あの後僕は彼女…鈴仙に連れられて竹林の奥へと向かって歩き出していた。
奥に着くまで少しかかるらしく、ただ歩いてるだけというのもなんなのである事を聞いてみる事にした。
「ずっと気になってたんだけどさ、鈴仙っていったい何なの?」
「何なのって?」
「その耳、本物でしょ。ってことは人間ではないでしょ」
僕がそういうと鈴仙は自分の耳に触れながら少し笑いながら答えてくれた。
「そういうことね。私は月のウサギよ」
やっぱりウサギだったんだ。しかしまた月か…。
「ねぇ鈴仙。どうして君は月ではなくこの場所にいるんだい?」
「それは…後で話すわ」
僕はその時の鈴仙の表情を見逃さなかった。彼女は少なくともいい顔をしていなかった。辛そうな、悲しそうな…そんな負の感情が混じったような表情だった。
このまま問いただすことは簡単だ。でも僕はそれをしなかった。いや違う。出来なかった。普段の僕なら気にせず聞き出すだろうが、今日この時だけはそれが出来なかった。
「わかった。後で色々教えてね」
「…ごめんね」
それっきり僕たちから会話が消えた。
☆
「…ここよ」
竹林の奥、そこに立っていたのは昔のつくりの家だった。いや、家というよりも屋敷と言った方がいいだろう。それほどに大きな建物だった。
「…もしかしてここに住んでる人って相当な権力者か何か?」
「まぁ…そうね。凄いと言えば凄いわ」
まじか…。僕はとんでもない所に連れて来られてしまったようだ。もしかして鈴仙に危害(僕はむしろ被害者)を加えたってことで打ち首とかないよね?
「…帰りたくなってきた」
「その帰る方法も踏まえて説明するために連れてきたんだから…。さぁこっちよ」
そういって鈴仙は歩き出した。
仕方ない。いざという時は全部正直に答えて難を逃れよう。むしろ僕は被害者だ。説明すれば理解してくれるだろう。…してくれるよね?
“ガサガサッ”
突然音がしたと思ったら鈴仙がいなくなっていた。何処に行ったのかとあたりを見回したが何処にもおらず、どうしようと思ったころだった。
「助けて~!」
小さくだが、鈴仙の声が聞こえた気がした。何処から聞こえたか確認するために僕は少し大きく聞いてみた。
「何処にいるんだい!」
これが聞こえていなければ探しようがない。聞こえていることを祈るしかない。すると…。
「下よ!!」
下?何のことか考えていると少し離れたところに違和感を感じた。そこにはよく見ると少し大きな穴がある。もしかしてと思い僕は近づいて中を見てみると、そこには案の定鈴仙がいて、落ちないように壁に両手をついていた。下にはよく見ると竹槍があり、落ちたら無事では済まないだろう。
「お願いユーリ!早く助けて!!」
鈴仙は涙目になりながらこちらを見上げてそう叫んでいた。僕も助けてあげたいが助けようにも手が届かない。どうしようと途方に暮れている時だった。
“グオォォォォォォォォォォォォォッ!!”
僕のカードが光りだし、ドラゴンの声が聞こえた。そうか…。
「君が助けるっていうんだね。わかったよ」
僕はそう言ってそのカードを取り出した。
「来いッ!【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!!」
カードを掲げそう叫ぶと光は強さを増して僕を包み込む。光が収まるとそこには【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】が存在していた。
「…はい?」
鈴仙はこちらを見上げながらポカンとしている。そんな中スターヴは隣に自らの尻尾を下していた。
「それに掴まって!」
「…え?あ、うん」
鈴仙はそんな風に返事して尻尾に掴まる。掴まったのを確認するとスターヴは尻尾を引き上げた。
「ありがとうスターヴ・ヴェノム」
僕がそう言って頭をなでると満足そうに一声鳴いて姿を消した。
「さて…大丈夫だった?」
「…何あれ?」
あれとは今の現象の事だろうな。うん…。
「わかんない」
「え?」
そんな不思議そうな顔をされてもわからないものはわからない。僕だってどうして出来たのかわからないしね。
「…能力かしら」
「能力?」
確かにスターヴには不思議な力があるがこのような効果は持っていないはずだが…。
「…一応言っておくけどカードの事じゃなくてあなたの能力ってことよ」
「…僕?」
「この世界…幻想郷には様々な能力を使う人や妖怪が存在するわ。たぶんあなたのもその一つよ」
何ってこった。僕は知らないうちにとんでもない力を使ったみたいだ。しかし…。
「僕はそんな力持って無い筈だよ?少なくともこの世界の人間では無いんだから」
「もしかしたらこの世界に来たときにその力を手に入れたのかもしれないわね」
この世界に来た時…と言っても僕はこの世界に来た理由やどうやって来たのかもわからない。
「とりあえずありがとう。助けてくれて」
「それはいいけど、この穴は何なの?完全に殺しに来てるけど…」
そう、この穴。流石にこれはやりすぎだと思う。下手をしたら鈴仙はあの竹槍に串刺しになっていた。
「この穴は…ここに住んでる子の一人の悪戯よ」
「悪戯?これが?」
命に関わる悪戯なんて聞いたことない。僕も確かに人の心を折ったりして楽しんでいたりしたが、命に関わるような事をした事はない。こんなのはもう悪戯じゃない。
鈴仙も鈴仙だ。どうしてこんなに落ち着いているんだ。もう少し怒ったりおびえたり…ッ!どうして僕はこんなに鈴仙の事になると怒りを覚えてしまうんだ?普段の僕なら気にも留めないはずなのに…。
「まったくあの子ったら…?ユーリ?」
「…ッ!なんでもない」
「本当に?少し怖い顔してたわよ」
「平気だよ。何でもないんだ」
僕は言葉ではそう言っているがおそらく表情はそんなことないだろう。こんな事、初めてだ。自分で自分を制御できないなんてね。僕らしくない。
僕は一回深呼吸をして落ち着きを取り戻す。大丈夫だ。いつもの冷静な僕に戻った。
「それじゃあ行こうか、鈴仙」
「え、えぇ。…本当に平気?」
「うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
僕は笑顔でそう答えた。それでも鈴仙は心配そうにこちらを見ている。
「平気だよ」
ただ一言。簡単に言えるこの言葉を言い放つ。それは簡単ではあるが、人を突き放すには十分な言葉だ。今までだってこれで他人との関わりを断って来たんだ。今回もこれでいい。きっと鈴仙もわかってくれるだろう。そう思っていた。しかし…。
「平気じゃないわ。そんな顔する人が平気なわけ無いじゃない」
鈴仙は真剣な目でこちらを見ていた。
僕は今どんな表情をしているんだ?なぜ鈴仙は食い下がらない?
フと僕は自分の顔に触れて気が付いた。あぁ…今僕、少し泣きそうな表情してる。何でだ?
「…何で僕今、こんな表情をしてるんだろう。今までだってこうやって他人を突き放して来たのに」
「…そういう事ね」
そういって鈴仙は僕をやさしく抱きしめ始めた。
「他人と関わる事を拒んで平気な人はいないわ。貴方だって心では苦しんでたのよ」
「…僕が?そんなこと…ッ!!」
僕はその言葉を否定しようとした。だが、出来なかった。何で?何で否定出来ない?僕は一人でいいんだ。今までだってそうだったじゃないかッ!どうして否定出来ないんだッ!
「ユーリ?」
鈴仙は心配そうにこちらを見た。その眼を見て、僕は完全に否定出来なくなってしまった。
僕はその場にしゃがみ込んで鈴仙に聞いた。
「じゃあ、どうすればいいんだい?僕は…どうすればいいんだい?」
「いきなりは無理かもしれない。だったら私だけでも信じて」
鈴仙の言葉は、どこか硬い意思があると思った。まるで…誰かに自分も言われたように…あぁ、そういう事か。
「君も…そうだったの?」
「…」
鈴仙は何も答えなかった。それでもよかった。僕はどうしてこの子に対して感情を制御できないのかを理解できたからだ。
この子は…鈴仙は僕に似ている。最初っから誰もを突き放す僕。心では信じる事の出来ない。だが、自ら歩み寄っていく鈴仙。まったく似ていないように見えるが、根本は同じだ。人を信じられない。この子の過去に何があったかはわからない。でもこの子も僕と同じなんだ。それなのにこの子は僕を救おうとしているんだ。
「…わかったよ」
「ユーリ?」
「…すぐは無理だよ。今まで色々あったからね。でも…」
僕はまっすぐ鈴仙を見つめる。そして一言言い放つ。
「君の事は、信じるよ」
「ユーリ!」
鈴仙は嬉しそうに笑う。まったく。僕は他人なのにどうしてこの子はこんなに嬉しそうにするんだろう。
「それじゃあ今度こそ行こうか」
「えぇ!こっちよ!」
「え、ちょッ!手を引っ張らないでッ!!」
鈴仙は嬉しそうに僕の手を引いて屋敷の中に入っていった。
ユーリ「あのさ、僕は過去に何かあるの?」
それはこれから明かされていきますよ。
ユーリ「また失踪しない?」
今度こそ!今度こそは描き切って見せます!!
ユーリ「…まぁ頑張ってね」