侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第43話 平穏のためにも死にたくない

タツミ・ラバックが捕獲される前のこと――

 

アリィは、各地で情報収集をしている隠密部隊からの定期報告を受けていた。

報告しているのは強化部隊のリーダーであり現在アリィより帝具・シャンバラを与えられているカイリである。

 

「そうですか……やはり、各地で反乱の兆しがありましたか」

「はい。おそらく革命軍は本隊がシスイカンを突破後、別ルートにて進攻を進めている別軍隊と合流、さらに各地で寝返るように説得した有力者の軍にて帝都を包囲するのではないかと」

 

ブドー率いる近衛兵が守るシスイカンを破ろうとしているのは確かに革命軍の本隊ではあるが、それが革命軍の全てではない。

革命軍が一か所に固まっているわけもなく、本部からの本隊、そして各地に作っていた支部もまた帝都へ進軍し、最終的に合流して帝都を攻めるつもりなのだと考えられる。

 

カイリの言葉にアリィは同意すると、手元のリストに視線を落とした。

これは現在戦力を集めている有力者のリストであり、戦力の規模だけでなくさらに反旗を翻す可能性があるかどうかやそれぞれが進攻してくるであろうルートについてまとめられていた。

 

「そう……ですか。そういえば、メイリーから例の件については?」

「はっ。今のところ予定に変更はないようで、お伝えした通りの日程・規模でナイトレイドが宮殿内に潜入、レジスタンスと接触を行うようです」

 

ナイトレイドが宮殿に侵入する……その機会に、アリィは彼らを捕らえることを考えた。

得た情報を元にブドー大将軍と交渉し、彼らをシャンバラで闘技場に送ったうえで戦力を配置し、確保する計画はすでに立案済みである。

 

しかし、足りない。

 

もちろんナイトレイドを捕らえた後は、情報を引き出すため拷問を行ったうえで処刑されるだろう。

特にオネストのことだ、革命軍の士気をそぐためにも大々的に公開処刑を行うだろう。

しかし…‥‥それだけでは不十分だと、アリィは考えていた。

 

公開処刑を行おうものなら、必ずとは言えないがナイトレイドが仲間の奪還を行おうとする可能性は極めて高い。

もとより、そこで一網打尽にできればいいが、一方で革命軍の兵は残っている。それも、何万という数が。

まして万が一公開処刑が失敗に終わり、幸運にも得た情報から周到に用意を重ねて捕縛作戦を実行するというのにその仲間を奪還でもされようものなら……士気が下がるどころの話ではない。

革命軍の士気を削ぐにはもっと、決定的な、何かが必要ではないのか……?

 

「…‥アリィさん?」

「……あぁ、失礼しました」

 

ナイトレイドを殺すだけでも……足りないのか。

確かにナイトレイドは帝具使いの実力者集団であり、革命軍の大きな戦力であることは間違いない。

だが、迫りくる革命軍の中にも帝具使いはまだまだいるはずだ。それを考えるとどうしてもナイトレイド討伐だけでは足りない、そう思わざるを得ない。

そのため、アリィの手には本人も意識せぬうちに力が入っており、視線も鋭くなっていた。

 

(これだけでは、革命軍は……止まらない。私はただ…‥ただ、平穏に生きていきたいだけなのに、どうしてっ…‥!)

 

ギリッ、とアリィは歯ぎしりをする。

アリィは革命を認めていない。革命軍が掲げる「打倒帝国」の信念は……間違いなく、アリィから全てを奪う。

アリィにとってそれは認めるわけにはいかない。認められるわけがない。

今の生活だけでなく、命まで(・・・)奪われる可能性があるのだから。

たとえ可能性であろうと、アリィにとって革命を憎む理由としては十分すぎる。

 

考えた挙句に、アリィは顔をあげ、考え込むうちに目元に当てていた手を離す。

手の陰から現れたその冷酷な目つきに、暗殺部隊として活動し、裏の世界を見てきたカイリでさえ、背筋が凍るような思いがせずにはいられなかった。

 

「カイリ。次回から、報告担当は別の者に変わりなさい。あなたには別の任務をしてもらいます」

「了解しました!」

「ここからは……時間との勝負になります」

 

捕らぬ狸の皮算用ではある。そもそも、まだナイトレイドを捕らえていない。

だが、メイリーがつかんだ確かな情報を元にしているし、何より今回の捕縛作戦に投入できる戦力はトップクラスのエスデスとブドーをはじめとして大きなものだ。

 

アリィは……ナイトレイドを捕らえる前から、その後のことまで考えて、布石を打っていた。

――全ては、彼女の平和な未来のために。

 

 

 

 

 

「エスデス……アンタを、撃ち抜くっ!」

 

公開処刑が開かれていた闘技場は、ガレキが飛び散る戦場と化していた。

二大戦力がいる場に一人飛び込んだマインは、自らを追い込んだがために彼女の帝具・パンプキンの火力を大幅に引き上げることに成功していた。

 

「すさまじい火力だ……お前を追い込めば、もっと上がるのか?」

 

その火力はエスデスですら、氷で受け止めようなどと考えず回避を選択させるほどのもの。

さらにエスデスが指を鳴らし生み出した巨大な氷塊でさえ、一撃で打ち砕いてみせた。

マインに対するエスデスの評価は、視線の先を確認したことでさらに上がる。

 

「……しかも。私を外しても、タツミの拘束を解いたか……なかなかやるな」

「アタシは射撃の天才なのよ」

 

自由になったタツミはプスプスと煙をあげる服を見て、僅かにかすっている……だが、体には当たっていないことを確認する。

助かったぜマイン、と笑みを浮かべながら伝えた彼は自分同様固定されていたインクルシオの鍵である剣へと手を伸ばす。

だが……柄をつかんだとたん、手に入る痛みに反射的に手をひっこめた。

 

「くっ…‥」

 

よく見ると、柄にイバラのようなものが巻き付いている。

この棘が自分の手に刺さったらしいと判断し、イバラを外して剣を握る。

剣を構えたタツミだったが……エスデスは手を止め、しっかりとタツミを見つめた。

 

「変身しろ、タツミ。もう今更隠すものでもないだろう……私は全力のお前と戦いたい」

 

本来なら相手がわざわざ鎧を、それも帝具を纏うのを待つ理由などありはしない。

だが、エスデスに限っては違う。彼女はタツミの全力を受け止め、そのうえで応えようという意思があった。

強い者と戦いたいというエスデスの戦闘狂の結果でもあるし、タツミを愛するからこそでもある。

 

「その上でもし、お前が生きていたら……それはもう運命だ!」

 

もともとは仮死状態にしてタツミを連れ去る予定だったが、こちらの方が何倍も面白いとエスデスは笑う。

だからこそ、早く鎧をつけかかってこいと高揚していた。

 

そして、タツミもまた、それに応える。

剣を地面に突き刺すと、大きな声で叫ぶ。

その声に、万感の思いを込めながら。

 

「インクルシオォォォォォォオオオオオオオ!!」

 

出現する鎧。

しかし、鎧はすぐにタツミの体を包み込むことはない。

 

(インクルシオ……お前の体はまだ生きてるんだろ? どれだけ苦しくてもいい。痛くても構わない。限界まで力を引き上げてくれ……)

 

タツミがインクルシオに込める思いが。

この戦いに勝たねばならないという熱い意思が。

 

(俺はラバックが死んだとき、何もできなかった……! この上、マインまで失うわけにはいかねぇ!)

 

大切な人を失うわけにはいかないという心が。

進化する鎧・インクルシオを新たなステージへと引き上げ始める。

素材であるタイラントの……竜の筋肉が脈動し、新たな形態をもってしてタツミの体へと合わさっていく。

その力の脈動に、エスデスとマインは思わず戦いの手を止めて見入ってしまっていた。

 

(帝国に……不条理に打ち勝つ力を! 俺に!! 寄越せ!!!)

 

「が、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

その余りの力に、たまらずタツミは大声をあげる。さながら、竜の咆哮のように。

やがて煙が晴れると、そこには進化したインクルシオを装着したタツミの姿があった。

より雄々しく、刺々しく……そして竜に近づいた形態。

 

「進化か…‥むっ!」

 

新たに上空に現れる危険種。そこにはアカメ、スサノオ、そしてナジェンダの姿がある。

そちらに意識を向け、氷を放とうとしたがそれは突然の襲撃に破られる。

 

突進してきたタツミの槍による攻撃。

先日捕縛作戦の際に戦った時とは段違いのスピードと力で猛攻を仕掛けるタツミに、エスデスはついに声をあげて笑いながら剣で防いでいく。

もはや目にもとまらぬ剣戟を繰り返していく中、マインの周りにアカメたちが空から降りる。

 

「ははっ、はははははは! いいぞタツミ! お前と今、初めて心から語り合えている!!」

「そう、かよっ!」

 

タツミに加勢しようとするアカメだったが、飛び出そうとしたとたん彼女の目の前を電撃が駆け抜ける。

振り返ると、壁の穴からゆっくりと姿を現してくる男の影がそこにあった。

エスデスの攻撃が激しかっただけに忘れそうにもなったが……ここにいるのは、一人だけではないのだ。

 

「うそ……あれをくらってまだ平気なの?」

「貴様ら……よくもここまで荒らしてくれたな」

 

エスデスと並ぶ、帝国二大戦力の一人。

大将軍・ブドーが戦線へと復帰した。

エスデスとの剣戟を無理やり終わらせ、タツミも一度後ろに下がる。

 

「ブドー!」

「アカメ。そして、ナジェンダ、貴様も来たか」

「…‥‥」

 

ナイトレイドの全戦力もまた、ここに集結した。

帝国を崩さんと立ち上がった彼らを前に、国を守らんとするブドーもまた、戦意をまき散らしながら彼らへとゆっくり進んでいく。

 

「ナイトレイド……何が何でも、お前たちをここで処刑する」

 

ブドーとエスデス。二人の怪物を前に、ナイトレイドの面々は顔をこわばらせながらそれぞれの武器を構える。

ここからが、本当の勝負。

 

 

 

 

 

 

 

だが。忘れてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

「部隊の出撃準備は」

「も、もう間もなく」

「急がせなさい! なんのための少数編成ですか!」

 

怪物は、彼ら二人だけではない。

 

「彼は戻ってきていますね?」

「は! ”マーキング”も完了済みとのことです!」

 

たとえ戦場にいなくとも。

 

「大変お待たせしました! 全員、出撃用意完了しました!」

「では、始めましょうか」

 

 

 

――彼女の存在を、忘れてはならない。




帝都動乱編が終わった後、アカメとクロメの激突。
ここまでがアリィ慟哭編となる予定です。

それが終わってから、最後の決戦となる最終章、アリィ〇〇編へと続きます。

少し気が早いですが、最終章のテーマソングは「戦線のリアリズム」ですね。
幼女戦記のED・挿入歌ですが雰囲気と言いすごくイメージに合うんですよね。

もしアリィがアニメなら
OPが「DEAD OR LIE」(ダンガンロンパ3未来編OP)
EDが「戦線のリアリズム」ですかね

よければ一度、聴いてみてください。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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