前話をお読み頂き、ありがとうございました!
短く終わろうかと思ったのですが、ちょっと伸びます。
具体的にはロストベルトでの話と、オリキャラ増えます。
失礼します。
カルデアのマスターの名前を藤丸立香にしました。
そのほうがしっくりきたので。
水着はクリームヒルトさん来たので嬉しいです!
事情はあれど食堂で騒ぎを起こしたのは事実なので、しばらく幼女形態になることになった。
尚、インドラ神に関しては特に何もない。
むしろあっても困るので、それはいいのだが。
「じゃあ、カルナはしばらくサンタクロースでキャスターを運ぶんだね?」
「ああ。アルジュナからの提案だ。今回のオレは、サンタクロースではなくトナカイさんだ」
「カルナ、それだと私がサンタさんになるのですが?」
「あはは、わかったよ。キャスター、何かあったらすぐ教えてね。婦長を呼ぶから」
「はい。ありがとうございます、マスター」
マスターとの会話も交わし、そういうことになった。
ボクサー、もといサンタクロース霊基のカルナに持ち運びされる姿は、完全に歳が離れた兄妹である。
顔立ちはまったく似ていないが、色白なところと、片眼が長めの前髪で隠れたスンッとした表情は似ているので、マスター曰く違和感は然程ないらしい。
「お前の行きたいところはどこだ?」
「アスクレピオスさんのところでお願いします。約束があるので」
「承知した」
カルナの腕を、そのまま小鳥の止まり木のようにして座る形で廊下を歩く。
色々試した結果、これが一番安定感があっていざというときに対処しやすかったのだ。
それこそ、インドラと共に現れたヴァジュラたちのように浮遊して移動するのもできるのだが、カルナに止められた。
曰く、どこかに漂ってしまいそうだから、手が届くところにいてほしいと。
実際インドの異聞帯へ流され、空想樹が倒されるまでカルデアに来られなかった前科があるので否定もできない。
そんなわけで、カルナの片腕に腰かけることになったのだ。
二人一組の状態で歩いていると、廊下の向こうから騒がしい声が聞こえてくる。迂回できなくもなかったが、興味が湧いた。
「カルナ」
「承知した」
袖を軽く引けば、言いたいことは伝わったらしい。
カルナは声のする方へ足を向け、ひょいと廊下の角から顔を覗かせる。
「あら」
「む」
全体に紫色と赤色、それから青い三人が、やいのやいの言い合っているのが聞こえた。
「何をしている、ドゥリーヨダナ」
「どうかしたのですか、アシュヴァッターマン様?お話ですか、アルジュナ・オルタ様」
どういう取り合わせなのか。
何やら言い合っていたらしい三人は、カルナを見て動きを止めた。
それはまぁ、腕に幼女を乗っけた自称サンタクロースが廊下の陰からひょっこり出てきたらそうもなろう。
ぽかん、とドゥリーヨダナの口が開いた。
「おま、カルナ……誰だそこのちんまいのは⁉︎色々と何をしとるのだ!」
「わからないのか?」
「まずわからないと思いますよ……サンタクロースは子どもにプレゼントを届けるひとで、子どもを運びはしません……」
「あ?その言い方……お前まさか、カルナの嫁か?」
「はい」
こくり、と頷く少女────もとい幼女に、アシュヴァッターマンの顔が固まった。
その傍らからふわりと床を滑って近づいて来たのは、アルジュナ・オルタ。
細い脚を空中で揺らす子どもを見下ろし、首を傾げる。
「貴女でしたか、アグニ神の縁者。インドラ神の雷に焼かれたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「はい。再顕現に支障はなかったのですが、食堂を騒がせてしまったのでしばらくこれになっています」
「そうですか。それで、何故カルナがあなたを運んでいるのですか?」
「もう一人のあなたが、騒ぎの原因はカルナと私双方に原因があるので、しばらくこの形で過ごしてお互い行動を制限してはどうかと提案されまして。マスターがそれにオーケーを出されたので」
「なるほど、理解しました。相変わらず、あなたたちはフリーダムですね」
「そうなのか?」
「どう考えてもそうでしょう、サンタと幼女ですよ?」
「そうか……そうだったか……」
異聞帯に在った頃とは違い、くすくすと笑うアルジュナ・オルタに安心しつつ、頷く。
が、一人納得いかない者もいた。
「いや待て待て待て待てーい!何でアルジュナの提案を受けておるのだ!わし様今初めて知ったぞ!」
「ドゥリーヨダナ、おまえは先日いなかっただろう」
「私が今朝見たときは、ビーマ様とまたバトルされていたので、落ち着いてから報告しようかと」
しれっと無表情で応える二人に、ドゥリーヨダナは憤懣やるかたないと鼻息を荒げた。
「わし様とビーマを見ていたならわし様を手伝わんか!お前はカルナの、つまりわし様の心の友の嫁だろう!ならばわし様の永遠の味方だ!」
「絶妙に遠くて近い繋がりを盾にしないでください、ドゥリーヨダナ様。ビーマ様相手では、火花が一つ増えてもどうにもなりませんよ」
「ぐぬぬ……!相変わらずカルナ以外にはとっことん可愛げのない娘だな!」
相変わらずやかましくて楽しい相手だった。
生前関りがあったドゥリーヨダナも、少女の名や誰であったかは忘れている。
だが、カルデアでのカルナが妻と認めているので、それならわし様の味方だな!と爆速で認定したようだった。
それはそれで嬉しいのだが、さすがに幼女に助っ人の提案はどうかと思うのだ。
「助っ人がご入用でしたら、ご兄弟を宝具から引っ張り出してくださいませ。第一、カウラヴァの長兄が、幼女に助力を求めるのは体面が悪すぎますよ」
「ま、さすがになぁ。で、カルナの嫁よ。その縮み方は再顕現の影響ってわけじゃあねえんだよな?」
こちらも記憶はないが、一貫して”カルナの嫁”と呼ぶアシュヴァッターマンにもこくりと頷きで返した。
「自力でやっているので問題ありません、アシュヴァッターマン様」
「そうかよ。ったく、無事ならとっとと言えよ。カルナの嫁がインドラ神に消し飛ばされたってんで、旦那がこっちのアルジュナに絡んでたんだよ」
「え、何故ですか?」
「インドラ神はこやつの父だろうが」
どういう理屈だ。
いつものパーンダヴァ嫌いの発作に近いのではないか。
本物の子どものようにパタパタと足を振りながら、軽く睨んだ。
「ドゥリーヨダナ様、関わりない方に絡むのはやめてください。インドラ様と私の間だけの問題です」
「何だと?カルナはどうしたカルナは?」
「同じです。関係ありません。カルナは全然納得が行ってないようですが」
「そうだな。だが、お前の頑なさと律義さを見誤っていたオレにも原因の一旦はある。その上で宣言するが、生前と同じ過ちをこれ以上繰り返すつもりはない」
「自分や他人の有り様は認めるのに、私の行動にだけは否を突き付けるあなたのその頑なさは、私もわかっていませんでした」
「おい、夫婦喧嘩なら、せめて元の大きさでやったほうがいいとわし様は思うが?かなりシュールだぞ?」
アルジュナ・オルタが、軽く首を傾げた。
「喧嘩ではないでしょう。カルナも彼女も、お互いへの怒りはない。ただ思っていることを虚飾なく言っているだけなので、ただの天然の
「なーんでそんなことがわかるのだ!」
話が収まらなくなってきた。
原因が自分であるだけに、放置も気が引ける。かと言ってドゥリーヨダナのパーンダヴァへの難癖好きは、どうにかなるものでもない。
と、やっていたら近づいてくる別の気配。
「おーい、食堂に近いこんなとこで何を騒いで……って、ドゥリーヨダナかよ!」
「ビーマ!」
反対側の角から現れたのは、パーンダヴァ五兄弟の次男、ビーマ。
カルデアでは、気の良い料理好きの好漢として召喚された彼だが、生前のドゥリーヨダナとの因縁もしっかりきっちり覚えている。
要するに、犬猿の仲なのだ。
またはハブとマングースである。
しかも、アルジュナ・オルタに突っかかり気味なドゥリーヨダナを見たビーマの目が吊り上がる。
ずんずんと近寄ってくるビーマセーナは、普通に怖い。
カルナの腕に座ったまま、頭を抱えた。
「あああ、またこうなりますか……」
「離れるか?」
「いえ、仲裁したいのです。原因が私ですし」
「承知した。一度降り……いや、もう一人のアルジュナよ」
「はい?」
「預けた」
ぽん、と。
テディベアか何かのようにアルジュナ・オルタの肩に乗せられた。
そのままドゥリーヨダナとビーマの方へ向かうカルナである。
「……いいんですか、預け先が私で?」
「……いいんじゃないでしょうか、カルナの基準では」
よくわからない、とアルジュナ・オルタと二人して顔を見合わせる。
「……いえ、やはり降ります」
「座っていて大丈夫ですよ。今の貴女のサイズでは、兄上やドゥリーヨダナに踏み潰されそうですから」
真面目にボケないでほしい。そこまで小さくはないしトロくはない。
いや、アルジュナ・オルタのことだから素で思っているのか。
アルジュナ・オルタは弓のアルジュナよりも砕けているというか、素直な面が目立つ気がすると、浮遊する彼の肩に腰掛けたまま思う。
異聞帯で、彼が変わり果てて行く有り様を
と思いつつ、二人揃って騒ぎを見る。
そのぬぼーっとした視線に気がついたのか、ビーマがこちらを向いた。
彼が見たのは、自分の弟の別側面と、その肩に乗っている無表情の幼女である。
ポカン、と
「あ、アルジュナ、誰だその子どもは?」
「アグニ神のキャスターです。カルナから預かりました」
「何だと!小さくないか!食べたら戻るか⁉︎」
「戻りません。自分で縮んでいるだけです、ビーマ様」
「……何でだ?」
「わし様を無視するなビーマァ!」
どたんばたんを再び始めかける二人を、カルナとアシュヴァッターマンがぎりぎりで止めた。
「すみません、ビーマ様。昨日、インドラ神との騒ぎを引き起こしてしまったので、行動制限のため私は縮んでしばらくカルナとセットで動くことになりました」
「お、おう?」
「弓のアルジュナからの提案だ。マスターからの許可も出ている」
「アルジュナが?……それならばまぁ……大丈夫か……しかし、おまえたちはいつも自由だな……」
「そうか?」
だから何で、カルナは不思議そうにするのだ。
アルジュナ・オルタの肩の上で、口を尖らせた。
「唐突にサンタになったり、縮んだりすればそうも言われますよ」
「そうか?今回のオレはトナカイだが」
「まだその設定を諦めていなかったんですか。それでは、あなたに運んでもらっている私がサンタになってしまうじゃありませんか。霊基も改造していないサンタさんがぽこじゃか増えては、マスターも困ります」
「む」
「あちらのアルジュナ様も、私を鍛錬用のサンドバッグの代わりで持ち運ぶようにと言われていましたよね?サンタクロースはあなたです、カルナ」
「……承知した」
「あなたたち二人のフリーダムさは、正にそういうところですよ。というわけでカルナ、彼女はお返ししますね」
はい、と再びカルナの腕に戻される。
ビーマとドゥリーヨダナの二人は、すっかり喧嘩する気も失せたのか離れていた。元々、子どものサーヴァントの前では争わない彼らだ。
中身が違うと頭ではわかっていても、幼女の前では諍い続けられなかったようだ。
若しくは、あまりにもズレた会話に肩透かしをくったか。
「……で、一体おまえたちは何をしていたんだ?」
ビーマにカルナはあっさり応えた。
「オレたちは、アスクレピオスへの用を済ませようと歩いていたところだ。ドゥリーヨダナ、アシュヴァッターマンとアルジュナ・オルタの話が聞こえたので、足を止めた」
「アルジュナ・オルタ様も、アスクレピオスさんに
さて、どうなるか。
アルジュナ・オルタの眼を見上げると、ふ、と緩むのが見えた。
「ええ、そうでしたね。では一緒に行っていいですか?」
「はい、もちろん」
床を滑り、アルジュナ・オルタはサンタカルナの隣に来た。
「では私はこれで。またあとで、兄上」
「おう。昼飯食いに来いよ!」
弟への信頼が篤いとやりやすい、とちらりとカリ寄りな事を考えていると、カルナが口を開いた。
「ドゥリーヨダナ、アシュヴァッターマン、オレたちはこれで失礼する。アスクレピオスは時間に厳格だからな」
「わかったわかった。おい嫁、あまりカルナを連れ回すなよ?」
「わかっていますよ。私も、自分の脚で歩くほうが好きですし」
「……」
「あ、今の状態が嫌だというわけではありませんよ?あなたが手の届くところにいるのは嬉しいですけれど、私は歩くのも好きと言うだけなので」
「そうか」
カルナが薄く笑うと、ドゥリーヨダナのお手本のような地団駄が勃発した。
「ええい、わし様をダシにするでないわ!くそぅ、ドゥフシャラーは何故おらんのだー!ジャヤドラタと共に来んかー!」
「そういうことを仰っていると、またドゥフシャラー様に馬鹿兄貴様と言われますよ?」
「何でおまえが知っているのだ!」
「あなたの物忘れが多いだけです、ドゥリーヨダナ様」
思わずくすくす笑うと、ドゥリーヨダナが顔を顰めた。
「何だその笑いは?ちまっこくなると、感情が制御できなくなったりするのか?」
「いいえ、中身はいつもと変わりありません」
「いやお前、普段はカルナの前でしか愛らしく笑わんだろうが!」
失礼な、と言い返そうとした時だ。
「それに、何か問題があるのか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
心の底から不思議そうなカルナの一言で、ドゥリーヨダナとアシュヴァッターマン共々、沈黙してしまう。何故かビーマまで黙っていた。
耐えきれないとばかりに吹き出したのは、アルジュナ・オルタだけである。楽しいなら良いけれども、良いのかこれで笑って。
「……そう言えば、サンタさんの霊基には、精神が少し若くなる効果が、ありましたね……修行時代に寄るから……血の気が多いとも言いますけど……」
「……おう、あったな。とりあえず、おまえらとっととアスクレピオスのところへ行ってこい。話が収まらねぇ」
憤怒の化身とは到底思えないアシュヴァッターマンに見送られ、別れる。
気配が遠くなってから、アルジュナ・オルタが口を開いた。
「嘘をついてくれてありがとうございました。普段話さない相手だったから、少し困っていました」
「元はと言えば原因は私なので、こちらこそ失礼しました、アルジュナ・オルタ様」
「すまない。ドゥリーヨダナが迷惑をかけた」
「大したことはありませんよ。ですが普段、私やもう一人の私を見たら、脱兎の如く逃げる彼が向かってくるのは、少々意外でした。それほど動揺していたのでしょう」
ドゥリーヨダナが聞けば、逆ギレしそうな余裕のある発言だった。
『英雄たらん』と思わないアルジュナ・オルタは、最近常にこんなふうである。
「ちなみに、アスクレピオスのところへは何をしに?」
「オレも聞いていないな」
「それは失礼しました。献血です。半神の幼児期の血中成分が気になるそうなので。そんなに変わらないと思うのですけれど、一応」
「……」
じんわり、嫌がる気配を感じたのて、指先で腕を軽く叩く。
「ちゃんと送り届けてください、サンタさん。子どもの願いは聞いてくれるのでしょう?」
「……承知した」
不承不承と言うのが声に滲み出ているカルナだった。
■■■■■
「もう来たのか。ではそこの注射器を使え。自力で採血はできたな?」
「はい」
「よろしい。終わったら声をかけろ。……それと、何故色々連れてきた?」
じろり、と。
ギリシャに名高い医者の英霊、アスクレピオスは、自室を訪れた訪問者たちに鋭く目を細めた。
尤も、彼の鋭い視線の矛先は、医者の部屋にある器具や資料、サンプルを面白そうに見ているアルジュナ・オルタだった。
「カルナは仕方ないにしても、そっちだそっち。どういう取り合わせだ」
「本当に成り行きで。うちの王様が少々」
「チッ」
露骨に舌打ちしたアスクレピオスである。
いつものことだと、机の上の注射器を取って腕に刺す。こういう器具は生前見たことも聞いたこともないが、召喚の際に付与される知識で使えるようになるから便利なものだ。
アスクレピオスは、そこに加えて自力で知識を色々蒐集したようだった。
ともあれ、考え事をしながらでも血液は採れる。
注射器から取った中身を細長い容器へ入れ替えてから試験管立てに差し込めば、中でとぷりと鮮血が揺れた。
「アスクレピオスさん、終わりましたよ」
「ああ。それと、追加の問診票だ。嘘偽りなく、全部記入しろ」
飛んできた分厚い紙を挟んだクリップボードを、呪術の風で受け止めて手元に引き寄せるが、中身はしっかりきっちり質問で詰まっていた。
「私は診察してもらい来たわけではありませんよ?」
「昨日全身消し飛ばされただろうが。再顕現に問題ないか判断する……というか、してほしいとそこのサンタクロースが昨日来た」
「は?」
「何だ。連絡していなかったのか」
カルナを見上げると、しれっと虚空を見ていた。誤魔化し方が雑である。口を開くと負ける自覚があるので閉じるつもりか。
アスクレピオスは気にしたふうもなく、血の入った試験管を取り上げるとさっそく試薬を持ち出している。
「自己判断は危険極まりないからな。特に、おまえは異聞帯を経て再召喚されたあと神が
「そんなに混ざっているのですか?」
「ああ。幸い、混ざったと言っても表面的だ。言ってみればコーティングだが、中身に浸食してくる可能性はゼロじゃない」
「……人格の浸食は、本当に嫌なんですが……本当に……父親が混ざるとか……無理……」
「まったくだ。だが神の趣味で年少の姿に固定された上、羊と一括りの召喚よりはマシだろう」
「全面的に同意します」
父親である太陽神アポロンと確執がある医神は、顔を露骨に顰めていた。
異聞帯ではアルジュナ・オルタの元にいるサーヴァント、
その際の彼とカルデアの彼は同一ではないが、根本は同じ人格をしていれば気にもなる。
しかも、死因か死後かという違いはあれど揃って神罰を受けており、何の因果かアグニ神は太陽神の側面も担う神でもある。
向こうも、
それに加えて、浄化能力のある焔を操れるので、便利に使える炎熱系消毒係としてもよく召集されてもいるが。
ちなみに殺菌!消毒!が口癖の婦長も、右に同じである。
医者と看護師の要請で放たれる焔で消毒している絵面はほとんど、火炎放射器の噴射に近かった。
「ついでに聞くが、おまえのその姿形はどういう理屈だ?可能性を降ろしたのか、過去の姿の投影か?」
「過去の姿での上書きですね。上に被せず一部以外を書き換えているので、ステータスは諸々ランクダウンしますし、戦闘向きではありません。諜報などの情報収集には使えますが、有り体に言えば打たれ弱い形です」
「つまり幼少時代の転写だな。成長期にしては栄養不足だぞ」
「あら、そうだったんですね」
「大方、半神の頑丈さで気づかず成長できただけだろう。愚患者未満だ」
じろり、と再度睨まれた。
あの時代、王族などの一部例外を除けば子どもは腹が空いているのが当然だったと思う。満腹になった記憶はほとんどない。
高位のバラモンの息子であるアシュヴァッターマンであろうと、牛乳すら飲めない時期があったくらいだから。
ともあれ。
カルナの腕に座ったまま、ペンで問診票を埋めて行く。
「アスクレピオスさん、書けましたよ」
「こちらも簡易的だが検査が終わった。異常なし、と言っていいだろう」
「本当か」
「僕が嘘を吐くとでも思っているのか。言っておくが、今回は良くても何度も消えて自力での再顕現を繰り返せばどうなるかはわからないぞ。僕に貴重な症例を提供したいなら止めないが、違うなら親戚だろうが何だろうが神からは距離を置くんだ」
全体的に腹立たしいと、雰囲気で語っているアスクレピオスだった。
善い人だなぁ、と思う。
「ありがとうございます」
「薬草の知識に長けた応急手当が可能な薬師兼、高機能な滅菌ユニットにいなくなられては僕も困る。しばらく一纏めで動け。おまえにつける薬はその夫だけだ。相ッ当な唐変木でも、完璧な治療薬でなくとも、無いよりは遥かにマシだ」
「あの、前々からお聞きしたかったんですが、一応私の焔は神の権能の一部ですよ?確かに浄化を司りますので滅菌できますが、ユニットに数えていいんですか……?お嫌いな神属性なのに……」
「高熱がウィルスを殺すのは事実だろうが。神の権能だろうが人の火炎放射器だろうが、消毒できれば僕はどちらでもいい。浄化能力まである権能なら、キリキリ使って僕にデータを提供しろ」
「アスクレピオスさん、本当にいつも通り
ふん、とアスクレピオスは鼻を鳴らした。
「おまえもこの前のレイシフトで、浄化します!の一言で丘一つと湖一つを丸ごと燃やしただろう、自主的に」
「あれはマスターの野営用の土地と水源が芯から呪いでびちゃびちゃになっていたので、燃やすしかない場面でしたよ?丘は消滅させていませんし、湖の生態系は崩さず呪いを煮沸で消しただけです」
「消滅を基準にするな!これだから
しかし考えてみれば、人を蘇らせた罰で雷霆神に打たれて死んだ医者に、神罰の雷で消し飛ばされた者の健康診断を頼むのは因果すぎたかもしれない。
加えて、女好きという変な共通点がある神であるし。なくていいだろうそんな点。
消滅からの再顕現などもうやるつもりはないが、もし万が一またこういう事態が起きたとき相談していいものなのか。
「おい」
「はい?」
じろりを通り越した、ぎろりという眼が医者のペストマスクの上で光っていた。
「余計な気を回すな愚患者予備軍。僕の死因云々はどうでもいい。次消し飛ばされたことを報告しなければ、予備軍から患者に格上げだ」
「格上げなんですか?」
「黙れ。神の依代を数千年続けた報告も怠った前科持ちめ」
「依代されている方なら私以外もいますが?ガネーシャ様とか、そちらは大丈夫なのですか?」
「依代を解除し、かつ後遺症を出しているのはおまえだけだ。貴重な症例だろう」
「ああ、そういう……。……そう言われると、私は貴重なままでいたいですね。私みたいな人が増えるのは、好ましくありませんから」
母親共々、神に玩弄、或いは翻弄された人間が増えたことになるので。
それにしても、神の依代という信者からすれば光栄に浴している状態を指して『症例』や『後遺症』とは。
「考えてみれば、アスクレピオスさんこそ、インドラ様にはあまりお会いしないほうがいいかもしれませんね。私、天文台に蛇遣い座が増えるのは嫌ですよ」
「そちらこそ、僕の処方した薬を手放すなよ。次どこぞへ流されたら手術も検討する」
「……まさかと思いますが、霊基の埋め込みとか検討しないでくださいよ?」
「できるのか?」
細い子どもの肩が、兎のようにびゃっと跳ねた。
「ほら興味持っちゃったじゃありませんか!カルナ、いいですか、絶ッ対にしませんからね!」
「しないのか……」
「できてもしません!論外です!はいこの話はお終い!」
「勝手に判断を下すな!必要か否かは医者の僕が判断する!」
「霊基弄りはインフォームドコンセントの段階で拒否させて頂きます!」
「この愚患者が!」
三者三様に騒ぐ半神たちを、かつて唯一の神だった青年だけが静かに眺めていた。
まるで、眩しいものを見るように。
■■■■■
そのまま何事もなく終わればよかったのだが、どうもそうは行かない。
「カルナ、どうしましょう……戻れません……」
「何?」
痩せて細い手足に、肉のついていない小さな体。
アスクレピオス曰く『栄養不足』の体から、元に戻れなくなってしまったのだ。
今までも数回利用した転身だが、不具合を起こしたことなど一度もなかった。
それが、どうしたわけか。
「まったく戻れないのか?宝具はどうだ?」
「そちらは使えますが、何か力が足りないというか邪魔をされている……ような?」
「了解した。マスターの下へ行こう」
ひょい、と定位置になりつつある腕に乗せられ、向かった先の司令室には既にマスターの藤丸立香やマシュが揃っていた。
「カルナにキャスター!丁度良かった!今呼びに行こうとしてたんだ!」
「?」
「わたしから説明します。実はまた特異点が見つかったのですが、場所が先日の黒雲が発生した場所と同じでして」
「インドラ神によって空が割れた、あの特異点ですか?」
「はい!」
外を覗けば、そこには白紙化された地球の空に浮かぶ、
人理焼却の頃を彷彿とさせる異物だった。
しかし、場所が先日のインドラ神と同じということは。
「あの特異点は光学的に視認はできていても、レイシフトしなければ中には入れない状態ですか?」
「そう。先日と同じ状況だよ」
幼い姿のレオナルド・ダ・ヴィンチは頷き、観測結果らしいデータを虚空に映し出す。
「丁度いいって言ったのは、あの特異点が出現するのとほぼ同時に、このカルデアに召喚されているサーヴァント数体の数値に変化があったからだよ」
「もしや、その数体のうち一体が私ですか?」
「そう。キミとカルナ、それにアルジュナ・オルタだ」
「……」
何だその面子は。
と、いうか。
「カルナ、あなた何かあったんですか?」
「……どうやら、オレはサンタクロースからランサーに戻れないらしい」
表情一つ変えずに言うことではない、と思いつつも首を傾げる。
「セイバーで固定されたんですね。もしや、槍も鎧も使えないと?」
「そのようだ」
「普通に……まずいですね」
「落ち着いている場合かー!」
新所長、ゴルドルフ・ムジークのツッコミが炸裂した。
「サンタクロース固定と子ども化では、インドサーヴァントが大幅戦力ダウンではないか!というかまたしても子どもになるのか!」
「私は自主的にこうなっていたら戻れなくなった感じですが」
「オレも同じくだ。サンタクロースの姿が子どもと触れ合うに適切だと思ってこちらにしていたところだった」
「最悪のタイミングではないか!原因はあの特異点か?」
「間違いないと思いますが……」
変化があったサーヴァントの法則が、わからないのだ。
全員インドに縁があるのは間違いないが、神たるアルジュナ・オルタに影響が出ているとなると尋常ではない。
「カルナとアルジュナ・オルタ様に干渉できるとなれば、相当の神霊が関わっているのでは?」
「その通りですね」
いつもの姿で浮遊して司令室に現れたのは、アルジュナ・オルタである。
マスターに会釈してから、彼は口を開いた。
「先ほど、あの特異点の発生を私も感知しました。私、カルナ、そしてアグニのキャスターに変化があったため、報告しようと来たところです。あなたがたは……戻れなくなった、といったところでしょうか?」
「はい。そちらは?」
「極僅かですが、力を削り取られ、あの特異点の中へ持っていかれたようです」
「オレも同様の感覚がある」
「私も。本来の姿が持っているべき力を、持っていかれた感覚です」
まとめれば。
「みんな、力の一部をあの特異点に封印されたんだね。この前のヴリトラと同じ?」
「恐らく。とはいえ、私たちはヴリトラのように企みなどはありませんが」
「そうですね。……私はあちらとお揃いみたいに縮んでしまいましたが」
「みんなが黒幕の可能性は考えてなかったよ」
立香に苦笑され、軽く頷き返す。
そこからは、作戦会議となった。
が、これもまた前回と同じく、外からの観測に限界があるために中へ突入し、原因を調査及び解決しなければならない。
虎穴に入らずんば虎子を得ずを地で行くのはいつものこととはいえ、適正があるサーヴァントの選定にしばらく時間がかかるとのことだった。
その時間で三騎揃って検査を受けることになったのだが、結果は自覚していた通りである。
全員、力の一部を削り取られていた。
「なんだか奇妙なことになりましたね」
「どうして私たちなんでしょうか?インドラ様のときも、変化のあったサーヴァントたちの選出理由はあまりわかりませんでしたが」
「アルジュナやラーマ、インドラ神と神話的に繋がりがあるのは、風の守護者となっていたビーマだけだったか」
作戦完成まで一旦待機となった廊下で、何となく三者揃って会話する。
しかし、このカルナの腕に腰掛けたまま特異点攻略はさすがにないだろう。
呪術や宝具は使えるので、縮んだヴリトラよりは戦力にはなるはずだ。マスターの護衛の方に回るべきか。
とはいえ、それ以外にも悩みどころがある。
「前回はインドラ神だったが、今回も神が関係しているのだろうか」
「そうなると……まさかの消去法でスーリヤ様かアグニ様になるのですか?」
「可能性としてはあるだろう。……嫌か?」
「嫌というか……またかと言うか……」
インド異聞帯での出来事である。
カルデアから退去したあと、
そこで出会ったのが、アグニ神だった。
とはいえ完全ではなく、ローカパーラの一柱たるアグニ神はほとんどをアルジュナ・オルタに取り込まれたあとの残り火────または食い掛けと言う有り様だった。
それでも消えられない、消えるわけには行かないのだというアグニの焔を絶やさぬために依代になるのを承知したはいいが、カルデアが来るまでの時間で肉体が端から焦げて行った。
カルデアが来た頃には、見た目は何でもないように取り繕えても、中身は灰の人形のように脆くなっているという状態だったのだ。
しかも、インド異聞帯の攻略中、カルデアやカルナと接していた人格はほとんどアグニ神である。
これは、当時のカルデアの拠点シャドウ・ボーダーを自分の身と鎧を盾に護ろうとしたカルナを更に庇った際、アルジュナ・オルタによるユガの回転に巻き込まれ、表出していた
最終的には、別の場所で保管していた記憶・人格と消し飛ばされたあとの残りを統合して元に戻れたが、そうでなければこの霊基の中身は、そっくりアグニ神になっていたところだ。
再召喚後に無茶をするなと言われたが、生憎何度もカルナの死を見届けられる性格ではないのだ。
ともかく、インド異聞帯消滅の際、アグニ神とは別れた。
彼処で本当に父親がアグニ神だと確定したのだが、父娘としてではなく、神と依代としての別れでしか無かったので、さして思い入れは無い。
その割にコーティングと言う形で神の残滓はあり、詰まる所父神とはよくわからないままだった。何がしたいのか、不出来な娘に何を求めているか、見当がつかないのだ。
だから、ヴェーダを唄ってあの神を称えた。かと言って、関わりたい相手でもない。
「インドラ神はアルジュナの顔を見に来たようだったが、アグニ神も同じ可能性はあるか?」
「低い、と思います。異聞帯のあのアグニ神ならともかく、こちらのアグニ神は私を忘れているでしょうし」
「……そうか」
「どんな顔をして会えばいいかわからないので、できれば他の方がいいのですが。……カルナこそ、スーリヤ様の場合は考えていますか?」
「そうなると、何故鎧が消えたのだろうか」
「一度手放したのだから、取りに来いと叱られているのでは?」
「……」
微妙に渋い顔になった。
子を想う親なら、むしろ叱るところだろう。
軽く頭を振って、もう一人のアルジュナをカルナの腕の上に乗ったまま見上げる。
「アルジュナ様はどう思われますか?」
「そうですね……あの焔の神が関わっていると思います」
「ん?」
「異聞帯のアグニ神ですね」
「ええ。ただ、あそこに最期までいた彼の神がこちらに顕現していたとすれば、少々厄介かもしれません」
そう言えば、こちらのアルジュナには弓手とは違う千里眼があったのか。
先に視て、先に悟って結論するのは簡単かもしれないが、それは、とも思う。
「アルジュナ様、何か視えているなら、マスターに相談しても良いのでは?そのほうがマスターは嬉しいと思いますし、行動しやすいですよ」
「同意する。己の中で情報を完結させるのは良くない。とても、良くない」
「こっちを見ながら言わないでください。まだ言うならあなたが情報どころか自己を完結してやらかした鎧の一件を持ち出しますよ?私でもその気になったらネチれますよ?」
「物事に執着せず前を向いて進むのはおまえの美点の一つだが、自分の損耗や痛みに対して淡白過ぎると感じる時もある。これを機に己を顧みて、人並みの執心を覚えると言うならオレは付き合おう」
「鎧がなくても無敵メンタルなところを出している場合ですか!スーリヤ様に叱られてしまえください!」
「あなた方は本当にフリーダムですね……」
しかし、とふと思う。
幼い形は特定場面でしか使い所がないが、きゃんきゃん噛み付いても違和感がなくなるのは便利かもしれなかった。
それはそうと、やはりどこか楽しげなアルジュナ・オルタである。
彼も彼で、力の一部を削がれているだろうに焦った様子がない。
となるとこれは、
「何を騒いでいるのですか」
と、考えていると廊下の端から現れる弓のアルジュナである。
その後ろにはインドラがおり、カルナの腕が微かに強張るのがわかった。
「もう一人の私にインドラ神。こんにちは。実は微小な特異点が見つかったのです。そちらは?」
「こちらはインドラ神が司令室に赴くと言われたので付き添いを……」
何かと騒ぎを起こす父神のお目付け役と言ったところだろうか。
相変わらず生真面目と思いつつ、答える。
「私たちは特異点攻略の作戦が決まるまで待機中です。全員、力の一部を特異点に封じられてしまったようで」
「は⁉」
「オレは鎧と槍、彼女は本来の姿と力だ。もう一人のアルジュナは何を封じられた?」
「私は神性の一部です。廻剣を扱うに支障はありませんが、取り返したほうがいいものです」
「全員揃って落ち着いている場合ではないでしょう!一大事です!」
多分、揃って動揺が顔に出ないか、出すほどでもないと判断しているだけである。
と、インドラが鼻で笑う音が廊下に響いた。
「何だ、まだわかっていないのか。揃って縁を辿って奪われているぞ」
「インドラ神、どういうことだ?」
「感じないのか、ヴァイカルタナ。お前たちの力をこそげ取って行ったのは、外で引き籠もっているアグニだ」
「え」
よりによってそこか、と幼い顔が不満でくしゃりと歪む。
「インドラ様、あそこにいるのはアグニ神なのですか?」
「当然だ。大方、オレの残した綻びを手掛かりに侵入したのだろう。用があるのは貴様にヴァイカルタナ、それからもう一人のオレの息子だ。だから呼びつける代わりに力を奪った。ま、返してほしければ挑めということだな」
「付け加えると弓の私ではなく、こちらの私にも用があると言うなら、異聞帯のあのアグニ神でしょうね。若しくは、汎人類史のアグニ神があちらのアグニ神と接触するか取り込むかして、何某か変化したか。勘ですが、多分、私やカルナはついでで目的は娘と接触しに来ただけだと思いますよ?罰を下しに来たわけではなく、ただ単に、会いに来ただけかと」
「あなたの勘は大体において的を射ていますよね……!」
最悪である。
猫のように一度両手で顔を覆ってしまう。
だがカルナの手が髪に添えられるより先に、幼い子どもの両手は顔を離れ、殻が割れるように下から強く光る青い瞳が現れた。
「わかりました。アグニ神が何をしにいらっしゃったかは知りませんが、今度また余計なことをしたら本当に許しません。
「余計の一言で済ますのは酷ではないか?おまえの父親だろう」
「神としては尊敬していますが、父の顔を持ち出したなら話は別です。大体、私に用があるなら私からだけ奪えばいいでしょう。あなたの鎧と槍を封じた時点で、何しにいらっしゃったのかと問いたいぐらいです」
「おまえの力を奪った点は良いのか」
「私の力はあの方から与えられたので、返せと仰るならお返します。サーヴァントとしての力が下がるのは業腹ですが、それは呪術でどうにかします。でも、あなたの鎧を奪うのだけは許しません。あれは、あなたの父様があなたに贈られたものです。ついでのように奪われていいものではありません」
間近にそれを成した神がいることは、この際些事だ。
そちらは体感的にもう数千年以上前の出来事なので、飲み下すことは飲み下した一件になっている。
それよりも、現在進行形で鎧を奪いに来た神のほうが数倍許せるわけがなかった。
めらめらと燃え上がりそうな青い瞳をした幼女をまじまじ見てから、雷霆神はちらりと形容しがたい顔で成り行きを見守っているアルジュナと、彼よりは張りつめてはいないもう一人のアルジュナを見やる。
ぽつり、と一言。
「……娘とは、難しいな」
「……」
「……」
同じ顔をした、同じ祖を持つ二人は、何も言わなかった。
この話でのカルナさんは、ロストベルトにもカルデアの記憶持ち越し状態で召喚されています。
なので、異聞帯調査しながらラーマ共々妻探しをし、再会したと思ったら一瞬で消し飛ばされるのを見ることになり、以後は見た目妻の中身はその父親という存在と共闘しました。
再召喚された中身は元に戻っていたので、多分安心したと思います。
この主人公が水着になるとしたらロリ形態(セイバー)から徐々に元の姿に戻る感じで、攻撃モーション全部をサンタカルナさんが代わりにやってる感じになると思います。
どっちもメカクレですね。