太陽と焔   作:はたけのなすび

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感想、評価、ここすき、誤字評価、ありがとうございました。

今回は1時間後に、番外編を二話まとめて投稿しています。

では。


太陽と焔と雷霆降臨-5

 

 

 

「ひとまず、彼女の呪いの状態と、アグニ神の関係はある程度理解できたかと思います。私からも少々よろしいですか?」

 

 ひょいとアルジュナ・オルタの手が上がった。

 立香が頷き、オルタはゆるりと微笑んだ。

 

「かつての異聞帯でアグニ神の取った行動は、概ね皆さんも知っていると思います」

 

 自分が統べ、そしてカルデアが滅ぼした異聞帯についてを、アルジュナ・オルタは至極あっさりと口にした。

 

「アグニ神の目的は、端的にまとめれば私を唯一の神から解放することでした。その為に、私に取り込まれても執念で留まり続け、そこの彼女も巻き込んだ。彼女が長らく異聞帯に囚われた原因は、私にもある」

「何を仰ってるんですか?どこにもないでしょう?あれはアグニ神が勝手にしただけです」

「ある、ことにしておいてください。でないと貴女もカルナも、私を巻き込んでくれませんから」

「……もう一人のアルジュナよ、おまえは、まさかそのために、アグニ神に力を切り取られるのを見逃したのか?あの不安定な神に、おまえが隙を見せるとは考えにくい」

「え」

「ふふ」

 

 ふわりと浮きながら、くすくす笑うアルジュナ・オルタだった。

 

「何してらっしゃるんですか、オルタ様。何のためにそんな無茶を……」

「当然、迅速な問題解決のためですよ。貴女もカルナも、二人揃って真っ直ぐで頑なで石頭でフリーダムなので私も相応にならないと」

「……」

「……」

「それと、アグニ神があなたたちから力を奪うのに使ったのは、私から取った力です。ですので、事の原因の一端も私ですね」

「ホントに何してるのさオルタ!」

 

 マスターからもツッコミが飛ぶ。

 弓のアルジュナの結構な百面相が、オルタには見えてないのだろうか。

 ……見えているけれど、見ないことにしてるのだろう。

 

 ともあれ。

 

「インド異聞帯のアグニ神と、汎人類史のアグニ神は、似ています。少なくとも、あの戦いの後まではほぼ同じ道を歩いた。これには、彼女の存在も含まれています。どちらの世界にも貴女はおり、同じ人生を辿った。インド異聞帯での貴女も、死後カルナの記憶以外を剥奪されています」

「それは、あちらに召喚されたときに私も確かめましたが……?」

 

 アルジュナ・オルタに見つめられながら、少女(キャスター)は首を傾げた。

 あの世界が異聞帯となる切っ掛けは、恐らくクルクシェートラの戦いの後に起きたであろう、ヴィシュヌ神の終末のアヴァターラ、カルキの権能をアルジュナが手にしたこと。

 つまりそこまでは、汎人類史と大差はない。

 少女(キャスター)の生も死も、変わらない。

 

「はい。そして異聞帯のアグニ神は、私に取り込まれるのをよしとしなかった。理由は、()()()()()()()という個人的なものでした。ですよね、マスター?」

「うん。アグニ神はオルタのアルジュナを気にかけてた。アルジュナを唯一なる神という業を降ろすために俺たちに協力するって言って……その結果として異聞帯が滅びても構わないとすら思ってた」

「……別におかしくないのでは?アグニ神は、ずっとアルジュナ様にかなり好意的な方です。つらそうだから止めさせたいと考えても、不思議はないでしょう?」

 

 アグニ神はアルジュナに神弓ガーンディーヴァを与え、パーンダヴァが追放された際は尽きない穀物を生み出す壺を与えた。

 どちらも、アルジュナやパーンダヴァが神々に認められるに足る人間であったから得た、ふさわしい贈り物だ。

 特に、カーンダヴァの森を喰らって力を取り戻したアグニ神が、アルジュナに好意的なのは至極当然だろう。

 

 不思議そうに首を傾ける幼い見た目の少女に、二人のアルジュナとカルナが複雑な目を向けた。

 

「貴女は、それで良いのですか?」

「?……何がですか?」

「ですから、アグニ神は貴女の父なのでしょう?」

 

 ─────何も、感じないのですか?

 

 目の前の授かりの英雄は心無し怒り────いや、苛立っているようだった。

 

 だけど、だから、何だと言うのだろう。

 

 わからないけれど、多分、自分が何かを間違えているのだろうと少女(キャスター)は思う。

 周囲の妙に生温い空気が、生前に森育ちの世間知らずを見た周囲のものと同じだったからだ。

 

 青い瞳に疑問を浮かべて見上げる幼いサーヴァントに、アルジュナは珍しく顔を顰めた。

 

「だから……ああ、本当に貴女はわからないのですね!息子と娘はそうまで違うのですか!」

「アルジュナ。彼女の気質とアグニ神が合わなかっただけだ。息子か娘かは、関係ないだろう」

「白けた顔で解説してる場合か、カルナ!貴様の妻で家族だろうが!」

「……返す言葉もない」

 

 アルジュナとカルナの言葉の意味も、わからない。

 わからないけれど、父と娘、父と息子に関係があることなのだろう。

 

 アグニ神と自分は、父と娘で。

 アルジュナとアグニ神は─────。

 

 ─────あ。

 

「アルジュナ様、私は、あなたに()()()()()でしたか?」

 

 尋ねれば、アルジュナ・オルタは薄く儚く、笑顔らしきものを浮かべた。

 半分は、肯定だったのだろう。

 

 父が、娘を見なかった。

 見ずに、娘を娘と認識せず/できずに最期まで利用して、別の人間(アルジュナ)を助けようと奔走し続けた。

 

 ああ、そうか。

 それは、確かに。

 親に愛されたい、認められたいと願う人間であったなら─────。

 

「……()()()?それとも、()()()?」

「どちらも正解だ。……尤もそれはおまえが、父を欲し、求めていたのであればの話だ。おまえは文字通り、()()()()()()()()()()

 

 期待がなければ、希望もなく。

 希望がなければ、絶望もなく。

 

 アグニ神に対して、少女(キャスター)は何も、求めなかった。

 

 だから、アルジュナの為に奔走するアグニ神に文字通りの全身全霊で手を貸した。

 四肢を薪にしてでも、カルデアが来るまで霊基を保った。

 痛みを、恨むでもなくただ噛み締め続けた。

 

 自分()を見もしない父と、彼が助けようとしているアルジュナに、何ら怒りも、妬みも向けず。

 

 カルナが、微かに目を細めた。

 

「おまえは神を見ても、父とは見なかった。自分の生誕に関わった、ただの現象に過ぎないのだろう?」

「それは……そうかもしれません」

 

 そうかもしれないどころか、そうだ。

 父なのに、娘を助けないのかと、助けて欲しいと思わなかった。疑問がなかった。

 娘だと名乗りはすれど互いの齟齬を埋めるためで、呪いの影響にあるとわかれば諦めた。

 青い瞳を光らせたまま、少女はアルジュナ・オルタを見上げた。

 

「アルジュナ様、あなたは私にこれを気がつかせたかったのですか?」

「はい。……貴女には、余計でしょう。けれど、私がしたかったのです。アグニ神が私を助けようとしたのは、代償行為ですから」

「代償?」

 

 代償、つまりは代わり。

 アグニ神は、アルジュナ・オルタを誰かの代わりにしていたのか。

 とうの青年は淡々と伝えた。

 

「アグニ神は、私を気にかけてくださった。唯一絶対の神という孤独は、人が取るべき道ではないと、()()()()()ようだった。彼が情をかけるような身内の中で、永く続く孤独に落とされたのは、ただひとり」

「……」

「貴女しか、いないでしょう。彼は私の中に、貴女を見ていました。貴女がいたから、アグニ神は私を助けたいと願えたのです」

「……それでも、アグニ神は目の前に娘がいても、正しく認識できなかった」

 

 カルナの言葉に、アルジュナ・オルタは頷いた。

 

「ええ。呪いの結果です。ゆえに、アグニ神は貴女を贄に、私を助けるためカルデアに協力しました。アグニ神は、本当に救いたかった者を認識できずに、犠牲にした。してしまった」

「アルジュナ・オルタ様。アグニ神はあなたを気にかけていたのも、本当ですよ。本心から身を案じていました。依り代をしていたから、それはわかります」

「はい。それもまた真実です」

 

 アルジュナ・オルタが、言いたかったことは。

 

「アグニ神は、貴女()を大切にしています。無関心ではなく、()がある。彼と向き合うべきなら、貴女はそれに、気がつくべきだと思いました」

「……理由はわかりましたが、それでアルジュナ様が力を持っていかれるのを良しとするのも……」

「ははは。心底、貴女に言われたくありませんね。自らの身体を薪にしてアグニ神を、魂を盾にしてカルナを護った一件、私はしっかり覚えていますよ?」

「……私、今、お前が言うな(鏡を見ろ)と言われていますか?」

「はい。これに関してカルナは貴女に言えた立場ではありませんので、お節介をさせて頂きました」

「それはそっか。キャスター、未だカルナが自分で鎧を剥いだの怒ってるもんね」

「当たり前です。一生終わっても、あれは認めませんから」

 

 バーサーカーになるほどの怒りはないが、確かにカルナに指摘されても理解しなかっただろう。

 立香は頷いて、キャスターを見た。

 

「じゃあキャスター、アグニ神が君を大事にしてると仮に考えて、その上で君はどうしたい?何となくだけど、俺、今回はそれが重要じゃないかなって思うんだ」

「……」

 

 前提を、考え直す。

 子を愛せる親のように、あの神が自分を見ていたとする。

 根底を、ひっくり返す。

 無関心ではなく、愛情を向けられていたとする。

 だったら、自分はどう思うのだろうか。

 

「……それでも、好きにはなれません」

 

 どうしてそこまで、頑なになるのか。

 愛されているのに、愛を返せない【悪】にしかなれないのか。

 理由は。

 

「神は、母様に、これ以上ないほどひどいことをしたから。私は、その結果として生まれたものだから」

 

 ────本当に母を愛していたなら、彼女の魂を尊重してくれていたなら。

 

「私を母の胎に宿らせてほしくなかった。こんな生命(わたし)を────」

 

 ────造らないで、ほしかった。

 

 それが、偽らざる本音で。

 

「愛されていても、私は、愛を返せません。それが【悪】だとしても、偽れない」

 

 母を殺した父だから。

 母の苦しみの源(わたし)を産ませたから。

 

 だから。本当に。

 

 ─────()()()()()()()()()()()()

 

 だけど、()()()()()()()()()()()()べきだ。

 わかっていても、できない。苦しい。したくない。

 

 今すぐ、耳を塞いで蹲りたくなる。

 小さな爪が皮膚を突き破るほどにきつく手を握りしめ、何度も浅く息を吸って吐く。

 

「ちがう。おまえはいつもそうだ」

 

 ふいに、黒雲を割って差し込む光のように声が落ちた。

 

「愛されているなら、愛を返すべきだとオレは思わない。己が愛しているのだからおまえも同じだけ愛せというのは、元より傲慢の極みだ」

 

 受け取れない愛がある。

 受け取らなくていい、愛の形がある。

 

「おまえは、他人が同じことで苦しんでいるならそう言えるだろうに、己となると、受け取らなくてはいけないと思い込む癖がある。……母親への罪悪感か?己の生誕への嫌悪感か?どちらも、おまえのせいではなかったのに。望まれて生まれた者はいても、望んでこの世に生まれた者はいない」

「……」

 

 す、とカルナは軽く息を吸った。

 その仕草で、彼も緊張していると感じた。言うべきことを伝えるために、考え考え、言葉を継いでいるところなのだろう。

 

「おまえは、父の愛を断っていい。拒絶していい。嫌なら嫌だと、言っていい。誠実さでおまえが傷つくくらいなら、オレはおまえの不誠実と悪に手を貸す。……尤も、オレはそうだとは思わないがな」

 

 おまえは、怒って良かったのだ、とカルナは呟いた。

 

「できるできないは別にして、父親を一度殴る権利ぐらいおまえにはある。数千年、無理な依代にして火で焼かれる痛みを味わわせ続け、人の形をした灰になるまで耐えた娘を、あの神は邪魔だと言った。それでもおまえは、怒らなかった」

「腹立たしいと、思ってはいますが?」

()()()()だろう。……おまえの心の底からの怒りの苛烈さを、オレは知っている」

 

 我が身を焼き尽くしても足りないほどの激情の焔が、本来の少女(キャスター)が持ち得る怒り。

 それに比べて。

 

「おまえはオレに対してしてくれたように、父親の独りよがりな愛に怒ってくれない」

 

 神としてなら、何とか尊べて。

 父としてなら、嫌いだ。

 その負の感情を、封じて律して、カルデアを信じて待ち続けて、その結果が。

 

「相反する感情を抱え、依代にされ、孤独のまま異聞帯に長く封じられたこと。あの長い時間が、おまえの苦しみの源だ。だから、オレはそれをおまえに強いたアグニ神にも、止められなかったオレ自身にも怒っている」

 

 少女(キャスター)にあるのが、諦めだけで、怒りがなくても。

 

「オレは……オレが、許せない」

 

 端的な言葉に、少女(キャスター)の目が宝石のように丸くなった。

 

「……許せないなら、あなたはどうしますか?」

「殴る。何としてでも、おまえから奪ったものを返させる」

 

 きっぱりと言い切るカルナに、思わずくすりと笑いが漏れた。

 

「殴っ……殴る……拳しかないのかこれは?神の試練と考えれば……ありだろうか?」

 

 真面目に悩むらしいアルジュナの声も面白い。

 殴るのを否定するのではなく、合法的に殴れる否か考えているのだから。

 

「……ありがとうございます」

 

 くすくすと笑いながら、少女(キャスター)は目尻に浮かんだ雫を指で払った。

 誰かが代わりに、怒ってくれる。

 自分のために、何かを想ってくれる。

 現在が何一つ変わらなくても、それだけのことで軽くなる気持ちもあるのだ。

 

 愛されているとか、今更言われるから混乱して取り乱したのだ。

 まずは、奪われた力を後腐れなく取り返す。

 対話できるのは、そのあとだ。

 

 勝手に奪った向こうのやり方に乗って返してもらう必要は、考えてみれば無いのだ。

 カルナに抱えられたまま背筋を伸ばした少女(キャスター)に、口髭を撫でながらゴルドルフが尋ねる。

 

「で、だが、どうするのかね?解決策が『殴る』に戻ってはちょっと脳筋なのでは?」

「そうですね。そも普通に殴れるかすら怪しい。まず、アグニ神はカルナの鎧と槍の属性も持っていってしまったので、防御力と攻撃力が上がりまくっています」

「なにィ!」

「それに、元々炎熱系の攻撃はほぼすべて効かないし、体を焔に変換されたら単なる物理攻撃はほぼ通りません。能力において、完全に私の上位互換ですから」

「えーと……キャスターのやけどと呪いと物理ダメージ無効能力に、カルナの自己治癒能力とダメージ軽減が上乗せされてる?」

「そうですね、マスター。加え、槍による神性への特攻もあるかと。カルナも私も半神半人ですから、良くありません。使いこなせていない可能性もありますが、希望的観測に頼ると死ねます」

「淡々と言ってる場合かね⁉」

 

 単純な性能として、あのアグニ神はカルナと少女(キャスター)が合わさったようなものだ。

 加えて、いくら純正な神霊でなくとも、アグニ神は世界の守護神(ローカパーラ)に数えられる旧き神。

 

 倒そうなどと思うほうが、間違いなのだ。本来は。

 

「でも、戦い方がないわけじゃない?」

 

 けれど、カルデアのマスターはそう尋ねた。

 

「あら、どうしてそう思うのですか、マスター?」

「キャスターが冷静だから、かな。何か考えてることがあるんだよね」

「はい」

 

 間髪入れずに応えた幼い少女を抱えたままのカルナの腕が、戦いを予感したように微かに震える。

 それに気づいているのかいないのか、少女(キャスター)は膝を揃えたまま子どものように小首を傾げた。

 

「だけれど、私が考えられる要素だけでは足りません。あともう一つがあれば良いのですが」

「?」

 

 マスターやマシュが首をひねるのとほぼ同時に、カルナの懐でカチリと何か、金属が触れ合う音がする。

 

 それを待ちかねていたように、少女(キャスター)だけがにこりと笑った。

 

 

 




娘視点、やらかしが多すぎてとにかく関わってほしくない存在に成り果てている父でした。
愛されているかもという可能性を感じる心は、異聞帯ですり潰されて消えてます。

今更言われても大混乱。
せめて女装はやめてほしいと。

1時間後の23時に番外編を上下編2話で投稿します。

リクエスト頂いた、
・アスクレピオスや医療班との話
・クリームヒルト以外の人妻サーヴァントとの話
・カルナとの過去の話
・カルナから見たキャスターの話
が複合合体しました。

楽しんでいただければ幸いです。
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