侍女のアリィは死にたくない   作:シャングリラ

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感謝をこめてさっそく次話投稿です。


第7話 将軍が呼び戻されても死にたくない

「よし、全員集まったな。いくつか話しておかなければならんことがある。いいニュースも悪いニュースもあってな」

 

ナイトレイドアジトにて、ボスであるナジェンダが全員に話を始める。

一人椅子に腰掛けたまま葉巻に火をつけると、大きく吸い込み煙を吐き出す。

気持ちを落ち着けると、言いがたい話を始めた。

 

「お前たちも噂では知っているな? 帝都に出没するようになった辻斬りの話を。大勢の市民が首を落とされ殺された。被害者には警備隊も含まれている」

「辻斬り?」

 

情報には疎いタツミが不思議そうな声を出す。

マインがそんな彼を鼻で笑い、ナジェンダの発言に答える。

 

「首斬りザンクね。アンタそんなことも知らないの? これだから田舎ものは……」

「な、なにをぅ!」

「あの、すみません。私も知りません……」

「あんたは忘れてるだけでしょ、シェーレ」

 

騒がしくなった彼らを、ナジェンダの咳払いが黙らせる。

ナジェンダの話からして、おそらくこいつが次の標的。全員がそう思っていた。

しかし、次のナジェンダの言葉に彼らは大きく驚くことになる。

 

「……お前たちにはこいつを狩ってもらうはずだったんだが、その必要がなくなった。辻斬りがいなくなった以上、民を脅かすものが一人消えた。いいニュースといえばそうなんだろうがな」

 

そう、ザンクはすでに死んだ。

だが、それを聞いて待ったをかける者もいた。なぜなら、ザンクについてある情報があったから。

 

「ちょっと待ってくれ。ザンクは確か帝具持ちじゃなかったか? 警備隊じゃどうにもならないはずだ。誰かほかの帝具使いか将軍でも出くわしたのか?」

「そうよ、帝具使いを殺すなんて並みのやつじゃできないわ」

 

ここでタツミが帝具ってなに? という発言をするので再びマインが彼を馬鹿にする。

しかし、ナイトレイドにとって帝具は重大な意味を持つ。これからの戦いに大きくかかわる上に帝具の回収もナイトレイドのサブミッションだ。いい機会だからとナジェンダは説明を始める。

 

帝具。

それは始皇帝によって作られた48の武器。皇帝の財力と権力を費やして作られ、それぞれが特殊な効果、能力を持つ。また、帝具の武器の中には「奥の手」をもつものも存在する。超級危険種や希少な鉱石などを材料として作られており、現代では再現はおろか新たに作り出すこともできないとされている。

 

そしてもうひとつ、帝具にはある言い伝えがある。

その強力さゆえに、帝具使い同士が戦うと……必ず死人が出る、と。

 

「ちなみに、一番強力な帝具って何なんだ?」

「氷の帝具……だと私は思っていた。しかしどうやら、そうも言い切れないかもしれん」

 

氷の帝具によって奪われた右目の眼帯をおさえつつ、ナジェンダは言葉を切る。

他の面々もナジェンダの過去は知っている。だからこそ、それ以上に何を警戒しているのかとナジェンダの話により耳を傾けた。

 

「まず、ブラートの質問への答えがまだだったな。なぜザンクが死んだのか、と。結論から言うぞ」

 

葉巻を大きく吸うと、ナジェンダは答えた。

 

「将軍なんかじゃない。ましてや兵士ですらない、たった一人の少女に殺された。警備隊の協力者から伝えられた、確かな情報だ」

「「「なっ!?」」」

 

全員に激震が走る。

帝具使いはそれだけで強大な戦力だ。ザンクが今まで捕まらず辻斬りを繰り返していたのも帝具使いであったからという側面がある。

そんな帝具使いを、兵士ですらない少女が殺害した?

 

「そんな馬鹿な……」

「その少女は、夜に突然警備隊の詰め所に現れたそうだ。手にザンクの首を持ってな」

 

それは想像しがたい光景だった。

ただの少女が、辻斬りの首を持って警備隊の詰め所を訪れる。どう考えても凄惨でしかなかった。

 

また、この話はナイトレイドにとって痛手でもある。

ザンクが持っていたという帝具は帝国が回収したと考えられる。一つでも多く帝具を集めたいナイトレイドとしては、逆にその一つが帝国側に渡ったのは紛れもない痛手だ。

 

「ただの少女、ではない。少女の名前にはお前たちも聞き覚えがあるはずだ」

 

 

 

アリィ・エルアーデ・サンディス。

 

 

 

ナジェンダから告げられた名前に真っ先に反応したのはレオーネだ。

 

「あいつか……っ」

「やはり、帝具持ちと考えるのが妥当だろう。前回取り逃がしたときはレオーネの左腕がねじ切られる事態にもなった」

「と、取り逃がした!?」

 

アリィが襲撃された際、まだタツミはナイトレイドの一員ではなかった。

だから知らなかったのだ。今まで任務をやり遂げ、帝具も持つ強力な彼らをして、取り逃がした存在がいたのかと。

まして自分が慕うレオーネの左腕がねじ切られていたとあってはなおさらその驚きは大きかった。

 

「そうだ。これが悪いニュースだ。なお、帝具の詳細についてはいまだ判明していない。レオーネの話を聞いて文献を調べてみたりもしたが、該当するものは見当たらない」

 

事実、アリィの持つイルサネリアは失敗作とされ公式には48にすらカウントされていない、未知の帝具である。ナイトレイドがサンディス家を襲撃したときにはイルサネリアの情報などなく、文献を奪ったりもしていなかった。

 

「レオーネに自ら腕をちぎらせ、首斬りザンクを殺した帝具だ。極めて凶悪な力を持つであろうことはお前たちなら言わずともわかるだろう。ザンクの首が切られていたことからその能力を推察することはできる。しかし予想で動くわけにもいかん。アリィの帝具は警戒に値する」

 

ごくり、と誰かがのどを鳴らした。

未知の帝具。それだけでも厄介なのに、その力が強大であるという事実。

一度襲撃されている以上、彼女がナイトレイドの側につく可能性は極めて低いだろう。さらにいえば、標的になるほど民を虐げた存在。革命軍としても受け入れることはできない。

 

つまり、アリィが敵となるのは確実である。

 

「ナイトレイドは改めて、アリィ・エルアーデ・サンディスを標的とする。もとより民に拷問を行った外道、そして辻斬りとはいえ人を殺してもそのまま首を詰め所に持っていくようなやつだ、遠慮はいらん。可能ならば帝具も奪ってほしい。だが帝具の力がわからない以上無理はしなくていい、いいな!」

 

全員がそろった声で返事をする。

ナイトレイドの面々は、さらなる強敵の出現に全員が身を震わせた。

 

「そしてもう一つ悪いニュースがある。先ほど氷の帝具の話をしたな? その使い手、エスデス将軍だが……帝都に戻ってくる。我々の想定を超え、北方の異民族征伐を終えてな」

 

ナイトレイドの強敵は、さらに増える。

 

 

 

 

 

「おはようございます。本日の朝食です」

 

一方。アリィはというと、ザンクを殺して数日たった今日も宮殿で給仕を行っていた。

警備隊に事情を説明したりザンクの帝具、スペクテッドを宮殿に届けたりと忙しくはあったが自分の屋敷で休んだこともありもう疲れはなかった。

 

そして今日も、侍女として給仕を務めるのである。

 

「大丈夫か? アリィ。先日辻斬りに襲われたと聞いたぞ?」

「ご心配ありがとうございます皇帝陛下。しかし大丈夫です。陛下が心配することはございません。もう辻斬りが出ることがないよう、大臣が治安維持により努めてくれるそうです」

 

えっ、と大臣の声が聞こえた気がしたがアリィは華麗に無視する。

 

正直なところ、「なんで辻斬りとか出てくるんですか警備とかどうなってるんですかね確かに帝具使いの辻斬りは警備隊じゃどうにもならないでしょうがだからこそ帝具使いを動かすとか他にどうにかすることはできなかったんですか私は死にたくないんです死ぬような状況に出くわしたくないんです治安維持しっかりしてください」などなど言いたいことはたくさんある。

 

しかしそんな愚痴はぐっと押さえ込んで治安維持に努めてもらうよう発言するにとどめた。

それくらいはしてほしいと思ったからである。

 

「しかしもったいないですなぁ……帝具使いを殺せるほどですか。やはり貴方をただの侍女にしておくのは惜しいですねえ」

「ご冗談を。私はあくまで侍女にございます。辻斬りなどイルサネリアがなければまず死んでいたでしょう。私が彼を殺すことができたのも、あの辻斬りが殺人に快楽を見出す狂人であったからです。単なる相性の問題でしょう」

 

アリィは頑として譲らない。

彼女は兵士になる気なんてない。望むなら地位を与えてもいいとオネストは本気で思っていたが、彼女が権力も財産も求めていない以上、彼女が一番欲する平穏に遠ざかる軍属はやはり無理だろうと思えた。

 

「わかりました。貴方の意思を尊重しますよ」

「ご理解いただけたようで何よりでございます」

 

というか、無理に兵士にしてはイルサネリアが自分を殺しかねない。

それくらいはオネストもわかっていた。だからこそ、自分の大きな不利益になるわけでもないし、オネストはアリィの意思を優先させる。

 

「では皿をお下げいたします」

 

しばらくして、二人の食事が終了するとアリィは仕事にとりかかる。

料理がなくなった皿を台車に移すと、アリィは一礼して台車を押しながら部屋を後にした。

 

残されたのはオネストと皇帝の二人。

うーむと唸るオネストに皇帝は不思議そうにたずねた。

 

「なあ大臣。無理にアリィを戦いに引き出さなくてもよいのではないか? 侍女として働いてくれているし、余のそばにいてくれれば余としても安心だ。万が一賊が襲ってきても彼女なら返り討ちにできるのだろう?」

「まぁ、そうですねぇ。もちろん彼女が陛下の護衛として身を呈してくれるかというと疑問が残りますがまあ、確かに陛下のおっしゃるとおり、火の粉が降ってきたらしっかり払ってくれるでしょうな」

 

では何を心配しているのか?

皇帝の次なる問いに、オネストは苦虫を噛み潰したような声で答えた。

 

「いえ、先日エスデス将軍を呼び戻しましたが、アリィ殿とうまくやれるかふと不安になりまして……」




アリィという主人公を書くにいたったコンセプトの一つ。

エスデスが「コイツ嫌い」と思う主人公。

予定している番外編の中で、特に優先して書いてほしいものがあれば意見をください

  • IFルート(A,B,Cの3つ)
  • アリィとラバックが子供の頃出会っていたら
  • 皇帝陛下告白計画
  • イルサネリア誕生物語
  • アリィとチェルシー、喫茶店にて

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