侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第27話 設立祭の日に死にたくない

「羅刹四鬼が三人やられた……? 帝具使いを倒したことがあるからとナイトレイドを侮ったか」

「ナイトレイドのアカメが潜入していることは確認済みです。まず他のメンバーもいるでしょう」

 

ランからの報告にエスデスはいよいよ来るか、と戦意をたぎらせていた。

一度はうまくやられたが次は逃すまい、と。

 

 

 

「明日……でしょうね。私は前に出ません。今回は、イェーガーズの行動に何も手を出さない、協力しない」

 

だからこそ……失敗の責は、エスデス一人が背負うことになる。

そもそも、アリィがここにいること自体間違っているのだ。

自分は軍人でも兵士でもない。ただ……

 

「いえ、どのみち戦場に出ないのは変わりません。なら、それでいいんです」

 

 

 

「おい、本気か?」

「なめんじゃ、ないわよ……うっ」

「ボスからもなんとか言ってくれ! 俺が言っても聞いちゃくれない!」

 

一方、ナイトレイドの隠れ家では騒動が起きていた。

ボリック暗殺を目前に、マインはアリィによって負った傷をかばいつつも戦場に立とうとしていたのである。その結果、それを止めようとするタツミと言い争いになっていた。

 

シェーレ、チェルシーと自分の目の前で彼女たちの遺体が消えるのを間近にした上に、自分がアリィを刺激したことでレオーネまでも死んでしまった。

彼女は必要以上なまでに、自分を責めていたのである。

そしてだからこそ、エスデスという大敵を相手にするかもしれないというのに自分一人が休むというのはどうしても納得できることではなかった。

だからこそ、無理をしてでも戦おうとする。死んでいった皆に、顔向けできないから。

 

「私だって……戦える……っ」

「マインっっ!! いい加減に」

「よかろう」

 

ナジェンダの言葉に、タツミはどうしてと食い下がる。

片腕とはいえ狙撃を得意とするマインが戦場に立つのは危険すぎる、と。

もちろんそれもナジェンダは理解している。だからこそ、本来の配置・作戦を少々変更し、タツミに説明した。

 

「……これならマインも最低限度の参加で済む。マイン、私としてもタツミの言い分には納得するものがある。ゆえにこれが最大限の譲歩だ。これ以上を求めるならさすがに私としてもお前を止めざるを得ん」

「……わかったわよ」

「では、明日に備えて二人とも休んでおけ。私は先ほどの変更を他のメンバーに伝えてくる」

 

ナジェンダが去り、部屋にはタツミとマインが残された。

二人だけの沈黙の中、先に沈黙を破ったのはタツミだった。

 

「無理、するなよ」

「……誰に言ってるのよ」

 

会話が続かない。

短い言葉のやり取りが終わり、またしても沈黙が続く。

 

「ねぇ。どうして、そんなに私が戦うことに反対したの?」

「そんなの、お前に死んでほしくないからに決まってるだろ!? ずっと一緒にいたいんだよ!」

「ふぇ!?」

 

ずっと一緒にいたい、の言葉に思わずマインの顔が赤くなる。

 

「あ、あああアンタ、まさか赤い糸とかの話信じてるんじゃないでしょうね!?」

「ち、ちげぇよ!? むしろお前こそ本気にしてるんじゃ!?」

 

少し前、キョロクの郊外にいるときに、二人で言い争いをしていると安寧道の教主が二人を仲裁に入ったの際……「お二人の間には赤い糸が見えます。だから喧嘩ではなく告白をしましょう」と特大の爆弾を落としていった。

当然、その時も二人は顔を真っ赤にして否定したのだが……

 

「……はは」

 

一通り言い合ったあと、憑き物がおちたようにタツミが笑い声を漏らした。

 

「なんか、こうやって言い合ってるとほっとする。……悪かったよ。お前の気持ち、考えきれてなかった」

「タツミ……」

「だから、必ず生きて帰れよ。いざとなったら助けに行くからさ」

「ギリギリで助けられても遅いんだからね。……ま、そうならないよう全力を尽くすわ」

 

近づくは、安寧道の設立祭。

ボリック暗殺をめぐる攻防が、いよいよ始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

潜伏中に作られていた地下通路を通って、ナジェンダとスサノオ、ラバックとインクルシオを着たタツミが大神殿の側へと侵攻する。

そして正面から攻撃をしかける。

 

「思いっきり暴れて構わん! そのまま突破するぞ!」

「了解!」

 

攻撃に伴い建物は揺れ、爆音が響くと悲鳴もあがる。

当然、その騒乱は建物内部にも伝わっていた。

暗殺の標的であるボリックはそれまでの余裕はなく、狼狽した様子でエスデスの足に縋り付いてきた。

 

「い、イェーガーズは何をしている……! 私を守れ、それが大臣の命令だぁあ!?」

「黙れ。ナイトレイドを甘く見たからだ。命令だからな、守ってやるさ……だからこの部屋から一歩も動くな」

 

エスデスは縋ってくるボリックを足蹴にしていまいましそうに答える。

さんざん大物ぶっても本質は大臣のおこぼれにあずかる小物。それがわかるからこそエスデスはボリックに対してぞんざいな扱いをしているのだが、命令なのでこんな彼でも守らなくてはならない。

 

(だが、やつらは必ずここに来る。来るしかないのだからな、ボリックの暗殺には)

「ボリック様ー!」

 

教団の人間らしき男が駆け寄ると何やらボリックに耳打ちする。

神妙な顔をしながらうなずいたボリックに一礼すると、男は出ていく。

 

「どうかしたか?」

「賊が近づいていることや、対策についての連絡だ……万が一に対してな」

「フン、私がいるんだ。万が一など気にする必要はない」

 

エスデスはボリックから視線を外すと、腕を組んで扉を見据える。

もちろん、正面から来るのが確実というわけでもないが……どのみち標的はここにいる。

外や内部にはウェイブたちイェーガーズを配置している。

彼女はただ、待てばいいのだ。

 

「さぁ来いナジェンダ。お前たちを蹂躙してやる……」

 

 

 

「来たな、ナイトレイド」

 

タツミたちの前に立ちふさがったのはウェイブ。

帝具の鍵となる剣を肩に担いだまま、彼は近づいてくる敵を見据えていた。

 

「前回同様吹き飛ばして構わん、スサノオ!」

「同じ手をくらうかよ! 来いよ、殺し屋ども」

 

地面に剣を突き立て、叫ぶ。

 

「グランシャリオォォォォォォ!!」

 

ウェイブの帝具はインクルシオをプロトタイプとして作られた鎧の帝具、修羅化身グランシャリオ。

タイラントが素材に使われているわけではないためインクルシオのような対応力、爆発力はないがその分安定性を誇るのがグランシャリオの特徴だ。

 

「おおおお!」

「ナジェンダさんに手出しはさせねぇ! 他の皆は先に行け!」

 

前に出たラバックがクローステイルにより彼を縛ろうとする。

さらに彼をラバックが足止めしたことにより、他の三人を突入させることをラバックは狙った。

だが、グランシャリオが増加させるのは何も防御力だけではない。

縛られたウェイブは体に力を入れる。

 

「な、めるなぁぁ!」

 

力づくで糸を引きちぎったウェイブは中に入ろうとするナイトレイドを止めようとする。

だが、その攻撃はインクルシオを着たタツミによって止められた。

タツミはその正体を悟られないよう口を開くことはなかったが、かつてフェイクマウンテンで一緒に戦ったウェイブに対し複雑な心境だった。

 

「くっ、こいつ!」

 

対してウェイブから見れば、かつて取り逃がした敵でしかない。

あの時は追い詰めたと思ったもののいつのまにか姿が消え、取り逃がしてしまった。

そして今も、自分の攻撃を止められた。さらにラバックも後ろから攻撃しようとしている。

歯噛みするも、瞬時に思考を切り替える。こともあろうに、その勢いのままタツミを足場にして一気に逆方向へと跳躍する。

 

「なに!?」

 

その先にはラバック。

タツミたちを追いかけようにも邪魔されるくらいなら、先にこちらを仕留めようと考えたのだ。

しかも、グランシャリオを用いての戦闘において、ウェイブの蹴り技は極めて強力である。

糸を体に巻いていても、大きくダメージが通るほどに。

 

「がふっ……」

 

血を吐いて倒れるラバック。

なんとか起き上がるも、先ほどまでとは明らかに動きが落ちている。

だが、その目からは決して敗色が見えていなかった。

 

(な!?)

 

不審さを感じてはいたが、ラバックとの攻防の中急に動けなくなったことによりラバックの真意を悟る。

彼はまたしても、糸で自分の体を縛っていたのだ。

だが、先ほどは力づくで引きちぎることはできたのだ。無駄なことを……と考えたのだが。

 

「切れない!?」

「界断糸……今ままでの糸とは、段違いの強さの糸だ。お前でも切れないだろ?」

 

界断糸は近くの木に厳重に巻き付けてあり、ちょっとやそっとでは切ることどころか脱出は不可能であろう。

ウェイブが拘束されて動けなくなったのを見届けて、ラバックは目を閉じる。

ラバックのダメージは大きかったようで、勝ち誇った顔をした後力尽きて倒れた。

 

「くそっ……」

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおっ!!」

「ナタラ! ドーヤ!」

 

突入したスサノオが声をあげるとともに、クロメの死体人形が吹き飛ばされる。

ならば自分が、と刀を構えるが……

 

『今回の護衛任務、イェーガーズには失敗してもらいます』

(アリィさんは、この任務の成功を、望んでいない……)

 

その事実が、彼女の剣筋を鈍らせる。

意思のこもっていない刀では、ナイトレイドを退けることはできない。

二、三度打ち合っただけで、自覚できるほどにうまく戦うことができていなかった。

だが……それでも。

 

この強行部隊に混ざっていておかしくないはずの人間が。

今までずっと殺したいと思っていた最愛の人間がいないことには、とうに気付いていた。

それが違和感となって、クロメの頭の中を回り続ける。

 

「お姉ちゃんは……どこ?」

 

 

 

 

 

マインは一人、傷の痛みに顔をしかめながらも隠れて建物に近づいていた。

もちろん、自分がいつも通りに戦えないというのは痛いほど自覚している。

だからこそ、一人隠れて行動していたのだ。

 

(でも、ボスの計画なら……いつもほどの正確な狙撃は必要ない)

 

パンプキンの本領を発揮することはできないが……それでも、有効なのは変わらない。

自分の仕事を果たし、頃合いを見計らってすぐに逃げる。

何度も自分のすべきことを心の中で反復し……瞬間、僅かな異臭を感じとっさに後退する。

 

目の前に放たれたのは、炎。

 

「私の帝具は、建物の中じゃとても使えないから外にいたのだけれど……ナイトレイド。やっぱり正面からだけじゃなかったんだね」

 

火炎放射器の帝具、煉獄招致ルビカンテを背負い、ゆっくりとマインの方へ歩く大柄な男。

彼は、マインがロマリー付近でアリィに傷を負わされていることも知っている。

傷がまだ、治りきっていないであろうこともわかっている。

だが、それでも。男はためらわないと決めたのだ。

 

「怪我をした女の子と戦いたくはないけど……これも、お仕事だから」

「元・焼却部隊のボルス……。アンタは、革命軍の中でも標的なのよ」

 

かつて、焼却部隊によって革命軍に協力していた村が村ごと焼かれるという事件があった。

そのため、当時隊長であったボルスは標的の一人として数えられているのだ。

マインのパンプキンと、ボルスのルビカンテ。

互いの発射口を向けあって対峙する。

 

「悪いけど、アタシは生きて戻るって約束したの。ここでやられるつもりなんて毛頭ないんだから」

「……そう。でも、私もだよ。私は生きて帰らなくてはならない。生きて、守らなければならない」

 

もう、報いを受けても仕方ないだなんて思わない。自分がしてきたことは確かに恨まれるようなことであっても、それによって守られたものがあると信じている。

そして何より、愛する家族が、自分のことを待っている。

そのためなら。あの温かい場所に帰るためなら。

 

「私は、全てを燃やし尽くす。私は、死ぬわけにはいかない……!」

 




皆さまの温かい言葉、ありがとうございました。
今後もアリィを、よろしくお願いします。

早ければ次回でキョロク編は完結。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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