ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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どうもー! ようやく後編ができたので、投稿します。
艦これのイベント海域攻略でなかなか筆が進まなかったのですが、その分収穫はあったので自分としては嬉しい限りです。
まあ、こっちも楽しんでもらえれば、なおうれしいのですが…





綺麗な花には棘があり、可愛い花には毒がある

 

 

 

鎮守府の食堂。 昼食の時間になり、電たちと共に色とりどりの料理を前にして提督は考えていた。

 

 

「まずい… 咄嗟にあんなことを言った手前、どうやって事を収めよう……」

 

 

事の発端は、ある日いつものように艦これをプレイしていた彼が目を覚ますと、いつの間にか自分が担当していた鎮守府に提督として着任。 そこで出会った初期艦、電と共に他の艦娘たちに顔合わせしていた時、なんと前にプレイしていた時の初期艦、叢雲とバッタリ遭遇してしまったのだ。

叢雲は長いこと戻ってこなかった彼を自分の所属する鎮守府へ連れて行こうとしたところ、戻ってきた電と遭遇し、一触即発の修羅場へと発展。

おまけに提督である彼が皆を止めようとしたとき、懐からケッコンカッコカリに使われる指輪が落ちてしまい、皆は我先にとケッコンの相手に志願。 それを決めるため、今日一日皆と一緒にいて一番好きになった子とケッコンすると言って、今は電側の鎮守府で昼食を取ろうとしているところであった。

 

 

 

 

 

「…皆は、どうあっても俺とのケッコンカッコカリを望んでいる。 公平を期すためにってことで、俺は電と叢雲の鎮守府にそれぞれ顔を出さなきゃいけない。 それ自体は別にいいんだが、どうすればみんなを納得させてやれるか……?」

 

 

彼は深いため息とともにがくっと項垂れる。

あれから思考を巡らせるものの、結局いい打開案は思いつかず。 そんな彼へと、傍らにいた一人の艦娘は優しい口調で話しかける。

 

 

「提督。 何か考え事をされてるようですが、せっかくの料理が冷めてしまいます。 どうぞ、お召し上がりください」

 

 

この食堂の料理長を務める、和風美人を体現したような艦娘。 軽空母『鳳翔』は自分の料理を勧めてくる。

最初は悩み顔だった提督も、彼女の温かい笑みを見ると、さすがにこのまま考えたままも失礼かと思い、小さく頷いた。

 

 

「あっ、すんません鳳翔さん。 それじゃ、頂きまーす」

 

 

ほかほかと暖かそうに湯気を立てる料理を箸で摘み、さっそく一口食べようとした。 その時…

 

 

 

 

 

「ちょっと待つネー!!」

 

 

突然食堂に響き渡る声。

料理をつまんだままの提督が声のした方を見ると、そこには両腕を組み仁王立ちをした金剛がつかつかと駆け寄ってきた。

一体どうしたのかと提督が唖然としていると、金剛は近くにあった箸立てから箸を取り出し比叡に渡した。

 

 

「比叡、一口食べてくだサイ」

 

「はい、お姉さま。 気合、入れて、食べます!!」

 

 

比叡が提督の料理を一口食べた途端、比叡はばたりとその場で倒れこんだ。

テーブルに突っ伏しながら寝息を立てる比叡を他所に、金剛は睨むような視線を鳳翔へとむけた。

 

 

「…ヘーイ鳳翔。 これは一体どういう事デース? なぜ提督の食事に睡眠薬が盛られているのネー?」

 

「あらやだ、私ったら塩と間違えて入れちゃったのね。 すみません、ついうっかりしてて」

 

「もしかして、提督を眠らせてる隙に指輪を奪うつもりだったのではないですカー?」

 

「……。 もう嫌ですね、金剛さんは。 そんなことするわけないじゃないですか♪」

 

 

恥ずかし気に鳳翔は口元に手を当てて笑っているが、その眼は笑うどころかまるで忌々しいものを見るような目をしており、提督もまた指輪を手に入れるためなら手段を選ばない彼女の行動ぶりに、思わず背筋がゾッとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、今度は叢雲側の鎮守府。

結局一口も食べないまま昼食を終えた提督は、今度は叢雲と共に港を散歩していた。

さっき、薬を盛ってきた鳳翔の行動力を鑑みるに、艦娘たちはいつどこで自分を陥れようとしてもおかしくない状況だ。

さすがに彼も警戒心を抱きつつ、隣を歩く叢雲の言動に注意を払っていたが、

 

 

「…何よ、そんなに私の事ジロジロ見て。 私の顔に何かついてるの?」

 

 

叢雲におかしな言動は見られず、照れくさいのか少し顔を赤くしながら提督の手を取って歩くだけだった。

不意に叢雲がこちらに顔を向けたからか、提督も照れくささからつい顔をそむけてしまった。

だけど、こうして近くで叢雲を見てると彼女の美麗さがよくわかる。

隣を歩く彼女の髪は、そっと流れてくる風に揺れて、まるで陽光を反射させる水面のように輝いている。

整った顔立ちにさりげなくこっちを見つめる橙色の瞳。 見られていると思うだけで、自ずと自分の心臓も早鐘の様に鳴っている。

改二になって様変わりした服は、彼女のスレンダーなボディラインを強調しているかのようで、男として意識せずにはいられなくなる。

ドギマギしながらも平静を装いながら叢雲と一緒に歩く提督だったが、当の叢雲は彼の様子に気づいていたのか、口元に手を当てながらクスリと笑った。

 

 

「アンタ、さっきから私のこと横目で見てるでしょ。 そんなに見られたら嫌でもわかるわよ」

 

「うっ… す、すまん。 別に、下心があったとかそんな如何わしい理由じゃなかったんだ。 ただ、つい叢雲の事が気になって……」

 

「ふーん… もしかして、アンタもようやく私の魅力に気づいたの? ほんと、鈍いやつよね」

 

 

呆れの混じった口調で彼女は肩をすくめ、提督も本当に下心とかじゃないんだと必死に説明していたが、

 

 

「へっ?」

 

 

突然叢雲が提督の手を取り、自分の左胸に押し当てる。

急な行動に彼も困惑するが、叢雲は赤みがかった顔をますます赤くしながら彼に言う。

 

 

「分かる? 私も、その……さっきから、アンタに見られて心臓の鼓動が早くなってるの」

 

「わ、私だって一人の女だし、今まで待ち続けていた人から見つめられて、ずっと緊張してたのよ」

 

 

言われてみて、提督も気づく。

確かに自分の手を押し当てる叢雲の左胸からは、ドクンドクンという心臓の動きが自分と同じくらい早くなっている。

だが、彼も叢雲の顔が間近にある事と、彼女から香るいい匂いが自分の心臓をますます激しくする。

 

 

「だ、だから… アンタが私を選んでくれるっていうのなら、私もアンタとケッコンしてあげるわ。 アンタが望むのなら料理だって作ってあげるし、そ…それ以上の事だって……///」

 

 

真っ赤な顔で叢雲は提督の顔を見つめてくる。

その姿がますます彼女の魅力を引き出している。

これにはさすがに提督も理性が限界に達しようとしていた。

本能の赴くままに、このまま叢雲を抱きしめたい。

そんな欲求に駆られるまま、彼が抱きしめようとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待つのです!!」

 

 

電光石火のごとく現れた電が、突如二人の間を割って入るように飛び出してきた。

いきなりの登場に二人は目を白黒させており、電はそんな二人の目の前である物を取り出した。

 

 

「い、電っ!? その手に持ってるものは……香水?」

 

 

そこにあったのは、薄い紫色の香水が入った小さな瓶だった。

なぜそんなものを出したのかと提督は首をかしげていたが、叢雲の方は、

 

 

「そ、それアタシの…! ちょっと、返しなさいよっ!!」

 

 

血相を変えながら電に詰め寄っていく。

しかし、電は叢雲の言葉に耳を貸さず、

 

 

「翔鶴さん、ちょっと失礼するのです」

 

 

後から遅れてやってきた翔鶴の顔へ香水を一吹きした。

すると、香水を吹きかけられた翔鶴は、急に膝から崩れ落ちた。

 

 

「お、おいっ! 大丈夫か翔鶴!?」

 

 

提督が慌てて翔鶴へ駆け寄ると、彼女からはかすかに叢雲から香ったものと同じ匂いがする。

そのことに気づくと、翔鶴がゆっくりと顔を上げて提督の顔を見る。

提督も翔鶴に大丈夫かと声をかけようとしたが、できなかった。 なんだか、翔鶴の様子がおかしかったからだ。

 

 

「てい…とく…… 私、なんだか…急に、体が火照ってきて…… できれば、その… 提督に、この火照りを沈めてほしいのですが……」

 

 

息を荒くし、熱っぽい目で翔鶴は提督を見つめにじり寄っていき、さりげなく指で着物をずらしながら胸元を見せつけてくる。

突然の変貌ぶりに提督も後ずさりしたところへ、駆けつけてきた長門が手刀を入れて翔鶴を気絶させた。

 

 

「なるほど、媚薬入りの香水ですか。 自分の体に振り撒けば近くの異性を誘惑できる。 こんなものを使って司令官さんを虜にしようだなんて、ずいぶん小狡い手を使いますね」

 

「な、何の事かしら……?」

 

 

ジト目を向ける電に、露骨に目逸らししながらとぼける叢雲。

そして、二人の後ろでは……

 

 

 

 

 

「ま、マジかよ… 叢雲のやつも、あそこまでやるほどなのか…?」

 

 

危うく叢雲の策に嵌められそうになった提督が、背筋を寒くしながら二人を遠目に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び場所は変わって、電側の鎮守府の執務室。 提督はそこで電とともに執務をこなしていた。

やってることは書類の内容の確認と承認のサインを入れるという簡単なもの。 しかし、やることは簡単とはいえ、承認する内容は重要な事。 提督は、一枚一枚書類を確認しながらゆっくりと作業を進めていた。

しばらくはお互い無言のままで作業を進める傍ら、提督は電に何かおかしな挙動はないかさりげなく目線を送る。

叢雲の一件で一悶着あった後も、艦娘たちとの交流ではいろんなことが起きていた。

五航戦組の二人からは実際に艤装の弓を引かせてもらったが、持ち方や構えについて教えると称しやたらくっついて誘惑してきたところを赤城と加賀による一航戦組が阻止したり、両鎮守府による演習では金剛や榛名がわざと被弾して提督に入渠ドックに連れてってほしいと迫ってきたところを、相手を務めた長門や陸奥が代わりに担ぎ上げていったりと、どちらかの鎮守府の艦娘が彼を誘惑しようとするともう片方の鎮守府の艦娘たちがそれを阻むという流れが繰り返されていた。

そんなことが幾度とおこり、流石に提督も艦娘たちの言動に怪しいところはないか慎重になっていた。

 

 

「っ? どうかしました、司令官さん?」

 

「…あっ、いや、何でもないんだ。 ただ、電のほうは疲れてないかなって」

 

「電なら大丈夫なのです。 心配してくれてありがとう、司令官さん♪」

 

 

中央のソファで執務をこなす電はあどけない笑みを浮かべてお礼を言う。

叢雲の一件以来、彼女に不穏な様子は見られなかったが、今までの彼女たちの行動を見てるといつ自分が狙われてもおかしくない。

電も表には出さないだけで、虎視眈々と自分とケッコンする隙をうかがっているのではないか?

そんな猜疑心を抱きながら、提督は黙々と執務を続けていく。

 

 

「……ふう、あとちょっとでこの書類も片付くな」

 

 

それから執務をこなす提督だったが、今までの警戒が杞憂に思えるほど電は何もせず執務を手伝ってくれていた。

たまにお茶を入れてきますねと言って、隅に置いてあるポットでお茶を用意する際も不審な動きがないか目を光らせたが、その素振りはない。

たまにここに記入漏れがありますよと言って提督に駆け寄るときも、おかしな動作は見られなかった。

 

 

(流石に疑って悪かったかな…?)

 

 

提督がそんな罪悪感を感じていると、電が残りの書類をもって提督の元へやってくる。

彼はそれを受取ろうと手を伸ばしたら、

 

 

「司令官さん… その……、ごめんなさいっ!!」

 

 

突然電は提督に向かって頭を下げたのだ。

急な出来事に戸惑う提督。 どこか泣きそうな顔をして、電は話を続ける。

 

 

「司令官さんが叢雲さんに連れて行かれそうになった時の事を覚えてますか? あの時、電は司令官さんの気持ちも考えず、無理に指輪をもらおうとしてました。 そのことが許せなくて……」

 

「べ、別にいいって。 そこまで深く気を落とさなくても……」

 

「それだけではありません」

 

 

涙にぬれた目で、電はそっと提督の手を握る。

うるんだ瞳と、小さく温かい電の手に提督もドキドキしながら電の話を聞いた。

 

 

「電は司令官さんの事が大好きです。 だから、あの時叢雲さんが連れて行こうとしたのを見て、何としてでも司令官さんを取り返さなきゃっていう衝動に駆られてしまったのです。 そのせいで、司令官さんのことなど見ようともせず、自分の欲望のために指輪をもらおうとしてた。 電は、最低なのです……」

 

 

顔を俯かせ、訥々とした口調で自分を戒める電。 そんな彼女を見やりつつ、提督も穏やかな顔でそっと電の頭を撫でた。

 

 

「そんなに自分を責めるな、電。 やり方は何であれ、お前は俺を想ってそのようなことをしたんだろ? そこまで好かれて、嬉しくないわけないじゃないか」

 

「それに、元はと言えば俺がお前や叢雲たちの事を考えず、こんなことをしたのがそもそもの原因なんだ。 そういう意味では、本当に最低なのは俺の方だ」

 

「今は指輪は一つしかないから一人としかケッコンカッコカリできないが、指輪を取り寄せたらいくらでもしてやる。 約束するよ」

 

「司令官さん……」

 

 

提督の言葉に電も涙を拭くとにっこりと笑い、提督もそれを見て安堵の笑みを見せた。

 

 

「あっ、そうでした! 司令官さん、こちらの書類が残ってたのでサインをお願いします」

 

「ああ、分かった。 じゃあこれで執務はおわ…り……」

 

 

電が差し出された書類を受け取り、提督はサインをしようとペンを下ろそうとしたところでぴたりと手を止めた。 何故なら……

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…、電…… これ、ケッコンカッコカリの書類なんだが…」

 

 

電から差し出された書類の最後の一枚。 それはケッコンカッコカリを受諾するための確認書類だった。 ご丁寧にケッコンの相手に電の名前も書きこまれている。

 

 

「はわわっ!? す、すみません! つい間違えてしまいました…」

 

「あ、あはは… 電はおっちょこちょいだなー…」

 

 

苦笑いを浮かべながら提督は書類を電に返し、電も慌ててそれを受け取る。

残った書類を確認しサインを終えると、ちょっと外の空気を吸ってくると言って、その場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

「………チッ」

 

 

去り際に、微かに誰かが舌打ちする音が聞こえたが、気のせいだと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

鎮守府の廊下。 時刻は夕暮れに差し掛かり、もうすぐ夜になる。

外に面した窓からは夕日が注ぎ込み、廊下をオレンジに染め上げている。

そんな廊下に出た提督は、一人壁に手を付けながら冷や汗を流していた。

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ!! もはや電までもが手段を問わずガチで俺とのケッコンを狙っている…! このままじゃ、まじでここに閉じ込められてしまうぞ」

 

 

彼自身、初めは艦娘たちと会えたことを喜んでいたが、想像以上に彼女たちが自分へ向ける愛が重すぎた。

いくら皆が好きだからと言っても、ここまで重い愛を受けきる自信はないし、何より元いた世界の生活を捨ててまで残りたいとは思っていなかった。

どうにかして、元の世界に戻らなければ…!

彼も元の世界へ帰ることに思考を切り替えようとするが、同時に今日一日過ごしてきたことも思い出す。

 

 

「……。 でも、俺に会えたことを皆が心から喜んでくれてたことも事実なんだよな。 そんな皆を、俺は今まで放っていたのか……」

 

 

改めて、自分がしてきたことを思い出す。

自分がどれだけひどい仕打ちを彼女たちにしてきたのかと…

考える気力も起きず、提督は一人壁にもたれかかりその場に座り込んだ。

 

 

 

 

 

「…ようやく、自分のしてきたことに気づいたみたいですね」

 

「…っ!? 誰だっ!?」

 

 

突然廊下に聞こえた少女の声。

提督は驚き辺りを見渡すと、声の主は少し離れた場所にいた。

あけ放たれた窓のふちに腰かけ、抑揚のない表情を提督へ向ける一人の少女。

その姿に、提督は見覚えがあった。

 

 

「お、お前はエラー娘!? なぜ、こんなところに…?」

 

 

提督からエラー娘と呼ばれた少女は、窓から廊下へ滑り落ちるように着地すると、提督の方へ近づき理由を話した。

 

 

「なぜ、こんなところにいうのであれば、理由は一つ。 貴方のような人に罰を与えるためです」

 

 

驚愕の表情を浮かべる提督。 そんな彼を他所に、エラー娘の話は続く。

 

 

「貴方は今まで貴方に放置された艦娘さんたちの気持ちが分かりますか? 顔を出すことすらせず、その場に置いたまま何もしない。 それでも、皆さんは貴方に会いたくて待ち続けてきたんですよ」

 

「それなのに、貴方はあろうことかもう一つ鎮守府を作り、そっちに夢中になっていった。 残された者たちの気も知れずに…」

 

「貴方達提督は私をエラー娘と呼んでいるようですが、私からすれば貴方のような存在がエラーですよ。 艦娘の皆さんを悲しませる、悪質なエラーです」

 

 

エラー娘の言葉に提督は押し黙る。 純粋に彼女の言う事に返す言葉がなかったからだ。

彼女の言葉の一つ一つが、提督の心に鋭いナイフとなって突き刺さる。

今の彼にできることは、ただ歯を食いしばって堪えるだけ。

ただ、そんな提督の様子を見たエラー娘も、小さく溜息を吐くと言った。

 

 

「…まあ、今回の一件で貴方もだいぶ反省したようですし、一度だけ私から貴方へチャンスを上げましょう」

 

 

エラー娘は手元から小さなカギを取り出し、それを提督へと放り投げる。

慌てて提督が受け取ると、彼の手の中には小さなカギが銀色の光を放って輝いている。

 

 

「外の広場の奥に正門があるのは知ってますか? これはその扉を開けるためのカギです。 それを使って門をくぐれば、貴方は元の世界へ帰れますよ」

 

「ただ、そのカギは私の力で作り出した模造品。 故に、今夜12時を回ると鍵は力を失い消えてしまうので、二度とここから出ることができなくなります。 もし本当に戻りたいのであれば、それまでに扉を開けること。 いいですね?」

 

 

そう伝えると、エラー娘は窓のふちに飛び上がり、提督の方へと振り向く。

 

 

「あっ、あともう一つ。 もし元の世界の戻ったのであれば、少しずつでもいいから画面の向こうにいる皆に顔を出してあげてくださいね」

 

 

その言葉を最後にエラー娘は窓から飛び降り姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フタサンマルマル。 提督は周りを警戒しながら外へ向かっている。

執務室からここへ来るまで、幸い艦娘に出くわすようなことはなかった。

廊下を渡り外へ出ると、空には満天の星が広がり、夜の中庭を明るく照らしている。

提督が目を凝らすと、ぼんやりとだが目的地の正門も見えていた。

息を殺しながら、足音を立てないように少しずつ外へと出ようと足を踏み出そうとした時、

 

 

 

 

 

「アンタ… 一体どこに行くのよ…?」

 

 

声のした方を見ると、そこには艤装を展開し、黒ずんだ眼でこちらを睨む叢雲の姿があった。

 

 

「まさか、アンタまた私たちを置いて去っていくつもりなの? そんなの絶対ダメ…! 私や皆が、今までどんな思いでアンタを待ってたと思ってるのよ…!?」

 

 

相貌を細め、じりじりと距離を詰めてくる叢雲。

例えようのない不気味さに、思わず提督も後ずさりしていると、

 

 

「司令官さん… 何をしているのですか…?」

 

 

今度は叢雲とは反対側の方から、こちらを見つめる電の姿があった。

彼女も叢雲と同じように艤装を身にまとい、提督を見つめるその瞳には光をともしていなかった。

 

 

「もしかして、電も叢雲さんと同じように置いてかれちゃうのですか? そんなの嫌です、寂しいのです…」

 

 

ふらふらと、まるで幽霊のような足取りで、電も提督に近づいてくる。

そして、そこにいたのは二人だけではない。

金剛や長門、赤城や瑞鶴達も同じように艤装を構え遠巻きに提督を包囲していたのだった。

 

 

「提督、またあなたは私たちを置いていくのですか!? あの時のように…!」

 

「もう一度貴方に会いたい。 ただ、それだけの望みを胸に私たちは今日まで生きてきた。 そして、やっとその望みがかなったというのに、私たちにはそんな望みさえ許されないというのですか!?」

 

 

目から大粒の涙をこぼしながら、赤城と加賀は思いの丈を爆発させる。

 

 

「提督。 過ごしたときは違えど、私たちにも叢雲達の気持ちがよく分かる。 貴方は私たちを大事にしてくれる人だ。 だからこそ、私たちは貴方を好きになり、共にいることを望むようになった」

 

「そして今、貴方はここに来てくれた。 私も、他の皆も、この幸せを手放したくない。 これからも、貴方にいてほしいのよ」

 

 

長門と陸奥が話を引き継いでいく。

二人もまた、赤城たちと同じように黒く染まった瞳でこちらを見ていた。

皆の視線と思いを一手に受ける提督。 無言のまま俯くだけの彼だったが、意を決したかのように拳を握り締めると、真っすぐ皆の方に顔を向けた。

 

 

「皆… 俺みたいな奴をここまで想ってくれたこと、嬉しく思う。 ありがとう」

 

「俺もまた、皆の事が好きだし、こうして会えたことを嬉しく感じている。 だけど…!」

 

 

提督はズボンのポケットに手を突っ込むと、そこにあった指輪入りの小箱を取り出した。

艦娘達が注目する中、彼はそれを真上に掲げ、声高々に叫んだ。

 

 

「この指輪だけじゃ、俺は皆とケッコンカッコカリができない! だから、元の世界で指輪を課金して皆に渡す! そのためにも、俺は元の世界に戻る!!」

 

 

提督は小箱を空高く放り投げると、わき目も降らず一直線に目的の正門へと駆け出した。

同時に、艦娘たちも提督に狙いをつけると、一斉に砲撃を放った。 もう、多少傷つけてでも取り押さえようということだろう。

必死に逃げる提督へと飛来する砲弾。 流石に彼も逃げきれないかと、一瞬覚悟を決めたその時…

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ… 世話の焼ける提督さんですね」

 

「うわぁ!?」

 

 

身を潜めてたエラー娘が飛び出し、提督の手を取って空高く飛びあがったのだ。

砲弾は誰もいない場所に被弾し、提督は目を白黒させながらエラー娘に引っ張られていく。

エラー娘が華麗に着地すると、すぐに提督に正門のカギを開けるよう指示。 提督も急いでカギを開けると、扉は開いた。

提督は門をくぐろうとした時、去り際の彼にエラー娘が一言言っていた。

 

 

「提督さん。 私と皆との約束、ちゃんと守ってくださいね」

 

「ああ、もちろんだ!!」

 

 

提督は親指を立ててOKサインを送り、エラー娘もまた、それを笑って見届けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に彼が目を覚ました時、彼がいたのはいつも自分が暮らすアパートの一室だった。

いつもの部屋の光景。 いつも自分が使っているベッド。 いつも自分が見ている外の景色。

改めて自分が元の世界に戻ってきたことを実感する青年は、テーブルの上にあるパソコンへ目を向ける。

電源が切れて、黒い画面を映し出すパソコンを見ながら、彼はつぶやいた。

 

 

「そっか… 俺、戻ってきたんだな」

 

「さて、すぐに着替えて飯を済ませないとな。 これから忙しくなるぞ」

 

 

そういうと、彼はベッドから身を起こし、身支度を整え始めた。

 

 

 

 

 

 

それから、彼はゲームに接続して指輪を購入した。

電や叢雲の分はもちろん、他に最大練度まで達した子たちの分まで揃え、彼は一人ずつケッコンカッコカリを済ませる。

そして、最後の一人とケッコンを済ませた彼は、パソコンに映る叢雲を見ると苦笑いを浮かべた。

 

 

「いや、こうしてカッコカリと言えど、指輪を送るのは何か気恥ずかしかったな。 さて… それじゃ、今度は練度が155になるまで、またよろしく頼むぞ、叢雲」

 

 

そう言って、彼は叢雲を旗艦に据えて、演習を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青く晴れ渡る空の元、港では電と叢雲の二人が腰かけている。

お互いに空を見上げながら、二人は会話を弾ませていた。

 

 

 

 

「今日は私の方に顔を出してくれたわ。 アイツってば、またよろしく頼むなんて言って… ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

 

「むう… 叢雲さんってば、司令官さんに会えて羨ましいのです」

 

「何言ってんの? 指輪を先にもらったのはアンタの方だし、そういう意味ではお相子でしょ? それに…」

 

 

叢雲は自分の手元に視線を向ける。

そこには、あの時提督が放り投げた指輪の箱が置かれていた。

 

 

 

 

 

「アイツには、これをだれに渡すのか決めてもらわなきゃなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、あの時提督が持っていた指輪はケッコンカッコカリに使われるものではなかったのだ。

彼女たちは、彼が来た時からケッコンカッコカリを望んでいる者は一人もいなかった。

あの指輪は、ケッコンカッコカリなどと言う仮初のものでなく、本当の結婚に用いられる物。 本物のエンゲージリングだったのだ。

そして、それを望む彼女たちもまた、彼と本当の夫婦になる事。 本物の結婚を望んでいた。

残念ながら、今回は逃げられてしまったが、焦ることはない。 時間はたっぷりある。

今もこうして彼をこちらに呼ぶための準備は着々とおこなわれている。

現在、両鎮守府では彼を逃がすための手引きをした、エラー娘を捜索している。

彼を元の世界に返す力があるのなら、その逆。 再び彼をこちらの世界に呼ぶこともできるし、自分たちが彼のいる世界へと移動することだって可能なはず。

次は逃がしたりはしない。 絶対に捕まえてみせる。

自分が、彼の妻として選ばれるために…!

 

 

 

 

 

「待ってなさいよ。 今度は私とカッコカリじゃない、本当の結婚をしてもらうわ。 アンタと結ばれていいのは、アンタにとって初めての艦娘である私だけなんだからね……!!」

 

 

 

「司令官さん、ごめんなさい… やっぱり、電は司令官さんと一緒になりたいのです。 だから、次こそは必ず、電を司令官さんのお嫁さんにしてくださいね……♪」

 

 

 

 

 

指輪を見つめにっこりと微笑む二人の艦娘。

その瞳は光を宿しておらず、黒一色の瞳に目の前の指輪と愛しい人の姿を映し出すのであった。

 

 

 

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