侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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前話やその前の話から湧き出る熱いアリラバルート推し。
本編終了後のアリィ番外編にその話を書いてみるのもいいかと割と思いつつあります。

だが今回は皇帝のターン。


第41話 笑顔になれずに死にたくない

ナイトレイド・タツミの公開処刑……

帝都に潜伏する革命軍の密偵から知らされたこの情報に当然ナイトレイドのメンバーも大きく衝撃を受けた。

ラバックが死亡したということもショックが大きい。

特にナジェンダはラバックと一番付き合いが長い。おまけに彼が胸に秘めた想いを知っていたからこそ、彼の死はナジェンダにとって衝撃的なものだった。

 

そして一方で、タツミの処刑が迫っていると聞いて居ても立っても居られない人物がいた。

それはマイン。

タツミの仲間であり、そして恋人でもある少女だ。

 

「……止めないで。アタシは行くわよ。」

 

助け出さなければ。

そう思って帝具パンプキンを担いで拠点から飛び出し、タツミの元へと向かおうとしていた少女は足を止める。

彼女が走る先に人影がいることに気が付いたからだ。

 

「これは罠だ」

「言われなくてもわかってるわよ。それでも……タツミを見殺しになんてできるわけないでしょ!」

 

マインが吠える声に人影……アカメは穏やかな笑みを浮かべる。

まさかそんなことを言うなんて、と。

 

「変わったな、マイン。以前はむしろお前が私を止めたのに」

 

うっ、とマインが顔をしかめる。

 

それはタツミが帝都で行われた武芸大会で、エスデスに見初められ即拉致されたときのことだ。

あの時はリーダーであるナジェンダが不在であったため、リーダー代理としてアカメがタツミを助けるか否か判断を迫られたのだが……その時、議論の中でマインはアカメに反対意見を述べたのだ。

「助けに行くなんて馬鹿なこと言わないでよね」、と。

 

ところが今の状況はどうだ。

助けに行こうと今にも飛び出しそうなマインをアカメが押しとどめている。

前回とは立場が逆転しているどころか、マインがより感情的に動こうとしている。

 

それだけタツミへの気持ちに……そしてマイン自身に、変化があったということなのだろう。

だからアカメは頬を緩めて彼女の前に立つ。その変化がわかるからこそ。

 

「私も行く」

「なっ」

 

今度はマインが表情を変える番だった。

自分を止めに来たのかと思ったらついてくると言い出したのだ。

今の時期に罠と分かっている処刑場に飛び込もうとするのはあまりに無謀。それはマインだってよくわかっている。

しかし、だからと言って諦めるなんてできない。だからこそマインはナイトレイドを脱退する覚悟で向かおうとしていたのだ。ナイトレイド、そして革命軍に迷惑をかけないために。

だがこともあろうにアカメまでもがついてくるという。

 

「な、何言ってるのよアンタ! アンタまで付き合う必要はないのよ、バカなの!?」

「バカはお前だ!」

「っ!?」

 

先ほどのほほえましい表情から一転、厳しい顔をしてアカメが放った言葉に今度こそマインは黙り込んだ。

罠が張り巡らされているとわかっている場所に一人で向かおうとするのは、確かにバカとしか言いようがない。

もっとも、アカメが言いたいのはそれだけではなかった。

 

「一人で行くよりも二人、二人よりも三人……仲間がいれば、生存の可能性も作戦成功の可能性も大きく上がる。違うか?」

「それは……」

「というわけだ、ボス、スーさん」

「うえっっ!?」

 

アカメが背後に声をかけると、さらに二人の人物が現れる。

自分の考えが仲間全員にバレバレだったことから、羞恥で顔が赤く染まるマイン。

マインが残した置手紙をぶら下げながら、スサノオとナジェンダは笑う。

 

「やはりここを通ったか。俺の推測が当たっていたな」

「”ナイトレイドを脱退します、ごめんなさい”……か。まったく、今お前に抜けられても困るんだがな」

 

どこか寂しそうな目でそう言うナジェンダ。

どんどん仲間が死ぬことで減っていき、新たにラバックも死んでいなくなった。

そしてさらにマインがいなくなり、死地へ向かうとなると見逃せなかったのだろう。

だがそんなことを彼女は口にしない。

 

「それに、この公開処刑が革命軍の士気を落とすための見せしめであれば、我々はこれを止めなくてはならない。さらに言えば、タツミのインクルシオは最終決戦において必要となる。したがって、公開処刑を止める理由は十分ある」

「……みんなして甘いんだから」

「「「今のマインに言われたくない」」」

「ぐむっ」

 

真っ赤になって怒るマイン、そして笑う皆。

ひとしきり笑った後で、ナジェンダが凛として全員に告げる。

 

「ナイトレイド緊急ミッションだ。タツミを救出するぞ!」

 

彼女の言葉に三人の同志たちは、力強く答えた。

 

 

 

 

 

帝都・宮殿内……

そこでは、決定したタツミの処刑に対し苛立ちを募らせるウェイブの姿があった。

いや、厳密にいえばエスデスが自ら処刑を行う、ということについてだ。

 

「隊長はタツミのことが好きなんだろ!? どうして自分で殺そうだなんて……」

「私にもわかりませんが……自分の手で決着をつけたい、ということでしょうね」

 

お茶をいれながらアリィが答えるが、ウェイブには理解できない。愛する者を、自らの手で殺そうとするその気持ちが。

一方でクロメは、同じくアリィに淹れてもらったお茶を口にしながら、エスデスの意見を肯定する。彼女には、エスデスの気持ちがわかるから。

 

「私にはわかるよ……誰かに殺されるなら、自分の手で殺したいもん。私も自分の手でお姉ちゃんを殺したい…‥」

「だからって……」

 

俺には理解できない、と繰り返しながら乱暴に椅子へ座った。

ウェイブは話題を変えるように、指揮官であるアリィに公開処刑時の警備について聞く。

だが、アリィから返ってきた答えは「イェーガーズはエスデス以外宮殿警備」という驚きの答えだった。

 

「ど、どうしてですか!? タツミの公開処刑ならナイトレイドがきてもおかしくないんじゃ」

「えぇ、確かにそうです。私としても本音を言えばもっと戦力を処刑場に集めたいんですが…‥」

 

苦々しく告げるアリィ。

アリィとてナイトレイドがタツミ奪還のためおそらく戦力を集中させて襲撃してくると踏んでいる。そのためイェーガーズの二人も配置したかったのだがエスデスと同じく処刑を担当することになっているブドーからストップがかかっていた。

 

彼としては宮殿がこの隙に襲撃される可能性もあるとして、戦力を処刑場に集中させることに否を唱えていた。

前回、タツミとラバックを捕らえた時に彼が戦力を闘技場に集結させることを良しとしたのは、革命軍に潜入していたメイリーより事前にナイトレイドによる宮殿への潜入、その目的、潜入する人間、日時などの情報が得られていたからである。

今回はタツミの公開処刑に際しナイトレイドが襲撃してくる”かもしれない”という曖昧な状態のため、いかに可能性が高くとも処刑場にナイトレイドの戦力が集まるとは限らず、宮殿の警備が薄くなることを良しとしなかったのである。

 

「そうですか……」

「なのでウェイブさん、クロメさん。宮殿はお任せしますね。私は陛下につかなくてはならないので、おそらくまずは一度処刑場に行ってからこちらに戻る流れになると思います」

 

皇帝は一度処刑の前に演説を行うことになっている。

しかしオネストによって演説の後すぐ宮廷に戻ること、とされたため、長くはとどまらず宮殿に戻る予定である。

アリィもこれに随伴するため、一度処刑場に行かなくてはならない。だからこそナイトレイドが来るであろう処刑場の警備を充実させたかったのである。

 

とはいえ、襲撃の確固たる情報があるわけでもなくブドーの言葉にも一理ある。

よってこれ以上強くは言えなかった。

どのみちブドーとエスデスという二大戦力は処刑場にいるのだ、それでよしとするべきであろう。

 

「それでは一度私は失礼します……あ、ウェイブさん」

「ん、どうした?」

「今からこの書類をブドー大将軍に渡してきてもらえませんか? 私は皇帝陛下の元に行かなくてはならないので」

 

わかった、とウェイブは書類を受け取ると部屋から出ていく。

ウェイブがいなくなり、二人きりになるとアリィは念のため他に聞こえないよう、声を落として質問した。

 

「……先日確認したことですが。クロメさん、あなたは”継続”でいいのですね…‥?」

「……うん。でも、ウェイブにはあまり言わないでね、このこと……」

「えぇ。あなたがそう希望するなら、このままにしておきます……」

 

残念そうな顔をするアリィに、クロメは不安げな声を出す。

 

「アリィさん。アリィさんには邪魔かな…‥?」

「そんなことはありません。ただ……思うところがあるのも確かですが、あなたの意見を尊重します」

 

アリィは恐る恐るクロメの頭をなでる。

撫でられたことに笑顔を浮かべたクロメを見ながら、彼女は部屋を出て行った。

 

「…………」

 

部屋から出るとその手をしばらく眺め、アリィは皇帝が待つ部屋へと歩いて行った。

彼女が見たものから、目をそらすように急ぎながら。

 

 

 

 

 

皇帝のもとに着いたアリィは、皇帝の執務を手伝ったり彼に飲み物を用意したりと侍女として働いていた。

その様子を眺めながら、羽ペンを走らせていた皇帝は少し考え込んだ様子を見せるとペンを置く。

 

「なぁ、アリィよ」

「はい、どうかなさいましたか?」

 

皇帝の前で姿勢を正すアリィに、皇帝はわずかに悩んだそぶりを見せる。

だが、意を決したようにアリィへと問いかけた。

 

「何か、あったのか?」

「え?」

 

アリィは驚いた声をあげる。

心当たりはある。ラバックとの会話だ。あれによってアリィの感情は大きく揺さぶられた。

だが、そのことは押し隠していつも通りに仕事をしていたはずであり、ミスもしていない。

なのになぜわかったというのか。

 

「いつもよりも、アリィが沈んだ顔をしていると思ったのだ。だから何かあったのではないかと思ってな……」

「あ……」

 

意識したつもりはなかったが、自分の顔に出てしまっていたとは。

もしかしたら先ほどウェイブ達と一緒にいたときにもそうだったのかもしれない。

うかつだったと頭を抱えたくなるアリィに、なおも皇帝は心配そうな目を向けてくる。

 

「陛下は」

「ん?」

 

だから、つい、ぼかしてでも話をしてしまった。

 

「陛下は、もし自分が違う親の元に生まれていたら、と考えたことはありますか?」

 

ラバックに指摘されたこと。

もしかしたらあったかもしれない、普通の少女として暮らす穏やかな日々。

いや、今の時代ではそれも難しかったかもしれないが……それでも、今の恐怖に狂った自分とは違った自分でいられたかもしれない。それがどうしても心の棘となってしまっていた。

そして、皇帝の答えは……

 

「ある。だが、それは気にしても仕方ないことだと、余は思うのだ」

「そう、なのですか?」

 

皇帝は始皇帝の血を引くものとして、前皇帝の息子として生まれた。

生まれながらにして皇帝となるであろう宿命が彼にはあり、今まさに動乱の時代を皇帝として奮闘している。

幼いなりにそれが重荷になっているのではとも思ったが、彼は彼で自分なりに考えていたという。

 

「確かに余は皇帝としての日々に重荷を感じたことはある。だが、父上と母上の息子として生まれたことを余は誇りに思っているし、そうでなければよかったと残念に思ったことは一度としてない」

 

その目には、幼いながらも確かに、両親への誇りと尊敬が宿っていた。

幼くても、傀儡であっても。紛れもなく彼は皇帝である。その時、アリィはそう思わずにはいられなかった。

 

「何より、生まれというものは今さらどうこうできるものでもない。過去は変えられない。ならば、今あるものを背負ってでも、未来へ歩いてくことが大事だと余は思っている」

「……その、通りですね」

 

気は晴れたか? と言う皇帝に、アリィは笑ってはいと答える。

良かったと笑顔で執務に戻る皇帝に、アリィは今までにない、穏やかな視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはタツミの公開処刑前日の、安らかな一幕。

 

 

革命を前に、アリィが笑顔を浮かべることができたのは、この日が最後であった。

 

 

 




ついに、原作は完結しましたね。
最終巻を今日買うことができました。

読んだ結果、最終章のアリィ〇〇編のプロットを書き換えています。
オネストの結末とかもう入れるしかないじゃないですか。
タツミ、マイン、アカメ、ウェイブ、クロメ。
それぞれの結末を読めていろいろと思うこともあります。

欲を言えばもう少し役小角の詳細が知りたかった……。
ですが、最終巻を読めて大まかにアリィの物語の終着点は見えた気がします。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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