sideアキ
入浴時間終了に近づいてきたので、僕らは大浴場を出て、指定された体操服へと着替えていた。
後は部屋に戻って、約束通りにみんなでトランプをして、寝て終了……というのが僕の脳内での予定。
「アキちゃん、早くいこうよ!」
「夜はまだまだこれからなんだから」
「もう、そんなに急がなくても大丈夫だよ……」
佐山さんと浜崎さんに手を引っ張られ、急かされていた。
「2人はやけに子供っぽいところがあるのよね。大目に見てあげて」
「いつものことだから大丈夫だよ……櫻井さん」
そのまま、脱衣所を出た。
すると、そこには……
「……何これ? 何があったの?」
「知らない。てか、なんで男子がここにいるの?」
佐山さんと浜崎さんは、脱衣所を出た途端に広がる光景にポカーンとしていた。
「ゆ、雄二たち……ここで何しているの?」
雄二にムッツリーニ、そして秀吉……それから、複数の男子生徒。
それらの人物が西村先生と布施先生の前で正座させられていた。
「……言わなくてもわかってるだろ……俺らの作戦は失敗に終わった」
「もしかして、今日も覗きしに来てたの!? しかもこんな人数を集めて!?」
よく見たら、(秀吉を除く)全員Fクラスの男子生徒だった。
僕らが入浴してる最中になんてことしてるんだ……いや、そうしないと覗きじゃなくなるか。
「はぁ……今日も気持ちよかったわ……って、何があったの!?」
「んんッ? これは……修羅場ってやつかな?」
「……何事?」
「いったい何があったのですか!?」
遅れて出てきたのは、木下さんに工藤さんに霧島さんに佐藤さんのAクラスの主要メンバー。
「みなさん、なぜこちらにいるのでしょうか?」
「またバカなことやってるんじゃないでしょうね……?」
次に姫路さんと美波まで。
同じFクラスの2人はこの時点で何があったか、大体察しているかもしれない。
「貴方たちが入浴している際に、こんな大人数で覗きをするつもりだったそうです」
「幸い、誰も通すことはなかったがな」
布施先生と西村先生は事情をすべて話した。
「ひ、秀吉……アンタ、なんてバカなことに加担しているのよ!?」
「姉上、これも友人のためなのじゃ……」
「……雄二、詳しく話を聞かせて」
「クソ……指導が終わってからにしてくれ」
あらら……これは収集がつかない事態になりそうだ……。
「とにかく、ありがとうございます。布施先生、西村先生。アタシの愚弟をしっかりと指導してあげてください」
「ああ、指導はもちろんだが……お礼は久保に言ってくれないか?」
「久保くんに……?」
西村先生の言葉に僕ら女子全員は首を傾げた。
「先生、あまり口外しないでいただけませんか……」
「あら? 久保くんもここにいたのね。どうしてここに……?」
横から出てきた久保くんに、誰もが「なぜ、ここにいるんだ?」という表情。
「着替えを部屋に取りに行ってたら、坂本くんが他の男子を連れて、浴場に行くのを見つけたんだ。
この時間はFクラス男子はまだ、入浴時間じゃなかったら、おかしいと思って後をつけたら、こうなった……簡潔に言うとこういうことだよ」
「久保くんのおかげで、Fクラスの男子たちを止められましたからね」
と久保くんが説明して、横から布施先生は言う。
「ふーん、そうなのね……よくやったわね。久保くん」
「いいや、大したことないよ。木下さん」
当然だとばかりな久保くん。
「いい仕事してくれたわね……久保くんって、異常に紳士よね」
「久保くんって、ブレない男だからね……やっぱり、紳士を貫いているんだよ」
櫻井さんと佐山さんはヒソヒソと話している。
「久保クン、お疲れ様~……お礼に風呂であった話、聞かせてあげよっか?」
「それとも、誰かの下着の色を教えてあげようか?」
「け、結構だよ。工藤さん、浜崎さん……」
「別に久保くんに教えても、誰も気にしないと思うけどね~」
相変わらず、こんな状況でも工藤さんと浜崎さんはいつも通り。
「一応、ウチと瑞樹からもお礼しておくわ」
「ありがとうございます、久保くん」
「ううん……別にいいんだ、これくらい……」
美波と姫路さんからもお礼を言われている。
久保くんの行動は女子全員から称賛されるに値するだろうね。
僕もちゃんとお礼を言っておかないと。
「あの、久保くん」
「ん? あ、ああ……吉井くんか……」
「ありがとう。雄二たちを止めてくれて。あのままだったら、みんな嫌な思いをしてたから……」
「当然のことをしたまでだよ……僕も女子が嫌がる行為はしたくないし、そんなことを他の誰かにさせたくもない」
「いつも久保くんは優しいね……それでも、本当にありがとう」
「……どういたしまして」
そう言って、久保くんはクルッと背を向けて、
「先生、僕はこれで失礼します。後はそちらに任せます」
と言って、その場を去った。
……やっぱり、今日の久保くんはなんか変だよ。
僕にはなんで、あそこまでよそよそしい態度をとるんだろう……。
合同学習の時からずっとあの様子だ。
僕はそれが気になって仕方がなかった。
「ほら、アキちゃん! 早く行こうよ!」
「早くしないと、夜が終わっちゃうよ?」
「う、うん……」
悩んでいる間にも、佐山さんと浜崎さんに手を引っ張られて、僕たちは部屋へと戻った。
★
「それじゃあ、強化合宿夜のトランプ大会の始まりー!」
「「「イエーイ!!!」」」
佐山さんの掛け声と共に、ノリノリの歓声(あまり大きな声は出せないけど)を上げる、トランプの参加者。
「……っと言っても、ただのトランプというだけではおもしろくないから、美穂と一緒にルールを設けてみました」
「特別ルールとして、1番になった人が負けた人に命令をすることができる権限を獲得できます!」
佐藤さんのその言葉には既に聞いたことがあるような気がした。
「ん? それって、ウチたちがアキの家でお泊り会をした時にした覚えがあるんだけど……」
「聞き覚えのあるフレーズだと思ったら、アキちゃん家のお泊り会でやりましたね」
美波と姫路さんがそう言って思い出した。
お泊り会で夏休み最後の思い出として、トランプをすることになったんだけど、確か佐藤さんが考えたのと同じルールによって、僕は姫路さんから着せられた恥ずかしいパジャマで、夏の最後を飾ったんだ。
「あぁ……吉井くんの家でのお泊り会の時とそのままのルールね……まさか美穂も愛子と同じ考えをするなんて……」
「ムー、優子。なんかボクに失礼なこと考えてなかった?」
「……私も参加したから覚えている」
お泊り会に参加したメンバーも完全に記憶している。
それを聞いて、佐山さんと浜崎さんは羨ましそうにして、
「アキちゃん家でお泊り会してたの? いいなぁ~……」
「今度、私たちもアキちゃんの家に行っていい?」
「うん、別にいいけど」
僕の家に来たいと言っているけど、僕の家に来て何が楽しいのだろうか。
「細かいことは置いておいて……ゲーム開始です!」
あらかじめ、シャッフルを済ませておいたトランプを全員に配っていく佐藤さん。
前は恥ずかしい思いをしたからなぁ……今回は最下位にならないことだけを考えよう。
★
じゃんけんで順番を決めた結果、こうなった。
木下さん→美波→工藤さん→僕→佐山さん→佐藤さん→姫路さん→櫻井さん→霧島さん→浜崎さん
「まずは私からね」
木下さんから始まり、それに続いて美波も引いていく。
「ふっふーん、どれにしようかな~♪」
僕の手札のカードに手を伸ばす工藤さん。
ババを持っていないので、何を引かれても困らないが。
「よーし、これだ! お、初手から揃っちゃた☆」
僕の手札から引いたカードにより、工藤さんは1枚消化することに成功。
……まだ焦る必要はない。
「それじゃあ、次は僕か……」
「かかってこーい! アキちゃん!」
手札を広げて、当てれるものなら当ててみろという表情の佐山さんが待ち構えていた。
もしかして、ババを持っている可能性も考えられる……慎重に……。
僕は数秒考えてから、思い切って真ん中を選ぶ。
あ、ババじゃない! よかった……じゃなかった……ババじゃなくても、数字が手札と揃わない……。
これだと実質、ババを引いたようなものだ……だが、まだまだこれから。
10人という大人数でやっていたので、早くも3ターン目で上がる者が出てきた。
もちろん僕はその中に含まれていないが、まだ大丈夫。
「次は僕の番だね」
僕の番が回ってきた。
相手は……うわぁ……ここで強敵。
「……いつでも来て」
無表情で構えているのは、ポーカーフェイスが大得意の霧島さん。
お泊り会の時に脅威となったけど、2度も同じ目には遭わないぞ。
「うーん……こっち? うーん……これかな?」
右の端っこを引いてみる。
うげぇ……ここに来てババだ……霧島さんには勝てそうにないよ……。
「……成長してない」
少し得意気な表情を見せた後、霧島さんは櫻井さんの手札からカードを引いて、上りとなった。
そして、
「はい、上り……アキちゃん、最下位」
「……な、なんで……なんで勝てないの……」
結局、最後まで残って、とどめを櫻井さんに刺された。
「それでは、罰ゲームを受けるのはアキちゃんに決定しました。1番の方は……あっ、私でしたね。
なので、私がアキちゃんに罰ゲームを行います」
よりによって佐藤さんか……姫路さんと同様に嫌な予感しかしない……。
「アキちゃんへ罰ゲームです。私が用意したこの衣装を着てくださいね」
「罰ゲーム内容も前と一緒だ……」
果たして、今度はどんな衣装を着せられるのか……。
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