sideアキ
「ごちそうさま、吉井くん。とても美味しかった」
「ありがとう。作ってきてよかったよ」
お弁当を食べてから満足した表情の久保くんを見て安心した。
このお弁当とさっきの久保くんに「あ~ん」しながら食べさせてあげたのは、姫路さんから伝授したものだ。
『デートでお昼にするらな自分の手作り弁当がいいんです!』とか『あ~ん、してあげれば絶対に喜びますよ!』と念を押すように姫路さんは言ってたような……。
こんなので久保くんは喜んでくれるだろうかと心配ではあったが、見事に姫路さんの言う通りとなる結果になってよかった。
でも、「あ~ん」はやりすぎな気もするけど……。
他の人に見られてた時、とっても恥ずかしかったなぁ……。
あれをして正解だったのかと思いながら、弁当箱を巾着にしまう。
「それにしても、吉井くんのお弁当は本当に美味しかったよ。また食べてみたいな」
「そ、そんなに……?」
腕には自信があるとはいえ、そこまで美味しかったのだろうか……?
「それなら、また……作ってあげようか?」
ポツリとつぶやくように言った。
「え? いいのかい?」
「うん。そこまで気に入ってくれたら、また作ってあげようかなと思って……」
「そうか……ありがとう。楽しみにしているよ」
久保くんは微笑んだ表情でいて、とても嬉しそうな様子が伝わってくる。
僕のお弁当だけでそこまで喜んでくれると、こっちまで嬉しくなる。
次、作る時は頑張ろう……。
僕は手に持っている弁当箱を入れた巾着をギュっと握りしめた。
★
その後、本来の目的である映画は見終えているので、特にすることもなくなり、そのまま2人で帰り道を歩いた。
今は夕方とはいえ、僕1人じゃ心配だから送って行こうと久保くんに言われて、自分の住むマンションまで送ってもらった。
「今日はありがとう。いきなり誘っちゃってごめんね」
「謝ることはないよ。言うのはお礼だけでいいさ」
謝る僕に苦笑する久保くん。
「うん……そういえば今日、楽しかった……?」
「もちろんさ。充実して1日を過ごせたよ。お誘いしてくれたことに感謝している」
「そっか……よかった」
貴重な休日を潰してしまったのではないかと思っていたが、そうでなくて安心した。
「それじゃあ、またね。また学校で」
そう言って久保くんはその場を去るように歩き出した。
「うん……またね」
………………。
…………………………。
…………なんで、別れた後ってこんなに寂しいんだろうな。
帰っていく久保くんの背中を見つめながら、モヤモヤした感情でいっぱいの胸を両手で押さえた。
★
「ふぁぁ……今日は楽しかったけど、疲れたなぁ……」
部屋に戻ってからのこと。
猫耳パーカーを脱いで、ベットに横たわる。
大きな脱力感が襲ってきた。
「はぁ……僕ってどうしちゃったんだろう……」
久保くんと別れてからというもの。
寂しいような、悲しいような……切ない感情がこみ上げてくる。
なんとなく友人と離れたりすると寂しくなることはあるが、これは違う気がした。
今まで味わったこともない、胸に募る心苦しさ。
思わず胸を押さえてしまう感覚。
「いつから……こうなっちゃったのかな……」
この正体不明の感情に陥るのはこれが初めてではない。
以前の文化祭の帰りだったり、後は花火大会の帰りも……。
だいぶ前から既に存在していた。
文化祭の時も……久保くんに抱き着いちゃったんだっけ……。
今思うと、恥ずかしくなって枕に顔をうずめた。
しかし、肝心なのはなぜあの行動をとったのか自分自身、わからないのだ。
ただ寂しかったから思わず……それだけでは明確な動機になていない。
僕と久保くんはお互いに傍から見ても普通の友達同士の関係なのに。
それなのに……なんで僕は……。
「もう……さっきからなんで久保くんのことばかり考えてるんだ……」
寝返りをうって仰向けになる。
考えれば考えるほど悶々とするし、切なさで胸がいっぱいになる。
この胸の内にあるモヤモヤは、正体に気づくまで一切消えることはなかった。
最後にしては短いですが、これでアキちゃんと久保くんのデートイベントは完了です。
沢山の応援と感想ありがとうございました。
次回から文月学園での日常を少しだけ挟んで、強化合宿編にする予定です。
原作から大きく外れているので、心配しかない……。(´・ω・ `)
感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。