ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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今回の話は某SSで艦これと笑うせぇるすまんのコラボSSに触発されて、自分でも書いてみました。
流石に今回はヤンこれ関係なくね? と突っ込まれそうなんですが、せっかく書いたのだしということで……

つ、次はちゃんとしたヤンこれ作品を出すつもりなので…!!


魅惑の眼

 

 

 

ここはとある鎮守府の執務室。

中では一人の青年と一人の艦娘がともに執務仕事を進めている。

青年は執務机に置いたノートパソコンの画面を見ながら、手を止めることなくパソコンへタイピングを進め、艦娘の方も誤字がないか集中しながら一枚一枚書類を書き続けていた。

しばらくタイピングの音とペン先が走る音が響いていたが、それも唐突に終わり代わりに青年が「うーん」と言いながら伸びをする声が聞こえてきた。

 

 

「お疲れ、榛名。 今日も助かったよ」

 

 

伸びで体をほぐし終えた青年は、自分の傍らで執務を手伝ってくれた艦娘へとお礼を言う。

 

 

「いえ、とんでもない。 提督のお役に立てたのなら、榛名も嬉しいです」

 

 

巫女服をモチーフにしたかのような格好をした艦娘、金剛型戦艦の三女『榛名』は胸に手を置きながらにっこりと微笑んだ。

自分に向かって笑顔を振りまく秘書艦に照れ笑いを浮かべつつ、提督と呼ばれた青年も彼女の方に向き直った。

 

 

「そう言ってもらえるとありがたいな。 秘書艦の仕事って、結構ハードワークだから榛名にはきついかと思って…」

 

「もう、そんな事言わないでください! これくらいの事、提督のためを思えば榛名は大丈夫です」

 

「あはは、それは失敬。 それじゃ、ここらで少し休憩にしようか」

 

「はいっ! 榛名、お茶を入れますね」

 

 

そう言って、榛名は軽い足取りでお茶の準備にかかる。

手慣れた様子でティーポットにお湯を注ぎ、紅茶を注ぎ込む。 英国出身の姉の指導もあって、彼女の紅茶はプロもうならせるほどのおいしさがあった。

提督もお茶菓子の用意を終え、二人は紅茶を嗜みながら会話に華を咲かせていた。

 

 

「うん、おいしい。 いつもこんなおいしい紅茶を飲めるのは榛名のおかげだな、ありがたいよ」

 

「い、いえ… 榛名がここまでできるのもお姉さまの指導があったからですよ」

 

「あはは。 そういう意味では金剛にも感謝しなくちゃだな」

 

 

しばらくとりとめのない話題を提督と榛名は楽しんでいたが、ふと提督は思い出したかのようにある話を切り出した。

 

 

「ああ、そうだ。 そういえば、ここの鎮守府にもついに大本営からケッコンカッコカリの指輪と書類が届いたんだ」

 

「えっ! ほ、本当ですか!?」

 

「本当だよ。 この艦隊にも最大練度まで上がった子たちは大勢いるし、あとは誰を相手に選ぶかなんだけど」

 

「そ、それで… 提督は誰を選ぶのですか…!?」

 

 

食い入るように提督に尋ねる榛名。 しかし、提督の返事は、

 

 

「……正直、決められないんだ。 皆魅力的な子ばかりだし、提督としても男としてもそこは慎重に決めていきたいところなんだ」

 

「……そう、ですか」

 

 

予想とは違った答えにしゅんと肩を落とす榛名。 その後は、またお互い他愛のない会話をしながら休憩時間を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…」

 

 

時刻は夕方。 執務を終えた榛名はとぼとぼとした足取りで自分と姉妹たちが暮らしている寮へと向かっている。

あれから、ケッコンカッコカリの相手を決めていないという提督の言葉が頭から離れなかった。

この鎮守府には、提督を上官でなく異性として慕っている艦娘は大勢いる。

しかし、ケッコンカッコカリの相手に選ばれるのは一人だけ。

根がまじめな彼の事だから恐らくジュウコンという選択は取らないだろう。

だからこそ、榛名は提督が誰とケッコンするのか気になってしょうがなかったのだ。

 

 

「……。 やっぱり、榛名じゃ提督には振り向いてもらえませんか」

 

 

 

「仕方ないですよね。 金剛お姉さまや大和さん、長門さんや加賀さんたちは榛名から見ても素敵な方たちですから…」

 

 

 

「でも… それでも榛名は提督に振り向いてほしいな……」

 

 

 

夕暮れの帰り道で、榛名は誰にでもなく本音を口ずさむ。

独り言のつもりでぼやいていたのだが、そこへ声をかける者がいた。

 

 

 

 

 

「どうしました、お嬢さん? ずいぶん浮かない顔をされてますが」

 

「キャアッ!! あ、貴方は…!?」

 

 

突然背後から自分を呼ぶ声に榛名は驚き振り返ると、そこには黒い帽子に黒いスーツという黒一色に身を包んだ見知らぬ男が立っていた。

男は表情を変えることなく、榛名へと謝罪の言葉をかける。

 

 

「これは驚かせてしまい大変失礼しました。 実は私こういう者でして」

 

 

そう言って、男はスーツの懐から一枚の名刺を取り出す。

おっかなびっくりの様子で榛名も名刺を受け取り、それを見た。

 

 

「心のスキマ、お埋めします…?」

 

「はいっ。 私は貴方のような心のスキマ、いわゆる悩みを持つ人のお役に立てるようなセールスを行っているのです」

 

「先ほど、溜息を吐きながら悩みをつぶやくあなたの姿が見えたので、もし私でお力になれるのでしたらと思い、声をかけさせていただきました」

 

「よろしければ、貴方の持つ悩みを私に話してくれませんか?」

 

 

榛名はしばらく名詞と男の顔を交互に見合わせていたが、せっかく自分に声をかけてくれたのだし、悩みだけならと思い、

 

 

「実は……」

 

 

先のケッコンカッコカリの事を男に打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。 つまりあなたは好きな人に自分を選んでほしい、そういうわけですね?」

 

 

スーツの男、喪黒福造は榛名の悩みを復唱する。

榛名の方も自分の悩みを打ち明けられたからか、少し明るさを取り戻した様子で話をつづけた。

 

 

「はい… 提督は素敵な方ですが、それゆえに榛名以外にも想いを寄せている娘は大勢います。 お姉さまや他の皆さんも魅力的な方ばかりだし、その中から選ばれるなんて榛名にはとても……」

 

 

表情は明るさを取り戻しつつも、声は覇気がなく暗い口調で話す榛名。 喪黒はしばらく榛名の話を聞いていたが、

 

 

「そんな貴方にピッタリの商品がありますよ!」

 

 

突然榛名の言葉をさえぎり、手にしていたアタッシュケースから小さなペンダントを取り出した。

宝石のような赤い水晶がはめ込まれたペンダントで、周りにはつがいの鳥をイメージしたような彫刻が掘られている。

そのきれいなペンダントに榛名が目を奪われていると、喪黒はペンダントについて説明をしてくれた。

 

 

「これは魅惑の眼というある外国の村で作られたもので、この鳥のように愛する者がお互いに結ばれる…いわゆる恋愛成就の願いがこめられているのです」

 

「そしてこのペンダントには、身に着けた人の魅力を引き出し意中の人を振り向かせる力があるのです」

 

「よろしければ、これを貴方に差し上げます。 ぜひ、使ってみてください」

 

「あ、ありがとうございます…! で、でもこんな高価な品物じゃきっと高いんじゃ……」

 

「それについてはご安心を。 セールスと言ってもボランティアみたいなものなのでお代は一円もいりません。 貴方のようなお客様に喜んでいただくこと、それが私にとってのお代となります」

 

 

その言葉に、「それならば…」と言いながら榛名もおずおずとペンダントを受け取った。

そして、寮へ戻ろうとしたとき、喪黒がふいに榛名を呼び止めた。

 

 

「ああ、言い忘れるとこでした。 一つ注意しておきますが、それはあくまで貴方の魅力を引き出すもの、つまりあなた専用の物です。 なので、決して他の人にそのペンダントを身に着けさせてはいけません。 それだけは覚えておいてください」

 

 

その言葉を最後に喪黒はこの場を去っていき、榛名も寮へ戻るべく足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

次の日、榛名はさっそく喪黒からもらったペンダントを身に着けてみた。 首の後ろで結んで、鏡を見ながら身だしなみを確認していると、後ろから誰かが声をかけてきた。

 

 

「Good morning榛名ー!」

 

「あっ、おはようございます金剛お姉さま」

 

「What? 榛名、そのペンダントはどうしたんですカー?」

 

 

榛名の姉、金剛型戦艦の長女『金剛』は榛名の首元に下げられたペンダントを見て、首を傾げた。

 

 

「こ、これはですね… この前外に遊びに行ったときに偶然見つけて、綺麗だから買ってきたんです」

 

「そうでしたカ。 似合っているネ、榛名~♪」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

喪黒のことは言わず、適当な嘘をついてこの場をごまかしたが、金剛は特に疑問も持たずに素直な感想を榛名に送ってあげた。

その後、いつものように執務をこなすべく榛名は提督のいる執務室へとやってきたが、

 

 

「……?」

 

 

提督の様子がいつもと違うことに榛名は変に思った。

普段はパソコンや書類に一心不乱に目を向ける提督が、今日はやけにこちらを見ている気がする。

それもただ見てるだけじゃない。 その顔はどこか照れているかのように少し赤くなっている。

榛名も疑問を抱きつつも、いつものように執務をこなしていると、

 

 

「…なあ、榛名。 今日は、何かおしゃれでもしてきたのか?」

 

 

突然の提督の言葉に榛名も少し驚いた。 普段はそんな事言わないはずなのに…

 

 

「へっ? いえ、特に何もしてませんが……」

 

「そうか… いや、すまなかった。 なんだか榛名がいつもよりきれいに見えたから、つい…」

 

「あ、ありがとうございます! 嬉しいです!」

 

 

愛しい提督からの褒め言葉に思わず舞い上がる榛名。 そして、自分の首元にかかっているペンダントに視線を向ける。

 

 

 

 

 

(もしかして、これってペンダントの力!?)

 

 

 

 

 

その後も何度か提督から視線を向けられながら、榛名は心地よい気持ちで執務を進めていった。

そして時刻が昼に差し掛かった頃、

 

 

「あ、あのさ榛名… この後、もしよければ一緒に昼食を取りに行かないか?」

 

 

またも提督から思わぬ誘いを受けた。 もちろん、大好きな提督からの誘いを断る理由は彼女にはなく、

 

 

「は、はいっ! 榛名でよければご一緒します!!」

 

 

心臓がバクバクなるのを抑えながら、榛名は誘いに応じた。 提督も嬉しそうに笑みをこぼしていると、突然扉が開き金剛が執務室にやってきた。

 

 

「テートクー! 私と一緒にLunchに行きまショー!!」

 

 

元気いっぱいに提督を誘おうとするが、提督は少し困り顔になり、

 

 

「すまない、金剛。 今日は榛名と二人で行く予定なんだ。 昼食の誘いならまた今度にしてほしいんだ」

 

「……そうでしたカ。 それじゃ仕方ないデース。 じゃあ榛名、私の分まで楽しんできてくだサーイ」

 

 

そう言いながら金剛は執務室を後にしていった。

少し寂しげに見える姉の背中を見届けつつ、榛名も金剛へぺこりと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日は榛名にとって夢のような日々だった。

 

 

ある日の演習では、榛名が旗艦のときに提督が自分の戦う姿を見に来ており、励ましの言葉を送ってくれた。

 

 

「いいぞ榛名―! その調子だ!!」

 

 

その言葉に榛名も張り切り見事MVPをゲット。 ご褒美と称しての間宮のデザートは、向かいに座る提督に見とれて味がわからなかったという。

 

 

 

またある日の執務では、量が多すぎて深夜までかかってしまい寮へ戻れなくなった榛名に提督が執務室に泊まればいいと誘ってくれた。

そんな提督へ、榛名は思わず提督と一緒に寝たいと呟いてしまい、おまけにそれを提督に聞かれてしまった。

榛名は慌てて訂正しようとしたが、提督は笑いながらそれを了承。 結果彼女は朝まで提督と同衾するという他の艦娘たちが知ったら卒倒しそうな時間を過ごすことができたのであった。

 

 

 

 

 

そんな毎日を過ごした榛名の元に、吉報が訪れた。

提督から大事な話があるとの呼び出しを受けて榛名が執務室を訪れると、そこにはそわそわと落ち着かない様子の提督がいた。

 

 

「何でしょう提督、大事な話って?」

 

「……。 これを見てくれ、榛名」

 

「こ、これって……!」

 

 

提督が机に置いたものを見て、榛名は目を見開いた。

そこにあったのは黒い小さな箱。 そしてその中にはケッコンカッコカリに使われる指輪が整然と収められていた。

 

 

「前に榛名にケッコンカッコカリの相手を誰にするか話したのは覚えているか? あれから、なぜか俺の中で榛名に対する思いがどんどん大きくなってな。 気が付いたら榛名の事を考えずにはいられない自分がいたんだ」

 

「それで、俺も決心した。 俺はこれからも榛名にそばにいてほしい。 部下でも秘書艦でもない、榛名という一人の女性にいてほしいんだ」

 

「だから、俺はこの指輪を榛名に送ろう。 …受け取ってもらえるか?」

 

 

提督からの告白。 そして自分の目の前に置かれた指輪を受け取りながら、榛名は涙を流して答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。 榛名でよければ、これからも提督と一緒にいます」

 

 

その場で嬉しさのあまり泣き崩れる榛名。

そんな榛名を、提督は何も言わず優しく抱きしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方。 提督からの告白にこれ以上ないほどの嬉しさを抱きながら、榛名が寮へ戻ろうとしていた時だった。

 

 

「どうも、榛名さん。 お久しぶりですね」

 

「あっ、喪黒さん! お久しぶりです」

 

 

向かいの道からひょっこり現れた男、喪黒へ榛名は明るい笑顔を見せる。

 

 

「どうでしたか、榛名さん。 ペンダントの効果は?」

 

「もう最高です! あのペンダントのおかげで毎日とっても楽しいですし、て…提督からもケッコンカッコカリの相手に選ばれました。 榛名、本当に感激です!!」

 

 

今朝の出来事に思わず顔がにやける榛名。 そんな彼女に、喪黒は表情を変えず話を続ける。

 

 

「それはなによりです。 ただ、あの言いつけについては覚えていますね?」

 

「このペンダントを他の人に渡してはいけないんですよね? はい、ちゃんと覚えています」

 

「覚えているのであれば結構です。 では、私はこれで失礼…」

 

 

帽子を取って軽い会釈をすると喪黒はその場を後にしていく。 榛名も喪黒へ頭を下げると、いつもの寮へと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の寮。 自室で榛名は鼻歌交じりに髪を梳かしていると、

 

 

「ヘーイ、榛名ー。 ついに提督からケッコンカッコカリを申し込まれたそうネー」

 

 

いつもの明るい口調で自分に話しかける金剛に、榛名も櫛を梳かす手を止め金剛へと向いた。

 

 

「お姉さま、ご存じだったんですね」

 

「榛名が提督といつも一緒にいるところを見れば、それくらい分かりマース。 おめでとう、榛名」

 

「あ、ありがとうございます。 でも、お姉さまを差し置いて榛名が選ばれるなんて、なんだか申し訳ない気が…」

 

「私の事はDon't worryデース。 妹が幸せになるのに、お姉ちゃんがうれしくないわけないのネー」

 

「金剛お姉さま……」

 

「デモ、一つ気になることがあるのですが、どうして提督は急に榛名にゾッコンになったのでショー?」

 

 

首をかしげて不思議だなーというポーズをとる金剛を見て、榛名も流石に打ち明けてもいいかと思い、鏡台の上に置いてあるペンダントを手に取った。

 

 

「あの、実はですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、榛名は今までの出来事とこのペンダントの事を打ち明けた。

話を聞いた金剛は驚きながらも、そのペンダントをまじまじと見続けていた。

 

 

「Wow… このペンダントにそんな力があったなんてUnbelievableネー」

 

「はい。 榛名も初めは信じられなかったのですが、これのおかげで提督からも選ばれましたし、榛名は自分に自信が持てた気がします」

 

 

嬉しそうに微笑みながら榛名はペンダントを見つめると、爛々と輝く水晶が二人の顔を映し続けている。

しばらくすると、ペンダントを見つめていた金剛がこんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

「…ねえ榛名。 もしよければ、そのペンダントを私がつけてみてもいいですカー?」

 

「えっ? でも、これは榛名以外の人がつけてはいけないと言われてますから…」

 

「ちょっとくらいなら大丈夫ヨー。 提督をメロメロにしたそのペンダントがどれほどすごいのか、私も試したいのデース」

 

「……。 じゃあ、少しだけですよ」

 

 

結局、金剛の頼みを断り切れずに榛名は金剛へペンダントを渡した。

金剛は自分の首元にペンダントを下げると、ちょっと提督に見せてくると言って、すぐに自室を後にするのであった。

 

 

「……お姉さまに貸してしまいましたが、あれでお姉さまが元気になるのなら少しぐらいいいですよね」

 

 

榛名ポツリとつぶやきながら金剛を見送り、そろそろ自分も寝ようと自室に戻ってきたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榛名さん。 貴方、約束を破りましたね…」

 

「も、喪黒さんっ!?」

 

 

いつの間にか部屋の中央に佇んでいた喪黒に驚きの声を上げる榛名。

表情を変えぬまま、喪黒は一歩一歩榛名へと詰め寄っていく。

 

 

「私は確かに言いました。 あれは他の人が身につけてはいけないと… でも、貴方は他の方にあれを渡してしまいました」

 

「そ、それは… お姉さまが気の毒だったし、あれで元気になればと思って、つい……!」

 

「言い訳は聞きません。 約束を破った以上、貴方には罰を受けていただきます」

 

 

そう言いながら右手の人差し指を榛名の前に突き立てる喪黒。

得体のしれない恐怖で体が動かない榛名に、それは訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ド―――――――――ン!!!!

 

 

 

 

 

 

きゃああああああああああっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の衝撃に一瞬目の前が真っ暗になる榛名。 次に彼女が意識を取り戻したとき、

 

 

「……? 喪黒さんが、いない…」

 

 

そこに喪黒の姿はなかった。 辺りを見渡しても窓から出た形跡もなく、どうなっているのかと榛名が困惑していると、

 

 

 

 

 

 

「……榛名」

 

 

後ろを振り返ると、部屋の入り口には金剛が立っていた。

少しうつむき加減で顔ははっきり見えず、そこに佇んでいる。

 

 

「お姉さま、どうしました? 提督のところに行ったのでは…」

 

 

そう言って、榛名が近づいた時だった。

 

 

「…っ!? お…姉…様……!? な…にを……!?」

 

 

突然金剛が顔を上げて榛名の首を鷲掴みにした。

首を絞められ息もまともにできない。 振りほどこうにも金剛の力が強すぎて振りほどけない。

息も絶え絶えにどうにか榛名が尋ねると、金剛は声を荒げた。

 

 

「…なんで」

 

「えっ…?」

 

「何で提督は私じゃなく榛名を選んだの!? 私の方が榛名よりずっとずっと提督のことを想っていたのに!! 食事の時も執務の時もずっと提督を独り占めして、何で榛名が提督に選ばれたのよ!?」

 

「お…ねえ…さま……! く、くる……しい……!!」

 

 

より一層力を籠める金剛に、榛名は必死に声を上げる。

首を絞められながらもかすかに見えた姉の表情。 それは自分の知ってる優しく温かい姉ではない。 大切な者を奪われ、怒りと憎しみに顔を歪める一人の女の顔だった。 悪鬼羅刹、今の金剛の表情を例えるならこの言葉が一番ふさわしいだろう…

 

 

「…そっか。 私は榛名じゃないから提督に選ばれなかったのね。 なら…それなら……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナタヲ殺シテ、私ガ榛名ニナレバイイ…」

 

 

 

「やめ…て…! や…いや………いやあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おお、怖い怖い。 女の嫉妬とは、かくも恐ろしいものですな」

 

 

艦娘寮の前。 喪黒はかすかに聞こえてきた榛名の悲鳴を背に、真夜中の鎮守府を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「人間の魅力というものは、周囲の好意や羨望だけでなく、恨みや妬みまで引きつけてしまうものなんです。 人気者というのも、案外大変なことなんですね。 ホ―――――ホッホッホッホッホッ!!」

 

 

 

 

 

誰もいない夜の道。

そこには全身黒づくめのセールスマンの笑い声が、漆黒の空へ響き渡るのであった。

 

 

 

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