侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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第62話 愛を知らずに死にたくない

帝都・市街地。ここではエスデスと革命軍との激突が起こっていた。

しかし、事態は両者の思いから外れた展開となる。

エスデスが対軍奥の手として放とうとした「氷嵐大将軍」が不発……いや、暴発しようとしていた。

 

「ぐ・・・・・・ああああああああああああああああ!!」

 

体の中でエネルギーが荒れ狂う痛みにさいなまれながら、エスデスは吼える。

この状況が誰によってもたらされたのか、それは考えるまでもない。

しかし、だからといってこのままイルサネリアの力にいいようにされるなど、まっぴらごめんだった。

自分は強者だ。そのプライドが、彼女を土壇場でなお突き動かす。

 

「こんなもので、私が・・・・・・屈すると思うなぁぁぁぁ!」

 

力が今にも暴発せんとするその刹那、エスデスは振り上げた右腕から可能な限りエネルギーを放出する。

放たれたエネルギーは従来の予定通り空へと昇り、暗雲を作り出して雪を降らせる。

だがそこまでだ。「氷嵐大将軍」は国土を攻撃するほどの猛吹雪を起こすはずであったが、できたことは雪を降らせるところまで。とても吹雪と言えるほどではない。

イルサネリアの力による衝動に完全に飲み込まれないのはさすがエスデスといえよう。

とはいえ。完全に抗うことは不可能だ。ずっと闘争本能に身を委ねてきたエスデスには、衝動を完全に抑制するということは不可能であった。

 

もともとエネルギーを空に放とうとしていたため、多くのエネルギーを上空に逃がす。

だが、それでは不十分。放出した以上のエネルギーがエスデスの体、右腕を中心として、ついに爆発するように辺りへと放出された。

 

「う、おおおおお・・・・・・」

 

当然、エスデスを取り囲んでいた革命軍は逃げられずに暴発した冷気へと包まれる。

エスデスの抵抗によってある程度は上空に放たれた冷気は、元々ため込んでいたものよりも大きく威力を減少している。そのおかげである程度の力があれば耐えることは可能だった。

アカメやナジェンダをはじめとする実力者達は冷気にも耐えるが、この冷気は帝具によるもの、しかもその所有者は帝国最強と名高いエスデスである。

いかに精兵と言えど、多くの兵士たちが凍り漬けとなった。

 

「エスデスはどうなった・・・・・・?」

 

革命軍の兵士が、半ばすがるような声を出す。

しかし、現実は決して甘くはない。

冷気の爆発による白い霧が晴れていく中に人影が一人。

 

「エスデス・・・・・・っ!」

「どうした・・・・・・まさかこれで終わりと思ったんじゃないだろうな? 私はまだ戦える!」

 

冷気が暴発した中心地には、息を荒げながらもエスデスが立っていた。

右手は力の奔流に耐えきれなかったらしく、吹き飛んでしまっている。

だが、その目にぎらつく戦意は、なおも消えずに燃えている。もしかしたら先ほどまで以上ではないかと思ってしまうくらいには。

 

「怯むな、奴は右腕を失っている!」

「ほざくなナジェンダ! 今の私は機嫌が悪い、右腕がないことなぞ何のハンデにもなりはしないと思え!」

 

先が刃となった氷の腕をエスデスは作りだし、それを武器に革命軍の兵士たちを薙ぎ払っていく。

アカメは兵士たちの間を駆けながら隙を窺うが、今のエスデスにはまるで隙が見当たらない。

厳密には先ほどの戦闘の中でも隙があったというわけではない。ただ、先ほどまでのエスデスには戦いを楽しむ余裕があった。

 

今のエスデスにそんなものはない。

アリィによって大きくダメージを受けたうえに、冷気を操るのも普段通りにはいかない。

だがそれ以上に彼女の心に煮えたぎっているのは怒りだ。

強者たる自分が弱者であるアリィによって腕を失う羽目になった。これが戦いの中で、それこそアカメとの死闘のさなかで失ったというのならむしろ笑いすらしただろう。

 

だが、彼女の腕を奪ったのはアカメではなくアリィだった。

だからこそエスデスにはもう余裕の笑みはない。何より、彼女は内心思っていたのだ。「たとえイルサネリアによる強力な自傷衝動があっても自分ならば抗える」と。

結果はどうだったか。多少は抗うことはできただろう、しかし完全に抑制することはできなかった。

 

故に彼女は余裕を持たない、保てない。

「自分なら大丈夫」という自信を今まさに砕かれたのだから。

 

「どうした貴様ら、その程度かぁぁ!」

 

帝具使いたちも奮闘するが、一切の余裕を捨てたエスデスにまるで歯が立たない。

 

大地鳴動ヘヴィプレッシャーの奥の手、ナスティボイスは本来一時的に行動不能になる音波なのだが、エスデスは「騒音程度」だと吐き捨て、その隙に攻撃を仕掛けようとした兵士へ腕を振るって斬り殺す。

ダイリーガーの使い手は焔の玉を投げつけて冷気共々エスデスを攻撃しようとするが、たやすくかわされたうえに爆炎で姿を見失った一瞬の隙を突かれ、頭を貫かれてしまう。

 

「なんて、力だ……」

「強すぎる……このままじゃ我々全員」

「落ち着け!」

 

無双の力を見せつけるエスデスに、兵士たちから弱音が出始めるもナジェンダはそれを一喝する。

確かにエスデスは強い。今見せつけている力はまさに無双。

では勝てないのか? そんなことは決してない。むしろ今が最大の好機なのだ。

彼女はわかっていた。力を振るってはいるが、よくよく見てみれば腕の刃を振るっての攻撃が圧倒的に多い。得意とする氷を使った攻撃回数が格段に落ちているのだ。

これはイルサネリアの影響で冷気のコントロールがうまくいかないためなのだが、ナジェンダはそこまでは知らない。しかし、腕を失ったことも含め、エスデスが本調子ではないということはわかっていた。

 

だからこそ今ここで引くわけにはいかない。

「一度引いたほうが勝つ確率があるのでは」……革命軍側がそう思ってしまえば、エスデスには勝てない。

相手の戦意をくじいてさえしまえばたった一人で数万以上に勝利することができる。

 

「エクスタス!」

「む……」

 

革命軍の女兵士が、エクスタスの奥の手・強力な発光を発動させる。

それによってエスデスが顔をそむけた隙に、4人の帝具使いが彼女へとそれぞれの得物を振り上げる。

だが……。

 

「何かと思えば、愚かな」

 

腕の刃を振るって、武器による攻撃を受け流す。

大ぶりな攻撃はかわし、逆に足払いをかけて相手の体勢を崩す。

 

(気配で)

 

帝具により地面が変形した攻撃は飛んで回避し、その勢いで別の兵士へと飛び掛かり膝蹴りを与える。

 

(全て)

 

さらに腕の武器によって体勢を崩した帝具使いたちを斬りつけ、その手から帝具を吹き飛ばす。

眼前には、攻撃をすべていなされたうえに仲間たちを倒され呆然とする帝具使い。

エスデスはその男へと手を伸ばす。

 

(分かる、だろうが!)

 

勢いのままに男の頭をわしづかみにして、地面へとたたきつける。

連携は悪くなかったが、奇襲を狙うには気配を丸出しにしすぎていたというのがエスデスの評価。

だが、あまり時間をかけてもいられないと氷の刃を作り出し、振り下ろそうとしたところで

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「お前は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

咆哮をあげ、飛び掛かってきたのは――体がところどころ竜と一体化したタツミだった。

 

彼はシャンバラによって宮殿から転送され……転送された先が、市街地だった。

インクルシオを破壊されたことで、タツミの体を乗っ取ろうとしていた竜の魂は潰えた。とはいえ、体は部分的にだが竜と一体化しており、先ほどのオネストとの戦いで失った体力も少しずつ回復している。

その状態の中、彼はすぐに近くで大規模な戦いが起こっていることに気付く。そこで、彼は駆けだしたのだ。

 

「待っていたぞタツミ! お前は私が倒す、そう決めていたのだからな!」

「エスデスゥゥゥゥゥゥ!」

 

手には途中で拾った革命軍の兵士が持っていた剣が握られている。

インクルシオを譲り受けてからは槍を使うことが増えていたものの、彼が一番得意としていた武器は剣だ。

訓練のさいにはインクルシオの鍵となる剣を振るい、剣の腕も鈍らないよう鍛錬していた。

 

「だが、残念だな、お前の調子は絶好調とはいえんらしいな。武器もそんなものでは私には到底届かん」

 

一回、二回と打ち合っただけでエスデスはタツミの状態を看破する。

体力は少しずつ回復していた、だがやはり本調子には程遠い。そもそもオネストとの戦い以前にはシコウテイザーとも戦っていたのだから。

むしろ、数回とはいえとびぬけた実力を持つエスデスと渡り合えるほどの力が残っていたのが驚きなのだ。

エスデスが腕の刃を使って、タツミの剣を弾き飛ばす。

 

「さらばだ、タツミ!」

 

武器を失ったタツミにむかってエスデスがとどめを刺そうとしたその刹那、タツミは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスデスの体へと抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…‥‥……な」

 

一瞬。

ほんの一瞬ではあったが、エスデスの思考が真っ白になった。

これが攻撃であったならその殺意を察して回避、あるいは反撃ができていただろう。

だが、愛した男(タツミ)に抱きつかれるという予期せぬ状況にエスデスの思考はたとえ一瞬といえど止まってしまった。

 

「……葬るっ!」

 

そして。

彼の()()()()声がしたかと思うと、エスデスの体は刀で貫かれていた。

 

「な、に……?」

「へへっ……さす、が、アカメだぜ……」

 

その刃は、エスデスを、そして……タツミをも貫いている。

革命軍の兵士たちに紛れていたアカメが、死角となっていたタツミの背後からタツミ共々エスデスを貫いたのだ。

一度斬れば確実に殺せる帝具・一斬必殺村雨で。

 

タツミはエスデスとの戦いに合流する直前に、動き回っていたアカメと会話し、そして作戦を伝えていた。

自分がエスデスと渡り合うほどの力は残っていないということは彼自身よくわかっていた。

だから、彼は自分が”囮”になることを申し出たのだ。

 

タツミはエスデスと打ち合いながら、革命軍の兵士たちの近くへと移動していた。

あまりに離れていては、アカメがエスデスや自分の元へと近づこうとしたときにすぐ気づかれてしまうからだ。

大勢の気配に紛れて気配を絶ったアカメが、タツミの背後からタツミごとエスデスを討つ。それがタツミの考えた捨て身の作戦だった。

 

アカメは当然反対したが……彼は聞かず、そのまま戦いの場へと躍り出てしまった。

彼女は暗殺者だ。だから、アカメは自分の心を押し殺してでも仲間の最期の意思に応えた。

 

「……そう、か。私の負けか」

 

刃で刺された傷からじわじわと村雨の呪毒がエスデスの、そしてタツミの体を蝕んでいく。

これが腕などだったら斬り捨てる選択肢もあっただろうが、刃が刺さったのは腹部。逃れようがなかった。

 

「ふ、ふふふ・・・・・・まさかタツミがあんなにも情熱的に抱きついてくるとはな。思いもしなかった」

「・・・・・・エスデス」

「さて、死ぬとするか」

 

腕の刃を解除し、代わりに普通の手を作り出す。

左腕はタツミが抱きついてきた際に拘束されたままなので、エスデスは氷の右腕で優しくタツミの頭をなでる。

彼が嫌がるそぶりはない。彼はすでに・・・・・・息絶えていた。

 

「思うままに、本能の欲するままに生きてきた。だが、こうして最後には負けてしまったというのに・・・・・・なぜだろうな」

 

タツミを見るエスデスの顔は、それまでの苛烈さが嘘のように穏やかで、そして慈愛に満ちたものであった。

 

「タツミ。お前と共に、お前の腕の中で死んでいけるというだけで、なぜこうも満たされた思いなのだろうな・・・・・・」

 

エスデスとタツミの体が氷に包まれていく。

やがて二人を完全に包み込んだ氷は一度きらめき、儚く砕け散った。

 

(エスデス。その思いこそが、お前が理解できないと言っていたものなんだ・・・・・・)

 

帝国最強の死。

この場にいる誰もが、戦いの終焉を感じていた。

 

「アカメ、どこに行くんだ?」

「まだ、終わりではない」

 

ただ、一人を除いては。

 

「どういうことだ・・・・・・?」

「ボス、私達は間違っていた。()()()()、間違えていたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。

 

「そろそろ・・・・・・頃合いでしょうか・・・・・・」

 

この少女が、まだ生きていた。

 

 

 

 

タツミ、死亡。

ナイトレイド 残り2人。

 

イェーガーズ、全滅。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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