A-RISE "記憶の物語"   作:反時計回り

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記憶に残る始まりを

 

 

秋葉原にある自己主張の激しい学校。白が特徴の制服を持つその学校は、最先端、近未来そんな言葉がよく似合う。

 

『UTX学院』

 

それが今日から通うことになる学校の名前だ。

 

✳︎

 

桜の花が肩に触れた。窓から見える桜は風と踊り、日差しは心地よく降り注ぎ学生の体を温める。入学式にはもってこいの天候だ。そんな天候に気分が高まったのか、辺りの学生からは緊張が消え、楽しみの振れ幅が振り切っているように見える。

 

「騒がしいな、もう少し静かな雰囲気をイメージしてたんだけど……」

 

やれ、桜が綺麗だ。やれ、同じクラスだったらいいね。やれ、かわいいこがいるやら。気持ちはわかるが、騒がしすぎる。これから高校生だと言うのに、まだ中学生気分が抜けていないかのようだ。そろそろ入学式の時間だと思い式場の時計を見ながら、肩の桜を払った。

 

「静粛に」

 

時計の針が12を指すと同時に、鋭い声が生徒達の喧騒を切り裂いた。壇上を見ると黒髪ロングのメガネをかけた美しい女性が立っていた。しかし、その美しさは鋭くつり上がった目により、生徒にいっそう恐怖を感じさせた。

 

「これから入学式を行う、全員起立!」

 

その言葉に生徒全員慌てて起立する。あの先生には逆らうべきでないと一瞬で理解したようだ。流石はUTXと言ったところか、先生全員が厳かな雰囲気を纏っている。

 

「軍隊みたいだ、入学式って怖いな」

 

心に止めきれなかった思いをボソりと呟やく。

この学校を無事に卒業できるのか不安になりつつ、周りに合わせて起立した。

 

✳︎

 

「1-Aか」

 

滞りなく入学式は終わりクラス分けを提示している掲示板へと向かった。A組から順番にクラス分けを見ていたため、すぐに自分の名前を見つけることができた。1-Aは無駄に高い位置にある。学年が低くなるにつれて登る階数が増える、それはどこの学校も同じだろう。だが、UTXにはエレベータがある。そのため苦にはならないだろうが、なかなかどうして階数が多い。昼休みはエレベータが使えなそうだ、そう思いながら式場を後にした。

 

『指定された座席に座ってください』

1-Aについて最初に目にしたのがその文だ。黒板に綺麗な字で書かれていた。その横には座席と思われる四角の枠に名前を書いた紙が貼ってあった。これが座席表だろう。

 

「窓際の最後列。珍しいな」

 

『白雪』にもかかわらず窓際を取れるとは今年は幸運なようだ。そして、

 

「前の席は……綺羅ツバサか」

 

これもまた珍しい、『綺羅』の次に『白雪』がくるとは……今年の芸能学科には『く』から『さ』で始まる苗字の生徒はいないらしい。ツバサという名前は男女共に使われる名前だ。男子だったらいいなと思いつつ、席に座った。

 

 

親しい友人がいるというわけではないので視線を窓に向け都会の景色を見下ろしていた。昼間だからごちゃごちゃして見えるが、夜なら綺麗だろう、そんなことを考えていると、前の席に生徒が座るのが視界に入った。この人が綺羅ツバサかと思い、視線を前に向けると偶然か、こちらを向いていた綺羅ツバサと目があった。

 

「……こんにちは」

 

変な間が空いてしまった。そのせいで少しの間見つめ合うことになり気まずさが膨らむ。コミュニケーション障害というわけではない、ただ女子と話すことに慣れていないだけだ。そう心に言い訳をしていると綺羅ツバサが反応を示した。

 

「ええ、こんにちは。優斗くんね?」

 

「あ、ああ、そうだよ。俺が白雪 優斗」

 

いきなり名前で呼ばれたことに若干驚きつつ、肯定し自己紹介をする。

 

「そういうあなたは、綺羅ツバサさんだよね?」

 

そう返すと綺羅ツバサは驚いたような表情になった。名前を知っていたことに驚いたのだろうか。綺羅ツバサも俺の名前を知っていたのだから、俺が知っていても不思議ではないと思うけれど……

 

「え、ええ、そうよ。私が綺羅ツバサ。よろしくね」

 

たどたどしい自己紹介を終え、変な安心感に包まれた俺は再び外の景色に目を向けることにした。すると、綺羅ツバサも外の景色に興味を持ったのか同じ方向を見て、話しかけてきた。

 

「夜になると、綺麗な景色が見られそうね」

 

どうやら同じことを考えていたようだ。

 

「俺もそう思うよ。まあ、夜に学校に来ることはあまりないと思うけど」

 

夜の学校。その響きだけで少し恐怖を感じる。ただ、UTX学院は他の学校とは違い近代的だ。近代的な学校に七不思議と言うような古風な噂はあるのだろうか。近くの音ノ木坂ならまだしもこの学校はないだろう。そう結論付け綺羅ツバサの方を見る。改めて見るととても可愛らしい女の子だ。おでこがチャームポイントなんだろうか前髪は短く切られている。先ほどから多くの男子生徒からの視線を感じていたのはこの人のせいなのかと納得した。

 

「綺羅さんはA-RISEのオーディション受けるの?」

 

UTX学院には学校公認のスクールアイドル、『A-RISE』が存在する。そのグループのメンバーは毎年学校によって開催される厳しいオーディションの末決定する。綺羅ツバサならオーディションに受かりそうだと思い質問した。

 

「ええ、受けるわ。そして必ず合格する」

 

他の人がこのセリフを発したのなら鼻で笑ったであろう。しかし、綺羅ツバサが発したのなら別だ。この人は必ず合格する。俺はそう確信した。初対面にもかかわらずそう感じてしまった。

 

「そうだね、綺羅さんなら合格するよ」

 

そう返すと再び顔に驚きを浮かべ、そのあと微笑んだ。

 

「ありがとう。まさか、そう返されるとは思わなかった」

 

ここ芸能学科に在籍する女子生徒のほとんどはオーディションに合格しA-RISEになることを目指している。綺羅さんの発言に反発する人も多くいたのだろう。そう考えているとホームルームの始まりを告げるチャイムがなった。

 

「全員席に着いたか?」

 

その声とともに教室に現れたのは、入学式の時に壇上に立っていた女性だ。生徒達の姿勢はそうすることが自然だと言うようにピンと伸ばされた。

 

「よろしい、名前と顔の確認も兼ねて出席を取る。呼ばれたものは返事をするように」

 

次々に名前を呼ばれる。全員が全員、声を張り上げて返事をする。

ようやく点呼が終わり、少しリラックスし始めた生徒がボソボソと会話をし始める。それにつられたのか綺羅さんも話しかけてきた。

 

「まるで軍隊ね、これから一年不安だわ」

 

本当に恐ろしそうに言う綺羅さんに笑いがこみ上げてしまい、少し笑ってしまった。

 

「はは、本当にそうだね。でもそんな調子で大丈夫なの?」

 

綺羅さんなら知っているだろうと思い、少し説明を省いてそう言った。

 

「え、ええ、そうね。今からこんな調子じゃオーディションに差し支えるわね」

 

そう、A-RISEのオーディションの担当はあの先生だ。去年のオーディションではあの先生に泣かされたという生徒が続出したらしい。入学式の前にこの学校のことは調べていた。だからオーディションを受けない俺でも知っていた。

 

「綺羅さんはダンス得意なの?」

 

「ええ、得意よ」

 

それはよかった、去年のオーディション受験者のなかに鬼の形相でダメ出しをくらった生徒がいたようだ。

 

「よくそんなダンスでオーディションを受けようと思ったな」

 

「え?」

 

UTX学院の情報が載っている掲示板に書かられていた先生のセリフを呟いてしまった。

 

「いや、去年のオーディションを受けた生徒があの先生に言われたみたいだよ」

 

「不安になるようなこと言わないでよ……」

 

オーディション前の綺羅さんに無神経だったかな、そう思いつつも、合格すると確信していた俺は少し微笑んだ。

 

「その生徒のダンスは初心者丸出しだったらしいから、綺羅さんなら大丈夫だと思うよ?」

 

「そう、それなら安心ね」

 

本当に安心したようにそう言った。初対面にもかかわらず女子とこんなに話すことができるとは思っていなかった。そんなことを考えていると綺羅さんがこちらを見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、詳しいなと思ったの」

 

それは、この学校のことはくまなく調べたのだから当たり前だ。事前情報は大切。

 

「調べたからね」

 

「そう……あなた、マネージャーに興味ある?」

 

「……え?」

 

『マネージャー』、A-RISEのメンバーが必要と言ったのならマネージャーをつけることができる。そう学生証に記されていることは知っていた。しかし、自分が誘われるとは思いもしなかった。そもそも、女子は苦手だ。そんな俺に務まるはずがない。

 

「いや、ないよ。でも、マネージャーはA-RISEのメンバーが決めるんだ。全員が必要と言ったのなら誰であろうと強制的にマネージャーになる」

 

「わかったわ。心の準備をしておいてね」

 

自分が合格することを前提に話していることに自信が見え、ああ、俺はマネージャーになるんだろうな、と思ってしまった。

 

「わかったよ、オーディション頑張ってね。綺羅さん」

 

そう言い、俺と綺羅さんは微笑みあった。女の子とも話ができ高校生活のいいスタートを切れた。これから楽しい高校生活が始まる、そう思うと今日は気分よく帰れそうだ……

 

「そこ!うるさいぞ!」

 

「「は、はい!すみません」」

 

……今がホームルームの途中ということを忘れてなければ。

 

 

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