A-RISE "記憶の物語"   作:反時計回り

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シリアスです


逃げ出すのは何からか

 

 

家に帰る。今の俺にとってはこの時間が一番憂鬱だ。どれだけ学校でいいことがあろうと、どれだけ嫌なことがあろうとそれだけは変わらない。満員の電車に乗り人の波をかき分けながら駅を出る。家族で楽しそうにレストランへ入っていく音。恋人と手をつなぎ互いを見つめ笑いあう音。友達と笑いながら話す音。全部が騒音として耳に入っていく。その騒音から逃げ出すように裏路地に入っていった。

 

✳︎

 

「ただいま」

 

「あ、兄さん。おかえりなさい、遅かったね?」

 

家に着くと妹が出迎えてくれた。赤いフレームのメガネをかけているが、妹はどこかのメガネの担任とは違い癒しを感じさせる。しかし、その瞳には少しの影を宿していた。現在この家には俺と妹の二人が住んでいる。一軒家にもかかわらず二人暮らしだ。正確には三人なのだが、滅多に帰ってこないため二人暮らしと言っていいだろう。

 

「すまない。A-RISEのマネージャーをやることになったんだ。これから帰るのは遅くなると思う」

 

両親は去年他界した。交通事故だったらしい。人から聞いたので詳細は知らないが、両親が死んだ。その事実だけは知っていた。だから妹一人を家にいさせるのはとても心が痛い。でも、 つらそうな妹を見るのはもっと痛い。

 

「いいよ、兄さん。気にしないで」

 

そうは言ってくれているが、やはり寂しそうだ。妹は中学三年生。俺と一つしか変わらないとはいえ、まだ中学生だ。もっと親に甘えていたかっただろう。瞳に宿る影。俺にはその影を取り除くことはできない。

 

「気にするよ。俺は……兄だからね」

 

着替えてくるよ、そう言い残し俺は部屋へ向かった。

 

✳︎

 

妹は料理がうまい。二人で暮らすようになってから料理は1日交代で作っている。それにもかかわらず妹の方がうまいのはやはり女性だからだろう。最近は俺の作ったご飯を食べさせるのが申し訳ないくらいに実力に差ができている。

 

「今日も美味しいよ」

 

「ありがとう、最近料理が楽しいんだ」

 

本当に楽しそうに笑う妹に安心する。妹が楽しそうに笑うのは料理をする時か、幼い頃からの友人と遊んでいるときだけだ。妹は料理にはまっているようだ。それは日に日に上達している料理を見れば瞭然だ。特に白米。他の料理より輝きがあるように思う。そういえば前に「美味しい食事はご飯から!」と友人と話しているのを聞いたことがある。そのこだわりの白米を味わいながら食事を進める。しばらくすると妹が箸を止めてこちらを向いていることに気がついた。

 

「どうした?」

 

「ううん、どうしてマネージャーやろうと思ったのかなって」

 

そう言われるとパッとした理由は思い浮かばない。部活に入ろうと思ってた。家に帰るのは遅くしたかった。そういった理由はあったが、一番の理由ではない気がした。ならば何故だろう。長い間思考していたが思い浮かばなかった。だから適当に答えることにした。

 

「友達に誘われたんだよ」

 

俺がそう言うと妹はそっか、と呟いた。

 

✳︎

 

食事を終え、寝支度を済ます。4月の夜は空気が澄んでいて過ごしやすい。今日は月が明るいようだ。眩しくはないのに目を細めてしまう。俺は月から目をそらすために隣を見ることにした。隣の布団には妹がいる。俺に背中を向けて浅い呼吸をしている。寂しいから一緒の部屋で寝てと言われてから同じ部屋で寝ることにしている。俺ができることはこれくらいしかない。

 

「兄さん、もう寝てる?」

 

同じ部屋で眠るようになってから妹は毎日俺に同じ質問をする。返事はしない、返事をすると妹は俺に気を使ってしまうから。しばらく無言でいると、隣から啜り泣く音が聞こえてきた。

 

「お父さん、お母さん。寂しいよ」

 

両親が死んでから妹は毎日泣いている。こういう時なんて声をかければいいのだろう。兄として何ができるのだろう。こんな気持ちでは手を握って勇気をあげることもできない。頭を撫でて慰めることもできない。

 

泣き声から逃げ出すように俺は眠りについた。

 

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