ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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終わらないサプライズ

 

 

ここは数ある鎮守府の一つ。

そこは海の侵略者である深海棲艦と戦える存在、艦娘たちが寝食を共にする場所。

そして彼女達をまとめる者である提督がいる場所である。

しかし、そこではある問題が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠征の報告書持ってきたから、ちゃんと目を通してね」

 

「あまり近づかないでよ。 不快だわ」

 

「そんなところで油売ってる暇があったら、次の海域の情報でも調べたら? あなた、それぐらいしか役に立たないんだから」

 

 

さきほど報告書を持ってきた艦娘に悪態をつかれながら、提督は大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここの艦娘たちは提督を毛嫌いしている。

なぜこうなったのかは彼自身も分からなかった。

ここが元は艦娘達を酷使する場所、いわゆるブラック鎮守府だったとか、提督が艦娘たちにセクハラを働いていたとか、そんな理由は全くなかった。

この鎮守府は艦娘たちを酷使するほど苛酷な場所でもなく、提督も彼女達を艦隊の一員として大事に思い、無理な出撃は控えるようにしていた。 大破進撃など以ての外だった。

その証拠に前は彼女達も提督を慕い、親しい友人のように気さくに接していた。

それがなぜか、突然皆の態度が一変した。

顔を合わせれば露骨に顔を背け、出撃中に命令無視は日常茶飯事。 ときに艦娘の仕事である秘書艦業務をボイコットされることもままあった。

ただ、不幸中の幸いといえば、暴力行為にまで及んではいないということだ。

艦娘は姿形は人間の女性と変わらないが、その実態は人の形をした軍艦。 彼女達の力は人間を軽く凌駕していた。

あるブラック鎮守府では、提督の横暴に耐えかね一人の艦娘が提督を半殺しにしたこともあった。 殴られた衝撃で顎が砕け、肋骨を折られ、口にするのもおぞましい状態だったという。

余談だが、その艦娘は事情が事情ゆえに情状酌量の余地はもらえたという。

とはいえ、艦娘たちがその気になれば自分などひとたまりもない。

提督は、心当たりのない嫌悪といつこんな日が終わるのかという不安に駆られながら、ひたすら残された書類にペンを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、さっさと終わらせてよ。 鈴谷たち休憩できないじゃん」

 

「ほんとノロマですのね。 あーあ、どうしてこんな提督がここにきてしまったのかしら?」

 

 

仕事をしていれば、秘書艦の仕事をしていた鈴谷と熊野からあからさまに悪態をつかれ、

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

「行くよ電。 あの人に関わっちゃ駄目だ」

 

 

外に出れば、足元に転がってきたボールを取りに来た電を響が引き離していく。

どうやら、自分はとことん嫌われているようだと提督は自嘲気味に自分に言い聞かせた。

正直、逃げ出したい気持ちは何度もあった。

なぜ、皆ここまで自分を嫌ってしまったのか。 そう尋ねようとしたこともあったが、それをする機会さえ与えてはもらえなかった。

数日経った今でも、前みたいに皆が気さくに接してくれるなんて淡い思いは報われることもなく、今日も彼は鎮守府に置かれている提督用の私室に戻るべく帰り支度を整えていた。

 

 

「はは… どうしてこんな事になったんだろうな?」

 

 

自嘲気味に笑う提督の言葉にも、答えてくれるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日も、朝から散々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食をとりに食堂にやってくると、すでに食堂に来ていた艦娘たちから『食事中に入ってくるな』という気持ちが顔にも雰囲気にも現れていた。

提督をもそれを察してか、食堂には入らず一人屋上で適当に朝食を済ませる羽目になった。

 

 

 

 

 

午前の出撃では皆勝手に出撃しており、戦闘や進攻も独断で行う始末。

負傷して戻ってきた娘を出迎えても、『アンタに心配されたくない』とつっけんどんに返され、そのまま見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

午後の執務。 些細なミスを犯すたび、秘書艦を勤める加賀から嫌味のこもった指摘をされていった。

これまでの皆の態度から提督が精神的に追い詰められていても、彼女は容赦がない。 『ここ、数字が間違ってますよ。 そんなことも分からないの?』 『こちらは記入がもれてます。 貴方、こんな無能でよく提督なんてできますね』と散々なじられ、ますます提督は心身ともに磨耗していくのであった。

 

 

 

 

 

夕方の執務室。

ようやく執務が終わり、加賀はさっさと出て行こうと提督にねぎらいの言葉もかけず、書類をまとめ扉に向かう。

しかし、提督はそんな彼女に「待ってくれ…」と引き止める。

訝しげな視線を送る加賀に、提督は意を決して尋ねてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、皆どうしてしまったんだ!? 今まではこんなことしなかったというのに、なぜ皆俺を嫌うんだ!?」

 

 

「理由があるなら聞かせてほしい! 原因があるのなら可能な限り解決してみせる! だから、教えてくれ! 俺をそこまで嫌う理由を…!!」

 

 

 

心の底から声を張り上げる提督。

はあ… はあ… と苦しげに息を吐く彼に向けて、加賀は一言。 ただ、一言だけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…自分の胸に聞いてみてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に彼女は執務室を後にし、提督は呆然としたまま、彼女が去っていった扉を眺めているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、提督はとぼとぼといつも寝泊りしている自室へと向かっていた。

あれから加賀の言葉が頭から離れない。

あの後、自分が彼女達に嫌われるようなことをしたか必死に思い出そうとしたが、どうしてもその理由は見つからなかった。

セクハラはもちろん、何か彼女達に対して不手際があったわけでもない。

無茶な出撃はさせていないし、遠征に関しても皆均等に休息が取れるよう配備していた。

それでも、皆がここまで俺を嫌う理由はなぜだ…?

結局、彼女の言葉の真意がつかめないまま、提督は帰路につくことになった。 そのとき…

 

 

 

 

 

 

「あれは… 飛龍と蒼龍か?」

 

 

工廠の前で会話をする二人の艦娘、航空母艦である飛龍と蒼龍の姿があった。

遠くで話しているため、二人の会話ははっきりとは聞こえない。

とはいえ、このままここにいてはまた何を言われるか分からない。

提督は急いでその場を離れようとした時、微かに二人の会話が耳に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…飛龍、提督だいぶ参っているよ。 ここまでやった甲斐があったわね」

 

 

 

「…まあ、明日になれば提督も……。 …楽しみね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、提督はその場から駆け出していた。

息を切らせ、額に汗を流しながら、提督は必死で鎮守府の外へ出ようと逃げ出した。

心の中で、彼は確信した。

 

 

 

 

 

このままじゃ、自分は殺される!!

 

 

 

 

そう思ったのは、昔聞いた話を思い出したからだ。

かつて、ブラック鎮守府の提督が艦娘に殺されたことがあるという話を。

戦場では上官の死亡原因の2割が部下によるものだといわれている。

なら、今の自分もそこに含まれているということか!?

彼女達の真意は分からないが、少なくとも自分に敵意を抱いていることは分かる。

そうでなければ、皆が急にここまで辛辣になるわけがない。

とにかく、このままでは危険だ!

急いで鎮守府から離れようと提督は暗い夜道をひたすら走る。

逃げる当てはなかったが、ここにいては自分の命がない。

恐怖に駆られ、鎮守府の門をくぐった時、

 

 

 

 

 

 

 

「提督、そこで何をしている!!」

 

 

艦娘寮へ戻ろうとしていた長門に見つかってしまった。

提督は長門の呼び止める声に従わず、鎮守府を出て近くにある森へと逃げ込んだ。

遅れて、鎮守府から鳴り響くサイレン。 どうやら、長門が提督が逃げたことを報告したのであろう。 多くの艦娘たちが、提督を捕まえるため追いかけて来た。

艦娘たちは提督を探し回るが、暗い夜にうっそうと茂った草木が提督の身を隠し、艦娘たちの自分を呼ぶ声が徐々に小さくなっていく。

これなら逃げられる…! 提督はそう思ったが、

 

 

 

 

 

 

「提督、見つけたよ♪」

 

 

突如木の上からぶら下がってきた川内に見つかってしまった。

視界の効かない夜は他の艦娘たちには不利だったが、大の夜戦好きである彼女は夜の方が本領を発揮できた。

夜目は効くし、微かな音で敵の位置を察知するため耳も良い。 こうして提督を見つけ出すことなど、彼女にとっては造作もないことだった。

 

 

「う、うわあああああ!!」

 

「ちょっ、待ってよ提督!」

 

 

悲鳴を上げながら川内から逃げる提督。

捕まるわけにはいかない。 捕まったら殺される。

他の艦娘たちが自分の悲鳴を聞きつけ、駆けつけてくる。

その後も、死に物狂いで逃げる提督。 艦娘の追撃をかわし、草木を掻き分け必死に走っていたが…

 

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

提督が逃げた先。 森を抜けたその先は道がなく、漆黒の海が果てしなく広がる断崖絶壁と化していたのだ。

背後には自分を追って来た艦娘達の姿。 もう、提督には逃げる術がなくなっていた。

 

 

「く、来るなっ! 俺はまだ死にたくない!」

 

「何を言っているんだ提督!? ひとまず、落ち着いてくれ」

 

 

提督を宥めようと長門は提督に呼びかけるが、提督の方は聞く耳を持たない。

 

 

「やっと気付いたんだ…。 お前達が、俺の命を狙おうとしていることがな!!」

 

「馬鹿なっ!? なぜ私たちがそのようなことを…!」

 

「加賀、あの時お前が言った意味が分かったよ。 お前は皆が俺に殺意を抱いている事に気付けと、そう言いたかったんだな!!」

 

「ち、違います! 落ち着いて聞いてください、提督。 私たちは貴方に…!」

 

「うるさい黙れ!! 俺は死なない…、必ず生き延びてみせる! 死んでたまるか…! 死んでたまるか…! 死ん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、提督は艦娘達の目の前で姿を消した。

提督の肢体は空中に投げ出され、重力に引かれたまま黒ずんだ海へと落下していく。

一瞬、何が起きたか理解できない提督。

そんな彼が最後に見たのが、崖の上から自分たちを見下ろす艦娘たちの姿。

その表情は暗くてよく見えなかったが、提督の目には彼女達が海に落下する自分を、にたにたと愉悦のこもった顔で見下ろしているように見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ては、艦娘たちによるサプライズのつもりだったのだ。

ある日、もうすぐ提督が着任した日だと知った彼女達は、着任記念日ということで皆でお祝いしようとした。

ここの艦娘たちは自分達を大事にしてくれる提督を慕っている。 彼の喜ぶ姿が見たいという理由で、提督に内緒でこっそり着任記念の準備を行っていた。

しかし、そのまま祝っただけじゃ面白みに欠ける。

そう考えた艦娘たちは、ある提案をした。

それは、提督着任記念日の一週間前から皆で提督に冷たくすることで、記念日にお祝いするとき提督により喜んでもらおうというものであった。

そして、作戦は決行された。

案の定、急に冷たくあしらわれてしまい、提督は徐々に落ち込んでいた。

心にもないことを言って提督を傷つけるのは辛かったが、みんな全ては記念日までの辛抱だと言い聞かせてきた。

加賀が提督に言った、「自分の胸に聞いてみてください」という言葉も、「明日は貴方の着任記念日ですよ。 それくらい気付いてください」という彼女なりの遠まわしなアプローチのつもりだったのだ。

そしていよいよ着任記念日を明日に控えたこの日、事件は起こった。

皆の仕打ちに耐えかね、挙句に飛龍と蒼龍の会話を聞き誤解してしまった提督が、鎮守府から逃げ出したのだ。

皆急いで追って、提督に本当のことを伝えようとしたが、恐怖で錯乱していた提督は聞く耳を持たず、最後には崖から落下してしまったのである。

艦娘たちによる必死の捜索の結果、提督は発見され無事一命は取り留めた。

しかし、彼は落下の衝撃で脳にダメージを受けてしまい、感情も言葉も発せない状態。 いわゆる植物人間と化してしまった。

目は見開き、口は何も言わずうっすらと開いたまま。 何も言わない生きた人形と化した彼は今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ提督、今日は鈴谷がMVP取ったんだよ! 褒めて褒めて~♪」

 

 

 

「提督、今日の執務が終わりました。 そろそろお茶にしますか」

 

 

 

「これ、遠征の報告書。 大成功させたんだから、ちゃんと確認してよね♪」

 

 

 

 

 

 

鎮守府の執務室。 そこで大勢の艦娘達に囲まれ、慕われていた。

今までと違うことといえば、皆の目が黒くよどんでしまっていることだった。

あれ以来、自分達が提督をここまで追い込んでしまったという事実に耐えられず、彼女達も心が病んでしまったのである。

皆、何も言わぬ彼に嬉々として話しかけている。

壊れてしまった提督と、壊れてしまった艦娘たち。

そんな彼女達を前にして提督が何を思っているかは誰にも分からず、彼の手元には着任記念日のプレゼントとして用意されていた懐中時計が、着任記念日の日時を指したまま止まっていた。

 

 

 

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