最近はまた寒くなったりで過ごしにくいですね。 自分も次はどんなネタを出すか四苦八苦しながら過ごしてます。
最近ゲームもやってないし、どこかでまた音ゲーとかやろうかな…?
ここはとある鎮守府。 ここの最高責任者である人物、提督は頭を抱え一人うなっていた。
「どうやれば彼女たちに諦めてもらえるか。 それが問題だ……」
彼の目の前には数人の艦娘たちのプロフィール写真が机の上に広げられ、机の端には黒い小箱とその中身に関する内容が書かれた書類が置かれていた。
ケッコンカッコカリ
大本営から任務の一環として託されたもので、指輪の形をした増幅装置を身に着けることにより艦娘の能力を底上げし、さらなる戦力強化を目的としたものだ。
しかし、この指輪は能力を上げる分、艦娘自身にも相応の負担をかけるため、最大練度……すなわち限界まで能力を引き出した艦娘しか使用できないよう決められている。
最大練度という条件は厳しく、このケッコンカッコカリを受けられる艦娘はそう多くはないが、それでもこれを受けたいという艦娘は大勢いた。
それは能力強化もあるが、真似事でも想い人から指輪を渡され結ばれるという、女としての幸せを享受できるという理由のほうが大きかったからだ。
現にこのケッコンカッコカリを行った提督と艦娘が、のちに本当の夫婦になったという話は少なくなく、いつしかケッコンカッコカリは艦娘たちにとって憧れとなっていたのであった。
そして、この鎮守府でも艦娘たちは提督が誰をケッコンカッコカリの相手に選ぶのかという話が上がっているが、提督はそのことで頭を抱えていた。
何故なら、彼には提督になる前……一般人だったころから、将来結婚を誓った女性がいたからだ。 彼が提督になったのも、あくまで彼女が暮らすこの国を守るという目的の為に軍人になったわけで、艦娘たちのことは大事な部下と思っていても、それ以上の関係を持つつもりはなかった。
しかし、そんな自分の思いとは裏腹に、彼女たちは提督である自分を一人の異性として想いを寄せており、断ろうにもいつケッコンしてくれるのかという彼女たちの嬉々とした顔を見ると、とても諦めてくれそうになかったのだ。
「そもそも、皆は俺以外の男と面識がないから俺がいいと思ってしまうんだよな… 実際は、俺より顔も性格もいい人ならいくらでもいるっていうのに…」
彼の言う通り、鎮守府に所属する艦娘たちにとっては提督以外の異性と出会う機会はない。 ゆえに、おのずと異性として提督と艦娘との親交は深まっていく。 それが、優しく接して行かれれば尚更だった。
提督は顎に手を置き、ブツブツ言いながら部屋をぐるぐると回っている。 何かいい案は思いつかないかと考えていた時、
「…そうだ! ほかの異性との面識がないなら、会わせてやればいいんだ。 よし、そうと決まれば…!」
妙案を思いついたらしい提督は、嬉々とした様子で電話をとると、どこかへ連絡を取り始めた。
次の日。 提督は執務室にケッコン候補の艦娘たちを集めた。
今は別段新しい任務や海域攻略があるわけでもないのに、主力級のメンバーが集められたことに、彼女たちはもしかしたら自分がケッコンの相手に選ばれるんじゃないかとにぎわっていた。
でも、同時にそれならなぜケッコンを決めた相手を呼ばないのかという疑問も上がる中、提督は執務室へとやってきた。
「おはよう、皆。 今日はわざわざ集まっていただき、ありがとう」
「とんでもないっ! 提督のためでしたら、榛名は何時呼ばれても大丈夫です♪」
「ところで提督さん。 私たちを呼んだってことは、もしかしてようやく誰とケッコンするか決めたの?」
ケッコンを強く望むが故、思わず浮かれてしまう榛名と瑞鶴。 そこへ、ぴしゃりと言い放つものが一人。
「それを今から提督が話すんでしょ? いいから黙って聞きなさい。 五航戦の子っていうのはおとなしく話を聞くこともできないの?」
よく瑞鶴と口論を繰り広げる一航戦の艦娘、加賀の言葉に瑞鶴はジト目になりながらも両手を横に広げる。
「…へーん、そんなこと言っていいの? あたし知ってるよ、どこぞの一航戦の先輩が『提督とのケッコンも夜戦も、いつ来られてもいいようにしとかないと…』って言いながら、明石さんの店で結婚情報誌や勝負下着を買ってるって」
「えっ、そうだったんですか加賀さんっ!?」
「頭にきました……!」
瑞鶴の言葉に素で驚く赤城に、加賀は顔を真っ赤にしながら艤装を展開しそうになるのを、周りの艦娘たちが必死に引き止めていた。
「あーもういい加減にしろお前ら! あと瑞鶴、言っておくが今回言いたいのはケッコンカッコカリについてじゃないからな!」
このままじゃ埒が明かないと提督は声を上げる。 彼の鶴の一声に周りは少し残念そうにしながらも大人しくなり、彼は理由を話し始めた。
「実は、今回皆を呼んだのは臨時秘書艦を務めてほしいからだ」
「臨時秘書艦? どういうことですか、提督?」
提督の言った内容に、首を傾げ尋ねる高雄。
それを聞いて、彼も話を続ける。
「ああ。 まず、今この鎮守府は資材の備蓄も十分あるし、練度も高い。 それは分かるね?」
「だけど、他の鎮守府ではそうではない場所もたくさんある。 特に、新米の提督が入ったばかりの所とか、まさにそれだ。 そこで、皆にはその鎮守府が安定して運営できるまで臨時の秘書艦を務めてほしいんだ。 入ったばかりの新米提督の指導もかねて、ね」
そう言って提督が説明を終えた後、何か質問はないかと尋ねたとき、不安げな表情を浮かべた翔鶴が挙手をした。
「あの… 他所の鎮守府に移るということは、しばらく提督に会えなくなるということですか?」
「ああ、そういうことだ」
その言葉にほかの艦娘たちもどよめいた。 「そんな…!」とか「私、やだ…!」など、不安を募らせる声が聞こえてきたが、提督は毅然とした態度を崩さずに執務室に声を張り上げた。
「皆が不安になるのはわかるし、俺も皆にそこまで慕ってもらえたことをうれしく思っている。 だが、忘れないでほしい! 皆は、この鎮守府でも最高練度まで到達した精鋭であり、俺にとって大事な部下である! どこへ行こうとも、その事実は変わらない。 だから、皆もそのことを忘れずに、どうか今回の任務を全うしてほしい。 そして、それが終わったときは、堂々と胸を張ってここへ戻ってきてくれ。 話は以上だ」
提督からの鼓舞に、艦娘たちも不安げな顔を浮かべることをやめ、凛とした顔つきと敬礼で彼の気持ちに応えた。
話が終わり、艦娘たちは執務室を去っていく。 そして、残された提督は……
「ふう…… 咄嗟とはいえ、我ながらうまく言いくるめたものだ。 あとは、彼女たちが向こうで新しい提督と親しくなってくれるのを祈るばかりだ」
と、一人安堵の息を漏らしていた。
彼が考えたのは、自分とのケッコンを希望している艦娘たちを他所の鎮守府へ向かわせ、そこの提督と親交を深めることで自分への想いをなくしてもらおうというものだった。
彼女たちも、他の異性と面識を持てば自分への関心も薄れるはず。 そう考え、彼は自分が信頼できる者が担当する鎮守府へ彼女たちを向かわせることにした。
それから、ケッコン候補の艦娘たちはそれぞれ別の鎮守府へ異動となった。
異動先は彼の後輩にあたる提督が管理する鎮守府だが、彼が話していた通り、まだ新米で提督としての経験が浅かったので、彼の鎮守府の艦娘たちが秘書艦として指導しつつ艦隊運営を行っていった。
初めは彼も皆がうまくやれるかという不安があったが、他所の鎮守府からは彼女たちのおかげで助かっているという話を聞き、提督も胸をなでおろしたのであった。
彼女たちが異動になってから半年が過ぎたころ、彼は自分の後輩の一人と連絡を取っていた。
なんでも、自分の部下である加賀が新しい海域攻略に大きく貢献してくれたとの報告があり、彼もその話に顔をほころばせていた。
『それで、加賀さんの援護のおかげで皆も小破することなく主力艦隊を落とせたんですよ! 執務だけでなく、部下の訓練の指導もこなしてくれるし、本当に彼女には頭が上がりません』
「当然だ、何てったって彼女は我が鎮守府のエースの一角なんだからな」
『おっと、そろそろ仕事に戻らないとまずいな。 じゃあ先輩、俺はこれで失礼します』
後輩提督が通信を切ると、補給を終えた加賀が執務室へと戻ってきた。
先ほど出撃から戻ってきたばかりだというのに、いつものように涼しい顔を見せる彼女に彼はねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ様、加賀さん。 今回もありがとう、いつも出撃してくれて助かるよ」
「これくらい、どうということはありません。 むしろ、貴方の艦隊の子たちはもっと鍛錬を積んだ方がいいわ。 今の実力じゃ、より遠方の海域では通用しないから」
表情を変えないまま淡白に言い放つ加賀。 そんな彼女に、後輩提督は苦笑いを浮かべた。
「相変わらず加賀さんは厳しいな… ここへ来てもう半年になるし、少しはここに馴染んでもいいんじゃないかな?」
「貴方、何か勘違いをしていませんか? 私はあくまで臨時秘書艦として一時的にここへ来ただけです。 貴方はこの鎮守府の提督だけど、私は本来あの人の部下であって、貴方の部下ではありません」
「まあ、そういわれると反論できないね。 でも、艦隊はチームで動く以上、仲間内で息を合わせることも大事だし、あまりそういった態度をとるのは感心しないな」
「…それも、そうですね。 すみません、少し言いすぎました」
さすがに言葉が過ぎたと思ったのか、加賀は素直に頭を下げる。
その姿を、後輩提督も頬をかきながら見つめる。
「…本当に、加賀さんは先輩のことが大事なんだな。 あれだけ必死に頑張る姿を見せられれば、俺にもよくわかるよ」
「…はい。 本音を言うと、私も任務を一刻も早く終えて、またあそこへ戻りたいのです。 提督が待っているあの鎮守府へ帰り、彼とケッコンするために…!」
加賀はここへ来た日から、てきぱきと作業をこなしてきた。 秘書艦として、新米提督に執務のこなし方や効率的な艦隊運営の手ほどき。
さらに、出撃に関してもほかの艦娘たちが率先して戦えるよう支援し、訓練にかけては厳しいながらも無茶をさせすぎないよう采配を振るいながら指導していた。 全ては、自分の最愛の人である彼のもとへ帰るためだった。
任務を終えて自分を出迎えてくれる提督の姿を想像して、加賀は少し頬を染める。
しかし、そんな彼女の様子に気づかず、彼は加賀に言ってきた。
「…あれ? ケッコンって……先輩、確かケッコンはしないはずだよ。 だって、先輩には将来を誓った相手がいるんだから」
その言葉を耳にしたとたん、加賀は目を見開き新米提督の方を向く。
そのことに気づかないまま、彼は話を続ける。
「なんでも子供のころからの知り合いで、軍に来る前まで一緒だったんだって。 それで、自分の夢だった提督になったときは結婚しようって約束をしてて……」
もはや、彼の話は加賀の耳には届いていなかった。 着任してからずっと一緒だった人に… 想いを寄せていた人に恋人がいた…? 拳を震わせながら、彼女は口を開いた。
「……なさい」
「えっ…?」
気の抜けた返事をする新米提督に加賀は詰め寄り、鋭い眼光で彼を睨み付けながら、加賀は叫んだ。
「その話、詳しく聞かせなさいっ!!」
一方、ここは別の新米提督が務める鎮守府。 昼過ぎの執務室では、臨時秘書艦を務める翔鶴が一枚一枚書類のチェックを行っていた。
「はい、大丈夫です。 問題ありませんよ」
「うん、ありがとう。 ほんと、翔鶴さんが来てくれたおかげでこっちも大分作業をこなせるようになったよ」
新米提督は照れくさそうに書類を受け取り、翔鶴は書類を渡した彼へと首を振った。
「いいえ、これも貴方が毎日頑張ってきたからです。 そんなに畏まらず、もっと堂々と胸を張ってください」
「あはは… 翔鶴さんにはかなわないな。 そんなふうに言われたら、僕もなんて返せばいいのやら」
「私も着任したばかりのころは、提督にそう言って励ましてもらいました。 だから、貴方にもこの言葉で自信を持ってもらえるといいな、と思ってます」
にこやかに微笑みながら話す翔鶴に対し、新米提督の方はどこか影を帯びた表情で翔鶴を見た。
「…やっぱり、僕のこと提督とは呼べないんだね」
「…すみません。 貴方には申し訳ないのですが、やっぱり私にとっての提督はあの人以外考えられないのです」
翔鶴は、ここへ来た日から一度も彼のことを提督と呼んだことがなかった。
仕事は有能だし、おおらかな態度で他の艦娘たちとも打ち解けていたが、唯一それだけはできなかった。
本来の提督である彼には、着任した時から優しく接してもらい、一緒になるたび彼女はその思いを徐々に募らせていった。
半年以上も彼女はここで過ごしていたが、今でも翔鶴は自分のいた鎮守府の提督のことを思い浮かべる。 部下としてではなく、一人の女として想いを寄せる人の姿を……
できることならここを抜け出して、今すぐにでも彼の元へ行きたかった。
でもそれは、任務を果たしてくれと言った彼の期待を裏切る行為だ。
だからこそ、彼女は本心を必死に押し殺し、こうして献身的に任務に勤めていた。
そんな彼女を見やってか、新米提督は少し休憩しようと持ち掛け、お茶を用意してくると言って部屋を出た。 扉を閉じると、彼は短いため息を吐いて扉に寄り掛かった。
「…何ともひどい話だよな。 幼いころからの付き合いとはいえ、あんな気立てのいい子が想いを寄せる人に、もう婚約者がいるなんて」
その時、懐にしまってある携帯が鳴り、彼は電話に出ると、相手は例の先輩からだった。
「あっ、先輩。 …ええ、彼女は本当によくやってくれてますよ。 できることなら、このまま残ってもらいたいくらいです」
「それで、先輩は何の用で…? ……えっ、式の日取りが決まったんですか!? おめでとうございます!!」
どうやら挙式の日程が決まったらしく、彼も電話に夢中になっている。
だからこそ気づかなかった。 何か手伝えることはないかと、翔鶴が扉を開き顔をのぞかせたことに……
「…わかりました。 彼女には僕からどうにか説明しておきます。 それじゃ」
電話を終えた新米提督は、携帯をしまうと、
「ふう…」
と短いため息をついた。
「さて、先輩の方はめでたいが、こっちはどうにか彼女にこのことを話さなくちゃだ… ひとまず、お茶を飲んで落ち着いてもらおう」
そして、お茶とお茶菓子を用意した彼は扉を開き執務室に戻った。
「…えっ?」
目の前の光景に彼は茫然とした。
大きく開かれた窓に、そこから流れる風に揺れるカーテン。
そして、先ほどまでここにいたはずの翔鶴の姿はどこにもなかった。
夜の鎮守府の執務室。 いよいよ結婚を来月に控えた提督は、荷物をまとめると見慣れた室内を見渡しながら、物思いにふけった。
「…これで、あと数日でこことはお別れだ。 こうしてここからいなくなると思うと、物悲しく感じるな」
「それにしても、皆は新しい提督とはうまくやれてるかな? あいつらも、人柄は悪くないし、どうにか気に入ってくれるといいんだが…」
「…いかんな。 こんな顔であいつに会いに行ったら、それこそあいつに余計な心配をかけてしまう。 しゃんとしないと…!」
その時、突然部屋の電話が鳴り響く。
「こんな時間に一体誰だろう?」 と疑問を抱きつつ、提督は受話器を取った。
「もしもし? どちらさまで…」
『せん…ぱい…! に、逃げて…くだ…さい……!』
「お、お前……! どうしたんだ、何かあったのか!?」
『か…加賀さん…! 結婚…知って……あ、あぶ…ない……!』
そう言ったのを最後に、電話はブツリと切れてしまい、再びかけなおしても電話がつながることはなかった。
声で分かったが、電話の相手は間違いなく加賀が臨時秘書艦として向かった鎮守府の提督のものだった。 現に、さっき電話越しに加賀の名前を出していたから間違いなかった。
しかし、今の内容はいったいどういう意味なんだ?
とにかく、何が起きてるのかを知るためにも提督は部屋を出ようと扉を開けた時……
「か… 加賀…?」
扉を出た先には、何も言わずうつむいたままの加賀の姿があった。
本来なら他所の鎮守府にいるはずの彼女がなぜここに…?
提督は加賀に尋ねようとすると、
「……どういうことです?」
「えっ…?」
加賀の言葉に意味が分からず困惑していると、加賀は顔を上げ、すさまじい形相で提督の胸ぐらをつかんできた。
「すでに結婚する人がいたなんて、私は知りませんでした! 一体どういうことなんです!? 提督は、私よりその女をとるというのですか!?」
「お、落ち着いてくれ加賀! 一体何のことか、話についていけない…!」
「とぼけないでください! 異動先の提督が話してくれました。 貴方に将来を誓った婚約者がいると…!!」
「私は貴方と添い遂げたくて今日まで頑張ってきました! なのに、貴方は私を切り捨てるというのですか…!?」
「頼むから落ち着いてくれ加賀! それについてはちゃんと話して……!」
怒りをあらわにする加賀をなだめようと提督が必死に声をかけていると、
「ちゃんと話してくださるのですね。 では、ぜひお聞きしたいです。 私たちの提督を誑かした、その女について……」
「し、翔鶴…!?」
そこにいたのは加賀だけではなかった。
翔鶴を始め、他所の鎮守府にいたはずの艦娘たちが、全員ここへ集まってきていた。
ある者は睨むようにこちらを見つめ、ある者は表情は笑っているが目は笑っておらず、またある者は泣きはらしたからか目元に涙を拭いた跡がある。
ただ、皆共通して言えることは、そこにいた艦娘たちは全員生気のない目で提督を見つめているということだった。
「司令… 私たちに内緒で結婚を決めていたなんて、ひどいじゃないですか…」
「私も、司令官とケッコンしたくてここまで頑張ったんです。 それを他の人に盗られちゃうなんて、絶対嫌です」
「私たちの気持ちを知っていながらこんな計画を立てるなんて… バカめ、と言って差し上げますわ……」
一人、また一人とやってきては徐々に提督を取り囲んでいく。 加賀に取り押さえられ、周りを囲まれた彼に、もはや逃げ道はなかった。
とある一軒家。 そこは提督の恋人が暮らしてる家で、いつものように彼女が朝の新聞を取りに来ると、ポストには新聞と一緒に手紙サイズの大きさの紙包みが入れられていた。
「…っ? 何かしら、これ?」
恋人は紙包みを手に取ると、送り先は彼が提督を務める鎮守府からで、あて先は自分に充てられていた。
中に何が入っているのか。 少しワクワクしながら紙包みを開けて中を取り出したとき、
「……!? な、なんなのこれはっ!?」
中に入っていたのはたくさんの写真だった。 それもただの写真じゃない。
そこに写っていたのは恋人である提督と、その提督に寄り添う艦娘たちの姿だった。
死んだ目をした提督に抱き着いたり膝枕をしたりと、まるで恋人である彼女に見せつけるかのように撮られており、中には抱き着いたり、キスした瞬間を写した写真まで入っていた。
信じられないと言わんばかりに目を見開きながら、彼女は写真を一枚一枚目を通し、一番最後に残った写真を見る。
それは提督を中心にケッコン候補の艦娘たちが彼を囲むように集合写真を撮っており、手紙が一枚同封されていた。
『初めまして、提督の恋人さん。
このたび、私たちは提督と結婚を執り行いました。 私たちは皆、彼を心から愛しています。 その彼を他の誰かに奪われてしまうなんて、私たちには耐えられません。 私たちにとって、提督は全てなんです。 だから、私たちは決めました。 提督には、ここで私たち皆を愛してもらおうと。 私たち以外の女に、彼を奪わせないようにしようと…』
『これからは、私たちが貴方の愛した人を愛しますので、彼にとって貴方はもう必要ありません。 だから、貴方も彼のことは忘れ、新しい人を見つけてください。 では、さようなら』
手紙を読み終えた元婚約者の女性は、手に力が入らず写真をその場にばらまきへたり込んだ。
膝をついて涙を流す女性の目の前に落ちた写真。 提督を取り囲む艦娘たちの指には、銀色に輝く指輪が左手の薬指にはめられ、淡い光を放っていたのであった。