本編の方へ戻ります。
では。
あの特異点の中身が、
だってそうだろう。
インドの異聞帯で散々場をかき乱してくれた、『あの』アグニ神である。
廻るユガによって
やっとこの体を自由に使えて嬉しいが計画は邪魔された、本当にあの『人間』は邪魔だったという一言を聞いたときは本気で頭を抱えたし、馬鹿お父様という罵倒が頭を掠めた。
若しくは
マシュと立香が揃って反論し、ガネーシャが食ってかかり、ラーマとラクシュミー・バーイーが咄嗟にカルナの前に割り込むほどの一言だったのにまったく気がついていなかったし、指摘されて尚合点が行っていなかったのだ、あの神格は。
神霊に人の心を汲み取れとは言わない。
成り立ちが違うのだから、期待していない。蟹にまっすぐ歩けと請うても、無理なものは無理だ。
こちらだって、神霊からすれば意味不明な行動を取っている自覚はある。
が、いくらなんでも口が迂闊すぎる。
一言多いどころか三言ぐらい多いのに、言うべき言葉は一つも出さないのはどうなのだ。
インド異聞帯でのあの神の望みと信念は誰よりも理解している。
人の願いに寄り添い、思い遣った末の行動だったことも、わかっている。
元より、それを受け入れたから体を使うことを了承したのだ。
だが、自分の体を使って出力されたのが、まさか己の関心のない人間の都合も想いも知ったこっちゃない、空気読めないにもほどがある人心掌握がド下手くそな駄目神ムーヴになるとは。
アルジュナとインドラ神の関係を目の当たりにしたあとでは、尚更酷く見えた。
神霊らしいと言えばらしいのだが、アレに父親ヅラされて大丈夫なのかとアーカイブを一緒に見ていたアスクレピオスが口走るほどだった。
カルナもカルナで、アグニ神に体を貸すのを
人の地雷で踊るなカーリー女神か。
とはいえ、あの振る舞いはアルジュナ・オルタに大半の力を取り込まれたがゆえの不安定な状態だったからと言えなくもないし、今回の顕現ではその欠落を補っている可能性もなきにしも非ずだった。
むしろ、そうであってくれと願うほどだ。
が、その可能性と同じくらいあの神格が『変わっていない』可能性もあるのだ。
「その……マスターにマシュさんに皆様、大変申し訳ないのですが……あの特異点はアグニ神が原因で、しかもインド異聞帯のキャラのままな可能性が高いそうです……」
「キャスターさん!大丈夫ですかキャスターさん!顔色が真っ青ですよ!」
「すみません、本当にすみません皆様。父はまたろくでもないことを言い出す可能性が高いのですが、レイシフトで解決をお願いできますでしょうか……?」
「カルナー!ちょっとカルナー!キャスターを回収してー!まずい方向に行きそうー!ネガティブスイッチ入りかけてるー!」
「了解した」
ひょい、と両脇に腕を差し入れられ、持ち上げられる。
そもそもこんな小さい形で固定されたのもあの神のせいなら、既にろくでもないことをしでかしているのだ。
「……そ、そんなに厄介なのかね、アグニ神とやらは?異聞帯での振る舞いは確かにアレだったが、一応、我々の味方ではあったろう?」
「ゴルドルフさん、異聞帯では、大局的に味方だからアレで済んだのです。今回は、恐らく完全に個人の欲求で来ていると思しいから難しいかと。ただでさえ、方向性と結果が善でも、過程をめちゃくちゃにしてしまわれるので」
「オレも同意見だ。アルジュナを神の重責から解放するために、信徒でもない人間を何千年と依代として囚えるような存在だ。警戒すべきだろう」
普段、どのような状況でも泰然と冷静なインドの二人の曇り空具合に、カルデアのマスターはそれでも声を上げた。
「よ、よーし!一先ず特異点へレイシフトして、調査を始めよう!カルナ、キャスターよろしく!」
「今更だが、サーヴァントは二騎だけか?アルジュナ・オルタは待機でいいのかね?」
ゴルドルフに、ダ・ヴィンチが肩をすくめた。
「相性が悪くてレイシフトできないんだ。他のインド系サーヴァントも軒並み駄目だし、あの特異点自体が妙に脆く作ってあって、強力なサーヴァントを何体も連れていけないんだよ」
「こちらの戦力を下げる為とも考えられるが、意図が読めないな。インドでも、少なくとも目的は明確な神だったというのに」
「そういう策を弄する存在か否かと言えば、するでしょうけれど。……あの、強力なサーヴァントが駄目なら、カルナはいいのですか?」
「うん、カルナもキミも今回力を削られてるから大丈夫さ」
「不幸中の幸い……でしょうか?」
本当に、何をしに来たのか。
死んだ魚の目になりかかりの
「とりあえず、皆今回もよろしく!」
その宣言に、サーヴァント二騎は大きく頷くだけだった。
■■■■■
レイシフトを用いて辿り着いた先に広がっていたのは、森の中だった。
青い炎の中に飛ばされるのかと思っていたというのに、むせかえるような濃い緑の中に放り出されるのは意外である。
くん、と小さな鼻を動かして大気の匂いを嗅いですぐに悟る。
「なるほど、カーンダヴァの森ですか」
「え?」
マスター、立香に見下ろされながら、頷いて応じた。
「カーンダヴァの森です。ここはあの森を再現しているようです。尤も、木々から生命を感じられないし動物の気配もないので、張りぼてのようですが」
「マハーバーラタに登場する森ってこと?」
「はい。詳しくは司令室の皆様にお聞きしたほうがいいかと」
「わかった。ありがとう、キャスター」
返事代わりに小さくほほ笑み返し、辺りを見回す。
色々話し合った結果、特異点では主にマスターの近くにいて護衛することになったのだ。原因がアグニ神である以上、居残りの選択肢は最初からない。
身の丈は小さいし筋力や耐久は下がったが敏捷は地味に上がり、呪術と扱う焔の出力に衰えはなかった。ただ、体の大きさは違うので直接戦闘になったときに、剣や弓を扱える自信がない。
変わった体の大きさにすぐさま順応して戦い方を変えられるほど、武術に長けてはいないのだ。
そもそも、キャスターが白兵戦前提を考えるなと言われたらその通りなのだが、なんか大体の特異点や異聞帯において剣を振るっているので今更であった。
「あれ?……通信が繋がらないみたいだ」
「あら」
などと考えていると、困り顔の立香に見下ろされる。
カルデアと繋がっているはずの通信機は、沈黙していた。ノイズすら吐き出さない無音状態である。
位置情報は送受信できているようだったが、声や映像はお互い届けられないらしかった。
これまた残念ながらというか幸いと言うか、特異点ではままある出来事だ。
「呪術で繋げてみましょうか?アルジュナ・オルタ様から少し力をお借りして来たので、それを触媒にできます」
「ほんと?お願い!」
「はい」
言って、広げた手のひらに小さな青い馬の形の魔力を呼び出す。
これは、アルジュナ・オルタが攻撃の際に用いているものだ。レイシフト直前に、おもちゃの木馬を子どもに貸すように渡して来たものであり、彼の魔力でできている。
通信不良に陥ることも、彼には読めていたのだろうか。
とはいえ、アルジュナ・オルタはマスターが傷つく事態をわざわざ招くようなことは絶対にしない。
ただ、わかっていて口を開かないことがあるだけだ。おまえと似ている、というのがカルナの批評だが、カルナも同じだと正直
ともあれ、手のひらに乗せた青い馬の形の魔力塊を通じて伸ばした伝声の術は、無事に届いたようだった。
『マスター、大丈夫ですか!』
『マスター!聞こえますか、マスター!』
繋げた直後に飛び込んで来たのはマシュと弓のほうのアルジュナの声である。
どうやら、両方司令室にいてくれたらしい。
「聞こえてるよ。通信が繋がらなくなったから、キャスターにアルジュナ・オルタの魔力を使って繋げてもらったところだけど」
「この魔力が尽きれば通信できなくなるので、あまり長い間話してはいられませんが、ひとまず全員特異点へ到着しました」
『よかった。こちらではマスターのバイタル等は追えていますが、他のお二人の反応が薄く、もしかして先輩が一人になってしまったのかと思っていました』
それは心配だっただろう。
一旦お互いの安否情報だけをやり取りして通信を切り、魔力の木馬をしまう。
「……で、カーンダヴァの森ってのはどんなところだったの?」
「あ」
そうだった。
説明の時間の余裕までは取れなかったのだ。
マスターの顔をちらりと見ると、教えてほしいと書いてある。カルナは周囲の警戒に意識を向けているようで、視線で頼んで来ていた。
「では簡単に説明します。カーンダヴァの森はかつて、パーンダヴァの皆様方の都近くにあり、開墾のため燃やされた広大な土地です。そして、アグニ神が食べた森でもあります」
「え、神様に食べられたの?物理的に?」
「いいえ。アグニ神が食べたのは、森が焼ける空気です。神は人に森を焼いてもらい、その空気を食されました」
立香の頭の上に疑問符が飛ぶのが見えて、言葉を続けた。
「ええと、マスターのお国で亡くなられた方は、ご供養の線香の煙を召し上がるそうですね?
「あ、それ聞いたことある。アグニ神も同じなんだね?」
「はい。ともかくカーンダヴァの森はそこに住む
森に住まう鳥や獣、虫や木々に草花、果ては巨人にラークシャサやナーガ族の生命ごとすべてを焼いてアグニに捧げたのは、アルジュナとクリシュナである。
その後、開けた土地を元に建てられたのが、パーンダヴァの都、インドラプラスタ。
森の生命を糧に、人が栄えた。
ありふれた話だ。
ここは、半神の聖王ユディシュティラとかれの兄弟たちが築いた、華やかなりし都の、始まりとなった森。
ただ、その点は話さなくてもいいかと思う。
ユディシュティラやアルジュナの話に絡めると、森を焼くのを止めようと現れたインドラ神と戦ったり、アグニ神より神弓ガーンディーヴァを授けられたりという逸話まで話が伸びるだろう。
尚、カルデアのアシュヴァッターマンが扱う
色々な人間の運命が、変わる事件の一つでもあった。
とにもかくにも、諸々の理由でカーンダヴァは思い出深い土地だ。
瞼を閉じればあの時感じた木々を舐めていく熱が蘇り、耳を塞げば焼き尽くされる鳥や獣やナーガ族が苦しみ喘ぐ声が木霊するが、あれはもう
「ちなみに、神が森を頂いた理由ってある……よね?」
「捧げ物の食べ過ぎで淀んだ身を治すには、新鮮な森の煙で浄化するしか方法がなかったからです。アグニ神は人の願いを天へ届け、世に光を灯す重要な神なので、彼の機能不全は解決しなければいけませんでした」
「え、原因は食べ過ぎなの?」
「はい。お供え物のバターの焼ける香りを食べ過ぎたとか……そのような感じらしいです。私も炎に触れて体力や魔力を回復しますが、そこから食べ物の匂いを感じたりはしませんので、似ているようで違う力かと」
焼肉を食べすぎたから生野菜を食べたくなった、とでも言うのか。
たとえが酷いが、起きた出来事を噛み砕けばそんなことになってしまう。
要するに、森を食べてアグニ神は復活したのである。
「ただそれを踏まえると、ここがカーンダヴァの森の再現である状況は、私たちにとって良いことではないかもしれません」
「どういう……?」
「つまり────」
説明しようとした瞬間、耳にジジジと羽虫のような音が届く。
顔を上げれば、カルナも同時に気がついたのか目を細めていた。
「話の途中だが、マスター、異変が起きた」
「え?」
「私にも聞こえました。
「ええっ!」
「神話の再現でも、したいのかもしれません。……ともあれマスター、どうしますか?」
まだ少年の面差しの残るマスターの顔を覗き込む。
カルナとも自分のそれとも色合いの違う青い瞳は、束の間迷ったあと決意を固めた光を宿した。
「森の火を、消すことはできる?」
「おまえが命じるなら、オレはそうしよう」
尋ねた立香に頷きつつ、キャスターも口を開く。
「とはいえ、今、ここには水が満足にありません。これで火を止めるには、
「えーと……」
「言い換えよう。マスター、今すぐ火元周辺をオレが根こそぎ消し飛ばす。あとは彼女の水で押し潰せば消火は可能だ」
物理的に、延焼の源となるモノを無くす。
力が削られた
「アグニ神の手伝いをなさる方がおられないならば、恐らくは止められると思います。火が小さくなれば、私の呪術程度の水で消せるかと」
「或いは、全員で森から離れる手もある。炎は森だけを喰らうものだ。いずれにしろ、判断はおまえに任せる、マスター」
青年と幼い少女は揃って、マスターの前に選択肢を静かに取り出したのだった。
更新再開してから、色々主人公とキャラとの関係増やしたので少し整理します。
・クリームヒルト
非常に気が合う友人で、夫同士も気が合うが、四人で話すとツッコミとボケが1:3でクリームヒルトが大変になる。お互いがお互いを、旦那が絡むと途端に苛烈になるので放っておけないと認識している。
・ジナコ
友人/庇護対象。神でなく人として見ており、カルナと三人で時折ゲームで遊ぶ仲。お互いがお互いを、姉/妹がいたらこんなかなぁと思っている。
・ラクシュミー・バーイー
友人。インド異聞帯では直接関われなかったが、カルデアで仲良くなった。一緒にゲームするのは楽しいが、どちらも幸運値が低くドロップもガチャもしょっぱい。
・ドゥリーヨダナ
忘れられているが、もう一度味方認定してくれたので気にしていない。ビーマと乱闘しないでほしい。助けを求められたらちゃんと行く。
・アシュヴァッターマン
忘れられているが、信用はされているようなので気にしていない。ただ、記憶にある姿と違うとは思っている。
・ビーマ
苦手よりだが、戦闘では連携するしカルデアのキッチンでも同じ。生前彼のヒゲを焼いてカルナに叱られたので、あれは忘れたままでいてほしい。
・アルジュナ・オルタ
割とお互い気にかけている。カルナと三人で談笑する時もあるが、際限ないボケの応酬になって、弓アルジュナかアシュヴァッターマンにツッコミされるまで止まらない。
・アスクレピオス
気の合う同僚。医術を人に広めた彼を純粋に尊敬している。父神絡みで話が合うが、治療に関してお互いバーサーカー化する時がある。
ざっくりこんなところです。
リクエストあれば、こちらのマシュマロへお願いします。
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