ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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どうも。 新しい話ができたので投稿しました。 最近は増々冷え込みが激しくて辛いですね…
感想でちょくちょくこういった話が読みたいなどのリクエストを見るんですが、基本思い付きで話を書くので要望に応えながら書くというのは自分的には難しいですね…
まあ、それでもこちらは続けていくので、これからも見てもらえると幸いです。





英雄は望んでなるものではない

 

 

 

朝の鎮守府。

冬の空は雲もなく澄み切っていたが、気温は低くひんやりとした空気が風に流されていく。

艦娘寮の一室。 鏡を見ながら身だしなみを確認する一人の艦娘は、犬耳の様にはねたくせっ毛をいじりながら、渋い表情を見せる。

 

 

「…やっぱり、この髪はどうにもならないか。 仕方ない、もう行かなきゃ」

 

 

不満を漏らす艦娘、駆逐艦『時雨』はため息交じりに白い吐息を出すと、執務室へと向かっていった。

時雨が執務室に入ると、一人の男性が何も言わずに書類に目を通している。 しばらく書類に気を取られていた男性は、時雨に気づくと軽い口調で挨拶をした。

 

 

「ああ、おはよう時雨。 今日も朝から早いな」

 

「やあ、おはよう提督。 提督こそ、朝から勤勉だね」

 

 

提督と呼んだ男性に時雨は駆け寄ると、机に置いてあった書類を取り秘書艦として彼の手伝いを始めた。

 

 

「おいおい、まだ朝食も取ってないのに手伝わなくてもいいんだぞ」

 

「ううん、僕がやりたくてやってるだけだから。 提督には、あまり無理をしてほしくないから」

 

「別に俺は無理してやってるわけじゃないが…… まあ、いっか。 それじゃ好きにしてくれ」

 

 

提督は苦笑しながらも、素直に時雨に執務を手伝ってもらうことにした。

傍から見れば提督と秘書艦が戯れる何気ない朝の情景。 だが、少し前ならこんなことはまずありえなかった。

何故なら、元々ここは艦娘たちを酷使すると言われる場所、ブラック鎮守府だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前提督は、それはひどい男だった。

僕たち艦娘は海から現れた深海棲艦と戦い、人々を守るために生まれた存在。

そんな僕たちは人と姿形が同じでも、人とは違う、人外の存在だと自分でも理解していた。

だからこそ、前提督は僕たち艦娘を人とは見ずに、深海棲艦を狩り自分の地位を上げるための道具としか見なかった。

戦艦や空母といった力の強い者たちは休むことなく戦闘に駆り出され、僕たちのような力のない駆逐艦は敵の攻撃を防ぐための弾除けとして扱われ、一部の子たちは資材を横流しするための商品として見知らぬ男たちに買われて行き、誰もが心に深い傷を負っていった。

僕もまた、弾除けとして敵の攻撃をその身に受け、自分で動くこともできないほどの傷を負ったまま、どこかの海岸に流されていった。

さざ波が傷口にかかりズキズキと痛む。 そのたびに顔をしかめながら、僕は死を待つことしかできなかった。

でも、そんな僕を絶望から救ってくれた人がいた。

それが提督だった。

元々一般人だった提督は、行き倒れになっていた僕を助け、僕がブラック鎮守府に所属していたことを知ると、勢いよく前提督の元に行き、僕たちの目の前であいつを殴り倒してくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『てめえの艦娘はてめえが最後まで面倒見ろ! そんなこともできないような奴が、提督を名乗るんじゃねえ!!』

 

 

 

 

 

 

僕たちのためにそこまでしてくれた人は今までいなかった。

前提督を殴り飛ばし、堂々と啖呵を切る彼を見て、僕たちは思ったんだ。

 

 

 

この人なら、信頼できるって!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとした執務の後、時雨と別れた提督は一人廊下を歩いていた。

朝の容赦ない冷え込みに身を震わせながら食堂へ向かうための渡り廊下に出ると、向かいから長女を筆頭に金剛型の姉妹たちが提督へ歩み寄ってきた。

 

 

「グッモーニンデース、提督ー! 今日も朝から素敵ですヨー!!」

 

「おう、ありがとな金剛。 お前も、朝から綺麗だぞ」

 

「も、もう提督ってばそんな事言われたら恥ずかしいネー///」

 

「落ち着いてください姉さま。 顔がにやけきってますよ…」

 

 

提督の言葉に顔を赤くする金剛に、溜息まじりにそれを嗜める霧島。

次女の比叡は金剛を「ヒエエ… お姉さまが司令に取られちゃう……」とおろおろし、三女の榛名は金剛を羨ましげに見つめている。

 

 

「んっ? どうかしたか榛名」

 

「ふぇっ…!? あの… その… は、榛名はお姉さまだけほめてもらっていいなー、なんて思ってませんよ!!」

 

「わ、分かったから落ち着いてくれ榛名……」

 

 

顔を赤くしながら慌てふためく榛名。 それを宥める提督と妹たちを見ながら、金剛は昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここが変わったのは、あの人が来てからでした。

前の提督は、少しでも戦果を挙げて自分の地位を上げるべく、私たち艦娘を酷使し続けてきました。

特に戦艦である私達姉妹は休むことも許されず、入渠する暇さえ与えられない。 来る日も来る日も必死で戦い抜く毎日でシタ。

時に弾除けとなって沈んでいく子たちを見せられながら、いつかは私や妹たちがああなるのではないカ? そんな不安と恐怖におびえる日々を過ごしてきたのデス。

でも、時雨が連れてきてくれた人が………提督が来てから、ここは大きく変わりまシタ。

あの日、私たちの目の前であの男を殴り飛ばし、私たちに代わって怒りをぶちまけてくれた彼を見て、私たちは是非彼を提督にしてほしいと大本営に訴えまシタ。

その願いは通じて、あの人は私たちの提督としてここへ来てくれたのデース。

それ以来、提督は私たちのために無茶な出撃をさせず、皆の安全を優先した艦隊運営をしてくれるようになりました。

おかげで、鎮守府の子たちは笑顔を取り戻し、皆は提督のためにと張り切って出撃や遠征をこなすようになっていったのです。

私は、提督のためなら喜んでこの身を捧げます。 私たちのために、提督となってくれた彼のためナラ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛たちと別れた提督は、遅い朝食を取りに食堂へと入った。

中を見ると、窓際の席では大盛り用のどんぶりに、これまた山盛りの御飯をかき込んでいくいく赤城。 そして、御飯茶碗をわんこそばの如く積み重ねていく加賀の姿があった。

こんなヘタな大食い大会でも見られないようなシュールな光景に、提督は苦笑いを浮かべながらも二人に声をかけた。

 

 

「あ、あはは…… 相変わらず豪快な食いっぷりだな、お前たちは」

 

「て、提督…!? あ、あのですね…! これは、この後の出撃に備えてしっかり食べておこうというわけで… ほら、腹が減っては戦が出来ぬと言いますし…!!」

 

「あ、赤城さんの言う通りです提督! 私たちは他の空母より艦載機を多く飛ばしますから、どうしてもその分エネルギーの消費が激しいので…!!」

 

 

提督に見られたのが恥ずかしかったからか、しどろもどろになりながら弁明する赤城と加賀。

そんな二人を、提督は「落ち着け…」となだめるように両手を前に出した。

 

 

「あー分かってる分かってる。 元よりお前も加賀もよく活躍してくれてるんだ。 それだけ食べてることを咎めようなんて、ハナから思っちゃいないよ」

 

「むう… 私が言うのもあれなんですけど、提督はもうちょっと女性に気を使った言い方をしてくださいよ…!」

 

「うっ、すまん… どうもこういうことについては、なんて言ったらいいのか分からなくてな……」

 

「まあ、提督ならいいんですけど…」

 

 

困り顔で謝る提督に赤城は、「ふう…」と小さな溜息を吐く。

そして、空っぽになった自分のどんぶりを、何も言わずにじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして食事ができるのは、あの人のおかげでした。

彼が来る前………前提督は戦果を挙げられなかった子や、弾除けとしか扱われない駆逐艦の子達には、食事も補給もろくにさせてはくれませんでした。

そのたびに、私や加賀さんは自分の食事や補給用の資材を他の子たちに分け与えてきました。

その分、私もひもじい思いをしたし、補給が足りなくて戦闘を続けられない時もありました。 その頃の事を思い出すと、よくあんな目にあって生きていられたものだと、我ながら感心してしまいます。

毎日海に駆り出されては戦わされ、帰ってきても満足に休むこともできずわずかな食事を分け合い、飢えに苦しむ日々。

そんな日々に終止符を打ってくれたのが、提督でした。

提督は私たちの元に現れると、すぐに食事をとって補給するように言いました。

いきなりの出来事に初めは何が何だか理解できず、中には提督に敵意を向ける子もいました。

しかし、そんな私たちに対して、提督は知り合いの方が作ってくれたという寸胴いっぱいのカレーをみんなに配ってくれました。

初めてできたまともな食事。 あの時のカレーのおいしさは今でも忘れません。

皆、おいしいと泣きながらほおばり、私も涙でぬれたカレーを必死に食べ続けました。 辛くて、美味しくて、ほんの少ししょっぱいカレーを……

それ以来、私たちは飢えて苦しむようなことはなくなりました。

ちゃんとした補給と食事を行い、皆元気に過ごしている。 それができるようになったのも、すべては提督が私たちを助けてくれたからです。

提督は私たちに喜びと希望を与えてくれました。

だから、今度は私がお返しする番です。

私はあの人が望むならなんだってやりますし、あの人が敵と見なした者は誰であろうと排除します。

私たちに希望を与えてくれたあの人のために、今度は私たちがあの人の希望になるために…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督も朝食を取りに? もしそうでしたら、ご一緒にいかがですか?」

 

 

赤城は声を弾ませながら、自分達と一緒に食事をしようと提案する。 隣にいる加賀も、少しうれし気な顔つきで提督の方を向いていた。

 

 

「あー…… スマン、そういや早急に片付けなきゃならない仕事があったんだ。 悪いが、食事は先にそっちを済ませてからにするよ」

 

「そうですか… それじゃ、仕方ありませんね」

 

 

しょんぼりと落ち込む赤城と加賀に、提督は一言詫びると、食堂を出て執務室へと戻ってきた。

戻ったとたん、提督は「ふう…」と呼吸を整え、辺りをきょろきょろと見まわす。

誰もいないのを確認すると、執務机に戻らず窓の方へ駆け寄り、窓を全開に開けた。 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、どうしたの? そんなに窓を開いて…」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

突然背後から聞こえてきた声。

驚いて後ろを振り向くと、扉の前で微笑みながら佇む時雨の姿があった。

 

 

「いや、ちょっと空気の入れ替えでもしようと思ってな」

 

「そっか。 でも、今は冬だからそんなに開けたら寒いんじゃないかな? もし提督が風邪でも引いたら、僕も皆もすごく心配するよ」

 

 

穏やかな表情を崩さずそう話す彼女に対し、提督はどこかばつが悪そうな顔で答える。

 

 

「そう…だな… なら、少し換気をしたら、閉めるとしよう」

 

「うん、それがいいよ。 じゃあ、僕は鎮守府の見守りに行ってくるから、提督も仕事頑張ってね♪」

 

 

時雨はドアを開けると執務室を後にしていく。 再び一人になった提督は、窓を閉めると執務机へと向かい、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! また感づかれたか…!」

 

 

悪態をつきながら、どかっと椅子に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、提督は艦娘が嫌いだった。

 

突如海から現れ、人を襲う深海棲艦。

その深海棲艦を退治し、人々を守ってくれる艦娘。

多くの人はそんな艦娘たちに感謝していたが、彼は違った。

どうやって現れたのか全く分からず、そのうえ彼女たちは人の姿かたちをしているが、実際は人間ではない異形の存在。

そんな艦娘を、彼は得体のしれない不気味なものとして毛嫌いし、なるべく関わらないようにしていた。

しかし、そんな彼の人生はふとしたきっかけで崩壊した。

ある日、買い物を終え家に帰ろうと海沿いの土手を歩いていた彼は、偶然砂浜に傷だらけの体で倒れる一人の少女を発見した。

初めは人が倒れてると思い駆け寄ったら、その少女が艦娘であることに気づき、彼は激しく動揺した。

できることなら、この場から今すぐにでも逃げ出したいが、そんなことをすれば艦娘とはいえ少女を見殺しにしたとして、世間からは白眼視。 ヘタすれば、死体遺棄として罪に問われるかもしれない。

やむを得ず彼は倒れていた少女、『時雨』の手当てをし、その後彼女の所属する鎮守府に連絡し、引き取ってもらおうとした。

だが、向こうの返事はもう捨てた奴なので、あとはそっちで処分なりなんなりしてくれというものだった。

ただでさえ艦娘に関わりたくないのに、その艦娘の後始末までこっちでしろ…!?

その返事を聞いた男はブチ切れ、時雨が引き止めるのも聞かずに感情のまま鎮守府へ向かい、前提督を艦娘達の前で殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「てめえの艦娘はてめえが最後まで面倒見ろ! そんなこともできないような奴が、提督を名乗るんじゃねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時雨が聞いたあの言葉は、艦娘たちの思いを代弁したのではなく、単に自身の怒りをぶつけただけの事だったのだ。

初めは興奮していたものの、のちに自分のしたことを思い出し、どんな処分が下されるのかと男は内心ヒヤヒヤしていた。

しかし、彼の心配とは裏腹に、大本営からは前提督の悪事を暴くきっかけとして感謝され、鎮守府の近隣にいた住民たちからは、艦娘を救ってくれた英雄として賞賛。 複雑な思いを抱きながらも、提督を殴り飛ばした罪人にならずに済んだとして、男は胸をなでおろした。

ただ、提督を殴り飛ばしたことについては、大本営も表面上だけでも罰しなければ、世間体の問題もあるということで、男には新しい提督が着任するための手続きを終える数日の間だけ、ここで仮の提督を務めてほしいと頼まれた。

男としては艦娘たちの提督なんて即刻断りたかったが、数日の辛抱で今回の件がチャラになるのならやむを得ないと感じ、彼を承諾。 その後、前提督により心に傷を負っていた艦娘たちが元気になるよう努めた。

これは、艦娘たちのことを思っての行為ではなく、大本営から『新しい提督が来た時、彼女たちが提督に不信感を抱いていたらまずい。 だから、それまでにできるだけ彼女たちを元気づけてほしい』といわれたからやっていただけの事であった。

だが、それさえもすべては自分のため、一分一秒でも早く艦娘達との関わりを絶つための試練なんだと男は自分に言い聞かせてきた。

こうして新しい提督も鎮守府に着任し、大本営に感謝されながら彼は解任。 これで、晴れて自由の身になったと男は思っていた。 しかし、話はこれで終わりではなかった。

 

 

 

提督業から解放されて数日後。 いつも通りの朝を迎えた男の元に、突如一本の電話がかかってきた。

こんな朝早くに一体誰なんだ?

男は怪訝な顔をしながらも受話器を取ると、電話の相手である大本営からとんでもない一報を聞かされた。

なんと、例の鎮守府の艦娘たちが、新しく着任した提督を追い出してしまったのだ。

さらに、彼女たちは数日間、仮提督としてここにいた男を正式な提督にしろと要求。 もし断るなら、今すぐにでもそこへ攻め込むと脅迫してきた。

大本営は、どうかまた提督として戻ってくれないかと言ってきたが、男は目を見開き「冗談じゃないっ!!」と乱暴に受話器を叩きつけた。

今まで艦娘たちと関わらないために我慢してきたのに、あんなところへまた戻るなんて男にとっては悪夢以外の何物でもない。

急いでここから逃げて別のところへ雲隠れしようと男は準備を始めたが、それはできなかった。

必要最低限の荷物をまとめ、男が家を飛び出すと、男の家の前には時雨を筆頭に大勢の艦娘たちが彼を待ち構えていたのだ。

 

 

 

 

 

「やあ、提督。 迎えに来たよ」

 

 

そう言って、時雨は男の手を引いて鎮守府へ連れて行こうとする。

それに対し、男は時雨の手を振りほどこうとしたが、自分の腕を引く時雨の力は尋常ではなかった。

少女の細腕からは想像もつかないほど強い。 それに…

 

 

「どうしたの、提督?」

 

 

自分を見つめる時雨の目には光がともっていなかった。

黒一色の瞳は光を反射させず、まるで深淵を覗いているかのように真っ暗だった。

そして、それは時雨だけにとどまらない。

自分に目を向ける他の艦娘たちも、時雨と同じように黒ずんだ瞳を男へ向けている。

それを見て、男は二つ気付いたことがあった。

 

 

 

 

一つは、皆の様子が普通ではない事。

 

 

 

 

もう一つは、今ここで彼女たちに逆らえば、自分の命はないという事だった。

 

 

 

 

やむなく男は艦娘達に連れていかれ、提督となったのだが、度々隙を窺っては鎮守府からの脱出をもくろんでいた。

そして、この日も窓から逃げ出そうとしたが、時雨に見つかってしまい失敗に終わった。

どうやら、向こうもまた自分がここから逃げ出そうとしていることに勘づいているようだ。

だが、男は諦めるつもりはない。

いつか艦娘達の手から逃れ、ここから逃げ出すためにも、男は提督として勤めるふりをしながら、虎視眈々と脱出の機会をうかがうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府の中庭。 つい先ほど、ここから逃げようとした提督がいる執務室を見上げながら、時雨はポツリとつぶやいた。

 

 

 

 

「提督… 僕たちは君に感謝している。 慕っている。 信頼している。 君が望むなら、僕たちは何だってやってみせるよ」

 

「だから、提督には僕たちの事を見ててほしいんだ。 僕たちを救ってくれた、提督の傍が僕たちの居場所。 提督のいない鎮守府なんて、何の意味もないんだ。 それは僕だけじゃない、皆も同じ気持ちさ」

 

「覚えておいて、提督。 僕たちは君を逃がしたりはしない。 どんなに逃げようとしても、どこへ行こうとも、必ず見つけてみせる。 だから、どこにもいかないでね。 提督…」

 

 

 

 

 

潮風に髪をそよがせ、口元に笑みを浮かべながら、時雨はにっこりと笑う。

ただ、その目は笑っておらず、瞳の中は彼女の心を体現するかの如く、漆黒の色に染まっていたのであった。

 

 

 

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