後悔が何もなかったんですか⁉』
『……訂正する。オレはたった一つ後悔を遺した。それを願いとして聖杯戦争に参加している』
『その願いは叶ったからもういい、と?』
『そうだ。ああ、そうだった。……そうだったのだが、あの黄金の英雄がいる以上成就したとは言えなくなった。一旦保留とする』
真名がほぼ判明している彼の英霊の、『願い』とは。
『……でも、願いの中身は教えない、と』
『そうだな。知らずとも、連携に支障はないだろう?』
『ないんですよねぇ』
考えられるのは、召喚したマスター、つまり『私』が願いの成就の形だったコトくらいだ。
ひと目で、『弟』の子孫が普通に生きているのを見て、後世に血が繋がっているのを見て安心したというならまだ無理やりな理屈は通る。
しかし、理屈しか通っていないのだ。
パーンダヴァの三番目と、
「英雄に英霊って、全然わかりませんね……」
「ええそうね。末裔ともなれば、思うところはあるのかしら?」
「どぅわっ!」
目の前に仁王立ちしていた幼なじみに、がばりと顔を上げた。迂闊にも、気配探知が雑になっていたらしい。
「お、おはよう遠坂さん」
「ええ、おはようございます。白矢さん。ところで昨日の続きをする気はあるかしら?」
「昨日の続きはどちらのコト?戦い?それとも結界の対処?」
「……やっぱり、簡単に喧嘩には応じてくれないのね」
何言ってんだこの現代の
血の気が多い発言にはさすがにサーヴァントからツッコミが出たのか、凛はふんと鼻を鳴らした。
「安心して。結界は使ってる。多少おかしなコトを口走っても、誰も気がつかないわ。……質問があるの。私のアーチャーが、昨日あなたを見て動揺していたんだけど心当たりはあるかしら?つまり、アーチャーが誰だかあなたにはわかる?」
「え、凛は真名を知らないの?」
「……知らないのよ。召喚の時に色々あって、記憶が飛んで真名が不明なの。でも、あなたを見て反応したって言うなら、あなたの一族に連なっているんじゃないかと思ってね。戦士が多いんでしょう?遡れば、英霊になった先祖がいてもおかしくないじゃない?もし先祖なら、筋は通すべきよ」
「あー……うーん……」
先祖じゃない、と言っていいのだろうか。
昨日見た凛のアーチャーは、骨相にとても見覚えがあった。上げている前髪を落としてくしゃっとさせたら、凛にもわかるんじゃないだろうか。
それに、今朝判明した『彼』の特異な才能を組み合わせれば、見えてくる。
ランサーをして、類稀と言われた才能を磨き上げれば、『彼』も英霊にはなれるのではなかろうか。
……英雄になれたかは、わからないけれど。
「ちなみにアーチャーは、その辺りにいるよね?こんな間近で聞いていいの?」
「本人も忘れているんだから、思い出させたいの。それで、どうなの?」
「うーん……結論から言うと、先祖じゃないだろうね。私たちの一族って女系なの。先祖返りも記録にある限り全員女。男性で名うての武人となると、外から来て婚姻した夫しかいないよ。その中に、アーチャーみたいに弓を使う人はいな………………ん?待って。アーチャーって昨日何でランサーと戦ったんですか?まさか、ずっとあの片刃剣で?」
『双剣以外使っていなかった。手元から弾き飛ばしても、瞬時に新たな剣を精製して握り、挑んで来た。……あの戦法を可能とする能力から考えるに、やはり、アーチャーは
『………………』
ランサーも、やや言いづらそうだった。
アーチャーの在り方からして、衛宮士郎は人を殺さずして英霊になれる者ではないだろう。
衛宮士郎が、一人や二人では済まない生命を奪った果てが、英霊という冠を被せられた姿が、アーチャーなのか。
それは、気が重くなる話だった。
その動揺は表に出さないようにした、首を傾ける。
「外から来た夫たちの中で、アーチャーみたいな戦い方をする人は記憶にないね。顔立ちからしてアーチャーは本国の人じゃなくて東アジア系みたいだし、そうなると完全に該当者はいないな」
「そう。……それならどうして、白矢さんを見て反応したのかしら?」
「英霊って、未来からも来るんでしょう?私が未来で出会う、まだ会ってない人の可能性はあるよ」
「ああ、あなたの一族って強い男を狙って婚姻するんだっけ」
「風評被害だ深刻な誤解だ異議ありだ!そんなアマゾネスじゃないよ!!刺客を返り討ちにして結ばれた場合はあるけど!!!」
「尚アマゾネスよ!!……はぁ、じゃあアーチャーがあなたの未来と関わり合う……たとえば、夫やそれに近い関係の誰かって可能性はあるんじゃないの?」
「ないよ。私、先祖返りだもの。血を残したら駄目なの。だから、誰ともそういう関係にはならない」
そんなコトをしても、先祖返りが途絶えた試しはないけれど、かと言って神代回帰の肉体を残しはしない。
先祖返りはただの一人も例外はなく、子を成して来なかった。私もそうだ。
姉さんの子どもは、可愛がる気満々だけど。目指すのは、何してるかよくわからないけど偶に会える親戚の伯母である。
「戦友なら可能性はあるけどね。先祖返りは成長したら家を出て、武の研鑽を積むって決まっているし。今の時代なら、私も母さんや姉さんみたいになるよ。世界各地を飛び回るだろうから、その中にアーチャーがいたとか?」
実際には、既にいるのだけどね、アーチャーは。多分、今頃は通学路に。
しかし、私が正体を看破したとアーチャーに悟られてもよくない気がして、黙るコトに決めた。
ただでさえ黄金の英雄というのに狙われているわけで、真名を知られたと狙撃されても困る。
……というか、もし今、アーチャーが私を殺害した場合、彼にとって『白矢曙宇』はどうなるのだろう。
割と顔なじみの私がサーヴァントに殺されたら、衛宮士郎はかなり長いコト根に持ちそうな気がする。そうなったら、アーチャーの記憶はタイムパラドックスするのか。
それとも、『英霊』として世界に情報を固定された彼に影響はないのか。
……仮定でも自分が死ぬ話を考えていると知られたら、ランサーがチクチク刺してきそうなのでこの思考は打ち切った。
凛は、肩をすくめていた。
「ふぅん。それなら確かにあり得る話だし、未来となると今のわたしたちで考えても無駄ね。……ちなみに、ランサーからコメントはある?」
「弓兵なのに双剣を扱うとは興味深い。特異な才能の研鑽は言祝ごう。だが、次戦場で見えたなら容赦はしない……って言ってるよ」
「血の気が多いわね」
「おまえに言われたくない、だってさ」
凛の目がぎらりと光った。
「上等じゃない。マハーバーラタの大英雄が……!」
「……もう悟ってた?」
凛は、ぎゅうと腕を組んだ。
「当たり前よ。あなたが触媒なしで呼べて、黄金の鎧と高い再生力を持ち、槍を扱う神代の英雄。ここまでヒントがあればわかるわ。……そうでしょう?マハーバーラタの大英雄、カルナ」
凛は私の背後に目を向けて、挑戦的に睨み据えた。
一瞬だけゆらりと空気が揺れて、黄金が現れて消える。
「正解、って言ってるよ」
「わかるわよ。……はぁ、それにしてもそっちを呼ぶとはね。あなたたちの血筋って、彼と敵対していたほうじゃない」
「云千年も経ってるからもう納得も満足もしてるらしいよ。……あそうだ。凛、この聖杯戦争、おかしいよ。イレギュラーが混ざってる。具体的に言うと、存在しない八番目がいる」
「は?」
ここで授業前のベルがキンコンカンと鳴り、凛はぽかんと口を開けた。
「昨日の夜、最後のマスターとサーヴァントが揃ったから教会まで案内したんだけど、そこで八番目のサーヴァントとバーサーカーが出た。八番目は宣戦布告だけして帰って、バーサーカーはアインツベルンのサーヴァントで、ランサーと撃ち合って教会周りの墓地の一部と林を破壊し尽くして撤退してる」
「まっ……待ちなさい!アンタ昨日、何騎のサーヴァントと遭遇したの!」
「アーチャーに、ライダーに、キャスター、バーサーカー、八番目で五人だよ」
「ライダー⁉さっきライダーは言ってなかったわよね!」
「七番目が召喚される前に出くわして瀕死にされたの。やっぱり、現代人は普通じゃ英雄には敵わないね。多分、学校に結界を張ったのもライダーだろうけど」
「あ、あ、あ、アッタマ来た!!放課後覚えてなさいよ!曙宇!」
こんな時でも優等生の意地は通すのか、凛は生真面目に教室に戻って行った。
それにしても、凛の認識阻害の結界は凄い。誰も、私たちの会話を聞いても不審な顔をしていない。
ちょっとヒートアップした程度の、学友の会話に変換されているらしい。
去って行く凛の背中を見てふと思う。
セイバーとは既に同盟関係なので、他の陣営すべてともう接触している旨は言わなくてもいいだろう。というか、言ったらまたぞろイイ笑顔を向けられそうなので自己保身して口を噤んだだけである。
その凛とすれ違いに教室に入って来るのは、肩で息をしている衛宮士郎。
随分焦って走って来たらしい彼は、怒髪天寸前の凛を驚いたように避けてから、席に座ってひらひら手を振るこちらに脱力していた。
そのままずかずか席に寄ってきて、凛のように仁王立ちになる。
「おい、白矢─────」
「あとで。放課後まとめて話をするから、それまで待っててね、衛宮くん。授業、始まっちゃうよ?」
問題が山積みすぎて、どこから手を付けていいかもわからないのだ。
まとめて話をするのが手っ取り早いだろうと、にっこり笑う。
ランサーが、背後で額を押さえている気がした。
アーチャー「深刻な誤解が発生しかけた」