太陽と焔   作:はたけのなすび

29 / 114
誤字報告してくださる方、いつもありがとうございます。


act-22

北部戦線に唐突に、『それ』は現れた。

青空がたちまちに雷轟く曇り空へと変わったかと思えば、何もなかったはずの空間から現れたのは、ぎらぎらと蠢く幾つもの目を持つ赤黒い肉の柱。

避ける間もなく、機械化兵が一瞬でそれに飲み込まれかけ、しかし、間一髪でエリザベートの歌声で吹き飛ばされ、彼らは肉の柱には取り込まれずに済んだ。

済んだが、そのままいては彼らはただの餌になるばかりである。即座にエレナが撤退しろと叫び、戦場にはサーヴァントたちだけが残った。

 

「ちょっと何よこれ!」

 

だが、サーヴァントたるエリザベートにも余裕はない。

彼女にも、一目見ればその規格外さが肌で感じ取れたのだ。あれは、並みのサーヴァントでは決して勝てない化け物なのだと。それが突如として現れたのだ。

鼓膜をかきむしるような音を立て、肉の柱は戦場を蹂躙しようと動きだす。ロビン・フッドの宝具である毒矢が突き刺さるが、破壊するには到底及ばなかった。

 

「これは……魔神柱だ。奴さん方の切り札だな」

「切り札!?何でそんなのがこっちに来るのよ!子イヌたちの方はどうしたっていうの!?」

 

カルデアにて魔神柱の情報を得ているアーラシュが呟けば、エリザベートは腹立たしげにマイクに似た槍をぶんと横凪ぎに振るいつつ叫ぶ。

 

「あっちは大丈夫みたいよ!こいつらはあたしたちを磨り潰すために送られてきた、とっときの化け物ってワケ!」

 

言いながらエレナは魔導書から光線を放つ。直撃はしたが、魔神柱にはろくに効いていない。

 

「畜生、矢もまるで効いてねえぞ!」

 

ロビン・フッドの叫びにベオウルフが薄く笑った。

 

「当たり前だ。こいつは確かに魔神柱だ。だがそれだけじゃない。これはな、魔神柱の集合体さ」

「何…………!?」

 

李書文と戦っていたベオウルフは、李書文の拳を避けて一歩下がると、この化け物は二十八体の魔神柱、それらを一つに寄せ集めたものなのだと明かした。

 

「お前らに勝ち目はねぇよ。何せ、こいつらは倒すのも逃げ出すのも不可能なんだからよ」

 

サーヴァントが集まった程度では、どうあがいても勝てないのだ、とベオウルフは言う。

 

「そうかよ。でもま、生憎こっちだって色々負けられないのさ」

「無論だ。マスターは戦っている。ならば俺たちは負けるわけにはいかない」

 

アーラシュは弓を、ジークフリートはバルムンクを構えた。

東方の射手と竜殺しが並び立つ。絶望などするものか、とばかりの彼らである。

それを見て、ふんと鼻を鳴らしたのはニコラ・テスラだった。彼は、やおら隣で凍りついたかのごとく動きを止めているエジソンの向こう脛を、がつんと蹴りつけた。

 

「うお!何をするのだ、このすっとんきょう!」

 

火花飛び散るほどの勢いが込められた一撃に、たまらず脛を抑えるエジソンをテスラは放電しながらどついた。

 

「黙れ凡骨!貴様、何を呆けている!まさかあの科学の欠片もない魔神柱とやらに絶望したのではあるまいな!?」

「そ、そんなわけがあるか!」

 

がおうと食って掛かったエジソンに、テスラは魔神柱を指差して怒鳴った。

 

「ならば少しでも働け!頭を動かせ!凡骨の貴様には他にやり方はないだろう!神秘色濃い英雄どもに、アレを任せきりにするなど、許されるものか!」

「お前に言われなくても分かっている!アメリカに住まう人としてアレを許せるわけはないのだ!」

 

雷を地に引きずり下ろした天才は絶望の具現を前に吼え猛り、あまねく人々に灯りをもたらした発明王は折れそうになった自分を叱咤する。

 

「あー、もう。あなたたち!天才同士の喧嘩は結構だけど、今はそれどころじゃないのよ!ただの電気の力だけじゃ、この怪物は倒せないでしょう。力を合わせなさいな!」

 

エレナが叫び、テスラとエジソンは揃ってその剣幕に反応する。

 

「お前さん方。いがみ合ってないで、周りも見ちゃくれんかな!少しでいい、こいつらの動きを止めてくれ!そしたら俺が何とかできる!」

「…………貴公、何をする気だ?」

 

訝しげなジークフリートに、アーラシュはにやりと笑った。

 

「知れたことさ。俺は英霊で、カルデアのサーヴァント。やるべきことをやるべきときが来たのさ」

「ならば俺も手伝おう。貴公の攻撃に俺が合わせれば良い。気遣いはいらない。俺は頑丈なのが取り柄のサーヴァントだ」

 

雷鳴響く曇天の中聳え立ち、不気味に鳴動し続けるおぞましい魔神柱を前にして、アーラシュは何とかできると宣い、ジークフリートは一つ首肯してそれを信じた。

 

「おい弓兵。何をするかは大体分かるが、要するにあの化物を止めておけばいいのだな?」

「おう。頼むぜテスラ、エジソン」

「分かった!私に合わせろ、すっとんきょう!」

「貴様が合わせろ、この凡骨が!」

 

怒鳴りあいながらもテスラとエジソンは放電を始める。バルムンクを掲げたジークフリートが前に出、アーラシュは弓をきりきりと引き絞る。

 

「ちょっと何するつもりなの、アナタたち!?」

 

魔神柱からの攻撃を避けながら、エリザベートが言い、ロビン・フッドも矢を放ちながら肩をすくめた。

 

「まあ、乾坤一擲の一撃ってやつだろーぜ、ドラ娘。オレらはギリギリでタイミング合わせて退避した方が良さそうだ」

「そうしてくれ。生憎こいつらを吹き飛ばすには、手加減なんて無理なのさ」

 

何せ、これから発動する宝具は文字通りにアーラシュの命を対価とした一撃。

それを今からアーラシュは放つ。

矢へと魔力を高めながら、アーラシュはふと考える。

南部に行ったキャスターも命を対価にするという、己と似た宝具を持っていたようだが、彼女も必要なら宝具をこうして撃つのだろうな、と。

あのサーヴァントなら必要とあれば躊躇いなくやるだろう、と思い、同時に施しの英雄がさせないか、と思い至る。

端で見ていてすぐに分かるほど不器用な彼らには、彼らなりの優しい別れがあってほしいものだと思うが、それを楽観的に望めるほど南部も甘くはないはずだ。

アーラシュはマスターやカルナ、マシュたちより先にカルデアに送還されることになってしまうだろう。戦いの結末に留まれないのはサーヴァントとして失格かもしれないが、こればかりは致し方ない。

最後まで共にあれずに済まないな、とアーラシュは己の誠実なマスターに詫びを呟き、代わりにこれは何とかする、と己に誓った。

 

「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身を見よ」

 

アーラシュの文言が紡がれると同時、ジークフリートのバルムンクが黄昏色の光を放ち始める。

 

「そうだ、ジークフリートくん」

「何だ、エジソン?」

 

たった今思い付いたように、ジークフリートの背中へエジソンが言葉をかけた。

 

「礼を言いそびれていた。―――――ありがとう。私にここまで付き合ってくれて」

 

ジークフリートは片頬を緩めて深く頷いた。

 

「では行くぞ。宝具、起動―――――」

 

エジソンの横でテスラも魔力を高める。

業腹だが、凡骨とのいがみ合いも今はさておく。この場に集いし英霊なれば、全力を以て目の前の絶望を打ち払わねばならないと、雷電博士は信じるからだ。

 

「―――――人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!」

「―――――W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!」

 

天才が神より手に入れた権能と夜の闇を照らした灯りとが光の束となって、魔神柱へと絡み付いた。ものの焦げる臭いが漂い、魔神柱の動きが完全に止まる。

新しき英雄たちの役目はここまで。後は任せた、と彼らはそこから退く。

 

幻想大剣(バルムン)――――」

流星(ステ)――――――」

 

代わって、古き二人の英雄が立った。

彼らの剣と弓は曇らぬエーテルで煌めき、空気を震わせる。

これが解き放たれればどうなるか、魔神柱にも察せられたのか軋むような音を上げ動こうとし始めるが、雷の戒めがそれを許さない。

 

「――――天魔失墜()ゥゥゥゥゥッ!」

「―――――一条()ァァァァッ!」

 

黄昏色の斬撃と、陽光そのものの如き矢が重なって打ち出される。

戦場で戦うものすべての希望を背負った一撃は過たず魔神柱へ突き刺さり、雲を切り裂く巨大な光の柱をその場に作り出した。

網膜を焼くような輝きが辺りを満たし、束の間誰も何も見えなくなる。

 

「やった…………の?」

 

目を覆っていた腕を下げてエリザベートが呆然と言った。

曇天が晴れ、空には再び青が戻る。

降り注ぐ日の光は、魔神柱の赤黒い巨体があったはずの場所に残る、抉れた地面を白々と浮かび上がらせた。

 

「うわ、こりゃすげぇ。…………あー、同じアーチャーとして自信無くしちまいますわ」

 

抉れた地を見て額に手を当てるロビン・フッドである。

何言ってんだ、とその肩を叩こうとして、アーラシュは己の手が崩れ始めていることを悟った。見れば、バルムンクを下ろしたジークフリートも足の先が透け始めている。

彼の宝具は一度撃ったらそれまでの類いではなかったはずだが、あちらも我が身を顧みない一撃を放っていたのだった。

 

「いくのね、アーラシュ、ジークフリート」

 

エレナが彼らの有り様に真っ先に気づいた。

 

「来たところに戻るだけさ。こっから先、うちのマスターに何かあったら頼むぞ」

「…………すまない。どうやら、今回俺はここまでのようだ」

「分かったわ。あとね、済まないって言われなきゃならないことなんか何もないわよ、ジークフリート。ここまでありがとう。またいつか会える日を祈ってるわ」

 

じゃあね、とエレナが手を振る前に、爽やかに笑って見せた二人は、あっさりと金の粒子となって天へ昇っていった。

あとに残るは、李書文と相対したままのベオウルフだが、ひとまずこちらはどうにかなった。

 

「カルデアのマスター、あたしたちは大丈夫。そっちはどうなのかしら」

 

信じてるわ、と再び元気にどつきあいを始めた天才たちの騒ぎを聞き流しながら、エレナは遥かな空を仰ぎ見た。

 

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

鎧を纏ったクー・フーリンは、耐久力と、加えて筋力が上昇したようだった。

代わりにあの心臓穿ちの槍は使えなくなったのか、クー・フーリンは鎧を纏ったままに爪で攻撃してきた。

カルナの槍やラーマの剣も当たりはするのだが、鎧を一撃で砕くには至らず、多少の破損は一瞬で治るどころか、むしろ補修されて鎧は凶悪な見た目となっていた。あの鎧の材料となっている怪物、クリードとやらに徐々に近づいていっているのかもしれない。

カルナやラーマでもそうなのだから、ナイチンゲールやシータ、キャスターの攻撃は言わずもがなである。

故に、勝つには鎧ごと跡形もなく吹き飛ばす以外にないか、とカルナは判断した。

幸い、自分にはそれだけの破壊力を出せる宝具はある。一度きりの大技であり、カルナの守りとなっている鎧を失う行為だが、惜しんでいて勝てる相手ではないと判断したのだ。

爪の一撃一撃を捌きながら、カルナは白斗へ念話を飛ばす。

 

『マスター、宝具を使用する。許可を』

『分かった。―――――令呪を以てカルナに命ずる、宝具を使用してクー・フーリンを倒せ。…………頼んだよ、カルナ』

『心得た』

 

カルナに令呪からの魔力が送られるのを、気配探知に最も長けたキャスターがいち早く察知する。

そうか、とキャスターはこれからカルナが勝負に出るのだと、すとんと察した。

カルナとラーマが立ち位置を交代する。クー・フーリンは宝具の真名解放を悠長に待ってくれる相手ではなく、カルナが宝具を放つまでのわずかな間、クー・フーリンを凌がねばならない。

投擲の構えをとり、魔力を集束させていくカルナを見てクー・フーリンは一層苛烈にラーマとナイチンゲールを攻め立てる。宝具の発動前に食い破るとばかりに、鎧の爪が二人を襲う。

それを避けるべく盾を構えたマシュが割って入ってその攻撃をいなす間に、シータの矢がクー・フーリンの目へ放たれ、スキルランクにしてAのキャスターの呪術の一斉掃射がクー・フーリンに余さず叩き込まれた。

しかし、並のサーヴァントならただでは済まないはずの連続攻撃から、雄叫びを上げて狂王は飛び出す。

 

「キャスター、シータ、避けろ!」

 

白斗が叫ぶが、そのままクー・フーリンの尾の一振りがキャスターとシータに襲い掛かり、二人の華奢な体躯を吹き飛ばした。瓦礫の中へと彼女らは砲弾のように突っ込み、もうもうと立ち上る土煙の向こうへその姿が消える。

まだなのか、と白斗が唇を噛み締めた瞬間、戦場に光が降臨した。

 

「神々の王の慈悲を知れ」

 

爆発的な魔力とは裏腹に、真名を唱えようとする声は微塵も揺らいでいなかった。

 

「インドラよ、刮目しろ」

 

キャスターはその光を、シータと共に瓦礫の中から立ち上がりながら見た。

正しく神すら焼き尽くすだろう槍の光があまりに眩しかったからだろう。キャスターの目に涙が滲んだ。

 

「絶滅とは是、この一刺。―――――焼き尽くせ、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』!」

 

槍が放たれ、世界から音が消える。

マシュは白斗を庇い、キャスターにシータ、ラーマとナイチンゲールは爆風に晒されながらも彼らの足でその場に立ち続けた。

槍に狙われたクー・フーリンは、光へと飲み込まれる。飲まれる瞬間、キャスターには彼が頬を歪めて笑ったようにも見えた。

そして光が収まったとき、そこには半ば以上体の消し飛んだクー・フーリンと、全身から鎧が剥がれ落ち血を流すカルナの姿があった。

漏れそうになった声を押さえ、キャスターはカルナへ駆け寄る。

 

「傷、ですか」

「ああ。あの槍を撃った代償だ。治せるか?」

 

無言で頷き、キャスターはカルナの全身へと橙色の焔を纏わせる。

焔がカルナを癒す間に、キャスターはまだ原型を残すクー・フーリンの方へ視線を向けた。

クー・フーリンはひどい有り様だった。鎧は跡形無く砕け、残っているのは頭と右手足だけ。体の半ばすら吹き飛んでいた。

だというのに彼はまだ生きていた。というより、驚嘆すべきはあの神殺しの槍を受けて命を保ち、体がまだあるという事実、そのものだ。彼の生来のしぶとさなのか、それとも土壇場で聖杯を使ったのか。

ともあれ彼はまだ命があり、その最後を振り絞るように今度こそ凶悪に笑った。

 

『不味い、彼を止めるんだ!』

 

だが、ドクターの静止の声より前に、クー・フーリンが千切れかけの腕で聖杯を掲げた。

 

『魔神柱を召喚する気だ!』

 

精々足掻けよ、とばかりの不敵な笑みを残し、クー・フーリンは今度こそ消滅する。しかし、彼と入れ換わるように赤黒い肉の柱が顕現した。

 

「あれが、魔神柱…………」

 

キャスターはクー・フーリンを取り込むようにして現れた柱を仰ぎ見て呟く。

ぎょろりとした眼で全身を覆ったおぞましい外見の柱は、その声が聞こえたかのように全身を振るわせた。

 

「如何にも、我はソロモン七十二柱が一柱。序列三十六位、軍魔ハルファスなり―――――」

 

喋るのか、とキャスターは場違いにも素直に驚く。

 

「この世から戦いが消えることはない。この世から武器が消えることはない。定命の者は螺旋のごとく、戦い続けるが運命なれば―――――」

 

軍魔ハルファスはその言葉を発すると共に、白斗たちへと襲いかかった。

 

 

 

 

 




要するに、ステラの話です。(違う)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。