太陽と焔   作:はたけのなすび

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主人公のイメージとCVを聞かれましたが、一応作者は、キャライメージは、Dies iraeの櫻井螢、CVはかわしまりの氏を想定しています。
髪を後ろでまとめて、目付きと雰囲気が少々柔らかくなって、大人びた櫻井螢嬢という感じです。

あくまで、作者の勝手なイメージですが。



act-2

陳腐に言うなら、金髪のサーヴァントは強かった。

カルナが槍を突けば、最小の動きでかわし、黄金の鎧で護られていないカルナの首筋へ向けて、蛇のように槍を伸ばす。

それを受けるカルナは、首を狙う槍を柄の部分で弾き、槍を回転させて敵へと襲い掛かり、今度は金髪のサーヴァントが守りの態勢に入る。

目まぐるしく、二人の攻守が入れ換わる。

しかし、全体で見れば、白斗にはカルナの方が有利と見えていた。

実際は、攻防のすべてを、二人は人の目では捉えられないほどの高速で行っており、白斗に見えるのは、カルナの槍と、金髪のサーヴァントの槍がぶつかって散るときに起こる、火花くらいだ。

それでも、何とか白斗が戦況を把握できるのは、もう、白斗自身の慣れと、才能としか言えないだろう。

さらにその横では、拳銃を両手で連射しつつ、隙あらば相手に飛び掛かろうとするナイチンゲールと、彼女を援護しつつ、盾を振るうマシュとが、黒髪のランサーを攻め立てていた。

 

『マスター、こっちにも敵だ。どうやら野営地を攻める気らしい。すまないが、援護に回る余裕はない』

『分かった。アーラシュは野営地の防御に集中してくれ。こっちは何とかなりそうだ』

 

そんな念話も挟みつつ、白斗は戦場を見守る。

 

「これは不味いな。ディルムッド、撤退だ!」

「承知!」

 

カルナの槍を飛んで避け、金髪のサーヴァントは白斗たちから距離をとった。

黒髪のサーヴァントも、瞬時にその言葉に従い、マシュの盾とナイチンゲールの銃弾を槍で弾いて飛びすさる。

畳み掛けようとしたカルナとナイチンゲールの前に、ケルト兵が大量に押し寄せ、その足を止めた。

その隙に、金髪のサーヴァントが、水をディルムッドと呼んだランサーに手ずから振りかければ、彼の傷がたちまち癒えた。

 

「…………治癒の水を扱うケルトの王か。なるほど。お前は、かのフィオナ騎士団を率いた、フィン・マックールか」

「如何にもそうだ。神の血をひくランサーよ」

 

頷き、フィン・マックールは、傍らのディルムッドに合図を送った。

 

「撤退だ。ディルムッド。どうやら、サーヴァントに率いられたレジスタンスも近づいてきているようだ。これ以上、サーヴァントが増えてはさすがに不味い」

 

見れば、彼らの連れてきたケルト兵を、別な軍勢が包み込むように攻めていた。

率いているのは、サーヴァントらしき褐色の肌をした男性。

白斗には、とんと見たことのない風貌だった。

 

「野営地へ送った兵も、アーチャーらしきサーヴァントに狙撃されているようだ。これは、そこのマスターの指示かな?いずれにしろ失態だな。一目散に撤退だ、ディルムッド」

「王よ、しかし、他の兵は我らの言うことを聞きますか?」

「聞かないのなら仕方ない。我らは華麗に逃げるべきだ。あのランサーや麗しい盾のお嬢さんは手強いし、何より彼らは女王を母体とした無限の怪物だ。数千失ったところで、困るものではない」

「……そうでしたな。では、撤退を」

 

言うなり、二人のサーヴァントは、ケルト兵をその場に残して本当に一目散に撤退していった。

カルナがブラフマーストラを放って敵陣を焼き払う頃には、その姿は影も形も無くなっていた。

同じく、レジスタンスと呼ばれていた兵士たちも姿を消している。

 

「すまない、マスター。逃走を許してしまった」

 

槍を消し、近寄ってくるカルナに白斗は、気にしないでほしい、という意味を込めて首を振った。

 

「先輩!」

 

マシュも駆け寄ってくる。

ナイチンゲールは、と見れば、怪我人の気配を察知したのか、すでに野営地へ駆け出していた。

白斗たち三人も、その後に続いて野営地へと戻り、アーラシュとも合流した。

 

 

 

 

 

 

と、そこでそのまま出発できればよかったのだが、そう上手くも行かなかった。

 

「お待ちなさいな、フローレンス。どこへ行くつもりなの?軍隊で持ち場を離れることは、重罪よ」

 

ロンドンにいた、ヘルタースケルターそっくりな機械化兵を連れた小柄な少女が、野営地を出ようとする白斗たちの前に立ち塞がったのだ。

 

「貴女こそ戻りなさい、エレナ。私は持ち場を離れてなどいない。今よりも有効な治療法が見つかったのだから、それを求めに行くだけです」

 

しかし、ヘルタースケルターごときに怯まない、鉄の意志持つ看護師は、臆しもせずに少女を見据える。

 

「何言ってるの。バーサーカーの貴女が戦線になんて出たら、状況が混乱するわ。第一、王様が許すと思ってるの?」

「王であろうと誰であろうと、私には関係ない。王の命令とやらは、正しい治療法を探すコト以上に、優先されるべきなのですか?」

「貴女、まさかその調子で自分のところの女王様にも突っかかった訳じゃないわよね。とにかく、持ち場に戻りなさい。さもないと、手荒い懲罰が待ってるかもしれないわよ?」

 

見えない火花が、ナイチンゲールとエレナという名の少女の間で散る。

合流したアーラシュが、こっそり白斗に尋ねてきた。

 

「なあ、マスター、アメリカってのは、この時代では王がいない珍しい国じゃ無かったのか?」

「そのはずだよ。世界史の中では、だけど」

『あわわ、行動的な女性サーヴァントが集まると何でこう修羅場っぽくなるんだ!?』

「…………」

 

男性陣が静観に入りかける中、ここでマシュが仲介に動いた。

 

「お、お話し中失礼します!あの、貴女もサーヴァントなのですか?」

「貴女もって……、あら、サーヴァントがこんなにいるのね!これは王様にとってグッドニュースかしら」

 

破顔するエレナの目は、特にカルナとアーラシュに注がれているようだった。

少なくとも、今すぐ敵対という空気ではない。それに押されて、白斗もエレナの前に進み出た。

 

「あの、その王ってのは誰なんだい?それと、君の名前を聞かせてくれないか?俺は白斗。岸波白斗だ」

「そう言えば、自己紹介もまだだったわね。いいわ、あたしは、エレナ。エレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーよ。それにしても、あなたたちはアメリカの現状を知らないの?今ここは、西と東に別れて戦ってるのよ」

 

そこまでは白斗たちも知っている。

軍勢の一方がケルト側ということも。

分からないのは、このキャスターと思われる魔導書を携えた少女、エレナが、何に所属している誰か、と言うことだ。

 

「ふうん。事態の半分くらいは理解しているみたいね。あたしたちはアメリカ西部合衆国。科学の力で兵士を生み出して、ケルトと戦おうっていう大統王の下に集ったわ。そういうわけで、あたしたちはもう主を定めてるのよ、悪いわね。今回のマスター」

「ちょっと待ってください。では、さっきの量産型バベッジさんも?」

「ええ、王様が造ったのよ。そんなコトを言うあなたたちは、バベッジ教授に出会ったのね。十九世紀のイギリスにでも行った?でも、あちらとこちらでは違うわ。バベッジ教授のは宝具と蒸気。こちらは電力だもの」

「どこが違うんだそいつは。どっちも鉄の衣を着た兵じゃないのか?」

 

よくわからん、とアーラシュが口を挟み、横でカルナも首を捻っている。

 

「それは残念ね。まあ、そこはいいのよ。問題なのは、あなたたちは、フローレンスを連れてどこへ行くつもりかってコト」

「この世界の崩壊を防ぐため、この事態の原因を取り除きに行くのです」

「あら、それならあたしたちの敵ね。あたしたちは、王様に仕えてる。彼を勝たせるコトがあたしたちの目的よ。こちらにも事情があるのよ。とにかく、あなたたちは行かせられない」

 

エレナの目がすっと細められ、機械化兵たちががちゃり、と銃を動かした。

それまで、黙したまま腕組みをしていたカルナが、腕をほどいて問う。

 

「その王とやらが勝てば、この事態は終息できるというのか?」

「そうね、多分、この地は失われた大地、唯一の国として、次元の中を漂うでしょう。英霊の座のようなものよ。これはこれで、救いがあると思わない?」

「思わないよ。それは、他の時代を切り捨てるってコトじゃないか」

「それは暴論です。悪い部分を切断して全てを済ませるつもりですか。それを治療とは呼びません」

 

白斗とナイチンゲールの否定の言葉が重なる。

エレナは困ったように、優雅な仕草で顎に指を当てた。

 

「あら、残念。それならこちらも虎の子を、と言いたいところけれど、そんな余裕は無さそうね。最初から全力でいかせてもらうわ。……じゃ、ジークフリート、あなたの出番よ」

「了解した」

「えっ!?」

 

直後に、色々なことが同時に起こった。

突如空から、見覚えのある銀灰色の髪の剣士が現れ、カルナにその勢いのまま斬りかかり、一瞬で顕現したカルナのインドラの槍が、ジークフリートの大剣を受け止めて火花を散らせる。

さらに、周囲一体から機械化兵たちと、エレナの持つ本と同じ魔術書が湧くように現れ、白斗たちを取り囲んだ。

 

『サーヴァントに機械化兵、それに魔術!?どんな方法を使ったんだ!?全然探知出来なかったぞ!?』

「どう?近代のキャスターもなかなかやるでしょ」

 

艶然と笑うエレナ。

カルナはジークフリートとの鍔迫り合いで動けず、ずらりと並べられた兵隊の銃口と、エレナが呼び出した魔本は、全て白斗一人に向けられていて、アーラシュとマシュも動けない。

今にも飛び出しそうなナイチンゲールを抑えながら、白斗はエレナと目を会わせた。

 

「どうする、最後のマスター?ここはあたしたちに着いてきてくれないかしら」

 

それは脅迫だろう、と思いつつ、白斗は頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

当然と言えば当然のことだが、白斗とマシュたちは分けられて、西部合衆国の本拠地まで護送されることになった。

 

「本当ならこっちだって、こんな人質みたいなコトはしたくないのだけれど、あなたたちレベルの英霊とマスターを、一緒になんてさせられないわ」

 

と言うのが、エレナの弁である。

確かに、白斗と分けられてしまえば、エレナたちが白斗を害することなどしないだろう、という予感はあっても、カルナたちは暴れられなくなる。

ナイチンゲールだけは、大統王が会いたがっているというので白斗と同じ幌馬車に乗せられたが、カルナ、アーラシュ、マシュは、ジークフリートと機械化兵と共に相乗りすることになった。

ちなみに、それだけ乗っても、エレナが強化しているのか、並みのものより速かった。

馬車が走り始めて程無く、沈黙に耐えられなくなったマシュが口を開いた。

 

「…………あの、ジークフリートさん。あなたはどうして王様という人に協力するのですか?」

 

フランスでは共に戦ったのに、とそう言いたげなマシュに、人々の願いに答え続けた竜殺しは複雑な顔を向けた。

 

「一言で言えば、誠意を込めて頼まれたから、というところだ。王からも、ケルト軍と戦うためには、俺の力が必要だ、と頭を下げられた。応えないわけにはいかないだろう」

「ま、分からなくもないな。しかしお前は、王とやらが勝つことで、他の時代が燃えても構わないってのか?」

 

しかし、善を成すため、命を捧げた東方の射手は、厳しい視線を飛ばす。

 

「俺とて、王の危うさは知っている。が、彼は聡い。いつか目を覚ましてくれるはずだ。そのときまで、俺は剣を彼に捧げると決めた」

「なるほど、滅びの道を進みかけている主と知りながら、お前は忠誠を尽くすと誓ったか。オレとて人のことは言えないが、な」

 

カルナの言葉に、ジークフリートはそちらに目を向けた。

太陽の英雄と、黄昏の剣士の視線が正面からぶつかり合い、双方同時に視線を緩めた。

無言の空白を埋めるように、今度はアーラシュが口を開いた。

 

「なあ、正直、俺はその王とやらに興味があるんだが。ジークフリート、お前から見て、王というのはどういう奴なんだ?」

「…………」

 

すっ、とジークフリートが視線を逸らした。

 

「おい、そこで目を逸らすな」

「…………一言で言い表すのは、難しい。破天荒、な人物ではある。それは確かだ。すまない、言葉足らずな俺では、これが限界だ。エレナならいくらでも語ってくれるのだが」

「あの、その、王というのはどういうコトですか?アメリカを率いるなら、大統領の方ではないのですか?」

「すまない。王というのは略称だ。正式に言えばアメリカ大統王だ」

「おい、ますます分からんぞそれ」

「その大統王とやらは、分かりやすければ、己の階級、肩書きなど気にしないという、合理主義者の類いなのではないか?」

 

カルナの質問に、それだ、とジークフリートが首肯した。

 

「合理主義者ですか。確かに、王様と大統領の呼称を繋げるのは分かりやすいですが…………」

「つまり、一番偉い奴の肩書きを並べてくっつければ良かろう、ってコトか?」

「そういうことだ。ああそうだ、言い忘れていた。彼は頭だけが獅子に近い、というか獅子そのものをしていてな、初対面では驚くだろう」

「は?」

 

獅子、つまり、食肉目ネコ科に属するあのライオン。

かのアメリカ大統王は、頭から上が獅子のそれなのだと、竜殺しは何でもないことのように言ってのけた。

 

「よし分かった。俺は、大統王をこの目で見るまで、想像するのはもうやめにする」

 

アーラシュがついに匙を投げた。

カルナは完全な無表情に戻って外の景色を見、マシュはアメリカの歴史に存在した、獅子に縁がある英霊を思い出そうとし始める。

目的地につくまで、そのまま車内に沈黙が満ちていたのだった。

 

 

 

 

 

ケルトに何度か襲撃されながら、辿り着いたのは、城だった。

壮麗なものではなく、防衛戦を前提とした、高い城壁を持つ、武骨なそれを、大統王は一から作ったのだという。

アーラシュやカルナは城の作りと、それを完成させた西部合衆国の技術に素直に感心し、マシュは、城中でナイチンゲールと共に交渉に入った白斗をただ案じていた。

白斗の芯の強さ、肝っ玉の太さを信じているからこそ、アーラシュやカルナには迂闊に大丈夫だとは言えない。

 

「アーラシュ、マスターはどうすると思う?オレたちに、西部合衆国と共に戦えというだろうか」

 

城の外で待たされながら、カルナはマシュとジークフリートに聞かれないよう、アーラシュに問う。

 

「思わんな。何せ、俺たちのマスターは、頑固なコトに関しては折り紙つきだ。大統王の行いを一度是としないと決めたんなら、貫き通すだろうな」

 

アーラシュも、白斗がそういう人間だからこそ、ここまで、彼をマスターと認めてついてきているのだ。

 

「となれば、交渉は決裂か。オレたちは、マスターとは隔離されて閉じ込められるだろうな」

「だろうよ。ま、今から脱出の方法でも考えとくのがいいと思うぜ」

 

あっさりと、軽く笑う東方の大英雄に、カルナも頷き返す。

エレナからの通信が入って、全員を地下牢に、白斗を別室に移すと言ってきたのは、それから間もなくのことだった。

 

 

 

 




カルナさんとチェンジしたのは、ジークフリートさんでした。
あとエレナさんは、白斗の連れているサーヴァントがサーヴァントだけに、容赦なくなっています。

正直、カルナさんが抜けたエジソン陣営でケルトと拮抗するのはきついと思ったので、ジークフリートが登場しました。
何より、ロビンフッドが過労死してしまいます。


テンポ良く話が書きたいものです・・・・・。

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