侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第13話 秘密を暴露して死にたくない

今日もアリィはイェーガーズの会議室へ足を運ぶ。

途中、思わぬ人物とであったので一緒にいくことになった。

Dr.スタイリッシュ。イェーガーズの中では唯一直接戦闘するタイプではないが、その技術力、開発力は帝国随一である。

彼の帝具も非常に器用になるという技術者向けの帝具、神ノ御手パーフェクター。

 

「何か考え事ですか? ドクター」

「そうねぇ。せっかくだし聞こうかしら」

 

スタイリッシュは右手をほほに当て、指でトントンと頬をたたきながら歩いていた。

おまけに視線は上の空。たいていの人間なら何かしら考え事があるのだろうと予想がつく。

ましてや、人一倍他人の心の機微に鋭いアリィならなおのこと。

 

「アリィちゃん、タツミのことどう思うかしら?」

「と、いいますと?」

「あの子、少しおかしくないかしら?」

 

鍛冶屋とは思えない身のこなし、戦闘能力。そして(彼が気絶から目覚めてから)顔合わせをして話をした際、やたら帝具について興味を持っていた。

おまけに本人は自分たちイェーガーズに対していい感情を持っていないようでもある。

 

このことから、スタイリッシュはタツミの素性に対して不審感を持っていたのだ。

 

「なるほど。確かに不自然な点があるなとは思っていました」

「でしょぉ? どうしようかしら、隊長に伝える?」

「いえ、彼に恋慕しているエスデス将軍に彼への疑念をいったところでしっかりと聞いてもらえないでしょう。それより、確かドクターは強化私兵軍団をもっていましたよね」

 

あら、と彼の口から呟きが漏れる。

その存在はあまり公にはしていない。しかし彼が改造する人間は捕らえた罪人を融通してもらったものがほとんどである。

そのやり取りについての情報を目の前の少女はつかんでいたのだろう。やはり見かけによらずすごい子ね、とスタイリッシュはアリィの評価を上げた。

 

「そのとおりよ? でもそれがどうしたのかしら」

「いつでも動かせるように準備しておくといいかと。タツミは現在エスデス将軍の監視下にあるといってもいい。その状態で逃げ出すことができればいよいよ只者ではないということです。そしてさらに、そんな人物がどこに逃げるのか? ……あなたの私兵に追いかけさせることはできるのでは?」

 

いわれてみれば確かに、スタイリッシュの強化兵の中には目・耳・鼻を特に強化させたものたちがいる。

 

「そうね、そうしてみるわ。ところでアリィちゃん。改めてお願いするけどあなたの帝具の研究させてくれないかしら? 効果も強力だし、いろんなことに応用できると思うのよねぇ」

「その件についてはお断りします。何度言われても同じですよ」

「ほんっと残念。どうやったら研究させてくれるのかしらね?」

 

スタイリッシュは笑う。

アリィも笑う。

 

 

 

 

 

会議室に入ると、真っ先に目に入ったのは椅子に縛られたタツミの姿。

誰の仕業かは言うまでもない。部屋にいたほかのみんなも目を背けているし。

 

「助けて、ください……」

「申し訳ありません、あきらめて下さい」

 

タツミの懇願もアリィはお辞儀とともに一蹴する。

無理に助けようとしても余計にエスデスがにらんでくるだけだ。心臓に悪いのでごめんこうむりたい。

 

全員が集まったところで任務が説明される。

今回はタツミはお留守番だそうだ。そしてアリィはというとタツミのお目付け役を命じられた。

縛ったままにはしておくそうで、縄を解くなよとエスデスからは強く念押しされた。

マジかよ……とタツミは辛そうだったがアリィは助けない。

 

「それでは行くぞ。アリィ、くれぐれもタツミに手を出すなよ。お前たちが一線を越えるようなことがあればただではすまさん……!」

「ご安心を。あなたの怒りを買いたくありませんし彼は私の好みでもないので」

 

そもそも恋愛自体を忌避している。

そこまでは口にしなかったが、エスデスもまぁいいだろう、と髪をひるがえして部屋から出て行った。

 

後に残されたタツミとアリィ。

二人だけの部屋に沈黙がおりる。

 

「あの、アリィさん。ホントお願いだから縄を……」

「ようやく二人になれましたね」

 

え? と言葉が途切れたタツミ。

困惑した彼ににっこりと笑顔を向けると、アリィは彼の後ろのほうへ歩いていく。

コツ、コツ、と聞こえる足音をタツミはただ聞くだけ。後ろを向こうにも縛られている以上首を回すくらいしかできない。そして人の首というものは180度回るようにはできていないもので。

 

「タツミさん」

「うはっひゃい!?」

 

ゆっくりと後ろから首に回されるアリィの両腕。

後ろから抱きつかれたような状態に、エスデスに続いてこの状況!? とタツミは顔を真っ赤にする。

思わずじたばたと動くが、やはり彼が縄から抜け出すことはできなかった。

 

「ねぇタツミさん。聞きたいことがあるんです」

「はっ、はい! なんでしょうか!!」

 

思わず敬語になるタツミ。

レオーネといいエスデスといい何度も年上に絡まれるタツミだが初心でありいつまでたっても女性に慣れない。

まして今のアリィは口元にささやくように話しかけてきた。

彼女の息が耳にかかる。思わず敬語になるのも仕方のないことで――

 

 

 

 

 

 

 

「セリューさんが、そんなに憎いですか? 仲間を殺されたから?」

 

 

 

 

 

 

 

一気に顔の熱が冷めた。

 

なんだ、この人は。何を言い出しているんだ……?

頭の処理が追いつかない。固まったタツミの耳元でアリィはささやき続ける。

 

「あなたが補欠として以前、山賊の討伐に同行したじゃないですか。初めてここに来たころです。セリューさんのほうを見てまぁずいぶんと気持ちを殺しておられたようで。心の切り替えは立派なものだと思いましたが、私は人の気持ちには敏感でして。それが悪意ならなおさら。だって」

 

私にむけた悪意なら、怖いじゃないですか。

 

心なしか、首に回された腕に力が入っているような気がしてならない。

彼女もそれに気がついたのか。一度腕を解くとゆっくりと手をタツミの両肩においた。

 

「私は怖いんです。私は、死ぬのが何よりも恐ろしい。だから私は死なないため、殺されないためにいろんな情報を集めました。帝具はもうご存知ですね? ではその中に、悪鬼纏身インクルシオという帝具があるのはご存知ですか?」

「!!?」

 

タツミの心臓が大きく跳ねる。

それは紛れもなく、尊敬する兄貴分から受け継ぎ、自分が所持する帝具の名前。

そしていまその鍵となる剣は、この部屋に置かれている。

普段タツミが背中に帯剣しているものの、邪魔だからと机に置かれたその剣。

 

「私は調べました。どんなものがきっかけで私が死ぬことになるかわかりません。まして帝具によって何度も死に掛けましたからね。そして調べた中に……サンディス家の書庫にあった古い書物の中に、インクルシオの情報がありました。鍵となる剣の図も」

 

この時点でタツミはすでに彼の剣がインクルシオの鍵だと気づかれている、そう察した。

だがとぼけたふりをする。

 

「い、いったい何を」

「しかも、これはナイトレイドのブラートがもっているということに情報では書かれていますが……なぜあなたが持っているのでしょうね? 先日ナイトレイドの一人を殺したセリューさんに仇のような憎しみをむけたのなら答えはひとつ。あなたが、ナイトレイドだからだ」

 

バレた。

この状況の打開策を必死になってタツミは考える。

このままでは拷問などもありえる。仲間に心配をかけた挙句情報をもらすなんてことはできない。

だが現在、情けないことに自分は一切身動きが取れない。

いっそ自害を、とまで思いつめたときだった。

 

「お、俺は違う……」

「安心していいですよ。今あなたをナイトレイドだと伝えるつもりはありませんから」

「え?」

 

首を回すがすでに後ろにアリィはいない。

逆から前に回っただけなのだが、タツミにはそれがひどく不気味に思えた。

 

「ですが貴方はいろんなことを知ってしまいました。イェーガーズのことも、私のことも」

 

その頬をゆっくりと両手で包み込み、顔を近づける。

 

「タツミさん、私を死なせるようなことはしませんよね? 約束してくれますよね?」

「…………」

 

沈黙で答えるタツミ。だがそれはアリィの求めた返事ではない。

仕方ないですね、と彼女はつぶやいた。

だったらもう、彼の悪意を強めるしかないか、と。

 

「約束してくださいよタツミさん」

 

彼女の目が濁る。青い目なのに、それがまるでどす黒く汚れた沼のように。

 

 

 

 

 

 

 

「私がサヨさんのようにならないように、協力してくれますよね?」

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ、タツミの思考は完全に停止した。

 

「いま、なん、て」

「私には友人がいましてね? もう死んでしまったのですが。あの日、私は一緒に友人と馬車に乗っていたんです。そしたら、お金がなくて困っているような男女二人組を見つけまして」

 

待って、待ってくれ。

それは、いったい、何の話なんだ。

 

知りたくない、聞きたくない。

どんどん蒼白になるタツミにはかまわず、アリィは話を続けていく。

 

「私の両親もまあ、彼女の両親と同じく拷問趣味がありましてね? 付き合いがあったんですよ。友人――アリアも田舎者を拷問することが楽しくて仕方ないといっておりまして。私は両親の目が怖くて付き合っていたくらいなのですが彼女は完全に虜になっていましてね。で、そんな彼女の本性を知っていた私は、見かけた二人組を指差して提案してみたんです」

 

あの二人、ご招待してみてはどうですか、と。

 

「あ、あ、あ……」

「もう気づいたときの彼女といったら本当に嬉しそうで。馬車から飛び出して二人に声をかけていましたよ。夕食には私もご一緒させてもらいましてね? その二人……イエヤスさんとサヨさんといろんな話をしましたとも。はぐれてしまった友人。タツミさんのこともお聞きしました。だから驚いたんですよ? 見かけたら助けてあげてくれと教えてもらったとおりの容貌をしたあなたが先日大会の受付に来たんですから」

 

辺境出身でしたかと聞いたらそのとおりでしたし。

目の前でにっこりと微笑むアリィ。

美少女の笑顔を間近で見ても、タツミの震えはとまらない。

いやよりいっそう、激しく……

 

「あ、そうそう」

 

何のまじりっけもない、純粋な疑問に。

 

 

 

 

 

 

 

「彼女の死体、ご覧になりました?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」

 

――タツミは、吼えた。

 

 




出すならここしかないと思いました。

アリィの一手は、あくまで一手。
種はまいた、次は芽が出るのを待ちましょう。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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