侍女のアリィは死にたくない 作:シャングリラ
シコウテイザーが出現した後も、アカメは一人宮殿に潜入し、最終標的であるサイキュウを地下で暗殺していた。
サイキュウは暗殺部隊を設立した張本人。アカメを前にした時は命乞いの言葉を発しようとしたものの、一切の容赦なく斬られた瞬間、そう育てるよう命じていたのも自分であった、と思い返しながら死んでいった。
アカメはサイキュウが持っていた帝具・世界全書ロンゴロンゴを回収してすぐ地上に上がろうとしたが、近づいてくる足音に気づいてそちらに村雨を向けた。
「誰だ!」
「いやーびっくりしたよ……伝令に来たらサイキュウ様殺されてるんだもん」
へらへらと笑いながら姿を見せたのはスズカ。
羅刹四鬼最後の一人を前にアカメは静かに構えるが、スズカはまるで動じる様子がない。
アカメの実力は彼女もよくわかっており、またアカメの性格は好みだったのでスズカとしては戦いたくはなかった。とはいえ、何もしないわけにもいかない。
下手に彼女を見逃したとなれば、アリィが何と言うか。もしかしたらイルサネリアが自分を襲うかもという興奮を抑える。
その時、地面がスズカの起動した仕掛けによって揺れ出した。
「これは……!」
「地下道を崩す仕掛けを作動させたのよ。殺る自信ないからここでつぶれてもらうわ。私は脱出できるけどっ!?」
シャンバラを所有する彼女は脱出も容易。
しかし、得意そうに話している間に瓦礫に潰されてしまった。避けようと思えば避けられたがドMの彼女はあえてつぶれた。
「ま、まぁ私は死なないし! お先ぃ!」
そのまま次々と崩落する瓦礫が彼女を覆い隠し、姿が見えなくなる。
アカメはこのままではまずいと、スズカを放置して脱出するため走り去っていった。
「なんなのだ、コイツは……!」
タツミに殴られて後ろによろめいた皇帝は、恐れるような目で彼を見る。
シコウテイザーの力に物怖じせず立ち向かってくるその姿。シコウテイザーは強力であるが、この力が怖くはないのかと動揺しているのだ。
そしてその動揺をタツミはすでに感じていた。様子から至高の帝具を100%使いこなせていないことが見受けられ、このまま攻めれば勝てる、そう思った。
だが……それを、オネストは許容できない。
「至高の帝具…‥奥の手発動!」
その言葉に、タツミと皇帝、両者がオネストの方を見た。
次の瞬間、シコウテイザーが恐ろしい叫び声をあげて変貌していく。
更に、シコウテイザーを操っていた皇帝が入っていた球状の施設、その中に恐ろしい何かが生まれ皇帝を飲み込もうと彼の体をつかんでくる。ただでさえ「奥の手」の存在を知らず動揺していた上に突然の事態に恐怖した皇帝はオネストへと叫ぶ。
「ど、どういうことだこれは……大臣っ! どうなっている大臣! オネストォ!!」
シコウテイザーの装甲がはがれ、落下していく。
その様子をオネストは見つめながら目を血走らせて呟いていた。
「陛下はお優しい性格……それが帝具の弱点に直結しています。充分危惧できることでしたから私は新たに、奥の手を用意しておいたのです。ドロテア殿が途中で死んでしまったのでうまくいくか心配ではありましたが、問題はないようですねぇ」
彼がドロテアに依頼していたことは二つ。
一つは、シコウテイザーを錬金術の技術を用いて修繕、及び強化すること。
そしてもう一つが……「奥の手」の搭載。
当初のような荘厳さは全くない。
肘や膝、胸の部分には巨大な目のようなものが現れ、顔も怪物のようになった醜悪な姿。
それがシコウテイザーの奥の手……帝具と錬金術を掛け合わせた「粛清モード」である。
「グ、オォォォォォォォ」
変化してすぐは頭を抱えている様子だったシコウテイザーだが、胸をはるように体をそらせていく。胸にある目のような部分にエネルギーが充足したかと思うと、巨大な砲弾と化した。
「……に刃向かう、愚か者どもめ……」
「やめろぉぉぉ!」
まずいと直感したタツミが止めようと飛び上がるも、時すでに遅し。
巨大なエネルギー弾が、まっすぐに帝都外に散開する革命軍の方へと撃ち放たれた。
「余が自ら、貴様らを裁いてやるぁぁぁ!」
エネルギー弾は狙い違わず革命軍のいる場所へと落下し。
全てを吹き飛ばすかのように爆発して、大勢の犠牲と共に巨大なクレーターと噴煙を作り上げた。
その光景にオネストは恍惚とした表情を浮かべる。
オネストの合図か彼の死を合図に起動するこの粛清モードは、もはや敵を根絶やしにするまで止まらない。
「全てはここまで追い込んだ反乱軍の責任です。おとなしく全滅してください」
「ガァァァァァァァ!!」
オネストの言葉に反応するかのように、シコウテイザーは見境なく兵器を発射した。
至る所を蹂躙するかのように光線が、砲弾が撃ち放たれる。
シコウテイザーの
「……は?」
オネストの表情が固まる。
なぜシコウテイザーが自らをも攻撃しているのだ。まるで自傷するかのように、自らの体を貫きながらも攻撃するその姿は、オネストの思い描いていたものではなかった。
「なにが……くっ!」
タツミもまた驚いてはいたが、攻撃の一部がタツミを狙って放たれる。
全ては避けきれずに攻撃を受けるが、まだ戦えるとタツミはシコウテイザーへとノインテーターを振り下ろす。
しかし、粛清モードの起動に伴いさらに強固となったシコウテイザーには通じていないようだった。
「オォォォォォォォォォオォォォォォオオオ!!」
咆哮しながら攻撃を繰り返すシコウテイザー。
最初のエネルギー弾こそ正確に狙われたものだったが、それ以外の光線はタツミを狙ったものを除き的外れなところへと飛ばされている。
なかには住居を破壊するようなものもあるが、住民が避難して固まっているところからは
なぜこのような暴走状態に陥っているのか。それは――
<壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ><壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ><壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ、壊セ、壊セ><壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊スナ、壊スナ、壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ><壊セ><壊スナ><壊セ><壊スナ、壊スナ、壊スナ!!>
「ぐ、あぁぁぁ……アァァァァァ!!」
シコウテイザーの内部で、皇帝は頭に浮かぶ相反した二つの言葉に狂いそうになりながら叫び声をあげていた。
「粛清モード」には操縦者……つまりは皇帝の精神を汚染し、全てを破壊するように誘導する術式も組み込まれていた。
だが、それを許さないのが皇帝の中に入り込んだ……
イルサネリアはシコウテイザーの火力が十分アリィを殺しうるものだと認識している。砲弾が大きすぎるがゆえに、万が一アリィのところへ向かって飛べばたとえアリィが第六感で避けようとしても間に合わない。もしかしたら奥の手を使っても間に合わないかもしれない。
そんな攻撃を繰り返そうとする汚染された意思を、イルサネリアは「アリィへの悪意」として認識した。
だから砲撃は革命軍しかいないところへは正常に狙いを定めるが、帝都の住民など帝都内の人間がいるところからは逸れて攻撃を放つ。それでシコウテイザーに余計な負荷がかかろうとも。
結果として、シコウテイザーは己を傷つけながら砲撃を放つ。
「が……あぁぁ……」
もはや意識が薄れていき、気を失う寸前まで弱る皇帝。
そんな彼の頭に浮かんだのは……
『何より、生まれというものは今さらどうこうできるものでもない。過去は変えられない。ならば、今あるものを背負ってでも、未来へ歩いてくことが大事だと余は思っている』
『……その、通りですね』
『気は、晴れたか?』
『……はい』
革命が始まるいくらか前。
アリィと二人で話した時の会話と、その時に見せたアリィの笑顔だった。
「――――」
あぁ、そうだ。
この至高の帝具を起動させた時だって……自分は何を思っていたのだったか。
(帝国を、愛する者を、守る力を――)
ゆっくりと、皇帝の頭がクリアになっていく。先ほどまでのようなうるさい声はもう聞こえない。
モニターに映った敵の姿が目に入る。
(あれは帝国の……アリィの、敵だ)
次の瞬間、シコウテイザーはタツミを殴り飛ばした。
「……不具合かとも思いましたが。どうやら、ようやくまともに動き始めたようですねぇ」
オネストはタツミを殴り飛ばし、その後タツミと戦い始めた姿を見て安堵するように口にした。
とはいえ、自らを傷つけたシコウテイザーのダメージは大きい。
あの巨体だ、さすがに自己修復能力は積めなかったと聞いている。強化されている以上今までほど敵に遅れを取るとは思えないが、先ほどの暴走といい心配になる要素は多い。
(粛清モードを起動した今、私がここにいる意味もありません……陛下が負ける可能性もありますし、さっさと安全な場所に逃げておくとしましょう)
そう後ろを向き、一歩を踏み出そうと……
「な、ぁっ……!?」
動けない。
否、再び前を向くことはできるが、ここから逃げ出そうとすることができない。体が言うことを聞かない。
「まさか帝具!? いや、そのような様子はないし気配もないっ……!」
彼は太っている様子からは想像できないであろうが、若いころに皇拳寺で修行しており、拳法を習得しているだけでなく脂肪の下に鍛えられた筋肉が備わっている。
鍛えたおかげで接近した兵士くらいなら気配がわかる。しかし、帝具所有者が辺りにいるとはとても思えなかった。
「ならばなぜ……いや、まさか」
思い出されるのは先ほどの光景。
「まさか」
自らを傷つけさせる帝具。自らを危機に追い込ませる帝具。
「まさかぁぁぁぁぁ!?」
所有者を危機に追い込んだ人物が逃げることを許さない帝具が、一つあった……!
「言ったでは、ないですか……」
飛んできた砲撃をかわすため、奥の手である「
変わり果てた、その姿を見上げて呟く。
原因となった人物を今殺すことはできずとも、ただ見逃すわけもない。
「”余計なことはしないでくださいね”、と私は言ったのに……!」
「感染爆発」を使える距離にないため、オネストを殺しに行くようなことはしません。
それはそれで危険がありますし。
オネストが逃げられなくなったのは、あくまで感染していた細菌によるものです。
感染した細菌により、アリィの直接的な意思と関係なく発動したという点は皇帝と同じですね。
予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください
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IFルート(A,B,Cの3つ)
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アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
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皇帝陛下告白計画
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イルサネリア誕生物語
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アリィとチェルシー、喫茶店にて