この日の彼は期待していた。
誰か一人は自分宛のチョコがあるのでは?と期待して、朝から変な気配を漂わせていた。
故に、ある事実に気が付かなかった。
「俺宛のチョコが見当たらねえ!絶対にあるはずなのに!!さては、山にでも隠しやがったな!!見とけよ渚!!俺はこのまま0個で終わらさねえ!!!」
2月14日の放課後、呼び出しがあるかも!と教室に残っていた彼、岡島大河は悟った。
誰も自分へ呼び出しをしない。
そう悟ると同じく教室に残っていたクラスメート、潮田渚に向かって、絶対にチョコがあるはずだ!と叫んだ後、涙ながらに走った。
「ちくしょお!!!俺のチョコは何処だあああぁぁぁぁぁ!!!」
チョコを求めて、裏山を走る岡島。
そんな彼に声がかかる。
「ふぅ、やっと見つけました。岡島君」
「ん!今、女子の声が!!俺のチョコは!?」
「後ろです」
岡島は今、全力疾走をしている。
そんな彼の後ろを、付いて走れる女子がどれだけいるだろうか?
岡島は止まる。
自分に声を掛けてくれた女子と向き合う為に。
「あ、アリス・・・さん」
「やっと追いつけれました。はい、どうぞ」
岡島を呼び止めたのは、最近になって編入して来た外国人。
ということになっている人工生命体、アリス・ホワイトシルバーだった。
彼女が持っているのは、高級チョコメーカーのロゴマークが入った紙袋。
ロゴマーク通りならば、紙袋の中身はチョコレート。
彼女はその紙袋を岡島に差し出した。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
彼は涙した。
先ほどの悲し泣きとは違う、嬉し泣きだ。
バレンタインデー、この日に高級なチョコレートを男性に渡す女性。
彼はこの意味は一つしか考えていなかった。
(あのアリス・ホワイトシルバーが俺にチョコを渡してくれた!!これは、俺のことが好きだと言う告白で間違いない!!)
こんな可愛い子が俺の彼女、そんな脳内お花畑を想像している岡島にアリス・ホワイトシルバーは言った。
「今日中に渡せれて良かったです。これで全部です」
「へ?全部って?」
彼女言った言葉に疑問が生じた岡島は、雄叫びも辞めて聞き返す。
「今日はバレンタインデーですから。日頃の感謝を込めて、クラスの皆さん全員にチョコレートを配っていました。岡島君だけ、何やら気が経っていましたので最後になってしまいましたが、これで皆さんに渡せれて、ほっとしてます」
「クラスの皆さん?」
「はい?」
「俺だけ高級チョコだとか!?」
「皆さん平等に同じチョコレートですが・・・?」
「あ、あははははh」
お花畑終了
岡島は朝から、アリスがチョコを配っているのを見ていなかった。
そんな、彼のミスがこの結果を産んだのであった。
「でも、チョコが一個、貰えたわけだし!!義理でも嬉しいぃぃぃ!!!!」
家に持ち帰った岡島はそのチョコを、それはそれは大切に食べたのは別な話し。