sideアキ
「失礼します」
とある授業の最中に、学園長室に呼び出されていた。
「よく来たね、吉井。相変わらずその姿は元に戻らないのかい?」
学園長がいつも通り、自分の椅子に座って待っていた。
「戻れるなら既にそうしてますよ……」
「ふん、まぁ前のいけ好かない顔よりは遥かによくなったし、そのままで構わないんだけどね」
なんか元の姿を否定されている気がする……。
「それにしても、授業中だというのに、なんですか? いきなりこんなところに呼び出して……」
「今回アンタを呼び出したのは他でもないよ。観察処分者としての仕事を与えようと思ってね」
なぜ授業を放り投げてまで面倒な仕事を押し付けられなきゃいけないのだ……。
「観察処分者としての初仕事さね。上手くいくといいんだがね」
「初仕事って……今まで散々振り回してきたというのに……」
「いや、あれは雑用としての仕事で、観察処分者としての仕事とは言い難いね」
観察処分者の仕事は雑用係と言われて当然なのに、よく言うよ。
女の子になって少しは内容がマシになると思いきや、重い荷物を運ばされる、教員に資料を渡しに行く等……どう見ても女1人にやらせるような仕事ではなかった。
「そんな非難めいた目で見るんじゃないよ。とにかく今回は重労働を強いるつもりはないから安心しな」
「その観察処分者としての仕事とは、どのような内容なのでしょうか?」
「召喚獣の試運転をしてもらいたいのさね」
召喚獣の試運転……?
「すみません、何を言っているのか理解に苦しみます」
「今から説明するよ。ちょいと試験召喚のシステムを弄って、アップデートを図った訳なんだけどね。それのテストを行うために協力してほしいのさね」
「つまり、試験召喚のシステムアップデートを手伝えと……?」
「ご名答。アンタにしては理解が早いじゃないか。やっぱりその姿のままが丁度いいんじゃないかい?」
「姿と理解力の因果関係はないですよ……それで、アップデートとか言ってますけど、試験召喚の状況はどうなっているんですか?」
学園長は先程、弄ったとか言ってたけど、システムが変わったということだろうか?
ちょっと気になってきたぞ。
「今までの召喚獣は召喚者自身に似せたものを自動的に創り上げる設定になっていたんだけれど、あれは召喚獣が召喚者の情報を完全に読み取れていなかったのさね」
難しい話を始めたけど、まぁなんとなく話の内容は把握できた。
「だから、それを改善しようと思ってね。召喚獣と召喚者の双方をより一体化させるために召喚獣に徹底的な改修を行ったんだよ」
「召喚獣とその召喚者を近い状態にさせる……ということですか?」
「大雑把に言うとそうなるね。アンタみたいにフィールドバック等の痛覚共有とかはまた別の話なんだけどね」
う~ん……最初はなんとなくだったけど、後半の話がまったくわからない。
召喚獣と召喚者の状態を近づけるということは、何か上方修正でも加えたのだろうか?
「そんなに難しい顔しなくてもいいよ。言われた通りのことをすればいいだけの話さね」
学園長が僕の意を察したのか、心配するなと言われ、実際に試験運転とやらを始めることとなった。
★
「それじゃあ、実践といこうかい」
学園長から、観察処分者の仕事という名目で試獣召喚の許可をもらった。
「いきますよ……
あまり気は進まないが、重要な任務を引き受けられる生徒は自分しかいないようなので、自分の召喚獣を召喚。
快く思ってはいないが、自分の召喚獣がどのような状態になっているのか一番気になる。
すると、僕の召喚獣が姿を現した。
新しくなった僕の召喚獣はなんと…………自分の等身大サイズになっていた。
「……って、ええぇッ!! な、なんですか!? これは!?」
「ほぉ……上手くいったようだね」
と僕の驚きを華麗にスルー。
この人はまったく、いつもいつも……。
「うわぁ……これが僕の新しい召喚獣……」
「驚いたかい? 召喚者本人と姿や形をそのままにした召喚獣を召喚できるようになったのさ」
得意気になりながら、説明する学園長。
「すごい……僕とまったく一緒だ」
自分の顔と身体がコピーされたかのようにそっくり。
装備は元の召喚獣と変わらず、改造学ランに胸にサラシを巻いている。
武器は刀身の長い太刀を一振り持っていた。
とりあえず、武器と装備を引き継いだ等身大サイズの召喚獣という訳だ。
「ふむ……特に動作や召喚の問題点は無しといったところだね……」
僕の召喚獣を隅から隅まで見回す学園長。
「学園長……あまりそんな目で見られるのは少し恥ずかしいのですが……」
新しくなった召喚獣はあまりにも僕と同じで、自分の姿を見つめられている感覚に陥る。
「何を言っているんだい。れっきとした動作確認さね。しかも女同士で恥じらうなんて、もう少し耐性をつけたらどうだい?」
いや、いくら女同士とはいえ、学園長はちょっと……ね。
「とにかく、今のところ大して不具合は見当たらいね。これなら今日中にこのシステムを導入できそうだね」
「もうそこまで行ってるんですか!? 早くないですか……?」
「元から導入するのを前提でシステムを弄った訳だから、今回の試験運転で動作に問題がなかったらそうするつもりだったよ」
うぅ……つまり召喚戦争が起これば、この召喚獣を多くの生徒に見られるということか……。
前の召喚獣ではそんなに気にならなかったが、よく考えるとすごい装備だなこれ。
ただでさえ恥ずかしい装備なのに、等身大となった今は恥じらいを覚えずにはいられない。
「それとまだ確認しておきたいことが残っているんだがね」
「なんでしょうか」
今ので十分な気もするけど、まだ付き合う必要があるのだろうか。
「アンタの持っている腕輪が発動するかどうか確認しておきたい。今から少し発動させてみな」
「わ、わかりました……」
僕の持っている腕輪は『ドレスチェンジ』と『Lovemanipulate』に『Flameblade』の3つだから……。
今ここで確認できそうなのは『ドレスチェンジ』と『Flameblade』の2つだね。
『Lovemanipulate』は相手がいないと確認しようがないし。
「それでは……『Flameblade』発動」
発動した瞬間、僕の召喚獣が持っている太刀が赤く光って、刀身が炎を纏う。
「うわぁ……スケールが違うと迫力がこんなにも……って、あっつ!?」
灼熱の熱気が僕を襲った。
「何やってるんだい……ものに触れられる能力があるなら、腕輪の効果だって反映されるに決まっているじゃないかい」
「そうでしたか……」
「くれぐれも扱いには気を付けてくれよ。下手したら校舎が燃えてしまう」
それを聞いて、ゾッとしたので、腕輪の効果を取り消す。
ただ召喚獣のシステムが少し変更されて、扱いにプレッシャーがかかるとは思わなかった。
「腕輪の方も特に問題はなかったようだね。そんじゃ、念のために後1つくらい腕輪を発動して終わりにしようか」
「わかりました……えっと、後はこれくらい?」
『ドレスチェンジ』発動。
僕の新しくなった召喚獣が前と同様に光に包まれて、一瞬でそれが消えてなくなり、装備と武器が変わっていた。
「って、これはDクラス戦の時の衣装だ……」
黒のワンピースに白のフリルが付いたエプロンを組み合わせた、ミニスカートメイド服に武器は両手にダガーナイフ。
前にDクラス戦で活躍したこの装備。
等身大で、しかも間近で見るとこれもなかなかの衣装……。
メイド服にナイフを持ているのは怖い印象を与えるかもしれないが、いかんせん、僕の姿なので威圧感などはまったくない。
「問題ないね……にしても、システムを変えた途端に、これまたおもしろいものに変貌を遂げたね」
感心しながら装備が変更された僕の召喚獣を見回す学園長。
「よし、これまでの動作すべてに異常無し。ご協力感謝するよ」
学園長はそう言って、自分の椅子に座る。
まさかお礼を言われるとは……それほど重要なことだったのか。
★
「――ということがあったんだよ」
「俺たちが知らない間におもしろいことになっていたんだな」
と試験運転の話を終始聞いていた雄二は腕を組む。
「等身大サイズの召喚獣とはなかなか興味深いのう。早く自分のも見てみたいのじゃ」
「そう思える秀吉が羨ましいよ……」
あの姿は見てるだけで恥ずかしいし、他人に見られるのはこれ以上にない苦痛だろう。
「アキちゃんの召喚獣、見てみたいですね。しかも腕輪の効果もあって衣装がいろいろ見れるなんて……召喚戦争が楽しみですね~」
「姫路さん、争いごとはできるだけ避けよう」
うっとりとした顔で、えげつないことを言う姫路さん。
あの腕輪で出せる衣装と装備はランダムで、どんなバリエーションがあるか不明。
もしかするととんでもなく恥ずかしい衣装があってもおかしくないので、便利な腕輪だけれど、今の状況ではあまり使いたくない。
できるだけ召喚戦争などは起こさず、平和的な解決をしてほしいと心の底から思った。
「あ~あ……なんでこんなことになったんだ……」
「そんな憂鬱な顔するなよ。強化合宿も迫ってきてることだしよ」
「雄二にはわからないよ……女の子の僕の気持ちなんて……」
学園長が唐突に創り上げた新しい試験召喚システム。
これが強化合宿中に大波乱を起こす火種となるのを僕は知る由もない。
さて、次回から強化合宿編に突入ですよ!
作者が考えたオリジナル設定で面白くできるようにできるといいんですがね。(´・ω・ `)
もし設定に疑問がある場合は、感想で質問などを送っていただけると、お答えしますので、気軽にどうぞ。