わんこ、エクストラステージ   作:ぱぱパパイヤー

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第2話 先輩を作り旧友を沈め

 「少しは考えろ! そのご立派な兜の中身はガランドウか!」

 

 まるで恐喝するような物言いだが、この宿屋の主人は結構いい奴だと思う。新人が死ぬのを余り好ましく思っていないようだからだ。空回っているのが悲しい限りだが、弱い者を守ろうという行いはいいことだ。

 

 アインズが余裕の風格で軽口を応酬する間に、ぐるりと室内を見渡しておく。テーブルの位置、客の数、料理の量とコップの結露から滞在時間を計算。特に必要ない情報かもしれないが、一応、だ。ご主人は大層恨みを買っていらしたので、俺は自然とこういう野生の動物染みた習性がついていた。

 

 「モモン様、以前お願いさせて頂いたお暇で、私は早晩部屋を留守に致します。二人部屋で問題御座いません」

 

 小声で囁くと、アインズは頷き二人部屋を取った。主人との取引は漸く終わり、俺たちはアインズの背に付き従っていく。

 

 すると、アインズの進路に横から短くて不遜な足がにゅっと出てくる。

 俺と同じくアインズに付き従っていたナーベラルが眦を吊り上げたのを察し、軽く目を合わせ、「落ち着いてください先輩」と言う。むすっとしているが、先輩、と呼んだ瞬間あからさまに機嫌が良くなってほっとした。

 ここはモモンとしての器の広さなどを見せる重要なシーンなのだ。いずれ叙事詩となる際、語られるかもしれない所なのだ。懐かしいなあ。そうだ、昔の本でも漁ってみようか。恐らく俺のご主人が邪悪な魔術師として描かれているに違いない。

 

 思考を妄想の世界に飛ばしつつ、ナーベラルをなんとかやり過ごしていると、アインズは無事一山越えたのか短足男は何処ぞへと吹っ飛ばされていた。そして選手交代とばかりに、赤髪の猛牛女が憤然やるせなしといった風情でアインズに迫っている。

 いよいよもってナーベラルがブチ切れそうになってきていた。今までの片手間とは違い、本格的に宥めていく。怒りゲージの溜まる速度が異様に速い……が、分かる。分かるぞその気持ち。俺もご主人の薬に文句をつけてきたやつは四肢をもいで歯を全部抜いてやったものである。

 

 「あんたさぁ。ご立派な鎧を着ているんだから、治癒のポーションぐらい持ってるんでしょ?」

 

 女が厭らしい声で強請っている。アインズはポーションを与えることで黙らせることにしたらしい。俺は彼が懐に手をやるより先に、両手で恭しく持ち上げたポーションを差し出した。

 

 「モモン様、こちらを」

 

 「うむ、リュコス、ありがとう」

 

 俺の名前なんてせいぜい叙事詩の悪役として登場するくらいだ、と主張することによって、偽名を名乗る事をなんとか回避したので、俺の名前はリュコスのままだ。知り合いらしい知り合いは、異形種ですら例外を除き死んでいるだろうし、気にすることはない。本音としてはご主人から授かりし名前を偽りたくないだけなのだが。

 

 「モモン――さん、それはリュコスではなく私の仕事で、」

 

 「ナーべ様、背中に糸くずが」

 

 素早く言葉を遮る。アインズが深く頷き、今日一番の感謝を述べた。

 

 

 

 アインズが地理を把握するために外に出ていく。俺は着いていこうとしたが、先ほどポーションを渡しナーベラルの仕事を――ナーベが従者ではないと印象付けるためとはいえ――奪ってしまったので、大人しく浮かせた腰を沈めた。

 結局はナーベラルも供を断られていたが、俺の自粛で彼女の不機嫌は治まったようだった。

 

 きょろきょろと部屋の中を見渡し、ナーベラルは屋外の様子を伺っている。俺も今は完全な後衛型なので気配には疎い。彼女はそれを見て取ったのか、<兎の耳(ラビッツ・イヤー)>を発動させた。

 

 「……? その手は何?」

 

 「あ、いえ、これは……」

 

 魂にまで染み付いた狼の本能というか、なんというか。

 いつの間にか伸びていた手がナーベラルの喉元に近付いていた。危ない危ない。肉体まで狼だったら大惨事であった。

 

 「リュコス、貴方も栄えあるナザリックの一員となったのだから、さっきのように"先輩"を立てることね」

 

 「承知いたしました」

 

 によによとした顔が微笑ましいものだ。アインズが退室してからは、張っていた気も静まり、あれやこれやとフロア別の解説までしてくれている。まさしく先輩だ。

 実は初日にアルベドに聞かされていることは内緒であった。

 

 

*********

 

 

 アインズはアンデッドであるが故に、眠らずとも問題は無い。よって手持ちのアイテムの効果などを確認しつつ遊んだり、グラフィックとは違う作り込みを眺めて、王都での初めての夜を過ごしていた。

 時計の針が一を指した頃、徐にリュコスが微笑みながら一礼をする。退室の意を示しているのだろうと、アインズは一つ頷き許可をした。

 

 その瞬間、リュコスは窓枠に手をかけた。

 

 (ん?)

 

 アインズが首を捻った途端、リュコスは窓から弾丸もかくやといった速度で夜の闇へ消えていった。

 力の込めすぎで窓枠が凹んでいる。この調子で走られては堪らないと、アインズも窓枠から<飛行(フライ)>で追いかけていく。

 

 時折忘れてしまうのだが、リュコスは五百歳近いのだった。恐らく奴の知る人間の情報は、ここいらの時代設定からして日本で言う弥生時代程度のものなのだろう。

 そしてこの世界は過去、ドラゴンが跋扈し、世界級アイテムがあったという痕跡も残っている。地面が穴ぼこになるのも"常識"の範囲内に違いない。

 

 アインズは白目を剥きそうになりながら町中に<修復(リペア)>をかけていった。そうこうする間にリュコスは殆ど四足になり、相変わらず反作用で地面を穴だらけにしながら町を遠く離れていった。

 

 背の低い木が疎らに生える草原に着いた辺りで、リュコスは漸く止まった。

 アインズも上空で止まり、一言物申してやろうと降りていく。

 

 「リュコス、町を穴だらけにするのは止めろ。あれは目立つだろう」

 

 「ア、インズ様……!? っそ、れは浅慮で申し訳ありませんでした、ですがその、何故いらっしゃったのでしょうか、ではなく、失礼ながら申し上げます! 実は今――」

 

 「――離れろリュコス!! そいつはアンデッドだッ!!!」

 

 「ッゲェ!」

 

 リュコスは今まで見たことの無いような顔と声をすると、即座に、突如現れた小柄な人影の頭を引っつかんで、地面に思い切りぶつけた。

 

 「どうかお慈悲を! こんなのでも友人なんです!!!」

 

 「こんなのとは何だ! お前こそエルダーリッチなんぞと一体何を、」

 

 「馬鹿、黙ってろ!!」

 

 再度地面に頭を叩きつけられ、小柄な誰かの足元に小さなクレーターが出来上がる。そして、リュコスは自身も膝を着くと額を地にこすりつけた。

 

 「どうか、どうかお願い申し上げます。どうか……ッ!!」

 

 アインズには何故リュコスがこんなに慌てるのかいまいち分からないが、多分ここにアルベドが居たらこの小さい影の持ち主は瞬殺されていただろうな、と思った。とりあえず、安心させて話を聞くために「ああ、許そう。事情を話せ」とだけ答えた。

 

 「数百年ほど前に会った友人なのですが……久方ぶりの町でしたので、情報を貰おうと蝙蝠を送っていたんです。王都でインベルンが、」

 

 「イビルアイだ」

 

 「イビルアイが有名なチームに入っていると聞いて、接触し今の世について知ろうと思い立ち……。まさかこんなことになるなんて……本当に、なんと申し上げれば良いのか、ご厚情を賜り深く感謝いたします」

 

 ほっと肩を撫で下ろすリュコスを、イビルアイと名乗った仮面の少年? 少女? は訝しそうに見ている。魔力探知を防ぐ指輪をしているので、アインズの実力が理解出来ないようだ。それでもカンストならばある程度は見て取れるはずなので、彼女はリュコスが必死に庇うくらいに弱いのだろう。

 

 「しかし、お前の知り合いに存命の者がいるとは思わなかった」

 

 となると、イビルアイは人間種ではないことが伺えた。

 促すようにリュコスを見ると、それを察したのか、リュコスはイビルアイが余計な事を言わないようにか、彼女の口を万力の如き力で締め付けながら紹介を始めた。

 

 「彼女の名前はイビルアイ。この王都で二番目に強いとされる冒険者チーム、蒼の薔薇の一員です」

 




・五百年前
八欲王出現

・四百年前
400年 ご主人出現(25)-リュコス(5)
???年 スルシャーナが八欲王に殺害?される←捏造
459年 ご主人死亡(84)-リュコス(64)

・二百年前
???年 ザイトルクワエ討伐に十三英雄内七名がトブの森来訪
メンバー2名が未だ不明。この枠にイビルアイを突っ込んだ←捏造

設定捏造多めですがよほどの間違いなら直します。ガンガン教えて下さい
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