侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第57話 余裕を奪われ死にたくない

革命軍へと攻撃が放たれる様子を、アリィを穏やかな表情で見つめていた。

 

「これで……終わる……」

 

革命軍さえいなくなれば、きっと今のような争いばかりの時代は終わる。

当然オネストやエスデスがいれば、平穏が来るとは言えないのかもしれないが……少なくとも、自分が危機を覚えるような事態は大半がなくなるだろう。

思い返せば、彼女が恐怖を覚えたのはザンクやワイルドハントという例外もあるが、大半が革命軍関係のできごとだ。

 

もはや詰みだと、アリィは考えている。

さらに今、彼女が敵を押しとどめていた北門には新たな戦力が到着しており、実質彼女は何も気にすることなく、戦いの終わりを夢見ていた。

 

一方、宮殿では。

 

「将軍が兵士を率いて国の命運をかけぶつかり合う……そのような戦争は、もう古いのですよ」

 

宮殿のテラスにて、悠々と椅子に座って肉をむさぼる男……オネスト。

彼は、安全なところから撃つ指示を出すだけ。シコウテイザーの火力により次々と吹き飛ばされていくその光景を、震えながら双眼鏡で見つめていた。

 

「反乱軍吹っ飛びすぎぃぃ! わ、笑わせに来るなんてずるいですよぉ!」

 

安全地帯でゲラゲラと嗤う。

その顔はまさに醜悪という言葉がふさわしいほどに歪んでいた。人が次々に吹き飛ばされ、死んでいく光景を笑ってみているうえに食事までしているのだから。

しかし、そんな彼は気づけなかった。

 

大きな痛手を受けた革命軍の中で……燃えるような怒りと闘志を秘めた少年が、シコウテイザーを見つめていることに。

 

 

 

 

 

シコウテイザーの登場により、革命軍の間には大きなどよめき、そして絶望がただよっていた。

あまりにも巨大なその姿。

同胞たちを一瞬で吹き飛ばしてしまったその火力。

 

「あんなのと……どう戦えって言うんだよ……」

 

故の、絶望。

これまで彼らは、自分たちの手で戦い、新たな国を作ろうとしていた。

しかし……戦うことのできない相手を前に、彼らの心は折れかかっていた。

そんな彼らに追い打ちをかけるかのように、シコウテイザーの肩からいくつもの光弾が放たれ、天より革命軍へと降り注いでいく。

 

だが、誰もが諦めてしまったわけではない。

 

「万物両断!」

 

女性幹部の一人が手にしたハサミ型の帝具で光弾を切り裂き、味方を守る。彼女が手にする帝具、万物両断エクスタスはかつてナイトレイドに所属していたシェーレが使っていた帝具。すべてを両断できるというその帝具は、光弾すらも切り裂いて見せた。

さらに、別の革命軍の男があらかじめ用意していた大量の水を操り、巨大な壁を作り出すことで光弾を防いでいく。彼が使用した液体を操る帝具は水龍憑依ブラックマリン。こちらはかつてエスデスの部下であった三獣士の一人、リヴァが使っていたものだ。

 

シコウテイザーによる攻撃を帝具使いたちが必死で防いでいる中、ナジェンダは指示を出しつつ軍の士気を上げて回る。

 

「戦場各地にいる帝具使いは引き続き兵士たちを守るよう伝達しろ! ここで総崩れになってしまっては終わるぞ! 踏ん張るんだ皆!」

 

とはいえ、ナジェンダ自身内心では驚愕と焦りがあった。

帝国の切り札として出てきたシコウテイザーはナジェンダの想定をはるかに超えていた。

エスデスをはじめ、帝国軍が急に撤退したのもこれで納得がいった。もし彼らがそのまま革命軍と戦っていれば、当然巻き込まれて大きな被害が出ていただろう。

 

しかし、ナジェンダは、仲間である少年が姿を消していることに気が付く。

何も彼女に告げてはいなかったが、彼女はどこへ向かったのか、何をしに行ったのかを察した。

仲間として共に過ごした彼だからこそ、ナジェンダはそうであろうという確信が持てた。

まるで彼女の不安を払拭するかのように、タツミはあの巨大兵器の許へ向かったのだと。

 

 

 

 

 

建物の屋根を駆けているタツミは、これまでのことを振り返っていた。

 

帝都へ来たのは、貧しい故郷へ仕送りをするためだ。

イエヤス、サヨという仲間と共に期待を胸に故郷を旅立ち、帝都へと向かった。

途中で二人とはぐれてしまい、帝都に来たその日。

 

彼は、大事な仲間を二人とも失った。

 

帝国の闇を知り、そして……新たな仲間たちと出会った。

あれから、どれだけ経ったのだろう。

 

国のためと信じて戦い続ける中で、さらにたくさんの仲間を失ってきた。

 

サヨとイエヤスを失い悲しむ自分を優しく包み込んでくれたシェーレ。

兄貴と慕い、自分が今も纏っているインクルシオを託してくれたブラート。

自分をからかってばかりだったけど、どこか儚げな様子も見せたチェルシー。

最初は自分を騙したけれど、帝都の闇を教え、自分がナイトレイドに入るきっかけを作ってくれたレオーネ。

料理上手で、戦いについても相手の弱所をつく重要性を教えてくれたスサノオ。

ふざけたところもあったが、

最初は喧嘩ばかりだったのに、こんな自分を愛してくれた、大切な存在だったマイン。

 

仲間を失いながらも、その手を血に染めながら戦ってきたのだ。

革命も最終段階に入り、あと一歩というところで……

タツミの脳裏に、シコウテイザーの攻撃により無残に吹き飛ばされていった革命軍の姿がよみがえる。

肉を削がれ、骨のようになって消し飛ばされて行った彼らの姿。

 

(あんなの……人の死に方じゃねえだろ…‥!)

 

 

 

 

 

 

「いかがですか陛下!」

「大丈夫だ、操縦も問題なく行えている! 背後や宮殿の警備は大丈夫なのか?」

「ご心配なく! アリィ殿とエスデス将軍をそちらに割り当てています!」

 

アリィも戦場に……と、皇帝は苦い顔になる。

敵の総大将を探しつつも、兵器を使うときは味方に当てぬよう慎重に探ってから撃っていたが、アリィが戦場にいるとなるとたとえ背後の警備を担当しているとはいえ、迂闊に兵器を使うことができない。

 

しかし、その慎重な戦闘姿勢は見ているオネストにとってはイライラさせられるものである。

火力が最高峰の帝具であるからこそ、その火力を存分に使うべき。だというのに皇帝は兵器を慎重に使っているから思っていたほどの被害は出ていない。

何をグズグズしているのか、もっと撃ちまくればいいものを……と、思わずにはいられないのだ。

 

「陛下ぁ! とりあえずは敵を削ることをお考え下さい! ガンガン撃ってしまうのです!」

「そ、そうか…‥む!?」

 

オネストに流され、兵器を使おうとしたとき……皇帝が見るモニターに、一人の姿が映る。

皇帝とオネストが話している間に駆け寄り、宮殿の壁を乗り越え、そして今、シコウテイザーの前に躍り出た。

 

タツミが…‥武器を振り上げ、そこにいた。

 

「これ以上撃つんじゃねぇぇぇ!!」

「単身で飛び込んでくるとは……愚か者め!」

 

タツミめがけて砲弾が撃ち込まれる。

シコウテイザーの口から放たれたその砲弾は通常の砲弾よりも密度が濃い強力なもの。

その直撃を受け……いや、受け止めながらも、タツミは空中であるにも関わらず踏ん張っていた。

 

「ぐ…‥う……これが……どうしたぁ!」

「なにぃっ!」

 

驚いた皇帝は直接落とそうとシコウテイザーの大きな腕を振り上げ、タツミへと殴りかかろうとする。

だが、その腕にうまく着地したタツミはインクルシオにより強化された力でシコウテイザーの腕を駆け抜け、そして一気に頭部へと到達して見せた。

強く、そのこぶしを握り締めて。

 

「貴様は!?」

「ナイトレイドだよ……!」

 

シコウテイザーへと振り下ろされるタツミの一撃。

それは、インクルシオで強化されているとはいえ、まごう事なき人一人による攻撃。

だというのに……

 

「な、なんだとぉ!?」

 

 

皇帝が驚愕して叫ぶのも無理はない。

その一撃で、シコウテイザーの巨体が大きく揺らぎ、後ろへと殴り飛ばされたのだから。

倒れることはなく踏ん張って見せたものの、中にいる皇帝は恐ろしいものを見るような目でモニターのタツミを見つめていた。

 

「拳一つで、至高の帝具が揺らぐなど……」

 

圧倒的と思われた至高の帝具が揺らいだその光景。

帝国中の、多くの者が目にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……今のを見たか!」

 

士気がガタ落ちしていた中、ナジェンダは驚きと歓喜を覚えていたものの、表に出しすぎるようなことはなく、毅然とした姿で同志たちに呼びかけていた。

 

「あの兵器とて攻略法はある! 倒せるぞ!」

 

類を見ないほどの火力を前に、ひるむどころか一人立ち向かい、そして絶望寸前の自分たちに一筋の希望を見出させた。

その姿を見て、これ以上うずくまってはいられない。いられるはずがない!

 

「怯えて逃げれば大臣の思うつぼだ! ここまで来たんだ! 最後の戦い……絶対に勝つぞ!」

 

革命軍は希望を胸に、大きな叫び声をあげていた。

 

 

 

 

 

バリィン!

 

宮殿テラスでは、オネストが思わず立ち上がった反動でグラスが落ちて割れ、甲高い音をあげていた。

歯噛みするオネストは、絶対のはずの力が揺らいだのを前に、皇帝へ叫び声をあげていた。

 

「陛下ぁ! そのような蠅に何を苦戦されているのです! さっさと皇帝ビームで叩き落としてしまってください!」

 

ハァ、ハァと荒い息をするオネストに、もはや至高の帝具が姿を見せた時のような余裕は欠片も残っていなかった。

 

(陛下のやり方では火力を活かせず押し切られる可能性もあります……あまり余裕ぶってはいられません。ドロテア殿が途中で亡くなったので完全とは言えませんが……)

 

ニタリ、と彼の口角が上がる。

 

(使いますか……シコウテイザーの奥の手を……!)

 

 

 

 

 

「馬鹿、な」

 

オネストと同様……いや、それ以上の衝撃を受けていたのが彼女。アリィだった。

南も北も抑え、革命軍は詰みだと思っていたのに、まさか至高の帝具が革命軍に、それも一人によって圧されることになろうとは。

シコウテイザーが殴り飛ばされた光景に、アリィは大きな衝撃を受けていた。

 

「どうしたアリィ。貴様のそのような顔、久々に見たぞ」

 

呆然とする彼女に声をかけたのは、山積みになった死体の上に腰を下ろした女傑。

 

「エスデス……将軍……」

「貴様が何と言おうと、弱者は怯え震えるだけしかできんよ。現にお前がそうだ。強者であれば至高の帝具が揺らいだとして、それに何の問題があると言うんだ?」

 

事実、彼女は全く焦りを覚えていない。

むしろ愛するタツミがさらなる強者としての力を見せたことに高揚していた。

できればすぐにでもタツミの許へと向かいたいが、あいにくと革命軍がまだ残っている。

 

「……余裕、そうですね」

「当然だ」

 

アリィにとってはまったく余裕などない状況だ。

至高の帝具シコウテイザーこそアリィが思い描いた詰みの要。

あぁそうだ、詰み(チェック)ではあったが勝利(チェックメイト)などではなかった。

僅かなところで全てをひっくり返されそうなこの状況に、アリィは震える体を抱きしめるようにしてその場に立っていた。

 

「ここの革命軍の相手をある程度終えたら次はタツミだ。アリィ、お前がここにいてもお前にできることはない。弱者は弱者らしく隅で震えているんだな」

 

エスデスが今までの鬱憤を晴らすかのように言い捨てた言葉に、アリィはゆっくりと顔を上げる。

そこにはもうエスデスの姿はない。一刻も早くタツミの許へ向かうため革命軍の掃討を始めたからだ。

 

「そう、ですか…‥‥。もう、ここにいる必要はありません、か」

 

アリィはエスデスがいるであろう門に背を向け、ゆっくりと歩きだす。

 

「ならば私は……私は……」

 

最悪の可能性が見えた以上、もうここでただ待っているわけにはいかない。

 

 

 

 

最悪の可能性へと至らぬために。

最後の可能性を落とさぬために。

 

胸元を押さえつけるように手を当てながら、アリィはシコウテイザーが戦う方へと、ゆっくりと歩いていった。

 




何度も原作を読み返し、メモリアルファンブックを読んだりして情報を集め。
レオーネがいない分はどうするのか、や今までアリィがしてきた行動などを読み返しながら完結に向け話を組み立てています。

忙しさもありますが時間をかけすぎて更新が遅くなってごめんなさい。
更新できない間も評価やお気に入り登録等してくれる人が増えておりずっと励みになっていました。

最後まで、どうぞ楽しんでください。
最近原作描写が多いと思っている方もご安心を。
シコウテイザーの奥の手が目覚める次の話あたりから、これまでのアリィの話があるからこそのオリジナル展開が増えていきます。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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