ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

30 / 45
どうも、久しぶりの投稿です。
今回は以前からリクエストで上がってた、深海棲艦のヤンこれ物……のようなものです。
自分の中では、これが限界でした…(遠い目

まあ、こんな話でも楽しんでもらえれば幸いです。





歪な思いは深海へ続く

 

 

 

「ん… うあ… ここは…どこだ…?」

 

 

痛む頭をさすりながら、男は体を起こす。

白い軍服に身を包んだ男性、提督は周囲を見渡しながらここはどこかを確認する。

 

 

「薄暗い… ここは、洞窟か…?」

 

 

周囲に見えるのは土と石で覆われた壁。

そこから長く続いていく空洞には、水滴の音がかすかに聞こえ、湿った空気が流れている。

視界は見えるものの、やや薄暗く、ひび割れた天井から注ぎ込む光は弱い。

どうやら、自分はどこかの洞窟にいるようだと、提督は認識する。

 

 

「なんで、俺はこんなところにいるんだ?」

 

 

彼は目を覚ます前の出来事を思い出す。

確か覚えているのは、夜中まで一人仕事を進めていて帰りが遅くなり、急いで中央建物から提督用の私室へと戻ろうとしていたことだ。

明日も朝早いからと急ぎ足で外へ出て、その際港を通って私室へと向かっている途中で、確か……

 

提督が一人必死に過去のことを思い出そうとしていた時、

 

 

 

 

 

「アッ、起キタ」

 

「アラ、ヨウヤク目ガ覚メタノネ」

 

 

突然洞窟の向こうから聞こえてきた声。 提督が声のした方を向くと、そこにいたのは……

 

 

 

 

 

「お、お前たちは深海棲艦!? 何故、お前たちがここに…!!」

 

 

空母ヲ級を筆頭に、戦艦棲姫といった人型の深海棲艦たちが彼の元へと現れたのだ。

動揺を隠せずたじろぐ提督。 そんな彼を見ながら、戦艦棲姫は口元に手を当てクスクスと笑った。

 

 

「ナゼッテ… 貴方コソ覚エテナイノ? 私タチガ貴方ヲ連レテキタコトモ、ソノタメニ鎮守府ニイタ貴方ヲ襲ッタコトモ」

 

「お前たちが俺を襲って………あっ!!」

 

 

戦艦棲姫の話を聞いて、提督はようやくこの後のことを思い出した。

私室へ戻ろうと港を急ぎ足で歩いていた時、ふと海の方から何かが水をかき分けてくる音が聞こえ、提督はふと足を止めた。

初めは暗くて何がいるのか分からなかったが、艦載機を放つ音が聞こえたとき、月明りで海が照らされ、水面に浮かぶヲ級たちの姿を映し出したとき、提督は深海棲艦の存在に気付いたのだ。

急いで逃げようとしたが、提督が逃げるより早く、艦載機の爆撃が提督を襲い、その衝撃で彼は気を失ってしまった。 それが、ここへ来る前で覚えてることだった。

 

 

「ようやく思い出した…! お前たちは、わざわざ俺を捕まえて、一体どうしようというんだ!?」

 

 

全てを思い出した提督は、毅然とした態度で深海棲艦達を睨み付けると、戦艦棲姫は妖艶な笑みを浮かべたまま、その質問に答えてくれた。

 

 

「一言デ言ウナラ、貴方ガ欲シイカラヨ」

 

「何…?」

 

 

一瞬言葉の意味が理解できず、唖然とする提督。 戦艦棲姫は、再び話を続ける。

 

 

「前カラ目ヲツケテイタノヨ。 アノ艦娘タチト同ジヨウニ、私タチモ指揮官ヲ必要トシテイタ。 特ニ、貴方ノ有能ナ指揮ニハ以前カラ注目シテタワ。 ダカラ、コウシテ貴方ヲココヘ連レテキタノ。 私タチノ指揮官ニナッテモラウタメニ」

 

「なるほど… つまり、お前たちは自分たちを指揮する提督が欲しくて俺をさらった。 そういうことだな?」

 

「ソノ通リヨ。 貴方ガ私タチノ提督ニナッテクレレバ、コレホド頼モシイコトハナイワ。 ソウナレバ、アノ忌々シイ艦娘達ニ一泡吹カセテヤレルシネ」

 

 

口元を歪ませながら、戦艦棲姫はにやりと笑みを浮かべる。 だが、そんな彼女にひるむことなく、提督は「ふっ…」と鼻で笑い返した。

 

 

「ありえんな。 あいつらの提督である俺が、あいつらを倒すためにお前たちの指揮官になるなど、あってたまるものか」

 

「それに、俺がいなくなったのなら、皆が探しに来ないはずがない。 いや、皆だけでなく後輩であるあいつも協力してくれてるはずだ。 何より、俺には……」

 

 

ちらりと自分の手に目を落とす提督。 その指にはキラリと輝くシルバーリングがはめ込まれていた。

それは、ケッコンカッコカリした艦娘と一緒に嵌めるための指輪であり、彼がケッコンカッコカリをしている証だった。

 

 

「とにかく、俺はお前たちの提督になるつもりはない。 分かったら、今すぐ俺を此処から解放しろ」

 

「ソレハ無理ナ相談ネ。 マア、時間ハアルカラ、シバラクハソコデユックリシテチョウダイ」

 

 

そう言うと、戦艦棲姫は監視役なのか同行してきたヲ級を残してその場を去っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「テートク、退屈シナイ?」

 

「話しかけるな。 俺はお前たちの敵だぞ」

 

「私ハ退屈。 姫ト一緒ニ海ニ出テ、艦娘ヲヤッツケタイ」

 

「そんな奴と話すことなど何もない。 あっちに行ってろ」

 

 

それから数日、提督はヲ級と共に、洞窟の中でじっと過ごしていた。

手には腕時計があったから時間は分かるし、傍らにいるヲ級が話し相手になるから退屈はしなかった。 むしろしつこく話しかけてきて困るくらいだ。

しかし、自分が艦娘たちの提督である以上、連中に屈するわけにはいかない。

提督は、いつか彼女たちが助けに来ることを信じて、じっと耐え続けるのだった。

 

 

「ドウカシラ、気分ハ?」

 

 

ふと洞窟の出入り口から聞こえてくる声。

提督が訝しげな視線を送ると、そこには艤装を取り払った戦艦棲姫の姿があった。

 

 

「ああ、早く部下の顔が見たくてしょうがない。 だから、さっさと出してはもらえないか?」

 

 

提督がからかうように言って、肩をすくめる。

それを見た戦艦棲姫は、不満げに顔を歪める………と彼は思っていたが、

 

 

「何…?」

 

 

戦艦棲姫は不愉快になるどころか、悲しげな顔になりじっと口を紡いでいた。

予想外の反応に困惑してしまう提督。 その隣で、ヲ級はじっと戦艦棲姫を見つめていた。

 

 

「…大変言イニクイ事ナンダケド、今日私ガココニ来タノハ貴方ニ伝エル事ガアルカラナノヨ」

 

 

そう前置きし、彼女は懐からたこ焼きのような、丸い形をした艦載機を取り出した。

それは、実際には録画した映像を映し出すビデオカメラのような艦載機で、スイッチを入れると目が光り、洞窟の壁に録画した映像を映し出した。

壁に映ったのは彼が担当する鎮守府と、そこで生活する艦娘たちが映し出されたが、提督はその映像を見た途端に唖然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『艦隊戻ったよー。 今日も大変だったね』

 

『遠征に行った子達ももうすぐ戻ってくるって。 そしたら食堂行こうか』

 

『確か今日ってカレーの日だよね? やったー私楽しみ!』

 

『そう言えばさ… 提督ってどこ行ったんだろうね?』

 

『うーん… まあ、提督なら別に心配することないんじゃない? 大丈夫でしょ』

 

『それより早く皆を迎えに行こう! 私ご飯食べたいよー』

 

 

 

 

港を歩く艦娘たちは、提督である自分がいなくなったというのにまるで心配する様子はなく、いつも通りの日常を過ごしている。

さらに、窓越しに食堂を映した場面も出てきたが、そこでも皆談笑しあったり、食事を楽しんだりと、自分が不在になったことを心配する者も悲しむ者も皆無であった。

 

 

「ドウヤラ、向コウハ誰モ貴方ノ心配ヲシテイナイノヨ。 貴方ハ彼女達ヲ大事ダト言ッテタケド、ソレハ貴方ダケダッタヨウネ」

 

「そ、そんな…」

 

 

今まで知らなかった悲しき事実にがっくりと肩を落とす提督。 その姿を、戦艦棲姫は何も言わずに見守り、

 

 

「テートク、悲シイノ?」

 

 

ヲ級は心配そうに提督の顔を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。 提督は洞窟の中で座り込み、一人じっとしていた。

艦娘たちから心配されてなかったことについては正直ショックだったが、同時に自分がそれだけ慢心していたんだと己を戒めるきっかけにもなった。

だけど、自分にはまだ長い付き合いのある後輩と、ケッコンカッコカリをして絆を深めた艦娘がいる。

あの二人ならきっと探しに来てくれるはずと、彼は信じて待ち続けることにした。

 

 

「アラ、意外ト元気ナノネ。 コノ前ノデスッカリ落胆シタト思ッテタノニ」

 

 

見ると、この前と同じように艤装を外した戦艦棲姫が、少し驚いた様子でこちらを見つめていた。

 

 

「皆については俺にそれだけの人望がなかった。 それだけの話だ。 だけど、俺には後輩で提督になったやつがいる。 あいつとは長い付き合いだし、心から信頼できる男だ。 きっと、今頃は俺を探しに艦娘たちの指揮を取ってくれているはずさ」

 

 

かつての後輩との思い出に顔を綻ばせながら、提督は気丈な態度でそう言い放つと、戦艦棲姫は再び落ち込んだ様子で、

 

 

「……。 今回ハ、ソノ事デ貴方ニ知ラセガアルノヨ。 貴方ニトッテハ悲シイ事カモシレナイケド、聞イテチョウダイ」

 

 

今度はテープレコーダーのような録音機器を取り出し、再生する。

すると、レコーダーから聞き慣れた男の声。 例の、後輩の提督の声が流れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの人…ありえない……。 俺が、苦しんでる時…諦める…言った。 だから、俺は…あの人……やめる、つもり……これ以上、先輩……提督……やめてください』

 

 

 

 

雑音が入り、途切れ途切れだが紛れもない彼の声。 しかしその内容は自分を否定するものだった。

内容を聞いた提督は、顔を手で覆いながら肩を落とした。

 

 

「そんな…! あいつまで俺を嫌悪していたというのか? 長い付き合いであいつがいい奴だと、信頼に足る奴だと思っていたのは、俺だけだったのか…!?」

 

 

よほど彼への信頼が強かったのだろう、提督の落ち込みようは傍から見てても痛々しいものだった。

傍らにいたヲ級は不安げに提督を見つめ、戦艦棲姫は、

 

 

「ゴメンナサイ。 私モ、本当ハ貴方ヲ傷ツケタクハナカッタノダケド、コノママ見セカケノ希望ニ縋ル貴方ヲ見ルノハ辛カッタカラ……」

 

 

そう言って、悲しみに暮れる提督にそっと寄り添い続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた、提督は洞窟に軟禁されたまま数日を過ごした。

部下だけでなく、信頼していた後輩からも見限られたという事実は、精神的なダメージとなって彼に重くのしかかっていた。

毎日ヲ級が運んできてくれた食事ものどを通らず、壁に寄りかかりながら一人ぼんやりと過ごすだけ。

心配そうにヲ級が話をしようと近づくこともあったが、

 

 

「……今は一人にしてくれ」

 

 

提督はそっとヲ級の頭をなでながら、追い返した。

精も魂も尽き果てたように見える彼だったが、それでも彼が自分を見失わずにいられたのは、指にはまった指輪があったからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…本当に、私を選んでいいの?』

 

『もちろん。 …いや、むしろ俺は加賀がいいんだ。 今日まで俺の元で、艦隊の皆を支え続けてくれた。 おかげで、俺もどんな時だって提督として頑張ってこれた。 これからも、どうかこの艦隊を支えてほしい。 ……俺を含めてな』

 

『………』

 

『…加賀?』

 

『す、すみません…。 私、その……感情表現とか、あまり得意じゃなくって…。 こんな時、どんな顔をしたらいいのか分からなくって…!』

 

『…なら、一つ聞かせてほしい。 俺とケッコンカッコカリをすることを、君はどう思う?』

 

『そ、それは……!』

 

『…すごく……嬉しい、です…!!』

 

『…ありがとう。 そして、これからもよろしくな、加賀』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がケッコンカッコカリをした艦娘、加賀。

今はカッコカリだが、いずれは正式な結婚をして夫婦になろうと誓い合った仲だ。

彼女ならきっと、自分を探しに来てくれるはず。

その微かな希望を胸に、彼はただじっと助けが来るのを待ち続けていた。

そして聞こえてくる聞き慣れた足音。 彼女が声をかける前に、提督は顔を向け戦艦棲姫へ問うた。

 

 

「…今日は、何だ?」

 

「…サスガニ、言ワナクテモ分カルンジャナイ? ソレデ、貴方ハ…」

 

「…悪いが俺は加賀を待っているんだ。 提督としての勧誘なら、他所をあたってくれ」

 

 

元気のない声で素っ気なく言うと、提督は戦艦棲姫から顔をそむける。

それを見て、彼女も憂いを込めた表情で、小さく溜息を吐いた。

 

 

「…分カッタワ。 流石ニ、ソコマデヤツレタ貴方ヲ提督ニスルノハ酷ト言ウモノネ。 ダカラ、私ハ貴方ヲ解放スルワ」

 

「タダ、最後ニドウシテモ貴方ニ知ッテホシイコトガアルノ。 コレヲ見テ、ドウスルカ決メテチョウダイ」

 

 

姫は懐からカメラを取り出した。 前回、鎮守府の様子を撮影したのに使ったあのカメラだった。

再び起動したカメラは、壁に光を照らし映像を映し出す。

それは夜の鎮守府を外から撮影したもので、建物には唯一開かれた窓がある。

 

 

「あ、あれは…」

 

 

窓からは一部だが中の様子が見え、そこにいたのは後輩提督と自分とケッコンカッコカリした加賀の姿があった。

声は聞こえないものの、悲し気に俯く加賀を後輩提督が何かを熱く語ってるようだった。 しばらくは彼が必死に説得しているように見えたが、次の光景を目の当たりにした瞬間、提督は大きく目を見開いた。

 

 

なんと、自分の愛した加賀が、自分が信頼していた後輩提督へ抱き着いたのだ。

そして、後輩提督もまた彼女を優しく受け止めていた。

その映像は、今まで見てきた中で一番彼の心を抉った。

自分が今まで共に過ごしてきた艦娘たちは誰も自分を心配しておらず、自分が長い間信頼を寄せていた後輩提督は自分の事を嫌悪しており、自分が愛していた加賀に至っては、自分が信頼していた後輩提督と恋仲に陥っていたという事実。

映像はそこで終わったが、提督は衝撃のあまり声も出ず、その場で棒立ちしていたのであった。

 

 

「コレガ、私ガ貴方ニ伝エタカッタ事ヨ。 貴方ノ信ジテイタ者達ハ、誰モ貴方ヲ信ジテイナカッタ。 アソコヘ帰ッテモ、貴方ヲ受ケ入レテクレル者ハイナイノ」

 

「ダカラ、私ハ部下達ニ命ジテ貴方ヲアソコカラ連レ出シタ。 貴方ニコノ事実ヲ知ッテホシクテ」

 

「ソレデモ戻ルトイウノナラ、私ハ止メナイワ。 サア、聞カセテ。 戻ルノカ、ソレトモ……」

 

 

しばらく棒立ちのまま立っていた提督だったが、戦艦棲姫の問いかけを聞くと、彼は振り向きこう尋ねた。

 

 

「…お前は、なぜこんな事をした? なぜ、俺にそこまでしようとするんだ?」

 

 

質問を質問で返す提督。 戦艦棲姫は虚ろな目をした提督の問いに、真っすぐ目を見返して答えた。

 

 

「言ッタデショ、前カラ貴方ニハ目ヲツケテイタッテ。 貴方ガ欲シイ……ソノ言葉ニ偽リハナイケレド、デモソレハ貴方ガ優秀ナ提督ダカラトイウダケジャナイノ」

 

「と、言うと……?」

 

「…貴方ガ加賀トイウ艦娘ニ抱イテイルノト同ジ気持チヲ、私モ抱イテイルカラヨ」

 

 

戦艦棲姫は提督の前まで来ると、そっと彼と目を合わせ、優しく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督……私モ、貴方ヲ愛シテイマス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が深海棲艦に拉致されて数日後。

かつて彼がいた鎮守府へ、深海棲艦の軍勢による大規模攻撃が行われた。

周辺警備が行われていたものの、深海棲艦達は警備の隙をつくかのような攻撃を仕掛け、鎮守府は大打撃を受けた。

鎮守府に所属していた艦娘たちは敵の奇襲により大半が大破し、建物はほぼ全壊。 代理として入っていた後輩提督もまた、執務室の崩落に巻き込まれ、面会謝絶になるほどの重傷を負ってしまったのだった。

 

 

煙の上がる鎮守府を、遠くの海から見つめる一人の男。

その男の隣で、戦艦棲姫は彼へ尋ねた。

 

 

「イイノ? カツテノ古巣ヲアンナ滅茶苦茶ニシテ」

 

「構わん、これは俺の決意表明だ。 かつての忌まわしい過去を捨て去るための、な…」

 

 

黒を基調とした軍服に身を包む男は、踵を返し鎮守府の方へと背を向けていく。

その後ろでは、ヲ級率いる数多の深海棲艦達が彼の後をついていき、ヲ級はウキウキした様子で男へついていった。

 

 

「俺にとって信じるものなど何もない。 この怒りを鎮めるために、利用できるものは何でも使ってやる。 たとえお前らだろうともだ」

 

「お前らが俺をどう思っているか、そんなことはどうだっていい。 利用価値がある限り、俺はこれからもお前たちを使ってやるからな。 覚悟しておけ」

 

「ウン、イイヨ! 提督ト一緒ニイラレテ、私ハ嬉シイヨー♪」

 

「……フン」

 

 

嬉しそうにはしゃぐヲ級を横目で見ながら、提督はこの場を去っていく。 その後ろ姿を見ながら、戦艦棲姫はかすかに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ては戦艦棲姫が仕組んだ作戦だった。

手始めに提督を拉致し、艦娘たちに気付かれないような孤島の洞窟へ提督を軟禁する。

それから、彼女は部下たちに命じて鎮守府の様子を撮影・録音し、あたかも鎮守府にいる艦娘たちは提督のことを心配していないように見せかけたのであった。

後輩提督の声も、偶然録音したものを加工して、さも彼が提督を嫌っている風に偽装したものだった。

実際は鎮守府の艦娘たちは皆彼を心配しているし、後輩提督が彼の鎮守府にいたのも、彼がいない間の代理を務めると同時に、心から慕っている彼を捜索するための陣頭指揮を取るためにいたのだ。

それに、後輩提督にはすでに翔鶴とケッコンカッコカリをしており、彼が捜索に協力したのも、彼女の先輩である加賀が困っているという理由があった。

現に、加賀もその事については知っているし、彼女も提督のことを心配していた。

だからこそ、後輩提督と加賀が恋仲になるなんてまずありえない話なのだ。

しかし、不幸なことに彼はその事実を知らず、戦艦棲姫に細工された映像を見せられ、すっかり騙されてしまっていた。

こうして、戦艦棲姫は見事に提督を奪うことに成功した。

ただ、今は彼は自分を愛そうとはしておらず、憎しみに囚われている。

でも、彼女はそれでもかまわなかった。

今はそれでいい。 いつの日か、彼が自分に振り向いてくれるその日を迎えるため、彼女は彼の傍らで待ち続けることにしたのであった。

 

 

 

 

 

「提督… ゴメンナサイ、貴方ヲ深ク傷ツケテシマッテ」

 

「デモ、コウシテ貴方ハ私ノ傍ニ来テクレタ。 私ハ、愛スル貴方ノ隣ニイラレルヨウニナッタ。 ソレガ、私ニハトテモ嬉シイノ」

 

「今ハ私達ヲ利用スルダケデモ構ワナイ。 ダケド、イツカ貴方ノ心ノ傷ガ癒エタ時ハ、改メテコノ気持チヲ伝エサセテホシイノ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督… 愛シテイルワ」

 

 

 

 

 

とある海域の海上。

深海棲艦達を率いる提督を見つめながら、戦艦棲姫はうっとりと妖艶な笑みを浮かべた。

ただ、その時の彼女の瞳は、まるで光の届かない仄暗い水底を体現するかの如く、黒く淀んだ色をしていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。