では。
遠坂凛と白矢曙宇。
彼らは二人とも、聖杯戦争なんてものが始まる前から、衛宮士郎の知り合いではあった。
それぞれ『ミス・パーフェクト』と、『クラスで四番目に可愛く一番大人しい』というのが男子連中の意見だったのだが、二人ともかなり相当分厚い猫を被っていたらしい。
穴とガラスの破片だらけの学校廊下にて、仁王立ちの遠坂凛とけろっとしている白矢曙宇がいた。
「アサシン陣営とやり合って、しかもマスターは葛木先生ですって⁉どうして逃がしたのよ!」
「ランサーがアサシンの魔術師としての技量が惜しくなって。ソレもそうだなってコトで、帰したよ」
「……なら、この廊下の破壊は?ランサーの槍じゃないでしょ」
「私だよ。アサシンに不意討ちされて迎撃したんだけど、障壁で塞がれて跳弾しちゃって」
「つまり何?あなたたち、サーヴァントとマスター、マスターとサーヴァントが戦ったの?」
衛宮士郎にもわかる。
今、遠坂凛の感情のボルテージが一段階上がった。
が、そんなもの歯牙にもかけぬとばかりの槍兵は、あくまで冷静だった。
「相違ない。アサシンのマスターが先に仕掛けてきた。マスターが前衛に出、護りを失った敵マスターをサーヴァントが襲撃する。互いの信頼関係あってこその連携だ。称賛に値する」
「転移してきたアサシンは短剣で私を刺そうとしたけど、殺意に乏しかったから魔術契約の書き換えでも狙ってたかと。ランサーのマスター権を自分のものにできたら、あのアサシンなら普通に勝てそうだ」
「ちょっと待ってくれ!サーヴァントなのにそんなコトできるのか⁉」
「できるよ。……普通のサーヴァントならできないけど、あのアサシンは例外。だって、コルキスの王女メディアだから」
さらりとアサシンの真名を口にした白矢に、遠坂凛はくわりと目を開けた。
「神代の魔術師じゃないの!それならできるわ!……衛宮くんのキャスターは?」
「彼女に望むべきではないな」
「ほっ、ホントのコトばっかり言わないでくださいって何度も注意されてたじゃないですか!覚えてないんですかランサーさん!」
「む?そうか?」
「そうですよっ!」
と、ランサーに食ってかかっているキャスターには、マスター権の書き換えはできないらしい。
遠坂凛は、その言葉に額を押さえていた。
「それなのにアサシンはできるってどうなってるのよ。それと曙宇、アンタまだ私たちに隠してるコトあるでしょ」
「えーと……」
「アーチャーのマスターよ。その問いでは広範すぎる。どれがおまえの言う隠し事か、判断できない」
あからさまに何かを隠していますとばかりに空を向いた白矢と、律儀に応じたランサーに、遠坂凛は優雅に髪を手で払って相対した。
「あらそうですか。では言葉に直すわ。たとえば、全然姿を見せないセイバーの行方に、さっきちらっと聞こえてきた八番目のサーヴァント、バーサーカーの真名辺りの秘密は持ってるんじゃないの?」
「強欲だな。だが、オレのマスターの個人に関わる情報は求めないのはおまえなりの誠意か」
「あなた、そうやっていちいち人の中身を覗き込まないと気が済まないのかしら。白矢さん、唐変木って罵っても正当だと思うわよ」
「朴念仁とは言ったよ。悪気がない分余計に癇に障るところはあると思うけど、私は慣れるコトにした。っていうか凛、どの辺りから私たちとアサシンの話を聞いてたの?」
「聖杯に願いをかけてるサーヴァントが、アサシンで二人目って辺りからよ。……それで、最低限セイバーの行方は吐いてもらうわよ!」
「おまえたちは、共闘関係になったのだろう?衛宮士郎から聞いていないのか?」
「へ?」
まさかの名指しに、飛び上がるしか無かった。兎に角、ランサーの視線は鋭く物言いは突き刺さるものが多く、個人的にはあまり長々会話したくなるタイプではないのだ。
弱者に肩入れするつもりなら、正義の味方だけはやめておけ、などと真顔で言われたら驚きもする。
そのマスターである白矢はと言えば、『あっ』と漏らしてすすっとランサーの陰に隠れてしまった。
なんだ、『あっ』て。
それに、八番目のサーヴァントって何なんだ。
確かに、アサシンとの会話は最後のほうだけ聞き取れていたが。
だが問い詰めるより速く、きらりと遠坂凛の視線がこちらを捉えていた。
「衛宮くーん?ランサーはこう言っているんだけど、まさかあなたもわたしに何か言ってないコトがあるのかしら?セイバーの情報とか?」
「セイバーなんて俺が知るわないだろ。剣士のセイ……バーって、ああああっ!」
思い出した!
つい最近、具体的にはキャスターと契約するほんの数日前!
白矢家の敷地にいた、見知らぬ青髪の少年!
只者ではない身のこなしで、木刀を振っていたあいつ!
「あいつ、セイバーだったのか!」
「今気がついたのか……」
気がついていないとは思わなかったとばかりのランサーの呟きだった。
ここまで無言のアーチャーに至っては、ため息を吐いて額に手を当てている。
ずいとキャスターが近寄って来た。
「シロウ??どうなっているんですか?わたしも聞いてないんですが!」
「わっ、悪い!その、俺は、セイバーに会ってた!白矢の家に今泊まってるやつが、人間離れって感じで木刀を振ってたんだ。それに、バゼットって名前の赤い髪の女の人もいた……」
「まさか、そいつらがセイバーとそのマスター?衛宮くん、今まで忘れてたの?」
「サーヴァントに殺されかけたり、マスターになってしまったり、友人知人後輩が軒並み魔術関係者だったりで、それどころではなかったと思う、よ?」
ランサーの影から、
「ランサーの偽名のランチャーなんて冗談みたいなものだから、すぐばれると思ってたのに、これは黙っててもバレなかったかな?」
「遅かれ早かれ知られていただろう。君は必ず、危うい目に遭っている他人を助けるために飛び出していたはずだ」
「……ん?」
まさかの、アーチャーからの一言だった。普段ならつけつけ叱っているだろうランサーではない。
意外だったのか、ランサーの陰からひょいと白矢が顔を出した。
「あなたは私とはほとんど会話をしていないのに、その指摘の根拠は何ですか?」
「会話など必要ない。見ていればわかる。君は、己のサーヴァントに苦言を呈されるほどに無鉄砲だ。ある程度の戦闘能力は持ち合わせているようだが、半端な力のせいで徒に己を危険に晒している。そこの未熟者より質が悪い蛮勇だ。君は、そのままでは遠からず、無意味に死ぬだろう」
「あの、ランサーのマスターの私が死ぬのは、あなたにとって利になるのではと、言っていいのでしょうか?」
歯切れ悪そうに、だが急所には切り込むような少女に、アーチャーは顔を顰めた。
彼が、さらに何かを口にしようとしたときだ。
「む」
短く声を出したランサーが軽々と己のマスターを抱え上げ、飛び退る。
「シロウ伏せて!」
そしてほぼ同時にキャスターに引っ張られて衛宮士郎は床に伏し、遠坂凛もアーチャーが庇って飛び退る。
全員が避けて開けた空間に、投げ込まれたのは灰色の小石。
ころりと軽やかに落ちて、石は直後に弾けた。
スタングレネードさながらの閃光が走り、視界が白に染まる。
目が元に戻った時には、ランサーも白矢曙宇も、姿を消していた。後に残るは、ルーン文字が刻まれた小石一つである。
石を拾い上げ握り締めた遠坂凛は、夕焼けの空を振り仰いだ。
「あの二人、セイバー陣営と同盟組んでたわね!」
「その小石でわかるのか?」
「私たちがあの娘を問い詰めようとした途端にこれだもの。最低でも、あの二人には協力者がいるわ。……まったく、大人しい顔してとんだ狸よ!」
ぷりぷりとする遠坂凛に、キャスターがそろりと手を挙げた。
「あ、あの、多分、ハクヤはシロウ経由でとっくにセイバー陣営の情報はわたしたちに流れてるって思ってたんじゃないですか?だから敢えて隠してもなかったんじゃないかなーって」
「一理あるぞ、凛。ランサー共々、彼らは人を謀るのに長けてはいないだろう。問われなかったから答えなかっただけ、程度ではないか?」
「…………そっちのほうがあり得そうって思えてくるわね。……ランチャーなんてふざけた偽名も、大真面目に選んだかもしれないわ。まったく、マハーバーラタの『敵側』の大英雄があんな性格だって誰も思わないわよ」
はぁ、と遠坂凛は喉を震わせて息を吐いた。
「衛宮くんにも、今後のために教えておくわ。ランサーの真名は、カルナ。叙事詩マハーバーラタに記された『施しの英雄』カルナよ」
その名に驚く間もなく、アーチャーが畳み掛けてきた。
「紛れもない、神話の頂点に君臨している槍兵。神々が策謀を用いてようやく撃ち落とせた半神半人の英雄だ。……慈悲深い精神と、粗野な言動という二面性を持つと伝わっているが、あの裏表のなさすぎる言動がその理由だろうな。あれでは、忠言であればあるほど聞かされる者は耳を覆うぞ」
「シロウが契約したら魔力供給で干からびちゃうくらいのサーヴァントですよ。ハクヤで気絶なんだから!」
「ああ。それはそう思ってる」
カルナ。
名前はもちろん知っていた。
というよりも白矢曙宇本人が、マハーバーラタというインドの叙事詩にやたらと小さい頃から詳しく、何となく名前を聞いていたからだ。
だが、だとするとわからないコトがある。
「カルナの特徴って、不死身の黄金の鎧とインドラ神から授けられた槍、だよな?」
「ええ、そうよ」
「でも、ランサーは鎧も槍も両方持ってるぞ?神話だと、鎧を神に渡した対価で得たのが槍だよな?なんで二つともあるんだ?」
これには、全員が渋い顔になった。
「……それはもう、『そう成った』以外の理由はないんじゃないかしら。鎧と槍を備えたカルナを想像し信仰した人々がいれば、どうなってもおかしくはないのよ。それほどに古い英雄だから」
「ま、まぁ、カルナは本来アーチャーやライダーが本職です!ランサークラスは本来のものではありませんよ!宝具の槍だって、言い伝えの通りなら発動は一回だけで、鎧との同時使用はできないはず!」
「その本来の器ではない霊基で、不死身のバーサーカーとやり合ったと聞いたが?宝具の発動がただの一度で、それに伴い鎧を失うとしても、如何にして神殺しの一撃を凌ぐ?」
「うあっ」
「『必要となった時に弓の奥義を忘れる』っていう呪いも、弓自体を持っていない今なら、発動しない可能性がある。……こういう場合、マスターを狙うのが定石になるんだけど、神代魔術師の転移に反撃できるヤツがマスターになってるわけ」
「……」
それは、『敵』として見てどうなるのだろう。
今まで、敵対者として見なせなかったランサーとそのマスターの存在が、ここに来て重くのしかかって来るのを感じた。
今までと何ら変わりない態度で。
今までと一つもずれていない言動で。
彼らは、街の人々から生命力を搾取するアサシンを、見逃したのだ。
「まっったく!あの娘本当にうっかりでなんて存在を召喚したのよ!その上、セイバーときっちり同盟まで組んでるし!過信も油断もしてないってわけ?」
「そのランサーすら警戒するイレギュラーが、この聖杯戦争には存在しているようだがな。八番目のサーヴァント、とやらか?いつ接触したのか」
「多分、シロウとわたしを教会に連れて行ってくれた時じゃないかな。……今から考えたら、あの時のランサーはバーサーカーに対して以上に気が立ってました。……ハクヤは、いつもと変わってなかったけど」
「でも、あいつはアサシンを見逃したんだよな?」
聖杯戦争による犠牲者がないようにしたいと口にしながら、白矢曙宇はアサシンを逃した。
アサシンとの戦いが激闘ゆえに仕留められなかったのではないのだろう。やろうと思えば簡単に屠れた街の脅威を、倒さなかったのだ。
「あいつ、何を考えてるんだ……?」
その問いに、キャスターは杖を握りしめ、アーチャーは皮肉げに口元だけを歪める。
遠坂凛は、肩をすくめた。
「あいつの善性に則って解釈するなら、アサシンを見逃すコトが全体の犠牲を抑えると判断した場合はあるわ」
「けど、アサシンを野放しにしたら街の昏睡事件は止まらないだろ」
「でも、死んでないのよ。発動したら中の人間を殺すこの結界とは違って、アサシンは加減してる。やろうと思えば魂喰いもできるのにね」
「犠牲者の総数を減らすため、一部を救わないのは有り得る話だな。それにあのランサー、評判ほどに無私ではないのではないか?己のマスターの生存や安全に対しては、執念じみて拘っている印象だ」
神々に呪われ、約定に縛られ、味方に裏切られ、謀殺されたに等しい最期を遂げても、カルナには
高潔に過ぎる精神である一方で、マスターに対しては違うとアーチャーは続け、遠坂凛は頷いた。
「それはそう。曙宇が言ってたけど、あのランサー、曙宇を聖杯戦争から無事に生還させるコト以外頭に無いみたいよ。召喚してからしばらく、令呪を全部使って自分を自害させろって言い出して聞かなかったそうだから。そうしたら、マスター権もなくなって狙われる心配も消えるからね」
「ハクヤの安全にはアサシンが必要だって考えたランサーが、見逃したかもしれないってコトですか?さっきも、神々に呪われてるとか何とか聞こえましたし」
「そう。曙宇自身が、相当な因果の中に生まれてるわ。神々の呪いって言われてもおかしくないくらいにはね。何とかしたいって、ランサーが勝手に動いた可能性はある。……魔術師にはなれやしないのに、魔術が関わる争いと一生寄り添う呪いに囚われているのが、白矢家よ。衛宮くん、白矢曙宇ってヤツに、血で血を洗う毎日や、何の報酬もない人助けのための戦いが、似合うと思う?」
「……」
自然、衛宮士郎は首を横に振っていた。
遠坂凛は、それを見て頷く。
「でも、白矢家はそうなってるの。魂から武器を汲み上げ、神秘が現れる戦場に姿を現して争いの元凶を断つのがあの家よ。……彼らは一様に異様なほど善良で、主に巻き込まれた一般人を助けているわ。でも、魔術師にとっては嵐のような無法者よ。……だから、大陸にあった白矢の本家は、百年ほど前に戦争で皆殺しにされて壊滅したわ。魔術師に扇動された、神秘を知らない兵士の手でね。中には、かつて彼らに救われた者もいたでしょうに」
「なっ……!」
「それだけ、理解されないのよ、あそこは。見返りも報酬もなく、神代に連なる神秘を用いて争いを収め人を助ける。根源に興味もなく、魔術師同士の殺し合いに現れる。かつてなら英雄と謳われたかもしれないけど、現代に近づくほどそんな機会はなくなる。……なら、排除されて当然よ。それでも血筋が絶えていないのは、単純に一人ひとりが戦士として強いからなの」
実戦経験すらほとんどない、冬木市から出たコトすらない末妹ですら、サーヴァントに対して武器を向け、生き残れるほどなのだ。
当主や次期当主として鍛えられた姉など、どれほどの者か。
「何の、ために……?」
「ん?」
「何のために、そんなコトをするんだ?頑張って頑張って、報われないのにずっと続けるのか?自分だけじゃなくて、自分の子どもや孫にまで……?」
白矢家の
十年前の火災で夫を、父を失い、それでも明るく笑う母親と二人の娘が、あの家にはいつもいた。
正義の味方が夢なんだと言っても、彼ら母娘が衛宮士郎の夢を笑ったコトは一度もなかったのだ。
─────違う。
笑ったのではなく、笑えなかったのではないか。
だって彼らはもう既に、人を助ける者の末路まで、知っていた。
知っていたから、言えなかった。馬鹿にできなかった。
本当にそれが、
口を引き結び、拳を握りしめる衛宮士郎を見て、遠坂凛は指を指揮棒のように振った。
「その、何のためにって部分にも答えられるから答えるわ。……普通の人間になるためよ」
「は?」
「白矢家には数世代に一人、『先祖還り』が生まれるの。現代にはあり得ない魔術回路の量と質を備えた、たった一人の神代回帰。……白矢家はこの『先祖還り』を生まれないようにするためにあるわ。そのために、魂から造った武器の練度を上げるために戦いに出るの。己が生まれる理由を探して、己の魂を探求するのよ」
「えっと、先祖還りってこの世界の魔術師にはとっても貴重なんじゃないですか?」
「貴重よ。自衛できなきゃ間違いなく瓶詰めの標本にされるわ。そして、当代の先祖還りは曙宇よ」
「あいつが⁉」
遠坂凛は、事もなげに頷いた。
「そ。先祖還りが生まれる限り、白矢家は狙われ、自衛し続ける必要がある。だから生まれないようにして、普通の人間になろうとしてるのよ」
「……」
「ちっとも上手くは行ってないようだけどね。……まったく、曙宇がマスターになるなら、あの血の因果を何とかしたいって願うと思ってたのに、今じゃそれを願いそうなのはあいつじゃなくてランサーのほう!ほんっっとに、あいつは自分が得をするように動くのが下手くそなのよ!」
「リン、それでもあなたは、彼女を嫌ってはいないですよね?」
キャスターのその真っ直ぐな声に、遠坂凛は一瞬固まり、奮然と見返した。
「頭に来るのよ!絶対ボッコボコにしてあんたを私の使い魔にするんだから覚えときなさいって言っただけ!」
「つ、使い魔ァ⁉」
「ええそうよ。勝ったほうが、負けたほうの命令をなんでも聞くって約束よ。聖杯戦争でもその約束は有効なの!」
というのに、不参加だったはずの白矢家が事故で呼んだのがまさかの大英雄で、セイバーとの同盟までしている。
荒ぶって当然だった。
「随分彼女に拘るな、凛。ただの幼なじみではないのか?」
「ただの幼なじみよ。でも、私が気に食わない。先祖還りに生まれてどう思ってるのって聞いた時、あいつ何て答えたと思う?」
「……」
「
先祖還りは子を残さない。
決して血を繋がない。
残るのは、彼女たちの姉妹の子だ。
そしてその姉妹の子や孫に、先祖還りは生じない。一人生まれれば、ソレが生きている限り『次代』は現れない。
だから、己が災いの運命を引き受けられて良かったと、
きっとさっき、神の呪いすらも
笑って、受け入れたのだろう。
キャスターが、あちゃあと口に出しながら目元を手で覆った。
「ランサーがソレを知ったら、まさかと思いますけど、勝手に聖杯を使ったりしませんかね?多分、知りませんよね?」
「否とは言えんだろう。ま、それを契機にセイバーとランサーが仲違いでもしてくれたらと思うがな、望み薄だな」
「神話的に、施しの英雄カルナが味方を裏切るのはあり得ませんかー……」
とほほとばかりに眉を下げてから、キャスターは衛宮士郎を見た。
「……と、わたしは思っているので、シロウに提案です。アーチャーとリンと、同盟を組むのはどうでしょうか?」
「えっ?」
「こんなに長々とリンが説明してくれたのだって、そういうつもりじゃないでしょうか。わたしは白兵戦くらいでしか、お役に立てませんが」
ちらりとキャスターに見つめられて、遠坂凛は、やっと表情を少し緩めた。
「先に言われちゃったか。でもそういうコトよ、衛宮くん。校内のマスターだけでも、曙宇に、葛木に、この結界を張ったヤツで三人もいる。セイバーのマスターはランサー陣営と結んでる。はっきり言って、どこかと組まないとキツイの。曙宇との勝負に勝つにしても、聖杯戦争に勝つにしてもね」
「遠坂、まだ白矢に勝つつもりなんだな」
「当たり前よ!それで、どうなの?私たちと組む気はある?最低限、校内のマスターたちをどうにかするまではね」
名前の通り、凛と答えた遠坂家の魔術師は、衛宮士郎を見つめていた。
考えて、感じて、衛宮士郎は片手を伸ばす。
「わかった。こっちこそ力を貸してくれ、遠坂」
「了解。ま、明日も曙宇は登校してくるだろうし、とっちめてやるから衛宮くんも来なさい。いいわね?」
「お、おう……」
その場合、確実にランサーが霊体化してついているだろうと思い。
そして、間桐桜というもう一人のマスターのコトをどう伝えようかと思案しつつ。
衛宮士郎は、遠坂凛と握手を交わす。
ところが翌日、白矢曙宇は学校に来なかったのであった。
欺瞞も虚飾も何一つなく、心の底から『それで良し』と思っているならば、貧者の見識が見抜けるものは何もないんじゃないかと。
あとは、『姉の幸せを心底喜んでいる』『いずれ戦いで斃れると決まっている』『妹』であります。