侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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お久しぶりです。
皆様のGWの一助になれば。

今までとは違って、肩の力を抜いてご覧ください。


アリィ夢想編
帝国重鎮緊急会議(約1名不参加)


これは、”革命未遂”が起こってからしばらくが経った頃。

新たな帝国の体制が整い、戦いからの復興も進み……穏やかな時間が流れ始めた、そんな頃の話である。

 

 

 

 

 

帝国宮殿(再建築中)にて。

真っ先に修復した区域のうち、広々とした会議室に複数の人間が集まっていた。

深刻な表情をした者もいれば、やや諦観気味の表情を浮かべる者もいる。

彼らに共通しているのは、議会議長であったり政府高官であったり……いずれの者も、新たな帝国において重鎮の立場にいる者たちである。

したがってこのメンバーが集まって会議が行われること自体は、これまで何度もあったことだ。

 

この場にいないメンバーもいるのだが。

 

「皆。よく集まってくれた」

 

予定されていたメンバーが全員揃ったところで、口を開いた女性の名はナジェンダ。

かつては帝国の将軍を務め、その後革命軍を率いた人物であり、今は政府高官の一人である。

様々な経験やリーダーシップにより、帝国の新体制の中においてまとめ役になることも多々あり、したがって今回の会議を彼女が進行させることに誰も異論を持たなかった。

そもそも、今回の会議の発起人は彼女である。

 

「今回皆に集まってもらったのは他でもない。先に通知した通り、帝国の今後に関わる、重大な案件について話し合うためだ」

「むぅ……」

「あの件、ですか……」

 

議題については会議の前にあらかじめ伝えられているため、全員何について話し合うかは知っている。

しかし、その内容について……集まった面々の表情は渋い。

 

「我々だけで話し合って解決するものだろうか……」

「いやしかし、ほんと考えておかないといけないことではありますよね」

「我々は所詮外野ともいえる、当事者抜きでは議論しても所詮机上の空論にしかならないのでは?」

 

当事者抜きで議論するのはどうなのか? その意見に、ナジェンダはゆっくりと立ち上がって一つの扉へと向かった。

 

「当事者がいなければ机上の空論。なるほど、一理あります。なので今回」

 

な、と誰かが声を漏らす。

ナジェンダが扉をゆっくりと開くと、そこに立っていたのは一人の人物だった。ナジェンダは彼を空いていた最後の席へと案内する。

その人物とは。

 

「皆の者、わざわざ集まってもらってすまぬ」

「ぜひ参加していただいた方がいいと考え……皇帝陛下にお越しいただきました」

 

席に座った少年は、この帝国における皇帝。

“革命未遂”およびその後の新体制によって権力の一部を失ってはいるが、それでも新帝国において重要なポジションにいることには変わらない。

そんな人物がこの場にいることに、異論を唱える者もいた。

 

「何を考えているのですがナジェンダ殿! 皇帝陛下をこの場に呼ぶなど!」

「そうですぞ! 彼の前で今回の議題を話し合うなど……」

「いやしかし、当事者がいるというのは大きい……」

 

ひと悶着起きそうにはなったが、来た以上話を進めるしかない。

そのようにいったん落ち着いたため、改めてナジェンダは話を始めた。

 

「まずは話を進める前に、皆に思い出してほしいことがある。今回の会議が開かれるきっかけにもなった、先日の御前会議のことだ」

 

全員が、「「「あぁ~……」」」と声を漏らし、その時のことを思い返し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

その話が始まったきっかけは、一体何だったか。

御前会議について帝国の今後の方針について固めていく最中に、その議題は唐突に出た。

 

「諸外国との友好関係構築……となると」

 

今後、皇帝陛下には他の国の者と婚姻を結んでいただくので?

 

その意見に、全員が唸り声を漏らした。

 

「……今、他国の者と婚姻等進めるのは難しいのでは?」

「確かに友好関係を構築するという点では、他国の王族などと婚姻話を進めるのはありですが……」

「しかし、この国では革命が起こったばかり。いくら時間が経ったとはいえ、1年足らずです。他国から見れば情勢が安定したと判断するには時期尚早でしょう」

 

今はまだ早い、と意見を出したのは一人の少女。

車いすに座り、議論するメンバーの中ではひときわ年齢の低い人物であるが……“革命未遂”においては皇帝の保護を行ったり、それまでにも帝国にて何度も政治の場に携わってきた人物。

 

彼女の名は、アリィ・エルアーデ・サンディス。

 

考え込む彼女と同様、ナジェンダもあまり乗り気ではない声を出す。

 

「いずれはそうなるかもしれないが……先の意見に同意だな。私も時期尚早だと考える。まずは帝国内部の復興を進めた後でないと、婚姻話を進めるにしても無理な条件を先方からつけられかねない。不安要素を取り除いてからでも遅くはないと思う」

「確かに……」

「そもそもの話、国内から妃を迎えるか国外から迎えるか。それすら定まっていない現状だとな」

 

皇帝という地位は帝国において大きな影響力を持つ。

だからこそ、その結婚相手についても当然国の上層部において議論がなされるのは当然の流れと言えた。ましてや今の帝国は権力を求める者たちの巣窟ではない。帝国の未来を案じる者が多い今、よりよい未来のためにはどうするか、そう考えるからこそ議論がなされる。

 

「ちなみに、陛下としてはどのような人物がいいと考えますか?」

「よ、余にそれを聞くのか!?」

 

うぅ~……と考え込む皇帝に何人かの重鎮がほっこりした視線を向ける。

今は亡き大臣は、皇帝が育ってくれば美食と女で堕落コースへと誘い、自分の思うがままの自堕落な人物へと誘導するつもりだった。そのため、変に友好関係を作らぬよう女性とのかかわりは最低限にさせていた。

そのため、今の皇帝は……まだ純粋で初心な少年でしかなかった。

 

「ま、まずはそうだな! 今後の帝国のため、争いを求めず平和な国を作っていこうと思えるものだな!」

「最優先事項ですね」

 

皇帝の言葉をすぐにアリィがメモしていく。

彼女に自分の希望をメモされるというのは大変気恥ずかしい物であったが、周りの「他には?」という視線に耐え切れず考えることをつらつらと口に出していった。

 

「年齢は……同年代とまでは言わぬ。余よりいくつか年上とかでもそれは良い」

「年齢まで絞ろうとするとだいぶ候補が絞られますからね……」

 

皇帝よりいくつか年上の少女はメモを続ける。

この辺りで何人かは「あっ」という表情を浮かべ、気づいているものはそしらぬふりを続けている。

 

「余は国を率いるものとして、今後も国をどうしてばいいかと考えることになるだろう。なので政治についてある程度理解があり、相談できるものがいい……」

「ふ、む。政治に詳しくなかったり家の意向などを差し込まれるリスクはあるので何とも言い難いですが……確かに陛下を支えられる人ではあってほしいですね」

 

現在進行形で会議に参加している少女はリスクを考えつつも、意見をまとめていく。

この辺りでさっき察してなかった人物もだいたい察した。

 

「あとは……できれば、だが。たまには空いた時間とかに、手ずから紅茶などを振舞ってくれると余はうれしい……。おいしい紅茶を淹れてくれれば、疲れていても、頑張れる気がする……」

 

会議に参加しているほぼ全員が、何となく空を仰ぐように視線を宙に向ける。

侍女経験もあり、紅茶を淹れる腕は抜群の少女はふーぅ、と息を吐くとメモを書く手を止めた。

 

「陛下」

「な、なんだ!?」

 

内心心臓がバクバクと音を立てている皇帝に対し、アリィは困ったような表情を浮かべてこう言った。

 

「そこまで全ての条件を兼ね備えた人物は、おそらくいないのではないでしょうか……?」

 

これが、先日の御前会議での出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

ガン! とナジェンダが机を殴りつける音が会議室に響く。

 

「あそこまで言われれば誰だって気づくわ! むしろなんで気づいていないんだアイツは!?」

 

約1名、アリィのみを除いて集めたメンバーを前にナジェンダは吠えた。

皇帝陛下、顔が真っ赤である。

 

「私たち革命軍を追い詰めたあの鋭い読みはどこにいった! 年若いながらも政治に参加して遠回しな表現でもその言葉の裏を読んできた経験はどうしたんだ! まさかアリィのやつ、恋愛に関してだけポンコツになるとか言わないだろうな!?」

「お、おちついてくだされナジェンダ殿!」

「気持ちはわかりますが……」

「いやもうホント同意ですが落ち着いてくださいナジェンダさん」

 

ぜー、ぜー、と肩で息をするようなナジェンダだったが、落ち着いたのか一度息を大きく吐くと席に座り直し、先ほどの動揺を隠すほど真面目な顔で会議を再び進めていく。

 

「まずはアリィが皇帝陛下の伴侶となるのは国としてありか、だがこれに関して意見はあるか?」

「大きな影響はないのではないでしょうか? もともと彼女は国政に参加している状態ですし、権力欲がある方でもない」

「彼女の実家はもうないも同然。貴族の一部が大きな力を持つなどは避けたいわけですが、まぁアリィ殿だけなら今更ですしなあ」

 

ちょっと皇帝の表情がキラキラし始めている。最初は反対されたらどうしよう、だったのが思ったより反対意見がなかったから感情が顔に出てしまっているようだ。

一部「国内からだと国外での外交カードには使えないな」など意見は出たが、強い反論というほどではなかった。

 

「ふ、む。では次だ。むしろこれが今日の本題といってもいいだろう」

 

ナジェンダの言葉に、皇帝を含め全員が表情を引き締める。

 

「やつは強敵だ。こちらの意図を読むかもしれないし先んじて何かしてくるかもしれない。気づいてないと見せかけて実は何か考えがあるのかもしれん……しかしだからこそ、我々は国のために一致団結してやつの内心を探らなければならん!」

 

ここにいる全員が協力しなければ、奴には勝てない。ナジェンダはそう言う。

 

「どんな意見でも構わない。積極的に意見を出してほしい……いかにして、皇帝陛下とアリィの仲を深めるか!」

 

 

 

 

 

かくして、帝国を支える重鎮たちは、その知力を結集し……「皇帝陛下告白計画」を練り始めたのである。

 

なお、国を立て直すために奔走した彼らは、少し。

そう、ほんの少しだけ疲れていることを彼らの名誉のために記載しておく。


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