わんこ、エクストラステージ   作:ぱぱパパイヤー

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皆さん忘れてるかと思いますが、オリ主の名前はリュコス・ヴォールクです。描写の中に急に出てきても驚かないで下さいね。

あらすじ
大根役者デミウルゴス君はオリ主を冒険者モモン一行に加えることは出来るのか――?


第4話 下僕シンパシー

 暖炉の火に当たり俺はまどろむ。睡魔が波のように寄せては返し、意識はそれに合わせて緩やかな眠りと覚醒を交互に繰り返していた。

 ふと耳に何かが触れた。俺は誰に言われるでもなく気づく。

 

 (ご主人の手だ)

 

 口元が微笑む。丸まったまま、頭だけで擦り寄ると、耳の付け根を雑にごしごしされる。ご主人は錬金術師の癖に不器用だった。でも嬉しくて、俺は瞼の裏でそれを甘受する。

 ああ、ずっとこのままで居たい――。

 俺は頑なに目を閉じたまま、火に当たっていた。目を開けてしまったら、ご主人が消えてしまう気がした。

 心の何処かでこれは夢だと気がついていた。

 

 「リュコス」

 

 目を開けようとしない俺に焦れたのか、ご主人が名前を呼ぶ。俺は聞こえないふりをして、耳を伏せた。ご主人が再度名前を呼ぶ。

 

 「――リュコス」

 

 声が変わった。誰のものかはすぐに出てこなかった。

 俺を撫でていたご主人の指が変質する。暖かみのある油の無い手が固くなり、ご主人の肉刺まみれの手から硬質な何かに変わっていく。

 全身が総毛立つ。俺は震える瞼を持ち上げ、そっと振り返った。

 

 「ナザリックへ来い。お前は我が僕となるのだ」

 

 そこには死神が立っていた。

 

 

***

 

 

 こんこん、こんこん、とドアノッカーの鳴る音で目を覚ます。俺は慌てて燭台を手にし、踊り場から飛び降りて走って扉へと向かう。

 いつの間にか眠っていたらしい。睡眠を取る必要がないホムンクルスが見た貴重な夢がとんだ悪夢である。自覚出来るほど酷い顔と、そこに伝う汗を拭い、体裁を整える。俺は手袋を嵌めなおし、扉を引いた。

 

 「いらっしゃいませ。デミウルゴス様、アルベド様。今日は何の御用でしょうか」

 

 「水臭いじゃありませんか。偉大なる主を持つもの同士、畏まるのは無しでしょう? リュコス()

 

 おええええええ。爽やかな声質に吐き気がした。

 リュコス君、だってよ。リュコス君。デミウルゴスの笑顔に俺の胃腸は痙攣する。

 

 「そ、そうだな……デミウルゴス、()

 

 「それに、私のこともアルベドで良いって何度も言っているでしょう」

 

 「アルベド様はアインズ様の未来の正妃様だとお伺いしておりますから」

 

 「正妃、正妃ですって! ヴォールクは正直よねぇまったく!!」

 

 ばしんばしんと前衛職のアルベドに背を叩かれた。ふらつきながら燭台を避難させ、俺はデミウルゴスに助けを求める。

 

 「助けてくれませんか」

 

 「助けてくれないか、だろう?」

 

 「…………助けてくれないか」

 

 渋々言うと、彼がアルベドに何かを耳打ちする。たちまちのうちにアルベドは女ゴリラから淑女へと進化した。

 俺は漸く安心して背を向け、二人を客間に案内する。

 

 (一体何が狙いなんだろう……)

 

 俺たち下僕は基本的に主以外は眼中に無いはず。仕える為に造られたのだから当たり前だ。では何故こいつらは、連日人様の霊廟に立ち入って茶をしばきに来ているのか。

 俺だって最初の数回は、アインズの邪悪な威圧感を思い出し、手負いの獣のように彼らを警戒した。だというのに、こいつらときたら、昼夜問わず、あれから一日に一度は必ずやって来るのだ。今回で確か六度目。

 俺は辟易しながらも、彼らを迎え入れることにすっかり慣れてきてしまっていた。

 

 

******

 

 

 リュコスと名乗った人狼の青年が紅茶を出す。

 飲食の必要の無い身でも、嗜好品くらいは味わえる。紅茶はその一つで、リュコスの淹れるそれは中々に美味だった。何もかもが一流のナザリックに住むデミウルゴスがこう言うのだから、リュコスはこれを誇ってもいい。

 茶請けに出されたマドレーヌのバターの香りが舌に広がる。デミウルゴスは自分の反応を盗み見るリュコスに微笑みかけ、舌打ちをされた。

 

 「酷いな、リュコス()は」

 

 「あの、それやめてくれないか。……お前らがアインズ様に言われて、俺を仲間に引き入れようとしてるくらい分かってる。けど、意味がないからやめてくれ。俺は、ご主人様以外にお仕えするつもりはないんだ」

 

 お前らも、本当は分かってるんじゃないか?

 囁くような声は、耳をそばだてていなければ聞こえないくらいに小さかった。

 

 此方とて、魂胆がお見通しであることくらい分かっている。だがアインズは、それでも彼を手駒に加えるつもりらしいのだ。

 最初二人は、敬愛すべき主がこの屋敷を気に入ったのだと思った。強奪――というよりこの世界の正当な支配者であるアインズのものになるだけだが――の為にお供したのだが、そこにはこのリュコス・ヴォールクが居た。一筋縄ではいかないことは一目で分かった。

 

 そして、彼の主人がもう存在しないことも。

 

 同じNPCだからだろうか。二人はリュコスを見た途端――いや、或いは、彼がぎこちなく主人は就寝している、と言葉を濁した時に――全てを悟った。

 彼は己たちの行き着く先であるのだと。

 リュコスもリュコスで、最初のうちは酷くデミウルゴスたちを警戒していたが、それも今は無い。不信感よりも、この奇妙なシンパシーの方が打ち勝ったらしく、嫌そうではありながらも、最近は微かに歓迎の色すら見て取れた。

 彼の心中は想像するに容易い。何せ、アインズ――モモンガに見捨てられた自分達のことを思い描くだけで、事足りるのだから。悲哀、苦痛。それだけでは到底言い尽くせない絶望の渦の中、ナザリックという霊廟を守り続ける自分たちを写し取れば良い。

 その点で、デミウルゴスは彼に敬意を払っていた。アインズに見捨てられた己を思えば、到底彼のように理性的には在れないだろう。その上、彼は孤独だったからだ。

 この屋敷には、彼以外に生者は存在しない。凍てついた世界で、彼は一人きりだった。

 孤独――。気も狂いそうな絶望の中、支えあう仲間もおらず、一人寝食すら要らぬ身で、数百年を過ごすこととなった彼。彼のその重苦こそが、デミウルゴスの狙いだった。

 

 

 

 どんなに強靭な精神を持とうとも、主人亡き悲しき(しもべ)には、心の隙間が必ず出来る。

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を見抜いた件で、痛くリュコスを気に入ったアインズは、そこに漬け込むべくデミウルゴスたちを派遣したのだろう。……と推測される。

 

 正直なところ、デミウルゴスはこの推察に自信が無い。

 

 深遠なる御方の思想を完璧に理解することは、矮小なる身の上では殆ど不可能に近い。今回もアインズの作り上げた緻密な計画の、ほんの外側にしか触れられていないのだろう。でなければおかしいのだ。

 

 何故なら――ナザリックの忠実なる僕たちを支配し、最も身近で見ている他ならぬアインズが、彼らと同じく決まった主人に仕えるリュコスを引き抜けると思っているはずがないからだ。

 

 デミウルゴスはこの六日間、アルベドと共に知恵を絞り何時間も唸った。しかしどれほど考えようとも、答えは出ない。

 己たちの忠誠心を軽んじられている? だからリュコスを引き抜くことも容易いと判断なされたのだろうか? いいやそんなはずはない。その証拠に、アルベドの指には、光を反射して輝く至宝リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが嵌っている。これこそ、アルベドの忠誠心を認めている何よりの証である。

 徒に時間は過ぎ、もう六日が経った。リュコスの態度は軟化したが、ナザリックへ引き抜くことには成功していない。尚悪い事に、アインズはついに、前々より守護者達にのみ伝達していた御身自らの外部への接触を正式に宣言した。

 主人の意図を未だ読み解けないデミウルゴスでも、アインズがリュコスを欲しがった理由に"外部を元々知っている"という点と、ナザリックの者ではないが故に"捨て駒として扱える"という点が含まれていることくらいは分かっていた。この二つの利点を活かすためにも、なんとしてでも冒険者『モモン』の英雄碑の出発に間に合わせなければなるまい。

 

 アインズは『モモン』の補佐にナーベラル・ガンマを選別した。近いうちに出立することはまず間違いない。

 デミウルゴスたちには、最早一刻の猶予も残されていなかった。

 




すみません……さすデミは次話で。文字数がとんでもないことになりました。

オリ主君の精神が2話に比べて安定しています。孤独に狂いかけていたので、他者との交流によってある程度回復することが出来ます(尚この屋敷から離れると発狂)
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