太陽と焔   作:はたけのなすび

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明けましておめでとうございます。
こんな時期まで続くとは、始めた頃は思ってもみませんでした。これを読んでくださる皆様のおかげです。

新年企画です。
外典編が暗いからか、こっちは遊んでしまいました。
もう一度言いますが、遊びました。







FGO第一部 終幕の話

 

いつの時代もそうだけれど、終わりのない戦いというのはなかった。

争いそのものは、生き物が生き続ける限り絶えることは無いだろうが、一つの戦いが永劫続くことは無い。そんなものがあったら、それは地獄だろう。

どちらかが死ぬか音を上げるかして、戦いというものは終わるのだ。

戦いに行きて帰らなかった者、帰ることができなかった者がいくらいようが、戦いは終わる。

行き場のない悲しみを抱えていても、失ったものは戻らなくても、生き残った者はまた歩き続けなければいけなくなる。

昔の自分は、行きて帰らなかった者だった。帰れなかった者ではなくて、自分で自分の結末を選んだ。後悔が全くなかったわけではなく、自分は今でもその代償を払い続けている。払い終わることは無いが、それよりも暖かなものが自分の中に残されているから別にいいか、と笑っていられる。

とはいえ、そんな自分は、今回の戦いでは最後まで生き残っていた。

まあ、普通にボロボロになったのだけれど、それは仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスタークラスが前線に駆り出されなきゃいけない状況って、そうそうあるもんじゃないと思ってたけど、そんなこともなかったわね」

「そうは言うがね、エレナ君。ぶっちゃけ、我ら魔術師クラスはアーチャー並みに認定がガバガバだ。私のような発明家、作家がいるかと思えば、しゃべるステッキ持参の魔法少女に、剣を振り回して燃やしてばかりのキャスターまでいるのだよ」

「ええとつまり……」

「それだけ多芸な人間が集まっているのだから、必然、様々な役をこなさねばならないということだろうよ」

「……」

 

マスターとの因果をたどって、ソロモンの待ち受ける空間に一斉に攻め込んだサーヴァントたちのうち、白斗と正式に契約していた面々はカルデアへと帰還することができていた。

黒髪のキャスターは、帰り道から逸れかけてカルナに首根っこを掴んで引き戻されるという事態も発生したのだが、ともあれ帰還は完了した。

そう。白斗とマシュは、人類最後のマスターとそのサーヴァントである少女は、最後の戦いに勝った。人理は守られた。

カルデアの職員たちは、今は喜びに沸いている。外の世界は元の姿を取り戻している。

けれど、ただ一人だけ、帰ることのできなかった者はいる。

カルデアのドクター、ロマニ・アーキマン。彼の消えてしまった穴は誰にも埋めることはできないでいた。

死せる英霊は生き残り、生きていたドクター・ロマンはもう戻らない。その喪失感とやるせなさに比べたら、ドクター・ロマンが実は人になったソロモンだったとか、カルデアの召喚英霊第一号だったとか、そういう事実は全く重要ではなかった。

勝った喜ばしさと、失ったものへの哀悼を同時に感じながら、帰って来た面々は、破損したカルデアのあちこちにて顔を合わせていた。

今談話室にいる五騎、第五の特異点での縁を互いに持っている彼らも、そうして集まった面子だった

誰が言いだしたわけでもない。ただ何となく、主にハルファスやらその周辺やらを相手取った面々はここに集まっていたのだ。

どこぞの婦長とかも縁はあるのだが、あちらはカルデア内で助手を引き連れ負傷者を探して回っているので、ここにはいなかった。

 

「でも、カルデアってこれからどうなるのかしらね」

 

頬杖をついてエレナが言う。

 

「サーヴァントの方々の何人かは退去されるそうですよ。希望するなら契約の続行も可能だそうですけれど。あと、魔術協会とかその他の面々がこの一年間の事情説明を求めて、カルデアにまで来るとか」

 

あちこちが煤けているキャスターが言い、同じく肩につけた電球が大破しているエジソンは、その答えを聞いて頷いた。

 

「そりゃそうだろうな。何せ、彼らにしてみれば、一年間の記憶が根こそぎないのだ。説明を与えてもらわねば気が狂いかねん」

 

実は人理が崩壊していたんですよ、カルデアはそれを防ぐために今まで戦い、その戦いに勝ったからあなたたちはまだ生きているんですよ、などと言ってもすぐには信用されないだろう。

偽りはないのだが、信じたくないと思う人間は必ずいる。

特に自分たちを魔術の最高峰と自負している時計塔辺りは、知らない間にあなたたちは殺されていたんです、と言われて納得するか怪しい。

まあ、そういう彼らを、どういう形であれ納得させるのは、白斗の役割ではない。ようやく心躍るが過酷な旅を一つ終えたばかりの彼とマシュに、これ以上何かを押し付けるなど、論外だ。

ダ・ヴィンチちゃんを筆頭にしたサーヴァントたちが出張るだろう。

サーヴァントが出張るということは、つまり脅迫と紙一重だが、これから先カルデアに残るサーヴァントの面々は、白斗やマシュを守るためなら、それくらない辞さない者たちばかりだ。

 

「私やエレナ君はまだ残るつもりだが、キミたちはどうするのだね?」

 

エジソンに指摘されたのは、神代インドという諸々が規格外な時代の出身者、カルナ、アルジュナ、キャスターの三人だった。

三人は顔を見合わせて、一番先にカルナが手を上げた。

 

「オレは残る。オレはマスターの槍だ。ならば契約を解除されるまで、そうあり続けよう」

 

複数のサーヴァントと契約し、レイシフトを繰り返し、人類悪の獣を滅ぼした唯一無二のマスターが白斗だ。

望む望まないに関わらず、白斗はこれから先様々なことに巻き込まれるだろう。確かに、それを払うためのサーヴァントは必要だった。過剰戦力とかではないのだ、たぶん。

キャスターも同じく小さな手を上げた。

 

「私も残ります。微力かもしれませんが、まだ私にできることがあると思いますし」

 

エレナは答えを確認するように、カルナは安心したように揃って頷いた。

 

「……まあ、あなたたちはそうよね」

 

基本的に彼らはマスター第一主義だから、まだ自分たちの力がマスターに必要と思えばどこまでもついていくだろう。

揃って天然で言葉足らずなところがあるから、たまに不安になるが、まあそこらはいいか、とエレナとエジソンは考えていた。

 

「……で、あなたはどうするの、アルジュナ?」

 

五騎のうちの最後の一騎であるアルジュナへ、エジソン、エレナ、カルナとキャスターの視線が向けられる。

だがアルジュナが口を開く前に、耳慣れた音がして談話室の扉が開いた。

 

「あー、君たちはここにいたのかい」

 

壊れたドアからひょっこりと現れたのは万能の天才、ダ・ヴィンチである。

絶世の美女の姿をした彼(?)は、ずかずか寄ってくるとキャスターの手に紙束を押し付けてきた。

 

「何です、これ?カルデアの……地図?」

「そうさ。霊基が無事で、かつ働ける気力のあるサーヴァント諸君は、至急カルデア復旧作業に取りかかってくれたまえ!」

 

諸々めんどくさいお偉方が来るときに、カルデアの崩れたところなんぞ見られたら、ややこしくなるからね、とダ・ヴィンチは言った。

 

「発明家に魔術師に戦士なんだから、全員徹夜は得意だろう?ほらほら行った行った!」

 

と、そうして全員が談話室から追い出されるようにして動き出すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

あちこちが焦げたり割れたり崩れたりしているカルデアの廊下を、三人分の足音が響く。

右端から順にキャスター、カルナ、アルジュナ、という並びで歩いているのだが、誰も口を開かなかった。

 

「……あの、アルジュナ様はカルデアに残られるのですか?」

「そのつもりですが、それが何か?」

「いいえ、どうされるのかと思って聞いただけです」

 

そしてまた沈黙である。この三人は、間違っても談笑する仲ではない。こうして戦わずに揃って歩いていることが、生前からは考えられないことだった。

そのまま歩いて三人が辿り着いたのは、派手に瓦礫で塞がれた通路だった。

 

「これをどかせということですか?」

「それしかなかろう」

 

さくさくと、三人は瓦礫を担いだり蹴ったり砕いたりと様々に撤去していった。

 

「サーヴァントになってこんな作業をやるとは思わなかったな」

「そうだな。本来なら戦い合い、命を賭けてのがオレたちだ。……そういえば、魔神柱は結局どちらが多く倒せたか、分かるか?」

 

ちらりとカルナが瓦礫を両手で担ぎ上げているキャスターに目をやった。

 

「貴女は計測していたでしょう?どうなのですか?」

 

手に持っていた壁の一部を床に下ろしてからキャスターはあきれ顔で頭を振った。

 

「そんなの、数えていませんよ。というか、あなたたちの競い合いの分を数えている余裕が、私にあるわけないでしょう」

 

あ、とカルナとアルジュナとが同時に呟いて、キャスターはそれを見て吹き出した。

 

「では、またどちらが勝ちか分からないのか?」

 

露骨に不機嫌そうなアルジュナだった。

 

「……最後辺りで、同時に魔神柱にブラフマーストラを叩き込んでいましたよね。引き分けではありませんか?」

 

もうそれでいいでしょう、と呆れと笑みを含んだ顔で、キャスターは瓦礫をどかす。キャスターが、自分の身の丈以上の隔壁の一部をばこんと叩いてどかせば、瓦礫の中に人一人が通れるほどの穴が開いた。

 

「この先が壊れてないか見てきますね」

「分かった。気をつけていけ」

 

はい、とキャスターは答えて瓦礫の向こうへ姿を消した。

結わえた黒髪の先が壁の穴の向こうへ消えて、後にはカルナとアルジュナが残される。そうなると当然、沈黙が下りた。

しかし元々、この二人が同じ空間にいて、争わずにしているだけでもあり得ないのだ。やっていることが瓦礫の撤去作業という仕事だろうが、協力には違いない。

 

「……」

「……」

 

それこそ競い合うような速さで、瓦礫をどかす二人の耳にしばらくして廊下を走る音が聞こえ、穴からキャスターが顔を出した。

 

「カルナ!アルジュナ様!外!外が見えます!とってもきれいな空です!」

「……落ち着け」

「あ……すみません」

 

思わずと言ったようにとキャスターが口を手で押さえ、また瓦礫の穴へ引っ込んだ。

 

「……いや、別にお前が謝ることではないのだが」

 

ぼそりとカルナが呟き、何をしているのだお前は、とばかりにアルジュナが頭を振る。

程なくして、一際大きな音が聞こえ、通路を塞いでいた瓦礫が外側から風に巻き上げられながら吹き飛んだ。

恐らく通路は半ばから途絶えてしまったのだろう。廊下の先には、見えないはずの青空が広がっていた。

 

「……何とも荒っぽい」

「すまん。たまにせっかち、というより子どもっぽくなるのだ」

 

二人の視線の先でキャスターは途切れた廊下の先に立ち、冷たい風を一杯に浴びて、瞳を輝かせていた。けれどその頬には静かにきらきらと日の光を反射して輝きながら流れるものがあった。キャスターは、泣きながら笑っていた。

それが何のため、誰のための涙なのかを尋ねる者はいない。誰もが分かっているからだ。

それでもアルジュナとカルナの気配を察知したキャスターは、目元を無茶苦茶に擦り、取り戻された青空を背にして笑顔で振り向いた。

 

「ほら、本当の本物の未来の空です。マシュさんの言っていた通りです」

 

珍しくキャスターはぐいぐいとカルナの手を引っ張って、途切れた断崖絶壁の端にまで行ってしまう。

なるほど確かに少女のようだ、とアルジュナは嘆息した。

アルジュナにとってキャスターは、距離感が掴みにくい相手だ。キャスターも、カルデア内で唯一アルジュナにだけは様を付けて呼んでいる。生前の呼び方が抜けないからというが、あちらもアルジュナに距離を置きたがっていることの証だろう。

それは当たり前だと思う。経緯はどうあれ、アルジュナはキャスターの最愛の人間を殺しているのだから。

恨んでいるかと聞けば、あなたを恨んで何か一つでも過去が変わるのか、と逆に問い返されたこともあった。何と愚かで分かり切った質問をしたのかと、今のアルジュナは思う。

そしてキャスターはアルジュナの生前の知り合いらしいが、アルジュナにはあいにくその記憶がなかった。自分とカルナがカルデア内で出くわしたときなどに、毎回誰かが仲裁役として呼びつけるものだから顔を合わせる機会はあるが、そのときのキャスターはカルナと揃いのような無表情をしていることがほとんどだ。

要するに、アルジュナはこういう風に笑顔ではしゃぐキャスターの顔などついぞ見たことが無かった。

 

「分かった。分かったから、少し落ち着け」

「あ……」

 

カルナに肩を叩かれたキャスターは、思い出したようにアルジュナの方を見て首を縮めた。

その瞳の輝きは何も曇ったところがなかった。取り戻された空と同じ色のまま、ただただあるがままを見て、何もかもを慈しんでいた。

 

「アルジュナ様、見ないのですか?綺麗ですよ」

 

そうしてカルナほど鋭くはないが、しかし何かを見透かすような青い目でキャスターはアルジュナを見る。アルジュナはその目から顔を背けた。

 

「……遠慮しておきます。そちらもあまりはしゃいで落ちないように」

 

何しろ、ここは人を寄せ付けない雪山。その中腹にぽっかり空いた穴の縁だ。下まで落下すれば、サーヴァントでも戻ってくるのは少々手間がかかる。

 

「それはその通りだな。お前の喜びは分かるが、やるべきことは忘れるなよ。まあ、落ちても回収しにいくだけだがな」

「あなたたちは、何でこういうときだけ意見が合うんですか!というか落ちても自力で戻れます、私も飛べるんですから!」

 

頬を膨らませたキャスターの頭をカルナが軽く突いた。

そこにはアルジュナのよく知るいつもの眼光の鋭さ、何もかもを見透かすような冷たさはなかった。

アルジュナの知るカルナは、何もかもを鋭い眼光で暴き、味方には義理堅いが敵にはどこまでも苛烈な宿敵だった。

その認識は全くもって間違っていないだろうし、カルナもキャスターもそれを否定することは無い。

ただ、それ以外の一面もこの男には確かにあったのだと、アルジュナは思った。

 

「ちょっとそこのインドトリオ、あなたたちはいつまで遊んでいるんです?早くカルデアを直して回らないと、間に合わないんじゃありませんか?」

 

だがそこへ後ろの廊下から呆れた様子の声がかけられる。

三人そろって振り向けば、そこにいたのは腕組みをしている玉藻の前だった。

 

「あ、遊んでませんよ。玉藻さん!」

「はいはい、そんなににこにこしちゃってたら説得力ねえですよ。カルナさんも遊ばせてないで手伝ってくださいな」

「遊んでいたつもりはないのだがな……。それと、オレは直すのは不得手だ。瓦礫を破壊しろというなら得意だが」

 

我知らずアルジュナは口を開いていた。

 

「……これ以上壊してどうする。大人しくしておくべきだろう。それとキャスター、空ならこれからも見れることでしょう。ひとまず直してしまいなさい」

 

キャスターとカルナが揃って目を瞬かせ、玉藻の前も意外そうに鼻を鳴らした。

 

「……何ですか?」

「い、いいえ!」

 

首を振ったキャスターと、意外そうな玉藻の前との二人がかりで瓦礫は組み合わさり、復元の術によって廊下は元の姿を取り戻した。

一人増えて四人となり、一同は来た道を戻る。ただ先ほどとは違って、帰り道は賑やかだった。玉藻の前にからかわれては、キャスターがややむきになってずれた答えを返し、カルナが口を挟んではアルジュナが止める。

混然としているが争うこともなく、四人はそのままカルデアを歩いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 




以下、謹賀新年込みのオマケのマイルーム会話集①

レベルアップ時
「レベルアップです。不思議な感じですね」

霊基再臨1
「ん、姿が?顔が……ああ、隠すなということですか」

霊基再臨2
「……火力が上がりました。ありがとうございます、マスター」

霊基再臨3
「火力が再びアップです。え?ビーム出せないかって?何でみなさん、そんなにビームが好きなんですか?」

霊基再臨4
「……力が静かに湧いてきます。ここまでしてもらえるなんて、私は幸運ですね。これからもよろしくお願いします、マスター」


絆Lv1
「……何か私にご用ですか?」

絆Lv2
「私と話したいのですか?……なるほど、コミュニケーションというやつですね」

絆Lv3
「おしゃべりはあまり長続きした試しがなかったのですが……。マスターと話すのは楽しいですね」

絆Lv4
「私と何かしてみたいと?遊びとかですか?……むむむ、日向ぼっこするのはどうですか?昔はよくしたのですけど……。そういう何の意味もない時間も、たまにはとっても楽しいですよ」

絆Lv5
「昔もここに来てからも、たくさんのことがあります。いつもいつでも、楽しいことだけではありません。でも出会った人たちとか思い出とか……。大切なものが増えていくんです、それはとっても幸せなことです。だから、そういう機会をくれたあなたに最大の感謝を。マスター」

好きなこと
「好きなこと、ですか?日差しが優しい時間に森で寝ることですね。あと、日本には線香花火というものがあるようですが……それを一度、してみたいです」

嫌いなこと
「……そうですね。何かこう、神様とか聖人みたいな顔で笑っている人は苦手というか……」

聖杯について
「聖杯は特にいりません。が、マスターが欲しいなら取るべきものですね、サーヴァントとして」

誕生日
「今日はマスターの生まれた日なんですか?お祝いしましょうよ、ぜひぜひ!」


遊び企画でした。②はまた後日します。


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