ヤンこれ、まとめました   作:なかむ~

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どうも、久しぶりの投稿です。

最近は暑さと寒さの差が激しくて大変です。 体には気を付けていきたいとこです。
それにしても、まさか長門の改二が来るとは自分も予想外でした。 次に来るとしたら由良ですかね? 個人的には漣に改二が来てほしいと思わずにはいられないですが、それはそれで設計図が足りなくなりそうです…





エンドロールはまだ来ない

 

 

 

とある鎮守府の港。 鉛色の曇り空の元、堤防には荒々しく波が叩きつけられ、波しぶきの音が絶え間なく鳴り響く。

堤防の端には三人の男女の姿があった。 一人はこの鎮守府の提督である男で、帽子の下の表情は若い。 提督の向かいに立つのは、黒を基調とした制服に外国人特有の金髪の長い髪をした一人の艦娘。

そして、彼女と向かい合う形で提督の隣に一人の艦娘が、彼の腕にしっかりと抱き着いていた。

二人の艦娘は、お互い服装も容姿もよく似ているが、その表情は真逆だった。

提督の腕に抱き着く艦娘は、まるでどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべているのに対し、向かいにたたずむ艦娘は、怒りをむき出しにしたような表情で笑みを浮かべる艦娘を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

「初めから… 初めからこうするつもりだったのね、プリンツ! 私の大切な人を……アドミラルを奪うためにここまで来たのね!!」

 

 

憎悪にたぎった表情でいきり立つ艦娘は、提督の腕に抱き着く少女……プリンツ・オイゲンへと怒りをぶつける。 それに対して、彼女からの怒りを聞いたプリンツは余裕の笑みを崩さず言葉を返す。

 

 

「人聞きの悪いことを言わないでください、ビスマルク姉様。 ビスマルク姉様を追ってここまで来たのは本当ですよ。 ビスマルク姉様は私の憧れなんですから」

 

「だからこそ、ビスマルク姉様が好きになった人を私も好きになるのは当然です。 ただ、提督は姉様じゃなく私を選んでくれた。 それだけのことじゃないですか」

 

 

プリンツの言葉にもう一人の艦娘……ビスマルクは小さく歯ぎしりをする。 握り拳に力が入り、納得できないと言わんばかりに彼女は声を荒げた。

 

 

「馬鹿なこと言わないで! いつも私に優しく接してくれたアドミラルが、そんなことをするわけないじゃない!!」

 

 

目の前の出来事を必死に否定しようとするビスマルク。 だが、その言葉に提督は何も言えずに口を紡ぎ、プリンツはあきれたと言わんばかりに溜息を吐き、小さく肩をすくめた。

 

 

「分かっていませんねぇ… 提督さんは誰に対しても優しく接してくれる方です。 だからこそ、姉様も私もこの人を好きになった。 もっとも、女としての魅力は私のほうが上だったみたいですけど」

 

 

プリンツは提督の腕を引っ張り、彼を引き寄せる。 提督は戸惑いながらも逆らうことはせず、引かれるままにプリンツの体を抱きとめた。

 

 

「こんなの…何かの間違いよ! そうでしょ、そうと言ってアドミラール!!」

 

「ビスマルク… 俺は……」

 

「ビスマルク姉様、お願いですからあまり私を失望させないでください。 今のビスマルク姉様、見苦しいにもほどがあります」

 

 

提督は申し訳なさそうに言葉を漏らすが、それをプリンツが遮る。 そして、彼女は提督の顔に自分の顔を近づけた。

 

 

「提督さん、せっかくだから見せてあげましょう。 私と提督さんが、どれだけお互い愛し合っているのかを……」

 

 

プリンツは自分の唇を提督の口元へと近づけていく。 目を見開くビスマルクの前で、あと数センチという距離になったとき……

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、カァァァット!!」

 

 

という声が聞こえ、同時に提督とプリンツは慌てて顔を遠ざけた。

二人が顔を赤くしながらドキドキしていると、数名の駆逐艦娘たちが提督とプリンツの元へ駆け寄る。

 

 

「すごい、プリンツさん! 名演技だったよ」

 

「ラストなんか特にすごかったもん! 私、本当に司令官とキスしちゃうんじゃないかとドキドキしちゃった!」

 

「え、えへへ… ダンケ~。 私も最後のあれはドキドキしちゃったし、今でも心臓がバクバク言ってるもん」

 

 

彼女をほめたたえる駆逐艦娘たちに、プリンツは照れ笑いを浮かべながらお礼を言っていると、

 

 

「ちょっとプリンツ! あなた、いくらなんでもあれはくっつきすぎよ! 少しは自重しなさい!」

 

「ふええ! すみません、ビスマルク姉様! 演技に力が入って、つい……」

 

 

顔を真っ赤にしながらビスマルクが怒りをぶつけ、それを見たプリンツは必死に頭を下げビスマルクに謝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、この鎮守府では近々広報活動の一環として、艦娘と提督による演劇を行ってほしいとの通達が大本営から送られていた。

それで、どのような劇にしようかと提督は艦娘たちを集め話し合いを行ったら、彼女たちのリクエストに上がったのが、ケッコンカッコカリによる提督とのラブロマンスだった。

それを聞いた提督は、「いや、さすがにこれは…」と戸惑いの色が隠せなかったが、艦娘たちは満場一致でこれにしようと賛同の声を上げ、問答無用でこれでやろうということになった。

それで、今は話や配役をどうしようかという流れになっているのだが、皆自分が考えた話で自分をヒロイン役にしてほしいと候補を持ち掛け中々決められない。

それなら各々考案したシチュエーションで演劇をして、その中から一番いいのを決めようということになり、現在こうして劇を行っていたのであった。

 

 

 

 

 

先ほど、プリンツが考案した劇を終え一息つく提督。

彼女が用意してくれた台本をめくりながら、彼は渋い表情を見せていた。

 

 

「それにしても、憧れの人を追ってきた子が、その人が好きになった男性と結ばれるって… そんな昼ドラみたいな展開の劇、一般の人たちにはとても見せられんと思うんだが」

 

「ええー!? 私はいいと思いますよ、アドミラルさん!!」

 

 

台本の内容を読み返し、頭を抱える提督に、プリンツは口を尖らせる。

 

 

「それはともかく、どうして私じゃなくプリンツが考えた劇で行ったの!? そっちの方が納得いかないわよ!!」

 

「それはお前がくじで外れたからだろ…」

 

 

提督はため息交じりにビスマルクを諭すと、次は誰が考案した劇を行うのか尋ねた。

すると、

 

 

 

 

 

「提督。 でしたら、今度は私たちが考えたものをお願いします」

 

 

扶桑と山城が台本片手に自分たちが立候補したものを行ってほしいと進言し、執り行うこととなった。

ちなみに、この後日向が自分の考えた劇の方がいいと首を突っ込んできたのだが、自分の瑞雲と伊勢の瑞雲、どっちがいいのと提督に尋ねるというシュールすぎる内容ゆえ、即刻ボツになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台はある病院の一室。 雲一つない秋空が見える窓の前で、パジャマ姿の扶桑は何も言わずに外を眺めている。

その時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえ、扶桑がどうぞと声をかけると、提督がお見舞いの品をもって部屋へ入ってきた。

 

 

「またベッドを抜け出したのか? いくら体の調子がいいとはいえ、そういったことはあまり感心できないな」

 

 

提督は少し困ったように微笑むと、扶桑も少し俯きながら提督へと顔を向ける。

 

 

「ごめんなさい。 でも、今はこうして動けるうちに、少しでも外の景色をこの目に焼き付けておきたかったの」

 

 

そう話しながら、ゆっくりとした足取りで提督の元へ歩み寄ると、そのまま扶桑は自分の体を提督へとゆだねた。

 

 

「それと、貴方の顔もね……///」

 

「まったく、君というやつは……」

 

 

お互い相手の顔を見つめあう二人。 そのまま、瞳を閉じてゆっくりと唇を近づけたとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン!

 

 

 

 

ノックの音とともに二人は顔を赤くしながら慌てて離れ、そこへひょっこりと山城が顔をのぞかせてきた。

 

 

「姉さま、お加減はいかがで…… ああ、貴方も来てたんですね」

 

 

嬉しそうな口調から一転、提督の顔を見た山城は不機嫌な顔でぞんざいな挨拶をした。

 

 

「山城、失礼でしょ! そんな無礼な態度で…!」

 

 

それを見た扶桑は声を荒げながら山城を叱責しようとしたが、提督は首を横に振って扶桑をなだめた。

 

 

「いいさ、扶桑。 俺は気にしてないよ」

 

「それに、山城もそれだけ扶桑を慕っているんだ。 俺みたいなやつが割って入っていれば、気を悪くするもの当然の話だ」

 

「ですが…」

 

 

山城を擁護する提督に、扶桑は納得できず不満を漏らすが、山城は提督を睨み付けると忌々しげに言う。

 

 

「確かに私は姉様を慕っていますが、貴方に擁護していただかなくとも結構です。 私は今でも貴方を義兄と認めていませんし、これからも認めるつもりはありません。 病気で弱った姉様の気持ちにつけこみ近づいた、貴方みたいな男はね」

 

「いい加減にしなさい山城! 彼はそんな人じゃないわ!!」

 

「姉様も、そんな男にいつまでも夢中になるのはやめてください。 正直、今の姉様は見るに堪えませんから」

 

「山城………ケホ、ゴホッ…!!」

 

「大丈夫か扶桑!? 落ち着け、落ち着くんだ…!」

 

 

扶桑の怒声に耳を貸さず、山城は二人に背を向けるとすぐにその場を後にしていく。

いきなり大声を出したせいで苦しげに喘ぐ扶桑。 提督は扶桑にゆっくり呼吸をするよう促し、落ち着くまでゆっくり背中をさすってあげた。

しばらくさすると扶桑も落ち着き、ベッドに座り少し俯きながら、扶桑は提督に謝った。

 

 

「すみません。 つい興奮して……」

 

「俺のことはいいから、君は少し休んでくれ。 君の気持ちは嬉しいが、俺は少しでも君に長く生きてほしいんだ。 だから、今は自分の体を大事にしてくれ。 俺なら平気だから」

 

 

扶桑がベッドで横になるのを見届け、彼女が寝息を立てるまで提督は扶桑を見守っていた。

その後、提督が病室を出て廊下を歩いていると、そこには心配そうに窓から扶桑がいる病室を見つめる山城の姿。 何も言わずにそこに立ち尽くす山城へと、提督は声をかけた。

 

 

 

 

「…本当に、言わなくてよかったのかい?」

 

「貴方も分かっているんでしょ? 姉様が、もう長くないことを…… もうすぐここからいなくなる姉様に、どうしてあのような事が言えるというの!?」

 

 

提督に顔を向けないまま、今にも泣きだしそうな顔で声を震わせる山城。

そんな彼女に、提督も無言のままそこに立ち尽くしていた。

 

 

「姉様は心から貴方を愛してますし、貴方も姉様を真剣に想っていることは私も知っています! だからこそ、言えるわけがないじゃないですか!」

 

「私は貴方を義兄とは認めない! 認められるわけがない! だって… だって…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も、貴方を愛しているのだから!!」

 

 

山城は涙を流しながら提督の胸に顔をうずめ、提督も悲しげな表情のまま、泣きじゃくる山城の背中を優しく撫でた。

 

 

「姉様が貴方を好きになったように、私も貴方を好きになってしまったんです! 貴方が姉様を愛しているのは知ってます… でも、それでも私は貴方に振り向いてほしいのです!!」

 

「山城…… すまない、それでも俺は扶桑以外の女性を愛することは……」

 

 

提督が山城を諭そうとした次の瞬間、

 

 

「……えっ?」

 

 

提督は山城に押し倒された。 正面に見えるのは天井とまだ涙を流し続ける山城の顔。 山城に見下ろされたまま、提督は一瞬何が起きたか分からず呆然としていた。

 

 

「貴方が姉様に会わなければ、こんなことにはならなかった。 貴方が姉様を愛さなければ、私は貴方を愛さずにすんだ。 貴方が私の全てを狂わせてしまったのよ! 責任、取りなさいよ……!!」

 

「山城… なに、を…?」

 

 

山城はゆっくりと提督へと体を下ろしていく。 徐々に体を密着させながら、彼女は泣きはらした顔で提督の顔に自分の顔を近づける。

 

 

「今この時だけ……この瞬間だけでいい。 私を見て、私を愛してください…! 今この時だけ、貴方の全てを私にください!!」

 

 

山城がそう言って、提督に迫った瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、カ―――ット!!」

 

 

撮影終了の合図が入り、山城は慌てて提督から離れた。

そして、傍で見ていたほかの艦娘は口々に見ていた感想を述べた。

 

 

 

 

 

「山城さんもすごかったー! プリンツさんに負けず劣らず、名演技だったよー!!」

 

「ほんとほんと! さっきのあれなんて、本当に司令官に迫りそうだったしね!!」

 

「あ、ありがとう。 正直、あれは私も緊張したわ…」

 

 

気恥ずかしそうにしながらも、名演技と周りからの称賛の声に嬉しそうに顔を緩ませる山城。

しかし、提督は困惑気味に山城へと尋ねる。

 

 

「な、なあ山城…? 台本ではお前が泣きついた後、俺が強引にお前を振りほどいて去っていくという流れなのに、ここ台本と内容が違ってないか?」

 

「えっ、あっ… え、えっとですね、それは……!」

 

 

提督の質問に思わずしどろもどろになる山城へと、扶桑も追い打ちをかけてきた。

 

 

「そもそもこの話は、最後に提督がベッドに横たわる私にキスをして結ばれるという内容なのに、どうしてこんな台本にもないことを勝手にやったのか、ぜひ私も教えてほしいわ、山城……」

 

 

その表情はいつもと同じおしとやかな笑みなのに、今の扶桑は鬼や姫も裸足で逃げ出しそうなほど強烈な怒りのオーラを放っている。 現に、近くにいた駆逐艦の子たちは涙目になりながら、皆遠巻きに逃げていた。

 

 

「そ、それはですね、姉様…! そ、そう! この話を少しでも良く魅せようと思いまして、アドリブを入れさせてもらったんです!」

 

「た、ただ提督がその場を去っていくだけではあれかと思いまして…! 迫る私を振りほどいて去っていくことで、提督がどれだけ姉様を真剣に愛してるかを演出したかったんです!」

 

「ふぅん……」

 

「まあ、そう言う事なら仕方ないか… もう許してやってくれ、扶桑。 そろそろ、次の劇を誰にするか選びたいからさ」

 

 

必死の山城の言い分に、目を細めながら生返事を返す扶桑。

それを見かねた提督が山城のフォローに入り、若干不満顔になりながらも、扶桑は提督の言う通りその場を後にしていくのであった。

 

 

 

 

 

「ふう… 山城やプリンツもそうだけど、扶桑やビスマルクもえらい気合が入った演技だったな。 正直、これ以上続けるのは恐ろしい気もするが……いかんいかん! 皆が真剣に劇に取り組んでるのに俺がそんなことを言ってては駄目だろう。 よし、次は誰が考えた劇を行うんだ?」

 

 

扶桑と山城がいなくなったのを確認し、提督は次に行う劇を尋ねると、艦娘たちの中から一人挙手するものが現れた。

 

 

「ハイ、提督。 でしたら、私の考えた話にしてもらってもよろしいですか?」

 

「おっ、お前が出るとは珍しいな。 分かった、台本を見せてくれ」

 

 

そういうと、提督は挙手を行った艦娘。 航空母艦『サラトガ』の持ってきた台本を受け取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び舞台は変わり、場所は人気のない静かな砂浜。

目の前に広がる青い海と空をじっと眺めるサラトガのもとに、提督は頭を掻きながらやってきた。

 

 

「…ここら一帯見て回ったが、ここには誰もいない。 どうやら、俺たちは無人島へと流されてしまったみたいだ」

 

「oh… そうでしたか。 本当に申し訳ありません、提督。 サラの不注意で提督を巻き込んでしまって」

 

「そこまで落ち込むなって。 俺たちが行方不明になった以上、皆が捜索に出ているはずだ。 ここを見つけてくれるのも、そうはかからないだろう」

 

 

暗い表情を見せるサラトガに、提督は台本片手にセリフを読み上げていく。 さすがに始めたばかりの劇のセリフを暗記するのは無理なので、提督はこうして台本片手に演技を行っていた。 先の二人の劇に関しても、同様だった。

 

 

「…それにしても、お前もとんだ不幸だったな。 艤装が急に動かなくなって、俺が船に連れて行こうと飛び込んだら二人とも波に流されてしまうとは……」

 

「…でも、サラは提督が助けに来てくれて、本当に嬉しかったです。 ありがとう、提督」

 

 

少し頬を染めながら、サラトガは隣に座る提督に寄り掛かった。

隣から香るいい匂いと彼女の柔らかい体に、提督は心臓が高鳴るのを感じる。

どうにか動揺を抑えながらも、これからどうしようかと提督が考えていると、サラトガは寄り掛かったまま提督に声をかけた。

 

 

 

 

 

「提督… こうしていると、まるでこの世界に私と提督だけしかいないみたいですね」

 

「まあ、確かにな。 いつもは皆と一緒だったから、こうして誰かと二人だけになるなんて考えたこともなかった」

 

 

提督は辺りを見渡すと、聞こえてくるのは波の音や鳥や虫の鳴き声。

いつもは自分のいる鎮守府で艦娘たちのにぎわう声ばかり聞いていたので、サラトガの言う通りこういうのは新鮮に思えていた。

そんな提督からサラトガはゆっくりと体を離す。 ようやく離れたかと提督が内心ほっとしたのもつかの間。 今度はサラトガが提督の腕に抱き着いてきた。

服の上からでもわかるほどの胸部装甲を押し当てられ、一気に鼓動が跳ね上がる提督。

提督の気持ちを知ってか知らずか、うっとりした表情でサラトガは提督へとささやきかける。

 

 

「提督… アダムとイヴって知ってますか? 世界で初めて誕生した二人の人間。 まるで、今の私達みたいですね♪」

 

「サ、サラトガ…? お前、何を言って……!?」

 

「提督、サラの言ったこと覚えてます? 提督が助けに来てくれて、本当に嬉しかったって。 でもそれは、助けに来てくれただけでなく、こうして提督と二人きりになれたことでもあるんです」

 

 

どぎまぎしながらも提督はサラトガに離れるよう促したが、サラトガは提督の腕に抱き着いたまま離そうとしなかった。

 

 

「提督は、いろんな子たちから慕われてますし、異性として想いを寄せてる子も大勢います。 でも、鎮守府では他の子の目があるから想いを告げることはできませんでした。 だから、サラは思わずにはいられなかったのです。 これは神様がサラに与えてくれたチャンスなんだって…!」

 

「ちょ、ちょっと待てサラトガ!? この劇、なんかおかし……!!」

 

 

提督が止める間もなく、サラトガは提督に抱き着いたまま倒れこんだ。 砂浜に倒れこみ、提督が上を見上げると、そこには息遣いの荒いサラトガが提督を抑え込んでいた。

 

 

「提督… 貴方がサラのアダムになってください! 前からお慕いしてた貴方と結ばれるのでしたら、この様な形であろうとサラは本望です! さあ、どうかサラを受け入れて……!!」

 

「サ、サラトガー!? さすがにこれはまずい、まずいって!!」

 

 

欲望にたぎった眼で提督に迫るサラトガと、必死に抵抗する提督。

さすがにカットを入れる間もなく、他の艦娘たち総勢でどうにかサラトガを抑え込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Sorry、提督… 提督と一緒に劇ができたのが嬉しくて、サラもつい舞い上がってしまいました……」

 

 

落ち着きを取り戻したのか、提督に深々と頭を下げるサラトガ。 それを見て、提督も苦笑しつつも言葉を返した。

 

 

「ああ… もういいって。 ただ、サラトガの考えた劇については今回はボツな。 さすがに、あんな過激な劇はお客さんに見せられないから」

 

「はい。 わかりました、提督…」

 

 

とぼとぼと肩を落としながら、サラトガはその場を去っていく。 それを遠目から見てたプリンツは、一人小声でつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかサラトガさんってばあんな強引に行くなんて…! 危なかった、危うく提督さんをとられるところだった…!!」

 

「うん、こうしちゃいられないわ! 絶対に、私の考えた演劇を採用してもらって、提督さんの唇を奪わなきゃ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、プリンツと同じように別の場所から提督とサラトガの二人を見ていた山城は、唇をかみしめた。

 

 

 

 

 

「どうにか未遂に終わったけど、あんなに提督にくっつくなんて、なんて子なの!? …とはいえ、私も少し焦りすぎたわ。 どうにか、提督に私たちの考えた劇を採用してもらわないと…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、艦娘たちが異常に演技に力を入れていたのにはわけがあった。

それは、当日の劇で自分の考えた話を採用してもらいたいというものだったが、それ以上に劇にかこつけて提督の唇を奪おうとしていたからだった。

この鎮守府の艦娘たちは、皆提督を異性として好意を抱いているが、想いを伝えようにも他の艦娘に阻まれうまくいかずにいた。

そんな折入ってきたのが今回の演劇活動だった。

鎮守府では想いを伝えようにも妨害が入る。 だが、劇に乗じ演技と称して提督に直接キスしてしまえば、他の艦娘たちより大きくリードできるし、見物人がいるまえでの劇だから他の艦娘たちの妨害される心配もない。

それに、誠実な提督のことだから、キスに乗じて想いを伝えればほぼ成功といっても過言ではない。

だからこそ、皆は自分の考えた劇を採用してもらおうと躍起になっていたのだ。

だが、サラトガのように中には劇の採用中に直接襲おうとする輩も出てきたのを見て、彼女たちはより慎重にならざるを得なかった。

プリンツや山城だけでなく、ビスマルクや扶桑も同じ理由で虎視眈々と提督の恋人の座を狙っているが、プリンツや山城の意外な行動に肝を冷やしていた。

 

 

 

 

 

 

「サラトガもそうだけど、まさか貴方もアドミラルを狙ってるとはね、プリンツ… でも、そうはいかないわよ。 何としても、あの人の隣はこのビスマルクが手に入れて見せるわ!」

 

 

 

 

 

「山城があんな大胆な行動に出るとは、うかつだったわ… 次やるときは、山城に代わって私が近くにいられる役にならないと…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府内では、今日も自分の願望をかなえるべく艦娘たちがどんな劇をしようか思案している。 そして、当の本人である提督は…

 

 

 

 

「それにしても、ほんと皆気合の入った演技をしてくるよな… よーし、俺も皆の気持ちに応えるためにも、きっちりどの劇を採用するか考えないとな!」

 

 

自分が彼女たちから狙われている事については露知らず、今まで出てきた案でどれを採用しようかと、一人執務室で頭を巡らせるのであった。

 

 

 

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